2007年10月15日

アンチがアンチでなくなる時

94年12月、記者達に取り囲まれた控え室で、彼は子供たちを抱きしめ、人目はばからず声を出して泣いていました。そのビッグマウスぶりと派手なパフォーマンスで人々を魅了した彼は、敗戦後も気丈に振舞っていましたが、家族の顔を見た途端に感情が押さえられなくなったのです。彼は辰吉丈一郎という名のボクサーで、多くの注目を集めた試合に負けたばかりでした。楽勝だと宣言し、相手を罵倒して挑んだ試合に負けた辰吉に、この時ばかりは多くの人が温かい目で見守っていました。試合後の彼の行動が多くの人の心に響き、アンチ辰吉だった人々の心まで掴んだのです。



当時、網膜剥離により戦線を離れていた辰吉は、暫定王者という肩書きでした。その間に王座に就いた、正規の王者である薬師寺保栄と王座統一戦が行なわれる事が決まりました。試合が決定すると、アメリカの大物プロモーターの介入や、日本ボクシング史上最高となるファイトマネーが話題になり、大きな注目を集めました。辰吉はいつものように薬師寺をこき下ろし、激しい舌戦が展開されていきます。冷静に辰吉の経験の少なさや弱点を指摘する薬師寺陣営に対し、罵倒ともいえる言動を繰り返す辰吉に対して一部から批判はありました。しかし圧倒的な辰吉の人気に加え、試合予想も圧倒的に辰吉有利ということもあって、そういった批判はかき消されていきました。

試合は激しい消耗戦となり、手数で圧倒した薬師寺が判定で勝利しました。試合後の辰吉の言動に注目した人は多かったのですが、彼はリング上で薬師寺に頭を下げ、抱きかかえて勝利を祝福しました。さらに控え室に戻ると囲むように集まった取材陣に対して、やや興奮した面持ちで「まず最初に言っておきたいのは」と切り出し、今日はベストコンディションだったこと、体調不良などは一切なかったこと、薬師寺が強かったことを述べました。彼は堂々と負けを認め、試合前に薬師寺に対して言ったことについては「謝りたい」とも言いました。そして家族が駆けつけると抱き合い、人目をはばからずに声を出して泣いたのです。腫上がった辰吉の目から流れる涙に、多くの人が感動しました。

試合後の真摯な態度に加え、その言動は辰吉を嫌っていた人の心にも響きました。この試合が語られるとき、必ずといってよいほど試合後のエピソードが語られ、この試合の価値を高めたといわれています。そして辰吉を生意気なガキだと思っていた人達も、この試合から一目置くようになったのです。そして無冠になった辰吉が、再び王座を目指して始動するとファンの声援が変わっていました。それまではミーハーな女性ファンや、いわゆるヤンキーと呼ばれる人達の声援が多かったのですが、一般のサラリーマンや学生のファンが増えていきました。テレビ局が作り上げた辰吉のイメージに惹かれた人だけでなく、これまでは辰吉の事を敬遠していた人達も、彼を応援するようになったのです。

先日の亀田大毅の試合を見ながら、この薬師寺対辰吉戦を思い出した人は多かったようで、私の周りでもその話で盛り上がりました。もし亀田大毅がくだらない反則を繰り返すことなく、負けた後に「ありがとうございました。勉強になりました」と内藤を祝福していたら、今のような批難は少なかったと思います。アンチ亀田の人たちの中にも、生意気なガキだけど可愛げもあるんだ、と思う人も出てきたでしょう。その意味で、亀田大毅はチャンスを逃したとも言えます。

まあ、当時24歳の辰吉と18歳の亀田大毅とでは、周りの状況も違うのでなかなか難しいと思いますが、今回の試合中、試合後の振る舞いは、亀田にとっても大きなマイナスになってしまいました。そしてそういう事を教える指導者がいないということが、今の亀田兄弟にとって様々な面で不利に働いていると言えます。

