2010年10月20日

「医療ネグレクト」という名付け

前回のエントリで、医療ネグレクトの定義についての私の考え方と、医師がホメオパシーを積極的に使用することの弊害を一緒に書いてしまったため、非常に分かりにく文章になってしまいました。はてブその他の反応に対するお返事もしなければと思いながら、いろいろなことを考え続けていました。

NATROMさんがお書きになった「医療ネグレクトの定義」と「ホメオパシーはまた人を殺すだろう」というエントリを拝見して、少し考えがまとまってきたので忘れないうちに書いておこうと思います。

まずは前のエントリのブクマでの反応を2つ

triggerhappysundaymorning 宗教カルトの「自分の子供に輸血させない」がネグレクト認定されてんだから当然こっちもネグレクトだろ.

north-pole ホメオパシー 「誤った信念に基づいて必要な医療を受けさせない」のは「医療ネグレクト」に入るというのが一般的では


また、NATROMさんの「医療ネグレクトの定義」では、東京都福祉保健局のサイトにある医療機関のための子育て支援ハンドブックからの医療ネグレクトの定義を引きながら
医療ネグレクトとは、医療水準や社会通念に照らして、その子どもにとって必要かつ適切な医療を受けさせないことです。

親の意図を問わないのがポイントの一つである。子を嫌って医療を受けさせていないのではなく、子が治ることを一心に願っていたとしても、必要かつ適切な医療を受けさせなければ、医療ネグレクトとされる。

と書かれています。皆さんのご意見は、その通りだと思います。

個人的には医療ネグレクトといわれているものの一部には「医療を使った身体的な虐待」としか形容できないものが含まれていて、ネグレクトと考えることで介入の遅れや困難を招いているのではないかと考えています(特に年長児の場合は一般的に身体的虐待よりネグレクトのケースの方が介入が遅れがち)。
しかし、具体的な介入や対応を考える上で定義や言葉の問題に余り拘るべきではなかったと思いますし、一般に使用されている定義にまで踏み込むべきではありませんでした(その他の一般によく用いられる定義も参考に。注1)。そして、当事者の抵抗感を和らげたいという思いから「強いていえばabuse」と、もにょってしまった末に論の展開が強引になってしまったことを反省しています。

ある事象に「医療ネグレクト」という名付けが行われ、認知されたことで公的な介入が行われるようになったのは良いことだと思っています。被害の掘り起こしも行われるでしょう。今後は具体的にどのような対策がとられるかが重要な問題となります。

いまのところ、親による医療拒否と医療ネグレクトとの概念の区別がされていないことによって関係機関の対応が場当たり的になっていたり、「代理によるミュンヒハウゼン症候群」を医療ネグレクトに含めるなど概念の混乱も起きています(注2)。法的な対応としても現行では「親権喪失の宣告の請求及び保全処分として親権者の職務執行停止・職務代行者選任の申請」という緊急避難的な対応でまかなっている状態で(注3)、これによって不都合も起きています(注4)。

前回エントリを書く時に、どのようなケースが医療ネグレクトとして扱われているのか調べてみたのですが、日本では事例や判例、その研究も殆ど蓄積できていない状態のようです。医療拒否事例の多くは医療ネグレクトととしては扱われておらず、虐待死亡事例としてもカウントされていませんでした(注5)。また、先天的な障害や疾患を持って生まれた新生児が親などによる医療拒否によって命を失っていますが、公になっていないケースもあるようです。医療ネグレクトという概念の中には生命倫理や憲法問題も含め深遠な問題が横たわっているのですね。

児童虐待やネグレクトへの対応について、現在のような親権の全面的な制限だけではなく監護権の一部あるいは一時的な停止ができるよう議論が行われてます。来年には児童虐待防止法の付則に掲げられた民法の親権規定が改正される見通しです(注6)。

現実的な問題として、ある事例に医療ネグレクトと名付けたとしてもケースとしての報告が上がらなかったり対応策がなければ何の意味もありません。
親権規定の改正案が本決まりになれば一波乱ありそうですが、子ども達を救済するためには法案を通さなければなりません。是非とも皆さんのお力を貸していただければと思います。そして、ホメオパシーを含めて現在行われている医療ネグレクト問題の議論が具体的に実を結ぶことを切に願っています。

余計なことまで書きすぎたかもと内心びくびくしていますが…。
これを読んでくださった方々が、今後の法改正の経緯に関心を持ってくだされば幸いです。





注1
法務省HP医療ネグレクトの定義(PDF)より引用
1 .厚生労働省 雇用均等・児童家庭局総務課長名による通知
「 医療ネグレクトにより児童の 生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」
(雇児総発第 0331004 号)(平成20年3月31日)

『保護者が児童に必要な医療を受けさせることを怠る医療ネグレクト』
『医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な被害が生じ得る事例が対象となる。なお、児童の精神に重大な被害を与える事例についても対象になり得る。』

2.子ども虐待防止学会(JaSPCAN)(1999 年)「子どもの健康に関することで、医療的ケア、健康ケアが必要であるにも関わらず、適切なケアが施されない結果、心身の障害をきたすもの、あるいはきたす可能性のあるもの」

3.研究班(2009年) 医療ネグレクトの考え方は多様であるが、法的対応も含めた介入を緊急あるいは積極的に行う必要がある状態としては、以下のような操作的定義が考えられる。

 医療ネグレクトとは、以下の1~5の全てを満たす状況で、子どもに対する医療行為(治療に必要な検査も含む)を行うことに対して保護者が同意しない状態をいう。
1 子どもが医療行為を必要等する状態にある
2 その医療行為をしない場合、子どもの生命・身体・精神に重大な被害が生じる可能性が高い(重大な被害とは、死亡、身体的後遺症、自傷、他害を意味する)
3 その医療行為の有効性と成功率の高さがその時点の医療水準で認められている
4 (該当する場合)子どもの状態に対して、保護者が要望する治療方法・対処方法の有効性が保障されていない
5 通常であれば理解できる方法と内容で子どもの状態と医療行為について保護者に説明がされている。

注2
わが国における医療拒否に関する調査(PDF)
V.児童相談所対象の調査(2008年、山本)
2)主な医療ネグレクト内容
「継続治療が必要な慢性疾患の通院中断・断続状態」:22%
「風邪や軽い疾病の放置」:17%
「医療管理のための定期的検査未受診」:12%
「乳児の軽度栄養障害」:11%
「生命の危険を伴わない代理ミュンヒハウゼン症候群」:9%

上記報告書によれば「代理ミュンヒハウゼン症候群」などが医療ネグレクトとして扱かわれているのは、子どもの健康状態が脅かされる状態の放置と広く受け止めているとのことだが、その様態からいっても積極的に子どもの健康に害をなす「代理ミュンヒハウゼン症候群」は身体的虐待に分類されるべきものである。

