2012年05月20日
Balibo (Robert Connolly)
1975年インドネシア軍による東ティモール侵攻の際、5人の豪州TVリポーター&クルー、1人のオージーフリージャーナリストが現地で落命した真相をめぐる物語。Jill Jollife 著のノンフィクション "Cover-up: the inside story of Balibo Five" をもとに映画化。ロバート・コノリー監督作、2009年豪州公開。アンソニー・ラパーリアが主人公フリージャーナリストのロジャー・イースト役。UK版DVDが本体価格3.97GBPとお安くなってたのでゲット。しかし、英語セリフ部分には字幕なかったよ…オージー訛はそれほどきつくないけど、invadeが見事に「インヴァイド」としか聴こえない。
東ティモールはこの5月20日で独立10周年。
▼▼▼以下ネタばれ感想▼▼▼
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東ティモールはこの5月20日で独立10周年。
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2012年05月08日
アーティスト
やっと観てきました。アンサンブル(犬も含めて)も、被写体の魅力を存分に引き出してるカメラワークも素晴らしい。加えて人間関係が、相手のベストコンディションを愛でるというよりも、相手が持てる魅力を最大限発揮できるように力になりたいというrespectに満ちあふれているのが心地よい作品でした。こういう、人のいろんな経験に対するリスペクトに満ちてストレートにおっとり前向きなほうが好み。「オレンジと太陽」もテーマは重かったけどカラーとしては似ているな。
トシのせいかしら、アンチテーゼとして殺伐とした描写を並べ立てられるとまわりくどーいと思うようになって参りました。
主人公ジョージがトップハットがよく似合う確信犯チャーミング男、不特定多数のファンに無声冒険活劇映画で夢をみせるプロというアーティストですよ! 「俺を見ろ構え」な「スター」では決してありません。自分の眼に映るすばらしいものを他者にも伝わるように呈示したい、というのがアーティストというものなのですね〜。方法論にちょいと固執しているところがつまづきの始まりなわけですが。ヨメのあしらいが不器用なところもご愛嬌。話さずとも以心伝心なわんことか付き人がなまじいたせいかしらね。
話題の演技犬アギー、すげー。結構泣かされてしまった。ちゃんと役者の一員として相互作用してたというところもすごい。
ペピが非常に魅力的なファニーフェイス。フラッパースタイルがとてもよく似合うし動きがチャーミング。かなり踊れるお人とお見受けします。
みんな動きがエレガント。ということは、引きの画面も結構多かったということか。舞台的なつくりの印象とアップ多用の印象とどっちもあるのが不思議です。それだけさりげない編集なのかな。
クリフトンが1年も黙ってただ働きしてたことを知ったジョージ:「解雇だ。ほかに仕事を探せ」 応えるクリフトン:「おそばにいさせてください I don't want another job.」としたのは名訳だ! ジョージという存在に惚れ抜いてお仕えしてるのが伝わってぐっときました。しかしクリフトン、字を書くのが左なのに包丁は右なのね。私と逆だ。
商業主義に走った偽悪っぽいけど根は芸術に理解もある(けど尊重するかは別)味のある映画会社重役がJ.グッドマンに見えるけど違うかなあと悶々と迎えたラスト、声聞いてああやっぱりグッドマンだったと思ったということは、普段私は声で役者の識別をしてるんだなあ。
トーキー映画でありながら基本的にサイレント映画のつくりで、時折幻聴のごとく効果音が混じるという演出が斬新でした。白黒だとかサイレントだとかに注目がいきがちだけど、役者のうまさ(犬も含めて)・スマートな脚本や編集、なにより監督・撮影監督の被写体への愛、映画への愛がだだもれなところが素敵でありました。
トシのせいかしら、アンチテーゼとして殺伐とした描写を並べ立てられるとまわりくどーいと思うようになって参りました。
