2009年05月23日

【性暴力事件】裁判員裁判に持ち込まれる「お茶の間裁判」の危険性

タイトルがいささか扇情的かもしれませんが。

裁判員選任手続き期日(当日のことです。法律用語はわかりにくいですね)に、被害者のプライバシーが守秘義務のない候補者にも知られてしまう可能性が大きい(と、私は未だに思っています)という問題についてここのところずっと書いています。
刑事訴訟法が改正され性暴力事件では被害者等に関する情報保護の制度の適用はもちろん、詳しい犯罪場面の描写や証拠品の提示の時は、傍聴人に退廷が命じられることもあると聞きます。それは、ただ被害者の心情を考慮してというだけでなく、過去に、心ない一部の傍聴人が被害者のプライバシーを漏洩するなど実害があったからに他なりません。

選任手続きに召還された候補者の中に、このような者がいないという保証はなく、いくら個別具体的に検討してどの程度情報を出すかを判断するといわれても、とうてい安心できるものではありません。


性暴力犯罪が裁判員裁判の対象事件となることで、選任手続き以外でも被害者にとって今以上の苦痛を味わうであろう事態が予想されます。今日は、少し視点を変えて、その辺のことを書いてみようと思います。

この件で、様々な機関と連携を図ろうと手を尽くしてくださっている、てんとうむしさんですが、最高裁に先の新聞記事の真偽を確かめるために問い合わせをしたこと、そしてどんな回答が返ってきたかは、先日のエントリーで書いたとおりです。

てんとうむしさんは、19日に最高裁から回答があった時に追加の質問と要望をしていました。選任手続き以外の質問と要望を以下に引用します。

最高裁への追加質問

1 現在、性犯罪の裁判においては、ビデオリンク、遮蔽措置がとられているが、裁判員はどういう扱いになるのか。裁判官と同様に顔など見られるのか。

2 現在、性犯罪の裁判においては、被害者の氏名住所等の朗読は守られている。 選任手続きまで、こうした情報が明らかにならなかった場合は、裁判員にもあかさないのか。

3 裁判員は証拠を精査するということだが、性犯罪の場合も、証拠は全て見せるのか。
※司法関係者にでさえ、見られたくないのに、一般市民にまで見せるのは被害者は精神的苦痛が大きすぎる。

【性犯罪の証拠物件】
・被害直後の、ぼろぼろの写真(顔含む)
・太もも、胸、背中、腕、足、などの写真
・診断書 
・被害当時身につけていたもの(服、下着など)
・現場検証での写真(ダミー人形を使ったもの、どこで、どんな体位で行為がおこなわれたか)
・現場の見取り図(間取り図)、写真 

最高裁への要望

そもそも、性犯罪は裁判員制度に向かないと、被害者は思っている。
・性犯罪に関して、他の犯罪とは別に、特別に被害者への配慮をしてほしい。
・被害者のたくさんの悲痛な声が届いている。
・特定されることで、悪意ある第三者に狙わる危険性もある。実際に、更なる性被害にあっている被害者もたくさんいる。
・最高裁から、指針を示して欲しい。
・性犯罪に関しては選任手続きの延期もしくは裁判員制度の対象外にするよう検討して欲しい。

ご覧の通り、非常に具体的な質問です。
これらの質問に対して、その場で回答があったのは以下の一点と
・診断書 → 名前のところを見えないようにするのかは個々の判断だそうです。
要望に対して最高裁ではどうにもできない。意見としては承る。
ということのみだったそうです。(他の質問への回答は26日に)

また、てんとうむしさんが「該当事件の被害者は切迫した状況にいる。昨日の時点では個別の判断ということだったので、各地で地裁に働きかけるしかないのかと思っていたが、ではどこに働きかければいいのですか?」ときくと、「それはあなたの判断でなさることです」という返事だったとか…。
言葉を失いますね。

アジア女性資料センターから裁判所への申し入れあがった次の日(20日)、最高裁から彼女の元へ一本の電話がありました。
直後に、ひどく混乱した様子のメールが私の元に届きました。それを要約すると。