注3
子どもの虐待対応の手引き(PDF版)21年度改正
5. 保護者による治療拒否の事例への対応
保護者による治療拒否は,保護者の果たすべき「治療を受けさせる義務」を怠るネグレクトの 一形態(医療ネグレクト)であるが,児童相談所や施設が子どもを保護するだけでなく,子ども が必要としている医療を受けられるようにすることも求められる。治療拒否の理由が保護者の信 念(宗教的信念等)に基づく場合も多い。医療ネグレクトの事例は家族や地域からだけでなく, 医療機関からの通告で明らかになることも多い。
医療行為は原則として事前に患者の同意を得て行われるが,低年齢の子どもの場合は有効な同 意能力がないと判断されるので,保護者(親権者)が代わりに同意することになる。子どもに医 学的治療が必要な疾患があり,治療を行わなければ子どもの健康が著しく損なわれたり,生命に 危険が及ぶことを保護者に説明しても保護者が治療を承諾しない場合,保護者に代わって医療を 承諾する対応が必要になる。合理的な理由なく子どもの治療を拒否している場合は親権の濫用に 相当するので,児童福祉法第33条の7に基づいて児童相談所長が親権喪失の宣告の請求及び保全 処分として親権者の職務執行停止・職務代行者選任の申請を行い,職務代行者又は未成年後見人 が親に代わって承諾することができる。施設に入所している子どもの医療に保護者が同意しない 場合は,児童福祉法第47条第2項において施設の長が監護については必要な措置をとることがで きるとされているので,親権者に代わって承諾することができる。
実際には,子どもの重症度と医療の緊急性,保護者の治療拒否の理由や背景によって,慎重か つ迅速な対応が求められる。医療機関との連携が重要であることは言うまでもないが,法的,倫 理的な問題も含んでいるので,家庭裁判所や弁護士などとも緊密な連携を持ちながら対応するこ とが大切である。

注4
中日新聞2003年8月10日朝刊より要約
2000年6月、先天性の心臓病を持つ男児の手術に同意せず民間療法等を用いて自分の手で治したいと主張する両親に対して、児童相談所は「生命に危険を及ぼしかねず、親権の乱用に当たる」として、一時保護の後、親権停止の保全処分を家裁に請求して認められた(請求して1ヶ月半後)。職務代行者である親族が手術に同意し2度の手術の後回復。記事が掲載された2003年当時、男児は児童養護施設で生活し、児童相談所は術後の経過確認の検査があるとして親権喪失宣言及び保全処分請求を取り下げていない。(この種の審判例として公になった最初のケースである)

注5
資料1:わが国における医療拒否に関する調査(PDF)より、医療拒否がすなわち医療ネグレクトとは扱われているわけではなく、信仰による拒否が医療ネグレクトではなく医療拒否事例として扱われているなど

資料2:子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第6次報告)
2008年4月1日から2009年3月31日までの12か月間を対象とした調査で、この間に子ども虐待による死亡事例として厚生労働省が把握した事例は107例(128人)中、心中を除いた64例(67人)であるが、医療ネグレクトとされたケースは1件もない。
(資料1で、医療ネグレクトによる死亡13例とある「III.全国小児医療機関対象の調査(2008、柳川)」の調査期間と重なっている)

資料3:被虐待児の法医解剖剖検例に関する調査 2000年〜2006年(PDF)
4-2-2.ネグレクト事例(P3)より引用
死因は医療ネグレクトである12歳児と15歳児を除いた 25例中全身衰弱7例、熱中症6例、窒息5例、脱水症3例、その他4例となっている。

以上のように、この調査での虐待死113例中、医療ネグレクトとしてあげられているのはわずか2例である。

注6
虐待防止へ親権制限…民法改正方針 子供保護しやすく(2010年1月5日 読売新聞)
児童虐待防止のための親権制度研究会報告書等の公表について(法務省)
児童虐待防止のための親権制度研究会 議事要旨および資料
児童虐待防止のための親権制度研究会報告書(PDF)


参考資料
日本における医療ネグレクトの現状と法的対応に関する文献検討
新生児医療と治療拒否に関する医療系関連論文
宗教的輸血拒否に関するガイドライン 宗教的輸血拒否に関する合同委員会報告(PDF)
児童虐待による死亡事例等検証報告書 (平成21年10月 生後7か月児死亡事例)(PDF)
子どもの医療に対する親の決定権限とその限界 永水 裕子 (その1)(その2・完


参考図書
1.子どもの医療と法(小山剛,玉井真理子 編,尚学社,2008)
2.子どもの医療と生命倫理(玉井真理子,永水裕子,横野恵 編,法政大学出版局,2009)
3.メディカルネグレクトの対応について(子どもの虐待とネグレクトVol.2-1,日本子どもの虐待防止研究会,2000)

2010年09月30日

ホメオパシーは医療ネグレクトなのか…?

私のはてなブックマークをご覧の方はお気づきだと思いますが、ここ数ヶ月、ホメオパシー関連の情報を追い続けていました。きっかけはこちらの記事

読売新聞の記事(魚拓)より引用
生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。

 母親らによると、女児は昨年8月3日に自宅で生まれた。母乳のみで育て、直後の健康状態に問題はなかったが生後約1か月頃に嘔吐し、山口市の病院を受診したところ硬膜下血腫が見つかり、意識不明となった。入院した山口県宇部市の病院でビタミンK欠乏性出血症と診断され、10月16日に呼吸不全で死亡した。


亡くなった赤ちゃんのご冥福を祈りますと共に、提訴された親御さんに感謝と支持を表明します。

このケースの場合は、レメディを投与した助産師が「ホメオパシー、レメディ(記事中の『「自然治癒力を促す」という錠剤』のこと)は、ビタミンKと同じ効用があると思っていた」と話しているようで、医療従事者としての最低限の知識も持ち合わせていなかったのかと怒りを覚えます。また、今回のことだけでなく一部の助産師の間ではホメオパシーを初めとする代替医療が蔓延しているようですが…。

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2009年09月14日

体罰なのか虐待なのか・・・。

はてな界隈で話題になっている、『躾』の恐怖 - ootuka'というエントリを読みました。
(これを書いている時点で、はてブは300を超えています)

リンク先の記事を簡単に要約すると、積極的体罰肯定派の親が長男(保護当時6歳)のしつけのために「体罰」を行い、児相が介入し子どもが保護されました。それを不服に思った親が裁判を起こし、その一部始終をblog(http://pwland2.s20.xrea.com/sp/jiso/bbs/blog/diary.cgi)に書いていらっしゃいます。そのまとめです。
エントリ中の引用部分や当事者の方のblogにはかなりショッキングな内容が含まれるため、繊細な方は読まない方がよいと思います。(一応、注意喚起)