主人公ジョージがトップハットがよく似合う確信犯チャーミング男、不特定多数のファンに無声冒険活劇映画で夢をみせるプロというアーティストですよ! 「俺を見ろ構え」な「スター」では決してありません。自分の眼に映るすばらしいものを他者にも伝わるように呈示したい、というのがアーティストというものなのですね〜。方法論にちょいと固執しているところがつまづきの始まりなわけですが。ヨメのあしらいが不器用なところもご愛嬌。話さずとも以心伝心なわんことか付き人がなまじいたせいかしらね。
話題の演技犬アギー、すげー。結構泣かされてしまった。ちゃんと役者の一員として相互作用してたというところもすごい。
ペピが非常に魅力的なファニーフェイス。フラッパースタイルがとてもよく似合うし動きがチャーミング。かなり踊れるお人とお見受けします。
みんな動きがエレガント。ということは、引きの画面も結構多かったということか。舞台的なつくりの印象とアップ多用の印象とどっちもあるのが不思議です。それだけさりげない編集なのかな。
クリフトンが1年も黙ってただ働きしてたことを知ったジョージ:「解雇だ。ほかに仕事を探せ」 応えるクリフトン:「おそばにいさせてください I don't want another job.」としたのは名訳だ! ジョージという存在に惚れ抜いてお仕えしてるのが伝わってぐっときました。しかしクリフトン、字を書くのが左なのに包丁は右なのね。私と逆だ。
商業主義に走った偽悪っぽいけど根は芸術に理解もある(けど尊重するかは別)味のある映画会社重役がJ.グッドマンに見えるけど違うかなあと悶々と迎えたラスト、声聞いてああやっぱりグッドマンだったと思ったということは、普段私は声で役者の識別をしてるんだなあ。
トーキー映画でありながら基本的にサイレント映画のつくりで、時折幻聴のごとく効果音が混じるという演出が斬新でした。白黒だとかサイレントだとかに注目がいきがちだけど、役者のうまさ(犬も含めて)・スマートな脚本や編集、なにより監督・撮影監督の被写体への愛、映画への愛がだだもれなところが素敵でありました。
2012年03月13日
Pina
言葉になっていないから存在しないというわけではない感情を、踊ることで表現し伝えるのがピナ・バウシュのダンス。ポジティブな感情もネガティブな感情も豪快な感情も繊細な感情もすべてが際立ちながら渾然一体となって、大きなカタマリとなってストレートにどっかーんとこちらに飛んできます。3Dで。ピナ・バウシュ急逝後の撮影というから無難な回顧作品になるのかと思いきや、とんでもない。ピナが不在でも隅々までピナのミームが満ち満ちた作品でありました。
言語依存じゃないからダンサーも多国籍で、インタビューで出てくる言語もドイツ語、フランス語、ロシア語(ポーランド語?)、英語、米語、イタリア語、スペイン語(ポルトガル語?)、韓国語、あとセルボ・クロアチア語かな? ピナと同じ目線で物事を見つめるダンサーあり、踊ることでピナが見ていたものを垣間みるようになったダンサーあり。
とピナが言うのを聞くと、この人はほんとに感じること生きることと踊ることは直結してたんだなあと思いますだ。また、この言葉が発展途上のダンサーに向けられた場合は、私とはぐれないようにしっかり踊りなさいとも聞こえる。そのくらい求心力を感じさせるお人です。
劇場内のカメラワークもすごいが、比較的長回しの多い野外(モノレールとか工場とか、あれはヴッパタールなのかな?)での絵のほうが好みでした。だってダンサーたちの間に割って入れそうなくらいの臨場感なんだもの。
PINA
言語依存じゃないからダンサーも多国籍で、インタビューで出てくる言語もドイツ語、フランス語、ロシア語(ポーランド語?)、英語、米語、イタリア語、スペイン語(ポルトガル語?)、韓国語、あとセルボ・クロアチア語かな? ピナと同じ目線で物事を見つめるダンサーあり、踊ることでピナが見ていたものを垣間みるようになったダンサーあり。
Tanzt, tanzt sonst sind wir verloren.