・昨日の質問内容は全て個別の裁判の進行になるので、昨日お答えした以上には答えられない。
・個別ではなく性犯罪に共通している質問だと思うがと言ったが、とにかく個別の事案と繰り返され「回答は終了とさせていただく」という返事。
・「長い電話だったのでそそうがあったかもしれないが、昨日の時点では最高裁は指針を示さないとまでは回答していない」
・今後、指針を出す予定はあるかという質問には「将来については申し上げることはできない。」
・指針を示す予定はないと、そう仰いましたと言っても、認めなかった。
・「あなたの満足のいく回答は得られませんよ」
・要望を広報課上司につたえた。あとは上司の判断。


追加質問への「回答拒否」という返事です。しかも「指針を出さないとまでは言ってない」とは…。私も同じ日に他の職員の方から、はっきりと「指針を出す予定はない」と言われ何度も確認をとっています。

内部で責任問題が発生しているのだろうと推測します。一担当者としては保身に走るのも仕方ないのだろうとも思いますが…。
これは文書で回答を貰わないと、このようなことが起きるという査証でもありますね。

また、アジア女性資料センターが申し入れを行ったときも、前もって質問状をFAXで送付されていましたが「回答するかどうかも答えられない」という返事だったといいます。(参照:最高裁申し入れのご報告
要請文といっしょに最高裁に渡した質問状

その質問状にも選任手続き以外の問題点に対する質問がなされています。

<その他裁判員制度における性犯罪事件の扱いについて>
8.性犯罪を担当する裁判員に対し、性犯罪(性暴力)やジェンダーについて研修を行う予定はありますか。
9.被害者への心理的負担を軽減するために、被害者が希望する場合、証言時に加害者のみならず裁判員とも直接顔をあわせずにすむような措置を導入する予定はありますか。


21日に私のところにも、福岡地裁から最終的な回答がありました。
「選任手続きでの被害者のプライバシーの保護については、個別具体的に検討するので方針を述べることはできない。実際の裁判まで間があるので、どのようにするか現在検討中である」というものでした。
その際に、てんとうむしさんやアジア女性資料センターからの質問をふまえて、私もいくつか追加の質問をさせていただきました。

Q1.写真などの証拠の提示の方法は(最近の裁判では裁判員制度を意識して、スクリーンに映し出された写真などを見せる事が問題になっている)どのようになされるのか?
A1.検察が何を立証するかによるので、一概には答えられない。

Q2.被害者を証人尋問する際、傍聴席から見えないように衝立を用いたり、ビデオリンク方式にしたりしているが、裁判員から顔が見えないような配慮をするのか?
A2.(被害者の方が)希望を言ってくだされば考慮する。

Q3.一般市民の性暴力犯罪被害者に対する偏見は根深いものがあるが、事前にレクチャーなどをする予定はあるか?
A3.オリエンテーションの時に裁判官から「公平な視点で見るように」という指示はあるが、事前のレクチャーを行う予定はない。また、時間的にも不可能だと考える。

Q4.今、どのようにするか検討中とのことであるが、方針が決まったら発表するのか?
A4.個別具体的に検討するので、方針を発表する事はできない。

「証拠品については検察側との兼ね合いがあるので裁判所としては一概に言えない(つまり検察庁に聞いて)」とか「裁判員から顔を見えないように配慮するかについて希望を言ってもらえれば考慮する」など初めて返事らしい返事を聞くことができましたが、結局のところ、まだ何も決まってません。というところでしょうか。

最高裁に対して「方針を出してほしい」といくら言ってもまともな回答が返ってこないのは、今、それを考え始めたばかりで、「まだ方針が準備できていない」というのが真相のような気がしてきました。福岡地裁はとても正直だと、変なところを評価してしまいました。木で鼻をくくったような返事でもありませんでしたし。


