地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして人間の形をして人間として生き続けているという…。「名士の館に生まれた少年の回想」「人類学者が採集した惑星の民話」「尋問を受け続ける囚人の記録」という三つの中篇が複雑に交錯し、やがて形作られる一つの大きな物語と立ちのぼる魔法的瞬間―“もっとも重要なSF作家”ジーン・ウルフの最高傑作。
最初の中編「ケルベロス第五の首」は、サント・クロアの屋敷に生まれた少年の物語。
「犬の館」と呼ばれる売春宿を経営する科学者の父と、あまり似ていない兄弟のディビッド、家庭教師のミスター・ミリオンと暮らす語り手の少年・名前は「第五号」。
父親から第五号と名付けられた少年は、地球の人類学者マーシュ博士からある真実を告げられ、父親殺害を決意するのですが・・。
サント・クロアの社会全体が、中世的でもあり近未来的でもあり、何とも言えないイヤ〜な不条理感が漂っていて、健全とは言えない雰囲気。少年とつながる奴隷の存在とか、うわ・・っとなります。
「ある物語」ジョン・V・マーシュ作は、先の中編にも登場したマーシュ博士が採集した惑星の民話。
サント・クロアの双子惑星サント・アンヌにフランス系移民が到着した当時の話で、「丘人」「沼人」「影の子」という種族間の争いを元に、神話のような物語になっています。なかなか残酷です。
最後の「V・R・T」で三つの中編のつながりがやっと見えてきます。
「犬の館」訪問の後、殺人とサント・アンヌのスパイ容疑で警察に捕らえられてしまうマーシュ。サント・クロアの士官の元には、マーシュのサント・アンヌでの調査記録、表紙にV・R・Tと書かれた英作文練習帳、囚人が独房で書いた文書、尋問の記録が送られていた。
サント・アンヌでの調査に協力してくれた、自称アボとのハーフ、V・R・Tの存在が鍵。
そして、ここにきて異端の説と言われた、ヴェールの仮説が三編を繋げていくのですが、その騙りが見事です。手先が不器用なアボ、秀でた変身能力により、己のアイデンティティさえも失ってしまうアボ。異端の説と呼ばれたアボについての謎が、実に巧妙に読者を騙してくれるのです。
好き嫌いが激しく分かれそうですが、私はこういう騙しが大好きです。
まだまだ謎が解けきっていなくて、多分・・きっと・・ああなんだろうなぁ〜〜という
なんとも自信のない結論なのですが。