世に様々な議論があることは承知していますが、私は「体罰」に関しては否定的な立場です。

当事者の方のblogをほぼ全て読ませていただきました。その上で書きますが、痣になるほどの「体罰」が日常的に行われ、ましてや、0歳の長女にも、同じく「体罰」を用いたしつけを行っているとあっては、やはり虐待と思わざるをえません。
(母親の記述では、長女にも痣ができることがあると書いています。
http://pwland2.s20.xrea.com/sp/jiso/bbs/blog/diary.cgi?no=161

この訴訟についてのニュース記事↓

長男の保護処分は不当と提訴 両親が児童相談所を魚拓

訴訟を起こした方の支援者のblog
DV防止法そして児童相談所の横暴と戦う!より引用

 最近では過失・事故による子供の怪我であっても「児童虐待」と断定して連れ去るなど、何の問題も起きていない家庭において問題をでっち上げ、こじつけて連れ去るケースが大体のパターンであると言われます。

 このような保護を名目にした児童の連れ去りは「DV(ドメスティック・バイオレンス)防止法」に基づいて行なわれていますが、反日勢力が親子の離間、家庭の破壊を目論んだ悪法と言えます。


支援者というか、ご本人がこの団体の幹部と言うことなので・・・。
虐待された(疑いのある)子どの保護は、児童虐待防止法と児童福祉法に基づいて行われます。ご本人はblogでずっとそう書いていらっしゃいますが、所属されている団体が支援のために書いた文章に、これほどの誤謬があっても気にならないのでしょうか?

ただ、当事者の方のblogを拝見した限りでは、児相の対応にも不備があったように思います。それと「体罰」を用いることで「よい子」に育つという記述も気になります。
余裕があれば、そのあたりも近日中に書けるといいなぁ。(あくまでも希望です)
Posted by akiras_room at 19:20  |Comments(6)TrackBack(0) | 児童虐待 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月23日

児ポ法改正案「単純所持規制」を支持できない理由

(今日も文体を変えます。怒っているときは「です・ます」調では書けないことが発覚)

引き続き「児童ポルノ禁止法」について。与党案すなわち「単純所持規制」に反対する理由を書いてみる。
前回は言葉をぼかして「私は与党は何のために改正しようとしているのか?という疑問を持っています」と書いたが、真意が伝わっていないようだから。

1990年代の終わり頃のこと。
当時、私が住んでいた福岡県北九州市は「児童虐待ケースマネジメントモデル事業」に指定され、児童虐待対策という分野では、全国的にも抜きんでた活動をしていた。ちょうどその頃「シーラの会」を立ち上げた私は幸運にもその活動に加わることができ、最前線で全国的な動きを見聞きしていた。

そこで注目されていたのは「児童虐待防止法案」についての国会での議論だった。この法案に対する反対意見も当然あった。
法案に反対していたのは当時の厚生労働省と自民党を主とした保守派議員(と、保守派の論客)達。
当時の様子を報道した記事が残っている。

法律物語 児童虐待防止法・上
迫真の漫画議員動かす 旧厚生省の抵抗◆児童相談センター視察◆与野党結束

法律物語 児童虐待防止法・中
しつけか虐待か、法案作り難航◆定義明文化◆人権規定は見送り◆来秋再び議論へ

法律物語 児童虐待防止法・下 親へのケア後回しの施行 まずは保護・「緊急立法」・来年秋見直し規定


「法律物語 児童虐待防止法・中」から当該部分を引用する。

 児童虐待防止法は、2000年5月に国会に提出され、わずか1週間で成立した。が、法案作成の作業は難航した。「しつけ」と「虐待」をどこで線引きしたらいいのか、各党の考えに隔たりが大きかったからだ。
  (中略)
 だが、懲戒権の廃止や、親の承諾なしに子供を保護するための親権の一部停止には、異論も少なくなかった。特別委員会の参考人質疑でも、高橋史朗明星大教授(教育学)は力説した。
 「たとえば、正座をしないと食事をさせないという親がいる。正座は肉体的苦痛を伴うが、形を通して心を学ぶわけで、しつけの持つ教育の本質は次代を超えて変わらない。児童側の言い分のみを尊重する虐待の定義づけは、親子関係を破壊する危険性がある」

 各党の理事も悩んだ。
 特に、自民党理事の太田誠一・元総務庁長官は、「親が子供をしつけて何が悪い」と公言する同僚議員も少なくない党内世論と、法制定を急ぐ他党の理事の間で板挟みにあった。
 3月30日昼。太田氏は特別委員長の富田茂之公明党衆院議員(当時)、民主党理事の田中甲衆院議員、社民党の保坂展人衆院議員、それに自民党社会部会長代理の鴨下一郎衆院議員に声を掛け、東京・永田町のレストランに集まった。
 太田氏は切り出した。
 「虐待問題を放置するわけにはいかない。だが、野党の言う『児童の人権』を持ち出されると、自民党はついていけなくなる」
 民主党や社民党は、「児童の人権」保護を明記した独自の法案づくりに着手していた。
 富田氏が引き取った。
 「児童虐待が社会問題化しているのに、国会が何もしなくていいのか。各党がそろって立法化できるところから始めよう」
 これを機に、各党の理事は急速に歩み寄った。「児童の人権」の文言や、懲戒権の廃止に関する規定を盛り込むことは見送り、親権の一部停止も、児童相談所が親の面会や通信に限って制限できる規定にとどめた。代わりに、児童虐待の定義を「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト(育児放棄)」「心理的虐待」と明文化した。しつけと虐待の関係に触れた条文は、「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その適切な行使に配慮しなければならない」(14条)という文言に落ち着いた。


驚いたことに、法の目的に「児童の人権」という文言を入れるかどうかで議論は対立していたのだ。(反対理由はそれだけでは無いが、反対派の意識を象徴するエピソードではある)
「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」の批准を受けて始まった、地方自治体独自の条例作りを巡って自民党系の運動体による反対運動があったことをご記憶の方も多いだろう。子どもの人権を認めたくない人々が、自民党には多いと言ってしまって差し支えないと私は思うのだが・・・。

参考:「子どもの権利条例」反対論 
   児童の権利に関する条約(Wikipedia) 

そうしてできあがった児童虐待防止法の第一条には、確かに「児童の人権」という文言は含まれていない。

児童虐待の防止等に関する法律
公布:平成12年5月24日法律第82号

第一条(目的) この法律は、児童虐待が児童の心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えることにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進することを目的とする。