個人的には、特に、証拠品の取り扱いについての問題が大きいと考えています。
「司法関係者にでさえ見られたくないのに、一般市民にまで見せるのは被害者は精神的苦痛が大きすぎる」と、てんとうむしさんは意見を述べたそうですが、私も全く同じ気持ちです。

で、その辺のところを調べてみようと、福岡地裁からのアドバイス(?)に従い、検察庁のHPを見に行ってきました。
そして「裁判員裁判における検察の基本方針」なる文書を見つけました。
文書中の主なキーワードは「ビジュアル化」「わかりやすく」です。

証拠品の取り扱いについて以下のような記述がありました。

3 証拠物の取調べの在り方 (P53)
裁判員裁判の場合には,裁判員が明確に 証拠物の形状等を認識し得るように工夫する必要があり,説明を加えたり,その場で 証拠物を手に取って見てもらうことも考慮すべきであろう。そして,提出した証拠物 については,裁判員が評議の場で見ることができるように,裁判所において領置手続 を採るよう求めることが相当であろう。
また,これまで証拠物自体に代えて証拠物の形状等を撮影した写真撮影報告書等の取調べを請求することもあったが,これまでの裁判官による裁判ではこれで足りていた場合であっても,裁判員が適正な心証を形成するためには,証拠物の現物を示す必要がある場合が多いであろう。したがって,証拠の選別の場面で,証拠物の取調べの方法についても十分に検討する必要がある。


写真ではわかりにくいから現物を示すという方針ですね。


(3)写真・図面等の取調べ (P55)
写真等が添付された書証の取調べでは,これらの写真等を書画カメラを使ってスクリーンに投影したり回覧の方法で展示したりして,これを示しながら,関連箇所の記載内容を告げる形で証拠調べを行うことになる。
写真について,せい惨な場面が写されている場合もあるが,適正妥当な事実認定 及び量刑のためには,証拠調請求して裁判員にも展示しなければならない場合がある(第4・7(1) [69頁]参照 。)しかし,いきなりこのような写真を見せられて気分が悪くなるなどして職務の続行が困難となる裁判員もいる可能性があるので,その心理的負担も考慮し,検察官としては,あらかじめ,せい惨な写真も含まれていることを裁判員に告げた上で展示すべきであろう。また,このような写真を示すに当 たっては,被害者等の心情に配慮し,必要に応じ,例えば,傍聴席からは見えない ように回覧等の方法で展示するなどの工夫をすべきである。


「被害者等の心情に配慮し,必要に応じ,例えば,傍聴席からは見えない ように回覧等の方法で展示するなどの工夫をすべきである。」とは書いてあるものの、裁判員に見せないわけにいかないので「あらかじめ,せい惨な写真も含まれていることを裁判員に告げた上で」見せるということらしいです。
裁判所が答えられないことに、検察はすでに答えを出していた。
そして、それらの方法は、被害者にとって今以上に過酷な事になるのだろうなということ。

裁判員制度では「国民の関心が高い事件だから」凶悪事件を対象とするということですが、裁判を傍聴することを趣味とする人たちの間では「性暴力事件」は、特別に高い関心があるようなのです。裁判員とはいえども、そのあたりの「好奇心や興味」を持つ方も少なくないだろうと想像します。

てんとうむしさんは、最高裁からの電話で「裁判員は裁判官と同様に、被告人や証人に、質問する権利があるということですが、性犯罪に対しては偏見が多く無理解に満ちているのに、証人である被害者に、一般市民である裁判員が質問することで、二次加害とならないかが、とても心配だ」と伝えたそうですが、どのくらい気持ちが通じたかは…。
「市民感覚を司法の場へ」というスローガンはいいでしょう。しかし、性犯罪への世間の風潮を見る限りでは、お茶の間裁判がそのまま持ち込まれて、悪気もなく二次加害が行われてしまうのだろうなという悲観的な予測しかできません。