亀田大毅への処分も決まったので、次回は私なりにこの騒動の意見を書いてみたいと思います。

この記事へのトラックバックURL

http://blogs.dion.ne.jp/hanemone/tb.cgi/6326056
※半角英数字のみのトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
ファン待望!!クレジットカードのキャラクターに【スターウォーズ(STARWARS)】が登場しました!!☆★☆スターウォーズ(STARWARS)キャラクターカードが登場☆★☆↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ..
スターウォーズ(STARWARS)のキャラクタークレジットカード【クレジットカードはキャラクターで選ぶ】 at 2007年10月15日 23:56
 世界戦のリングを汚した暴挙に対し、日本ボクシング協会(JBC)は厳罰で臨んだ。中でも、亀田大毅選手の父、史郎トレーナーには陣営の中で最も重い無期限の「セコンドライセンス停止処分」。解除を受けるまでボ..
亀田父(史郎) 1年以上資格停止(無期限停止)か【しなぷす】 at 2007年10月16日 21:27
 世界ボクシング評議会(WBC)フライ級チャンピオンの内藤大助(宮田)は26日、亀田興毅(協栄)が弟の大毅(同)の反則について謝罪会見を行ったことを受け、東京都内の所属ジムで報道陣に心境を語った。既に..
内藤、最後まで大人の対応(謝罪会見動画あり)【しなぷす】 at 2007年10月28日 10:35
この記事へのコメント
おはようございます。

とりあえず「相撲協会」よりは、迅速な対応でしたね。

スポーツや格闘技以上に「不透明」(ジャッジの好みや『政治』に左右される)なのがダンスの世界です。
「今日のジャッジは見る目が無かった!」というのはたやすいのですが。
私の理想は「アイツの踊りはキライだけど、上手いのは事実だから点数は入れる」とジャッジに言わせる、こと。

この世界に入った時。
「人は誰でも自分が上手いと錯覚する。『アイツはオレよりヘタ』と思う奴と同レベル。『アイツとオレは同レベル』と思うなら、相手の方が上。『アイツはオレより上手い』と思うなら。相手は遙かに格上」と、教えられました。
相手の実力を認めるには、それだけの「鑑識眼」が無ければムリなのです。

「参りました」
将棋なら、数手先の勝敗を認めるのですが...。
Posted by 女王様 at 2007年10月16日 09:06
たしかにチャンスを逃してしまいましたね
まだ若いので自分の素直な気持ちを表に表すことが出来なかったのかもしれませんね
テレビ局にも見放されて今後どう動くのかが気になります
Posted by kawausosan at 2007年10月17日 11:16
派手なパフォーマンスと言えども常識の範囲内なのが辰吉でありアニマル濱口で、非常識なTBSの想像の大気圏外に居たのが亀田父でしょう。
いずれにしても才能はあるので三人には今後も拳闘家として頑張ってもらいたいものです。
Posted by nao at 2007年10月17日 11:30
★女王様さん
ダンスやフィギュアスケート、シンクロナイトスイミングなどの判定は、いろいろなものに左右されやすいですよね。素人目に「それはちょっと違うのでは」と思う事もあるのですが、玄人の方が見るとさらに違ったりすることもあるようですね。
自分を客観視するのは難しいですが、亀田家の場合は同じジムに坂田選手というフライ級の世界王者がいるのですから、一度スパーリングをやれば世界王者との距離も掴めたと思います。それもやることなく世界戦ですからね。。。
今日、謝罪会見をテレビで見ましたが、いやはや凄いかいけんでしたね(苦笑)