比較できるよう、改正された児童虐待防止法の第一条も掲載しておく。(法改正にあたって、様々なドラマがあったようだ)

第一条(目的) この法律は、児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。


以上は、私が見聞きしたエピソードのほんの一部に過ぎないが、今回の児童ポルノ禁止法の議論に関しても与党案を作った自民党(や公明党議員の全てがそうであるとは思ってはいない)が、本当に「子どもの人権」を保護するために改正しようとしているとは、どうしても思えないのだ。

被害当事者が望んでいるのは、『児童ポルノ』を作らせないようにしたい。持っている人を罰することではなく、拡散してしまった画像や映像を回収したい。これ以上広まらないようにしたい。ということではないのか。
「単純所持」を禁止しても、全ての家庭を家宅捜索するわけにはいかないのだし(結果的に回収は絶望的)、何かのきっかけがなければ所持者への捜査は及ばない。
その「きっかけ」を私は危惧している。
法律の恣意的な運用による弊害は、すでに方々で起きてしまっているのだから。

「子どもの人権を守るため」という崇高なる目的に対して誰が反対できるだろう。
与党は今まで歯牙にもかけなかった「子どもの人権」を人質にして「仕方ないんじゃないの」という世論を誘導しているとしか思えない。
気がついたら「ゆで蛙」になっていたでは、しゃれにもならない。


参考までに、児童虐待防止法改正時の「葉梨議員」の発言も引用しておく。

第159回国会 青少年問題に関する特別委員会より
 さらにもう一点でございます。児童虐待ではございませんで、子供に対する性犯罪、これはいわゆる小児性愛者、ペドファイルというふうに言われていますけれども、これの矯正、彼らの矯正のためには非常に専門的な知識、経験を要する、そういったことが一般に言われているというふうに聞いております。
 刑務所も非常に今忙しいと聞いていますけれども、具体的にどのようなプログラムをお持ちで、あるいは今後検討されていくのか、この点、法務省に伺いたいと思います。



◇児童虐待防止法案に関する国会の議事録
(自民党の議員が何を質問しているか注意して読んで欲しい。また、児童虐待に最前線で関わってきた専門家の意見が読める一級の資料でもある)

第145回国会 青少年問題に関する特別委員会 第6号 平成11年7月22日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007314519990722006.htm?OpenDocument
第145回国会 青少年問題に関する特別委員会 第7号 平成11年7月29日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007314519990729007.htm?OpenDocument
第146回国会 青少年問題に関する特別委員会 第2号 平成11年11月18日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007314619991118002.htm?OpenDocument
第147回国会 青少年問題に関する特別委員会 第4号 平成12年3月23日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007314720000323004.htm?OpenDocument
第147回国会 青少年問題に関する特別委員会 第5号 平成12年4月13日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007314720000413005.htm?OpenDocument
第150回国会 青少年問題に関する特別委員会 第3号 平成12年11月16日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007315020001116003.htm?OpenDocument

◇児童虐待と虐待防止法に関する報道
(非常に良くまとまっています)

子ども虐待 家族間暴力の現場から (埼玉新聞WEB)
http://www.saitama-np.co.jp/main/rensai/kazoku/gyakutai/


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2009年07月21日

今更ですが「児童ポルノ禁止法」について

衆議院の解散で廃案になった『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律 』(以降「児童ポルノ禁止法」と呼びます)改正案ですが、廃案になり正直ほっとしています。

6月26日の衆議院TV法務委員会の動画。保坂議員の質疑しか見ていなかったので他の部分を見てみました。(全部は見切れなかったけど)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

葉梨康弘議員の質問にクラクラしてしまいました。性器が見える見えないということばかりに拘りすぎです。
民主党案では画像に性器が映っていないなら取り締まれないといいたいのでしょうが、自分が例示した変なイラストに描かれた撮影状況自体が性虐待になっているということが分からんのでしょうか?(参照:本日の児童ポルノ法改正審議のまとめ

民主党案では性的虐待状況を撮影したモノを「児童性行為等姿態描写物」と呼び、児童ポルノを再定義しようと提案しているだけでしょうに。
与党は、どこまで対象を広げようというのでしょうか。
やはり与党案は性虐待を受けた児童の権利保護を目指すモノではないのだろうなと考えざるを得ないですね。
(私は与党は何のために改正しようとしているのか?という疑問を持っています)

と、一人憤っていても、見てない人には何の事やらさっぱりですよね。動画から発言を起こす気力がないので、興味を持った方は是非動画をご覧ください。

今更なんでこんなものを見たかというと・・・。

以前にこちらのエントリで「単純所持の禁止や児童ポルノの定義ついて、私は保坂議員とは少し違う意見を持っていますが」と書きました。私の意見は後で書きますといっていたのに、それっきりになってしまって・・・。
私がどう考えているか書いておこうと思いまして、議論の再確認のために、というわけです。

私の意見と違う(と思われる)保坂議員の発言を『Santa Fe』を1年間で処分すべしとする与党案に驚くから引用します。(アグネス・チャンさんへの質疑の部分です)
『Santa Fe』は児童ポルノではないと私は考えるがどう考えるか」と聞いてみた。それでも、彼女は「18歳以下の少女ヌードは認められない」という立場のようだった。
はたして、宮沢りえさんは、写真集『Santa Fe』の被写体となって、どのような損害・被害を被ったのだろうか。ご本人に聞いてみるしかないが、


私の児童ポルノに対する考え方は、以前にも、「ここ」とか「ここ」のコメント欄でも書いてますので、そこから引用。
これまでの既成事実として未成年者のヌード写真集が出版された事はありました。これについて私は、本人が納得していたとはいえ「その年齢の時点で」ヌードの写真集を出版することは否といいたいのです。
それによって多額の利益を得るのは本人ではなく周囲の大人達でしょうし、そこでは間違いなく「搾取」が発生していたと考えていますので。
この写真集を見た人達が性的なものを感じたか否かは別として、また、本人が同意しているか否かという問題でもなく、あくまでも未成年者のヌード写真によって利益を得ようとする大人達がいるということが問題なのだと思います。


今も考え方の基本は変わっていませんが、現在は「過去の作品については適応外とする」という民主党案に賛成です。
補足ですが、引用中に書いてある未成年者とは「児童」をさします。18歳未満という児童の定義は、児童虐待防止法や児童保護福祉法との兼ね合いからも妥当だと考えています。

保坂議員の「ご本人に聞いてみるしかない」という発言にも、かなり違和感を覚えます。
児童虐待に関わっている者なら分かることですが、親と子の関係は権力関係ですから、児童本人の選択権の行使にあたるのかは疑問です。親の意向と関係なく全く自由に発言したり自ら選択するということは考えにくいことです。本人が自分の意志だと思っていたとしても、親からの何らかの影響があると考えたほうが自然でしょう。