とピナが言うのを聞くと、この人はほんとに感じること生きることと踊ることは直結してたんだなあと思いますだ。また、この言葉が発展途上のダンサーに向けられた場合は、私とはぐれないようにしっかり踊りなさいとも聞こえる。そのくらい求心力を感じさせるお人です。
劇場内のカメラワークもすごいが、比較的長回しの多い野外(モノレールとか工場とか、あれはヴッパタールなのかな?)での絵のほうが好みでした。だってダンサーたちの間に割って入れそうなくらいの臨場感なんだもの。
PINA
2012年02月19日
Tinker, Tailor, Soldier, Spy
白状します。5年ほど前にハヤカワ版に手はつけたんです。スマイリーがコニーを訪ねてったあたりで挫折しました。だから13章くらいまでは歯を食いしばって読んだんだっけか…ぜんっぜんのれなかったのであります。
今春映画公開を目前に原書にトライしてみたら、あらやだ、ぜんっぜんノリが違うじゃないですか!萌え燃えする面白さじゃありませんか!!
大英帝国をしょって立つオックスブリッジエリートの一部の鼻持ちならない階級意識はすごいし、国防を自負する情報部の内部でも生粋の英国人とアウトサイダーとの間には明らかに階級差がある。そのあたりや人それぞれの弱みをすかさずスマートに衝いて利用するソ連情報部の「カーラ」。そのさしがねで英国情報部内にかねてからいると思われる二重スパイ「もぐら」。強制隠居しかし要請あって英国情報部に隠密裏にカムバックしたスマイリーに、実は「カーラ」との因縁があったなどの伏線とか、もうもう萌えますわな。出張経費記録をトラフィック分析的に眺めてあたりをつけ、スマイリー独自の人脈を駆使してじわじわと「もぐら」を穏健にいぶしだすという謎解き、並行して、以前の「もぐら」捜査の犠牲となったプリドーの件の真相究明、という物語後半の展開は読んでて燃える(ハヤカワ版ではそこに至る前に私は挫折してたんだなあ…)。登場人物それぞれ、いろいろ人間関係で傷つき屈託があり、信頼できる人間の区別に逡巡しております。
この本はハードボイルド系の人が訳してはいかんぞ!ニヒリストではなくて、最終的には性善説を支持し他者との相互理解に重きを置く人で、できればオネエはいったおっちゃんか腐がはいったおばちゃん(要はホモソーシャルじゃないってことね)が訳すべきだと思います。まだ戦後20年ちょっと、もう戦後20年ちょっとという'60年代後半の微妙な時代の知識があったほうがより楽しめるとは思うけど、冷戦などの時事問題はあくまで背景であって、疑心暗鬼にとらわれたときに頭をもたげてくる不安感や虚無感、それに抗い希望を持とうとする人間の懲りない善性がこの小説のツボですぜ!!
というわけで、映画の邦題「裏切りのサーカス」は用語説明を抜かしていきなりサーカスはどうよと思わないでもないが、「裏切り」を全面に打ち出しているあたりは結構いいかんじだと思うのであります。4月の公開が楽しみ。
人名、Allelineはアレラインと読むんじゃないかな…。Esterhaseはドイツ語風にエスターハーゼと読むと、Haseうさぎを彷彿とさせていいんだけどな。しかしこれ、ハンガリー人ということだし、Esterhazyの亜流かな?だとするとたいそうな名字だわ。
読書中
Jonathan Littell "The Kindly Ones"
「慈しみの女神たち」の英語版
Deborah Curtis "Touching from a distance"
イアン・カーティスの未亡人が書いたカーティス伝記。 Joy Division 全詞収録。
Aldus Huxley "Point Counter Point"
有閑階級の内縁モノ。たよりないいいかげんなぼんぼんで、どうなるんだこのカップル。
待機中(DL購入しただけ〜)
Naomi Novik "Tongues of Serpents"
James Fenimore Cooper "The Last of the Mohicans: a narrative of 1757"
Karel Capek "Hordubal"
今春映画公開を目前に原書にトライしてみたら、あらやだ、ぜんっぜんノリが違うじゃないですか!萌え燃えする面白さじゃありませんか!!