★kawausosanさん
TBSは素早く見切りをつけたような行動に出て、他局はTBS叩きのために利用しているような感じですねぇ。
今日の会見でも一言も発しなかった大毅君は、せめて深々と頭を下げるぐらいはして良かったように思いました。お父さんの受け答えも反論を呼んでいますし、つくづく下手だなぁと思ってしまいます。
Posted by はねもね at 2007年10月17日 23:54
★naoさん
私は試合が決まってから、その相手を挑発するのはOKだと思っているのですが、対戦することも決まっていない相手(しかも時には世界王者)を罵倒するのはあり得ない行為だと思っています。その意味で、この一家は明らかに限度を超えすぎていましたし、試合の反則も行き過ぎでしたね。
果たして今後はどうなるのでしょうか?スポンサー離れが出ているようなので、これから本当の正念場を迎えそうですね。
Posted by はねもね at 2007年10月17日 23:54
高校の頃、社会科の先生が、柔道だったか剣道だったかの顧問をしておられ、闘志を剥き出しで闘う競技だからこそ礼で始まり礼で終わって冷静さを保たなければならないんだ、と教えてもらったことがあります。

私は、プロボクシングも競技スポーツであってほしいと思っています。
興行を打つ以上、ある程度のショー的要素は仕方ないのでしょうが、試合は八百長やドーピングの介在しない純粋なものであってほしい。
亀田一家のような道理が罷り通ってしまうと、日々研鑽している現役選手や過去の素晴らしい選手たちが気の毒に思えます。

謝罪会見を視ましたが、亀田父は、お詫びする姿勢を見せながらも記者の質問を遮るように返答したり、息子の方も、いくらショックを受けているとは言え、アタマひとつ下げられないのであれば、この一家はまだまだ反省が足りないと言われても仕方ないでしょう。
メディアや世間が後押しし、ジムや協会も制止してこなかった(出来なかった?)側面はあるものの、まずはこの一家の言動が招き込んだ結果であることを認識しなければ、仕切り直しも出来ないでしょう。
Posted by カメリン at 2007年10月18日 01:50
★カメリンさん
ボクシングを喧嘩の延長のように捉え、ボクシングはスポーツじゃないと言う人もいますが、私は純粋なスポーツだと思っています。プロである以上、お客さんを惹き付けるための演出は必要になりますが、演出が競技性よりも先行したところに、今回の問題があると思います。

あの謝罪会見は、まるで金平会長の謝罪会見に亀田親子が付き添ってきただけのように見えました。あんな謝罪会見ならやめればよかったのにと思ってしまいました。しかし亀田大毅選手が、内藤選手の家に出向いて謝罪したそうなので、とりあえず一段落しましたね。あの親父はなにをやってるんだ、というのが残りますが。。。

今回の騒動で、ボクシングそのものの価値が下がってしまうのではないかと心配です。。。
Posted by はねもね at 2007年10月19日 23:02
この話は有名ですよね〜。
彼らの感動を覚えるエピソードを亀田親子が少しでも知っていればと思えてなりません。

歴史は繰り返され恥を知らない世代が悪い結果を残したと言うことでしょうかね......

残念でならないのですが、日本人対決というのはやっぱり早い時期から行なわなければならないと考えてしまいます。
強気な発言というよりもっと酷いですが、おいら的に「弱い犬は良くほえる」と感じてしまうもんですからね〜。
Posted by mumu.com at 2007年10月20日 00:11
★mumuさん
レスが遅くなり、申し訳ありません。
亀田親子は辰吉のファンだと聞いたことがあるのですが、この話は知らなかったのでしょうか?きっと精力的にボクシングの練習をしていた頃なので、試合も見ていたと思うんですけどねぇ。
弱い犬ほどよく吠えるというのは、まさにその通りだと思います。確かマービン・ハグラーだったと思いますが、記者会見で相手にあれこれといわれた時に「俺はリングの中でのみ、真実を語る」とだけ言って会見を後にしました。相手からしてみると、これは怖いと思いますよ。王者の風格というのは、こういうところに出るんだと思います。
Posted by はねもね at 2007年10月24日 22:41
 
※半角英数字のみのコメントは投稿できません。