これ以上被害者の負担を重くしないためには、抜本的な法律の改正をしていただく以外に方法はなさそうです。性暴力事件は裁判員制度から外して貰う、つまり、対象事件からの除外(裁判員法3条1項)の項目に、裁判員に危険が及ぶ場合だけでなく、性暴力事件を加えていただくのが一番確実な方法だろうと考えています。


関連エントリー(日付が古い順)

裁判員制度に新たな問題点が浮上
裁判員選任手続き 問題は複雑
【緊急】裁判員選任手続きに関する署名のお願い(追記あり)
署名の御礼
被害者のプライバシーは本当に守られるのか(1)
被害者のプライバシーは本当に守られるのか(2)(追記あり)
被害者の安全とプライバシー保護を求める緊急アクション第2弾
 

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虐待と傷害致死と殺人と うつ病になったサラリーマン★トマトの自分探しの旅★【うつ病になったサラリーマン★トマトの自分探しの旅★】 at 2009年05月24日 23:25
遅くなって、すみません。もう皆さんご存じでしょうが、自分用の情報整理も兼ねて今さらながら先日のエントリー、その後の動きものすごく簡単にまとめておきます。また、申し遅れましたがあちらのエントリーを読んで...
裁判員制度における被害者のプライバシー保護問題、その後【かめ?】 at 2009年05月25日 14:31
この記事へのコメント
とても嫌な流れです。
日本は特に、、、人権についてあまりしっかり体得していない
ことや(平等・ジェンダーについても)、
性的な問題に対する潔癖教育のための弊害があるように思うので
「人権」という概念のベースを作らない状態での、裁判員への
一般市民の介入はとても危険だと思います。

始まるなら、もっと真剣に、ベースを伝えなければ
裁判員も被告人も傷つくことにならないか・・・。

裁判は、ドラマでみたシーンとは違う。現実。
それに無防備に参加させるのは、横暴だと思うのです。
Posted by 吉雄777 at 2009年05月24日 00:52
>吉雄777さん
コメントありがとうございます。
大変ご無沙汰しています。いきなりTB送ってごめんなさい。

「人権について体得していない」という表現に、とても納得しました。
知識としては持っていても、血肉にはなっていないと思います。(自戒)

市民感覚、庶民感覚の中には「素朴な差別意識」も多く含まれているのだと思います。それが法廷に持ち込まれることは非常に怖いことだとです。

>裁判は、ドラマでみたシーンとは違う。現実。

そうですね。
「気軽に参加してください」なんて発言を聞いた気がしますが、気軽に参加なんてできるわけがありません。
Posted by akira at 2009年05月24日 11:21
いえいえ、TBありがとうございました。
私もご無沙汰していました。

ちまちま立ち寄りますw

法律や刑法、差別や色々な物を
変に知る形になってしまっていますが
それでも、気軽に!参加したいと思いません。
一般人を召喚しないでプロがやんなさいって思うのです;

海外で陪審員制度のところもありますが
「自分の神に誓って」と宣誓させるさせることは
意味があることだと思うのです。

「皆がそう思うかもというも」曖昧すぎるものに
自分の意見が左右されるように見受けられる国民には・・・
そもそも、向いていないと思います。
Posted by 吉雄777 at 2009年05月24日 15:22
>吉雄777さん

>法律や刑法、差別や色々な物を
>変に知る形になってしまっていますが

そうですよね。
私も刑法とかさっぱりでしたもん。
今でも前よりは少しましになったぐらいの知識量ですけど。

以前から、裁判員制度ってまずいよねというエントリーをあげてますけども、自分がくじに外れたことで、ちょっと油断してたなと反省。

>海外で陪審員制度のところもありますが
>「自分の神に誓って」と宣誓させるさせることは
>意味があることだと思うのです。

PR映画の一場面で裁判員が起立して宣誓する場面がるんですけど、何に(誰に)対して誓うのか、いまいち分からなかったです。
(最高裁のHPで見られますよ)

いろいろ調べれば調べるほど、誰のための何のための制度なのか、さっぱり分からなくなって途方に暮れています。






Posted by akira at 2009年05月26日 01:43
 
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