改正法で最大の争点となっている「単純所持規制」についての私の意見は以下の通り(これまた引用)
今回新たに盛り込まれようとしている「単純所持」ですが、与党案のままでは、恣意的な運用や冤罪は避け(誤字を訂正)られないだろうと思います。被害者側の視点からは、単純所持でさえも許し難いものではありますけれども。
また、被害者の生まれない「まんが」や「アニメ」等の創作物については対象にするべきではないと考えます。
「児童ポルノ禁止法」は、児童福祉の観点からのみ運用されることを望みます。


児童ポルノ禁止法の保護法益は「性的搾取及び性的虐待にあった児童の権利を保護すること」につきると考えています。
(葉梨康弘議員の発言にすけて見えるような)小児性愛者を取り締まるため、あるいは、わいせつ物を規制するための法律ではありません。ましてや、表現規制を取り入れようとすれば同法の趣旨から大きく外れることになってしまうでしょう。

選挙後に再提出されると思われる改正案は民主党案をベースにした議論となるよう望んでいます。
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2009年07月18日

児童虐待についての重要な報道(その3)

6月3日の記事なので、ちょっと鮮度は落ちていますが、このシリーズ(その1その2)の最後に、実は一番重要だと思っている報道を紹介します。
冒頭部分だけ引用

児童虐待:親権の一時停止を検討、虐待から保護 法務省が研究会
魚拓
 親による児童虐待から子供を守るため、法務省は2日、親権の一部・一時停止の可否を検討する研究会を発足させた。現行民法は親権の「喪失」手続きのみを定めるが、親子関係を壊すなど重大な影響を与える懸念から適用には慎重にならざるを得ないため、親の立ち直りを視野に入れた措置の導入を議論する。日本の家族制度を定めた民法の家族法分野の見直し作業に踏み込む見通しとなる。

毎日新聞 2009年6月3日 中部朝刊


親権の一部・一時停止は虐待防止に取り組んでいる人達にとっては悲願だったと言っていいと思います。
児童虐待防止法の議論が始まったばかりの頃には、「懲戒権」を削除しなければという意見も出ていたのですが、今回の研究会で目指すのは養育権や面会・通信権の一時停止あたりになるのではないかと思います。
昨年の虐待防止法改正で、面会禁止の強化や子どもへの接近禁止命令などは盛り込まれていますが、親権との整合性がとれていないと思っていました。

親権を楯にした強引な引き取り要求が後を絶たないことなどから関係機関は対応に苦慮しています。現在でも虐待によって年に数例は親権喪失の申し立てがなされていますが、再統合を視野に入れながら援助を行うには親権喪失はリスクが大きすぎますし、一旦喪失した親権を回復させるのはとても難しいので親権の部分一時停止が望まれています。

発見・介入は入り口に過ぎません。
その後の回復への長い道のりを気にする人がどれ程いるでしょう。
保護された子ども達がどのように暮らしているのか、また、その親にどのような手当がされているのか。その一端を知っている私のようなものが、少しずつでも伝えていかなければいけないのだろうと考えています。


関連エントリ

虐待された子どものその後
http://blogs.dion.ne.jp/akiras_room/archives/7361297.html

ねじれ国会の余波が、虐待を受けた子ども達にも・・・。
http://blogs.dion.ne.jp/akiras_room/archives/7344793.html
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2009年07月17日

児童虐待についての重要な報道(その2)

7月15日付 毎日新聞の記事より一部引用
児童虐待:命の危機、3カ月で129件 頭の骨折など−−昨年4〜6月、児相調査魚拓
 調査は、昨年4月施行の改正児童虐待防止法で児童相談所の権限と責任が大幅に強化されたことなどを受け、全国児童相談所長会(会長・丸山浩一東京都児童相談センター所長)が実施。昨年4〜6月、全国197の児童相談所のうち195カ所が、虐待とみなした全ケースを回答した。虐待の実態調査としては96年以来12年ぶりだが、深刻な事例か否かを調べたのは初。

 調査によると、この期間に対応した被虐待児は8108人。このうち▽頭の骨を折る▽衰弱死に近い状態で保護される▽極端な低体重−−など「生命の危機がある」子が129人いた。

 また▽継続的な治療が必要▽成長障害や発達の遅れがある▽虐待とみられる明らかな性行為がある−−など「重度の虐待」を受けた子も468人にのぼっていた。

 これら深刻な事例の子供は虐待の影響で▽低身長など身体的な発達の遅れ(54人)▽骨折(29人)▽妊娠(3人)▽栄養不良(40人)−−がみられたほか、知的な発達への影響も57人にあった。虐待を受けた期間は1カ月未満が115人だったが、3年以上も145人。0歳児が最も多く114人、5歳以下で282人を占めた。主な加害者は実母が292人と半数近かった。
毎日新聞 2009年7月15日 東京朝刊

毎年、児童虐待相談の対応件数は発表されていますが、実態調査は12年ぶり、重篤な虐待かどうかという視点からの調査は初めてとのことです。
(参考:重傷度の判断基準

ひと言に虐待といっても、報道されるような(親が逮捕されるような)虐待は氷山の一角です。(参考:児童虐待の記録)この調査によると昨年のたった3ヶ月の間に「重度の虐待」を受けた子どもが468人報告されています。

虐待は家庭という密室で起きますから、その発見も発見されたあとの重篤度のアセスメントも困難を極めます。たとえ「虐待」として通告されても、(現在では、通告後48時間以内に子どもの安否を確認するのが標準になっていますが)子どもの状態をすぐさま確認できるケースばかりではありません。
また、実際に子どもに会えたとしても、身体的虐待やネグレクトであれば傷跡や身体状態、環境などから見極めることもできますが、心理的虐待、性的虐待などは、虐待された子ども自身がSOSを求めないと表面化させることは難しいのです。

前のエントリでは臨検調査(強制的な立ち入り調査)が2件しか行われなかった事にも触れましたが、アセスメントの難しさから重篤度を見誤った事例も数多くあるのだろうと想像します。児童虐待防止法に関する議論の中でも臨検調査をする権限を児童相談所に与えるべきというのは当初からずっと言われていました。しかし、実際に権限を持ってしまった児童相談所は、その責任の重さから尻込みしているという面もあるのだろうと思います。

岸和田に偏重した報道 警察の介入、見逃す
 メディアはほとんど報じなかったが、現行虐待防止法がない時期に、児童福祉法29条の立ち入り調査を警察官と連携を取り、いわゆるチェーンカット(施錠壊し)を児童相談所が行って子どもを救った例がある。