大英帝国をしょって立つオックスブリッジエリートの一部の鼻持ちならない階級意識はすごいし、国防を自負する情報部の内部でも生粋の英国人とアウトサイダーとの間には明らかに階級差がある。そのあたりや人それぞれの弱みをすかさずスマートに衝いて利用するソ連情報部の「カーラ」。そのさしがねで英国情報部内にかねてからいると思われる二重スパイ「もぐら」。強制隠居しかし要請あって英国情報部に隠密裏にカムバックしたスマイリーに、実は「カーラ」との因縁があったなどの伏線とか、もうもう萌えますわな。出張経費記録をトラフィック分析的に眺めてあたりをつけ、スマイリー独自の人脈を駆使してじわじわと「もぐら」を穏健にいぶしだすという謎解き、並行して、以前の「もぐら」捜査の犠牲となったプリドーの件の真相究明、という物語後半の展開は読んでて燃える(ハヤカワ版ではそこに至る前に私は挫折してたんだなあ…)。登場人物それぞれ、いろいろ人間関係で傷つき屈託があり、信頼できる人間の区別に逡巡しております。
この本はハードボイルド系の人が訳してはいかんぞ!ニヒリストではなくて、最終的には性善説を支持し他者との相互理解に重きを置く人で、できればオネエはいったおっちゃんか腐がはいったおばちゃん(要はホモソーシャルじゃないってことね)が訳すべきだと思います。まだ戦後20年ちょっと、もう戦後20年ちょっとという'60年代後半の微妙な時代の知識があったほうがより楽しめるとは思うけど、冷戦などの時事問題はあくまで背景であって、疑心暗鬼にとらわれたときに頭をもたげてくる不安感や虚無感、それに抗い希望を持とうとする人間の懲りない善性がこの小説のツボですぜ!!
というわけで、映画の邦題「裏切りのサーカス」は用語説明を抜かしていきなりサーカスはどうよと思わないでもないが、「裏切り」を全面に打ち出しているあたりは結構いいかんじだと思うのであります。4月の公開が楽しみ。
人名、Allelineはアレラインと読むんじゃないかな…。Esterhaseはドイツ語風にエスターハーゼと読むと、Haseうさぎを彷彿とさせていいんだけどな。しかしこれ、ハンガリー人ということだし、Esterhazyの亜流かな?だとするとたいそうな名字だわ。
読書中
Jonathan Littell "The Kindly Ones"
「慈しみの女神たち」の英語版
Deborah Curtis "Touching from a distance"
イアン・カーティスの未亡人が書いたカーティス伝記。 Joy Division 全詞収録。
Aldus Huxley "Point Counter Point"
有閑階級の内縁モノ。たよりないいいかげんなぼんぼんで、どうなるんだこのカップル。
待機中(DL購入しただけ〜)
Naomi Novik "Tongues of Serpents"
James Fenimore Cooper "The Last of the Mohicans: a narrative of 1757"
Karel Capek "Hordubal"
2012年01月08日
善き人
物語としてもよかったし、おやぢ映画としてもたいへん佳良でした。ジェイソン・アイザックスとマーク・ストロングの安定したおっさまっぷりを満喫できるし、へっぴり腰でおろおろするヴィゴがナイス。出世などの日常生活の充実とひきかえになんとなく感じる違和感を直視せず、ふと気づくと倫理も道徳もずたぼろなことをしていて、にっちもさっちもいかなくなった善良なドイツ人を好演してます。武闘派キャラよりこういう腰抜けキャラのほうが好みだなあ。
アン役のジョディ・ウィテカーも慎ましやかなのに妙に迫力のある肉食系女子なとこがいい。最初アンって党がよこした間諜か?とか思ったのだけど、ヴェルサイユ体制のしけた時代しか知らなかった若者が新生第三帝国に無邪気に心酔して後先顧みずに利得を享受しているというほうがよりじんわりと恐いですね。
以前ものした小説の死生観が党の御眼鏡に適い、フィリップ・ボウラーら主導のT4作戦(安楽死政策)の布石にと御用学者として使われた文学部助教授(たしか最初のうちはlecturerって言ってたと思う)ジョン・ハルダーの1937〜1941年の物語。
ハルダーのモデルになってるような実在した人物がだれかいるのかな?まったく架空の人物かな? 実証に基づく科学畑でなくてあくまで社会的文脈に位置づけられるしかない文学畑の研究者という設定がうまいと思う。本音を吐ける唯一の相手、ハルダーかかりつけの精神分析医モリスがWWI時の戦友で退役ユダヤ人という設定もよい。ドイツに生まれ育ち国のために戦った人間だから、公民権を剥奪されてもなお愛国心もこの国で築いてきたものも捨てきれず国外脱出のタイミングを逸するのも無理からぬこと。ちなみに'37年というと、ユダヤ人はユダヤ人以外の患者診ちゃいけなかったんだよね。それでも交流が続いていた、食べ物の好み(チーズケーキ!)まで熟知している親友です。
いろいろ屈託のある家庭生活を送っているところに党から急に社会的有用性を付与されて、見返りの利得も結構あり、さして強制されることもなく党や社会の趨勢に迎合し、毛嫌いしていたはずのナチスの党員に形式的になるはずがどっぷり浸かって、いつの間にかSDの黒服を着て親友すらも知らぬうちに「殲滅」に追いやっていたハルダーなのでありました。1938年パリのドイツ大使館書記官殺害事件に続く「水晶の夜」のエピソードも出てくるで。
しかし、映画の売り文句を信じてはいけないことも結構あるんだなーと痛感。
善良な主人公、葛藤してないよ!葛藤したくないんで直面すべき現実がミュージカル風マーラー歌曲の幻覚・幻聴に転換されるんじゃないか!