児相と警察の連携・協力 専門性あれば十分可能
 連載第五回で紹介した元東京都児童相談センター(児童相談所)児童福祉司の田中島晁子さんが扱ったのも、二人の子がいる母子家庭で不登校とネグレクトが疑われるケースの職権一時保護だった。

 学校からの相談で、二人の子どもが休みがちで養育放棄されている可能性が高いことが分かった。さらに母親は薬物依存で、閉じこもり状態であることも判明。母親に精神障害があった場合の最悪ケースも想定した上で、担任教師、精神科医、警察官に同行してもらった。管轄保健所では保健師が連絡を待つ形で待機した。

 現場での警察官の立ち位置は「玄関の外」。最悪に備え待機してもらった。

 施錠されていた玄関の鍵は、辛うじてこの日登校した下の子どもから提供を受けた。家の中は言葉にできないほどの散乱状態。その場で職権による緊急一時保護を決定した。心配したようなトラブルはなく、母親も母子分離に同意した。

 田中島さんはこの一連の連携プレーが適正かどうかを後に検証するために、現場の一部始終をビデオ録画した。検証作業の結果、違法行為はなかった。

引用した記事のように、実際の介入場面では(防止法ができる前から)警察官の立ち会いのもと、チェーンを切って部屋に入り子どもを保護するというケースは少数ながらあったのです。かつて私が参加していたネットワークでも児相職員の方から同じようなケースを聞いたことがあります。

それができたのは、当時の無いないづくしの環境下で知恵を振り絞って介入するしかなかった職員達の、子どもを助けることにかける情熱や覚悟しか頼るものがなかったからなのかもしれません。(今の児相にそれがないといっているわけではありませんけれども)

児童相談所の方達がどれほどの努力をしているか身近で見てきた私は、その苦労もよく知っているつもりです。しかし、どういった組織でもあるように、一部の熱心な職員が去ることで対応力が低下するのを見てきました。また、その時々の児童相談所長や、厚労省の児童家庭局長の熱意の違いによっても、児童虐待への対応力が変わってしまうことも知っています。

望まれるのは、いつどこで起きたケースでも同じような対応が図られること。
住んでいる場所によって、また、熱心な職員がいたことで助かったなどという偶然があってはならないのです。
そのためには、児童相談所の専門職員の増員、関係機関の研修の充実、実質的なネットワーク作りなど、必要なものは沢山あります。

毎日、私たちのすぐ側で虐待は起きています。

その3へ続く
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2009年07月16日

児童虐待についての重要な報道(その1)

ここのところ、児童虐待についての重要な報道が相次いでいます。

今月14日に厚生労働省の報道発表で「児童相談所における児童虐待相談対応件数及び子ども虐待による死亡事例等の検証結果等の第5次報告について」という文書が公表されました。
概要を新聞記事から引用します。

虐待最悪4万2662件、強制立ち入り2件魚拓
 昨年4月の児童虐待防止法の改正で盛り込まれた児童相談所(児相)の「強制立ち入り調査」の実施が、2008年度は2件にとどまったことが14日、厚生労働省の調べで分かった。

 一方、08年度に全国の児相で対応した児童虐待の件数は4万2662件で、過去最悪を更新。虐待が後を絶たない中で強制立ち入り調査が少ない現状について、厚労省は「現場の職員が強制権行使をためらう傾向がある」とみている。

             (中略)

 強制立ち入り調査が2件だったことについて、厚労省の担当者は「改正法施行から間もないこともあり、どんなケースで調査に踏み切るか、判断に迷っている部分があるのでは」と説明。児童福祉司数など、児相側の体制整備が追いついていないのも背景とみられる。

 一方、08年度に全国の児相で対応した児童虐待の件数は、前年度比2023件増の4万2662件で、過去最悪。統計開始の1990年度以来、増加し続けている。全国の警察が昨年1年間に摘発した児童虐待も最多の307件で、被害児童45人が死亡した。
7月14日14時31分配信 読売新聞

児童虐待により死亡する児童は毎年50人前後で推移していますので死亡者数は少し減ったようです。虐待件数は昨年度より2023件増となっていますが、虐待自体が増えているというより、虐待への関心の高まりと周知によって発見される数が増えているためだと考えています。(以上の数値はいずれも速報値)
昨年の児童虐待防止法の改正で、強制立ち入り(臨検・捜査)ができるようになり児童相談所の権限が強化されました。しかし実際の強制立ち入り調査は2件とのこと・・・。調査が間に合わず命が救えなかったケースもあり心が痛みます。

この発表で特に気になったのは死亡事例の分析についての報告です。 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/07/dl/h0714-1c.pdf 

※対象:厚生労働省が関係都道府県(指定都市及び児童相談所設置市を含む。)に対する調査により把握した、平成19年1月1日から平成20年3月31日までの15ヶ月間に発生又は明らかになった児童虐待による死亡事例115例142人(「心中以外」の事例73例(78人)、「心中」(未遂を含む )の事例42例(64人)

個別ヒアリング調査の結果〜事例に関するもの〜 (一部に次のような事例が見られた。)

1.乳児健診等の未受診等の虐待リスクの認識、把握、関係機関での情報共有が不十分。
2.虐待通告・相談を受けた際の直接の子どもの安全確認、リスクアセスメント等が不十分。
3.子どもや保護者との面接による情報収集と裏付け調査、時系列的なアセスメントが不十分。
4.親子関係を意識しすぎて一時保護を躊躇したり、医学診断等の虐待の事実確認が不完全。
5.虐待継続が疑われる場合の認識、再アセスメント・援助方針の見直しが不十分。
6.受傷機転不明な骨折が認められる場合等の乳児への虐待の可能性の認識が不十分。
7.虐待を受けている子どもの家庭にDVの疑いがある場合であっても、児童相談所とDV対応の専門機関との連携が不十分。
8.要保護児童対策地域協議会において関係機関の役割分担、情報共有等の連携が不十分。


これらは死亡事例に特有な問題ではなく虐待事例全般に当てはまります。また、問題点の殆どは、(少なくとも現場では)虐待防止法施行以前から言い続けられてきたことで、今頃こんなことを言っているのは、今までの厚労省の分析が甘かったのか、問題点はあがっていたのに対策が十分に立てられなかったかのどちらかでしょう。

ここにあがっている問題点の根底にあるのは、関係機関の知識不足、連携・情報共有の不足です。

児童相談所の職員には高度な専門性が必要ですが、福祉の専門職は少数に過ぎず、一般職からの移動や数年単位での配置転換により、現場で見聞きしなければ身につかない経験、知識やテクニックなどの組織内での蓄積ができていません。
どのような情報を誰と共有するのか、どの機関と連携しなければならないか、リスクはどの程度かなどはケースごとに違うのですからマニュアルでは伝えきれないことなのです。
(人員不足は目も当てられないレベルです)これらは、どれほど言い続けても一向に改善されません。