だから長回しとたった一言のあのセリフのラストが強烈な印象を残すんだよ!
こういう「社会的に善良な」人たちが遅ればせながら気がついたときには選択の余地なく凄い勢いで進みつつある「殲滅」に大なり小なり加担してしまっていたってことでしょう。作品で描写している時期が1942年1月ヴァンゼー会議の前、1941年で寸止めにしてそこまで言い切らないとこがまたニクいねえ。
アン役のジョディ・ウィテカーも慎ましやかなのに妙に迫力のある肉食系女子なとこがいい。最初アンって党がよこした間諜か?とか思ったのだけど、ヴェルサイユ体制のしけた時代しか知らなかった若者が新生第三帝国に無邪気に心酔して後先顧みずに利得を享受しているというほうがよりじんわりと恐いですね。
以前ものした小説の死生観が党の御眼鏡に適い、フィリップ・ボウラーら主導のT4作戦(安楽死政策)の布石にと御用学者として使われた文学部助教授(たしか最初のうちはlecturerって言ってたと思う)ジョン・ハルダーの1937〜1941年の物語。
ハルダーのモデルになってるような実在した人物がだれかいるのかな?まったく架空の人物かな? 実証に基づく科学畑でなくてあくまで社会的文脈に位置づけられるしかない文学畑の研究者という設定がうまいと思う。本音を吐ける唯一の相手、ハルダーかかりつけの精神分析医モリスがWWI時の戦友で退役ユダヤ人という設定もよい。ドイツに生まれ育ち国のために戦った人間だから、公民権を剥奪されてもなお愛国心もこの国で築いてきたものも捨てきれず国外脱出のタイミングを逸するのも無理からぬこと。ちなみに'37年というと、ユダヤ人はユダヤ人以外の患者診ちゃいけなかったんだよね。それでも交流が続いていた、食べ物の好み(チーズケーキ!)まで熟知している親友です。
いろいろ屈託のある家庭生活を送っているところに党から急に社会的有用性を付与されて、見返りの利得も結構あり、さして強制されることもなく党や社会の趨勢に迎合し、毛嫌いしていたはずのナチスの党員に形式的になるはずがどっぷり浸かって、いつの間にかSDの黒服を着て親友すらも知らぬうちに「殲滅」に追いやっていたハルダーなのでありました。1938年パリのドイツ大使館書記官殺害事件に続く「水晶の夜」のエピソードも出てくるで。
しかし、映画の売り文句を信じてはいけないことも結構あるんだなーと痛感。
善良な主人公、葛藤してないよ!葛藤したくないんで直面すべき現実がミュージカル風マーラー歌曲の幻覚・幻聴に転換されるんじゃないか!
だから長回しとたった一言のあのセリフのラストが強烈な印象を残すんだよ!
こういう「社会的に善良な」人たちが遅ればせながら気がついたときには選択の余地なく凄い勢いで進みつつある「殲滅」に大なり小なり加担してしまっていたってことでしょう。作品で描写している時期が1942年1月ヴァンゼー会議の前、1941年で寸止めにしてそこまで言い切らないとこがまたニクいねえ。