そしてもう一点、昨今話題になっている法医学者不足の問題もあります。司法、行政解剖が殆ど行われていない日本においては、虐待死を相当数見落としている可能性も否定できませんし、虐待による傷を見分けるにも法医学の知識は欠かせません。児童虐待に対する関心が高い一部の医師によって営為は続けられていますが・・・。
参照:なにわ人模様:河野外科医院理事長・河野朗久さん /大阪 <魚拓


児童虐待は様々な問題の「芽」なのです。そして公衆衛生の問題ともいわれています。目先のことだけでなく20年先30年先を見越した政策が是非とも必要です。次の選挙では、そういうことも考えて一票を投じたいと思います。物言えない子ども達の代わりに。


現在までの子ども虐待による死亡事例等の検証結果
 0次報告 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-01.html
第1次報告 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/04/h0428-2.html
第2次報告 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/03/h0330-4.html
第3次報告 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/06/h0622-5.html
第4次報告 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv20/index.html
第1次報告から第4次報告までの子ども虐待による死亡事例等の検証結果総括報告
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv31/index.html


その2に続く
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2009年06月26日

「児童買春・児童ポルノ禁止法改定案」が審議入り

とりあえずメモ

「与党が検討中の児童ポルノ規制法の改正内容にも反映させていく考えを示した」
ほんとは、こっちを推し進めるためのダミーなんじゃないの?
という推測(邪推といわれるかも)をしているわけです。

単純所持禁止とか、アニメ、ゲーム規制とか。
かなり危険なことを考えておられるようですし。
そっちの方が為政者にとってはメリットがあると思われ・・・。


先日「穏便に書いたけど・・・」で上記のように書きましたが、心配していた通りのことが起きようとしています。

保坂展人のどこどこ日記 によると、「漫画、アニメに対しての規制は見送られたが、検討事項とされた」そうですが、与党案では
「何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又はこれに係わる電磁的記録を保管してはならない」

「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した者児童ポルノに係る電磁的記録を保管した者」について「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」
となっているそうです。

単純所持の禁止や児童ポルノの定義ついて、私は保坂議員とは少し違う意見を持っていますが、それはあす以降に。


参照
『Santa Fe』を1年間で処分すべしとする与党案に驚く

「児童ポルノ単純所持」と表現の自由・内心の自由について

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2009年06月13日

性暴力ゲーム規制に思う

最近いろんな所で話題になっている(まだ過去形ではないみたい)、陵辱系といわれるゲームの件。
気になりつつも、議論は出尽くしている感があるし今更参入する気はないけれども、ここのところずっと関わっている「裁判員制度と性暴力事件の問題」とも無関係ではないと思った。

■Gazing at the Celestial Blue
「表現の自由」は誰のものですか? 

三部作の最終回を読み、なんだか触発されてしまったので「レイプレイ問題」にちょっとだけ触れてみようと思う。
実は、5月25日から数日間「はてな匿名ダイアリー」から、かなり人数が流れてきていた。
http://anond.hatelabo.jp/20090526142059#tb
その日記全文を引用する。
■こりゃ凄いね
やー、レイプレイプ言ってるから、どんな裁判なんだろうと思って調べてみたよ。
http://blogs.dion.ne.jp/akiras_room/archives/8404197.html

【性犯罪の証拠物件】
・被害直後の、ぼろぼろの写真(顔含む)
・太もも、胸、背中、腕、足、などの写真
・診断書 
・被害当時身につけていたもの(服、下着など)
・現場検証での写真(ダミー人形を使ったもの、どこで、どんな体位で行為がおこなわれたか)
・現場の見取り図(間取り図)、写真 

こんなの裁判で見せちゃうんだ!スゲー!犯人と被告を両方目の前にしてコレが出てくるのか!
妄想戦士な俺だったら、ちょっとアレだぞ。
さすがにノーサンキュウのAAが脳裏をよぎったよ。

このエントリの匿名ダイアリー・キーワードは「レイプレイ」
たまたま、文中の「レイプレイプ言ってるから」が、キーワードに引っかかってしまったのかもしれないが、これを書いた増田は「レイプレイ」を意識して書いたのだと考える方が妥当だろう。

文末の「さすがにノーサンキュウのAAが脳裏をよぎったよ。」をどう読むかによって、この匿名ダイアリーに対する評価が変わるとは思うが。
このような被害者の苦悩の扱い方そのものが、レイプレイ問題も含めた、性暴力、性犯罪被害者に対する世間の視線がどんなものなのかを、よく表しているのだと思う。

碧猫さんが一連のエントリを書き始めたころから、少しずつ周辺の議論を読んではいた。
このゲームに対する抗議活動を行っている女性団体の主張は、ポルノにおける性差別表現自体や、それらのポルノが性犯罪を助長する事を問題にしているのではなく、そういった性差別表現を許してしまう日本の社会に浸透している価値観への批判だと考えている。

この批判を受けて、パソコンソフト業界の自主審査機関はレイプなどの性暴力を扱うゲームソフトの自主規制を決めた。そして、自民党女性局長である山谷えり子氏が規制策を検討している事を発表した。
参照:性暴力ゲームの製造・販売禁止へ…業界の審査機関が方針 YOMIURI ONLINE
参照:日本製「性暴力ゲーム」を批判 自民女性局長「規制を検討」(魚拓)

あちらこちらでの議論を読んでいて、その言説(の一部)が性暴力犯罪被害者へのセカンド・レイパーの物言いととても似ている気がした。多くエントリで「レイプ」を性行為だと思いこんでいる人のコメントがあった。

陵辱系といわれるジャンルのゲームは「エロゲー」ではなく、暴力犯罪ゲームだと思っている。これをポルノとして議論すること自体、無理があると思う。
(法による規制を望んでいないことだけは明言しておく。なぜなら、政府が表現の自由を規制する法律を手に入れれば、恣意的な運用をすることが目に見えているから。私は、自分の首をしめるような法案の策定に手を貸す気はない)

この件に対して、多くのことを語る言葉は持っていないけれど、規制しようとしている陣営(保守系議員達)が持っている、性に対するゆがんだ認識についてだけは言及しておきたい。

今年の3月に「七生養護学校が行っていた性教育に関する裁判」に東京地裁から、七生養護学校側、勝訴の判決が出た。

養護学校の性教育に「介入」 都と都議に賠償命令
http://www.youtube.com/watch?v=wjNyt9QVpH8

詳しくはリンク先の動画を見ていただきたいが、そもそもなぜこのようなことが起きたのか
「七生養護学校で起きたこと 」より引用する
http://www.cafeblo.com/safrica/entry-5538c258df058c99f322af9c1dc24454.html
ことの発端は、都議会で「行き過ぎたジェンダー・性教育」に懸念を持つ議員が、当時の東京都教育長に、この頃七生養護学校で使われていた『からだうた』という歌の歌詞について「質問」しました。

この『からだうた』の歌詞をここで書き記す前に、これがどういった目的で作成されたか、という背景を説明したいと思います。

知的障がいのある子どもたちにとって、思春期に入って、自分の体が大きく変化すること、その変化が性的にどういう意味をもつか、ということを理解するのはかなりの困難が伴います。そして、知的障がいのある子どもたちの周りにいる大人にとって、この子たちが性犯罪の被害者に、そして加害者にならないためにはどうしたらいいのか、ということが大きな、そして切実な問題となってくるのです。

そこで、七生養護学校の教員たちは、子どもたちに、「自分の体はとっても大切なものなんだよ」、というメッセージをしっかり学んでもらうことにしました。その教育活動の一環して、体の部位の名称をリズムに乗ってゆっくりと教えるためこの『からだうた』を作り、子どもたちの理解を促そうとしたのでした。

『からだうた』は授業の始まりに同性の先生と1対1になって、歌に合わせて体に触れてもらいながら(性器には触れません)、心の交流を深め、体のつながりや名称を意識させていく歌遊びです。

*************************
あたま、あたま、あたまのしたには首があって
肩がある、肩から腕、ひじ、また腕、手首があって
手があるよ(右と左を繰り返す)。
胸にオッパイ、おなかにおへそ、おなかのしたが
ワギナ(ペニス)だよ、背中は見えない、背中はひろい、
腰があって、お尻だよ、ふともも、ひざ、すね、足首、かかと、
足のうら、つまさき(右と左を繰り返す)、おしまい
*************************

皆さんは、この歌詞がこういった状況の元、養護学校というある意味においては、特殊な環境で教師が生徒たちに懸命に自分の体のことを教えようとしていることに関してどんな感想をお持ちになるでしょうか。

あるひとりの教育者の意見を読んでください。

「とても人前では読むことがはばかられるもので……極めて不適切な教材でございます」

この感想の主は当時の東京都の教育長のものです。

子どもは性暴力から身を守るすべを持たない。
それは、力がないからだけではなく、自分が経験している事が何か、どういう意味を持つかという判断ができないからだ。
たとえば、近親者から(子どもへの性暴力は、そのほとんどが近親者や知人から行われる)、「これは、みんな普通にやっていることだ」「おまえが可愛いから」といって性暴力をふるわれても、子どもは自分が何をされているのか判断するすべがないのだ。
この歌を使った授業は身体部分の名称を教えるだけでなく、自分にとって大切な場所「プライベートゾーン」を教えるものなのだ。自分を守るため、そして、誰かの大切な場所をむやみに侵害してはいけないという、人権の最も大切な基本を教えるために使われている教材だ。

また、七生養護学校は「スージーとフレッド人形」という、体毛や性器のついた人形を教材として使っていた。海外では、性教育を進めていく上で一般的に導入されているもの。

私も同様のものを児童虐待防止学会の会場で何度も目にした。
トロルホームページ-からだがわかる人形-性教育人形「アナトミカルドール」
アナトミカルドールについて - NPO法人子ども虐待防止みやざきの会 - Yahoo!ブログ

それが、東京都教育委員会、性教育をよく思わない議員や市民の目から見るとこうなってしまう。(これらの教材は全て押収された)

性教育グッズ秘宝館
過激性教育都議ら視察


そして、偏見を持つ議員によって国会の場において以下のような質問が行われた。
平成17年3月4日(金曜日) 参・予算委員会 会議録(抜粋)
○山谷えり子君
 (略)
 次のページ、資料三ということ、ところをごらんになっていただきたいと思います。これは、吹田市の小学校一、二年生用、教育委員会が発行している性教育の副教材でございます。上から四行目、「お父さんは、ペニスを お母さんの ワギナにくっつけて せいしが外に出ないようにしてとどけます。」と書いてございます。市の教育委員会は、ほかの県からもとっても評判だからお渡ししていると言うんですね。小学校一年、これ、私、お母さんから届けられたんです。こんな教科書を子供たちに読ませている。許せない。
 次のページを見ていただきたいと思います。資料四でございます。
 これはセックス人形と言われているもので、東京都、石原都知事が、教育委員会が調べたものです。八十の小学校からこのセックス人形が出てきました。どういうふうにやるかという性技術をこういう人形を使って教えるわけです。ほかにもいろいろなグッズがあって、教育委員会が展示いたしまして、都知事は、校長の降格を含め、服務規律違反もございましたが、百十六人の教員を処分いたしました。
 隣のページは、神奈川県の公立の小学校三年生で使っている副教材でございます。
 このような教材、小泉総理に私、以前お尋ねしたこともあるんですが、そのとき総理は、ちょっと行き過ぎじゃないか、考え直さなきゃいけないとおっしゃったんですが、今も相変わらずこういうのが続いていて、私、父兄、父母から大変いろんな声いただくんです。どういうふうにお考えでございましょうか。


彼らは、アナトミカルドールをセックス人形と呼び、自らの価値観、性意識(あるいは性的ファンタジー)によって、真摯な性教育の教材をポルノにおとしめてしまったのだ。このような「性」と「ポルノ」の区別もつかないような議員達によって推し進められる「規制」がどのような形を持つのか、どのように運用されていくのか・・・。

私は、レイプレイ議論における「性行為」と「性暴力」の混同と、「性」と「ポルノ」の混同は同じ根を持っていると思っている。
この件を調べるうちに思い知ったのは、性行為と性暴力の違いが分かっていない人があまりにも多すぎるということ、それらは主に性差別意識から発しているが、そこから性暴力神話も二次被害も起こってくるのだと思う。最初に引用した「匿名ダイアリー」と同じように、世の中の人たち(全てではないことは十分承知しています)が性暴力に送る視線は、まさしく「ポルノ」を観るのと同じなのだ。性犯罪裁判の傍聴を趣味とする「○態オヤジ」は、その先鋭化された例に過ぎない。



参考:

■荻上式BLOG
七生養護学校の件について 
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20090317/p1

■かめ?
根っこは、伸びる。つながる
http://blog.livedoor.jp/gegenga/archives/51671235.html

■あなたは悪くない
性被害についての認識のずれ(はてなブックマーク)
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://manysided.blog85.fc2.com/blog-entry-14.html

Posted by akiras_room at 03:44  |Comments(19)TrackBack(4) | 性暴力被害 , 児童虐待 , 裁判員制度 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする