2010年08月10日
人、それを自由と呼ぶ
三年前の記事を紹介します。

俳優の石立鉄男さんが亡くなった。主演ドラマの印象をいうと70年、TBSで
放映された『おくさまは18歳』も鮮烈だったけれど、やっぱり日テレで71年
『おひかえあそばせ』からスタートしたユニオン映画ものだ。
『おひかえあそばせ』(71年)、『気になる嫁さん』(71年)、『パパと
呼ばないで』(72、73年)、『雑居時代』(73年)、『水もれ甲介』(74年)
『おふくろさん』(75年)、『気まぐれ天使』(76年)、『気まぐれ本格派』
(77年)。このうち『おふくろさん』以外の全作品にユニオン映画がかか
わっている。
あらためて振り返ってみると、このシリーズには圧倒的な影響を受けた。
いや、たぶん僕の人生で「フリーランス」というものを、初めて具体的に
見せてくれたのは石立鉄男だ。シリーズ第1作の『おひかえあそばせ』を僕
は小学校6年で見たことになるけれど、そこで石立鉄男が演じたフリーカメラ
マン像にすっかりやられて今、こんな具合にフリーライターをやっている
のかも知れない。
石立鉄男はとてつもなくフリーに見えた。当時の言い方でいうとドロップ
アウトか。サラリーマン社会からハミ出して、勝手気ままにアフロヘアーで
生きていた。又、カメラマンコートみたいなやつを着てるんだよ。ポケットの
いっぱいついた社会派っぽいやつ。それで『おひかえあそばせ』の最終回は
アフリカへ写真撮りに旅立っていく。
芸名に「石」と「鉄」ってゴツゴツしたものが並んでるだけあって、アフロ
のくせに硬派っていうのが当たり役だった。第1作から基本的に「身近な女ど
もと戦う」構図だ。恋心を抱いていても、面と向かってはやり合ってばかり
いる。目をパチクリしたりして、大袈裟に驚いたりするコミカルな芝居が
ハマッていた。キャラクター設定としては、70年代だけあって、義理人情に
厚かったり、弱い者をムキになって守ろうとするやさしさがあったりアフロ
義理人情、アフロやさしさだったんじゃないだろうか。
最高に魅力的だった石立鉄男のフリーな感じは、その後、大映テレビ(TBS
放映)のドラマツルギーのなかで急速にしぼんでしまう。僕は当時、「赤い
シリーズ」やなんかを見て、石立鉄男は間違ってるんじゃないかと本気で
心配した。大映テレビのドラマは、基本的に「人間っていうのは運命に
よってがんじがらめにされてますよ」という発想だ。その悲劇性を大仰に
描いて、あんまりだというので逆に人気になった。一体、どこにアフロの
フリーな人間が生きる余地がある。石立鉄男はもう一度、カメラマンコート
やサファリジャケットを着ろ、運命みたいな他人任せの人生からフリーに
なれと念じた。
まぁ、念じる一方でそろそろ自分自身が若者になっていて、こっちもフリーな
かんじで頑張るのにせいいっぱいで、石立鉄男のことはお留守になっていた
というか忘れていたと言った方がいい。お留守になりながら石立鉄男は何故
失速したのか、というテーマを棚上げにしていた。
今なら一定の答えが出せる。本当かどうか、本人に直接尋ねたわけじゃない
から知りませんよ。僕はあきたんだと思う。アフロ硬派みたいな主人公の
設定が徐々に時代と合わなくなったとか、シリーズが回を重ねて視聴者離れ
が起きたとか、色々説明はつくと思うけれど、僕はあきたんだと思う。
それはヒット作のシリーズをつかんだ人間だけが特権的に思えることだ。
あきた。たぶん、もういいやと思った。
昔、ナンシー関と石立鉄男の話をしたことがある。ナンちゃんは石立鉄男ほど
素の部分がヴェールに包まれてる役者も珍しいと言った。女性週刊誌が山口
百恵との関係を疑った記事のことを引き合いに出して、「あれはホントに
珍しいことなんだよ」と言った。インタビュー番組、バラエティー番組にも
滅多に顔を出さない。アフロ硬派の気さくなイメージからすると意外なほど
壁を作って暮らしている。
何かどうも趣味的な生き方をしている人らしいと知ったときは、仰天するほ
ど老け込んだルックスに変わっていた。ギャンブルや将棋、麻雀といった
事柄に只事ではないほど打ち込んでいたというのは今回、亡くなってからも
報じられた。
僕は石立鉄男という風が吹き去って、あのフリーなかんじの夢はどこへ行っ
たもんかなぁと思うのだ。僕の考えをいうと78年『少年サンデー』で連載が
開始された『うる星やつら』の諸星あたるとは、石立鉄男の流れをくむキャ
ラクターだ。高橋留美子の才能によって、カオス的なスラップスティック
小宇宙のなかに石立鉄男は再生していたのかも知れないと思っている。
テレビアニメという意味では、押井守も石立鉄男を疾走させるままにした。
石立鉄男のラブコメ性は実は広範囲にDNAを残してるのじゃないか。
と、ここまで猛烈な勢いで書いて、ふと考えると、『パパと呼ばないで』の
右京は石油会社の営業マン、『気まぐれ天使』の忍は下着メーカー勤務であっ
たことに思い至った。別に石立鉄男はドロップアウトばかりしてたわけじゃ
なかった。アフロでスーツを着て、ちゃんと通勤だってしていた。もしかす
るとだが、アフロが重大なアイテムだったのか。それを思うと人生で一度も
アフロに挑戦してこなかった自分を恥じる。劇中の石立鉄男のように明朗な
アフロで突っ走れば、フリーだろうとリーマンだろうと別に気にすることは
なかったのか。
じゃ、それを自由と呼ぶことにしよう。自由の輝き。石立鉄男が10代の僕に
見せてくれたもの、そういうものだ。
一面識も得る機会がなかったけれど、謹んでご冥福を祈ります。僕はあなた
の大ファンでした。
(えのきどいちろう「NAVI」August, 2007)
俳優の石立鉄男さんが亡くなった。主演ドラマの印象をいうと70年、TBSで
放映された『おくさまは18歳』も鮮烈だったけれど、やっぱり日テレで71年
『おひかえあそばせ』からスタートしたユニオン映画ものだ。
『おひかえあそばせ』(71年)、『気になる嫁さん』(71年)、『パパと
呼ばないで』(72、73年)、『雑居時代』(73年)、『水もれ甲介』(74年)
『おふくろさん』(75年)、『気まぐれ天使』(76年)、『気まぐれ本格派』
(77年)。このうち『おふくろさん』以外の全作品にユニオン映画がかか
わっている。
あらためて振り返ってみると、このシリーズには圧倒的な影響を受けた。
いや、たぶん僕の人生で「フリーランス」というものを、初めて具体的に
見せてくれたのは石立鉄男だ。シリーズ第1作の『おひかえあそばせ』を僕
は小学校6年で見たことになるけれど、そこで石立鉄男が演じたフリーカメラ
マン像にすっかりやられて今、こんな具合にフリーライターをやっている
のかも知れない。
石立鉄男はとてつもなくフリーに見えた。当時の言い方でいうとドロップ
アウトか。サラリーマン社会からハミ出して、勝手気ままにアフロヘアーで
生きていた。又、カメラマンコートみたいなやつを着てるんだよ。ポケットの
いっぱいついた社会派っぽいやつ。それで『おひかえあそばせ』の最終回は
アフリカへ写真撮りに旅立っていく。
芸名に「石」と「鉄」ってゴツゴツしたものが並んでるだけあって、アフロ
のくせに硬派っていうのが当たり役だった。第1作から基本的に「身近な女ど
もと戦う」構図だ。恋心を抱いていても、面と向かってはやり合ってばかり
いる。目をパチクリしたりして、大袈裟に驚いたりするコミカルな芝居が
ハマッていた。キャラクター設定としては、70年代だけあって、義理人情に
厚かったり、弱い者をムキになって守ろうとするやさしさがあったりアフロ
義理人情、アフロやさしさだったんじゃないだろうか。
最高に魅力的だった石立鉄男のフリーな感じは、その後、大映テレビ(TBS
放映)のドラマツルギーのなかで急速にしぼんでしまう。僕は当時、「赤い
シリーズ」やなんかを見て、石立鉄男は間違ってるんじゃないかと本気で
心配した。大映テレビのドラマは、基本的に「人間っていうのは運命に
よってがんじがらめにされてますよ」という発想だ。その悲劇性を大仰に
描いて、あんまりだというので逆に人気になった。一体、どこにアフロの
フリーな人間が生きる余地がある。石立鉄男はもう一度、カメラマンコート
やサファリジャケットを着ろ、運命みたいな他人任せの人生からフリーに
なれと念じた。
まぁ、念じる一方でそろそろ自分自身が若者になっていて、こっちもフリーな
かんじで頑張るのにせいいっぱいで、石立鉄男のことはお留守になっていた
というか忘れていたと言った方がいい。お留守になりながら石立鉄男は何故
失速したのか、というテーマを棚上げにしていた。
今なら一定の答えが出せる。本当かどうか、本人に直接尋ねたわけじゃない
から知りませんよ。僕はあきたんだと思う。アフロ硬派みたいな主人公の
設定が徐々に時代と合わなくなったとか、シリーズが回を重ねて視聴者離れ
が起きたとか、色々説明はつくと思うけれど、僕はあきたんだと思う。
それはヒット作のシリーズをつかんだ人間だけが特権的に思えることだ。
あきた。たぶん、もういいやと思った。
昔、ナンシー関と石立鉄男の話をしたことがある。ナンちゃんは石立鉄男ほど
素の部分がヴェールに包まれてる役者も珍しいと言った。女性週刊誌が山口
百恵との関係を疑った記事のことを引き合いに出して、「あれはホントに
珍しいことなんだよ」と言った。インタビュー番組、バラエティー番組にも
滅多に顔を出さない。アフロ硬派の気さくなイメージからすると意外なほど
壁を作って暮らしている。
何かどうも趣味的な生き方をしている人らしいと知ったときは、仰天するほ
ど老け込んだルックスに変わっていた。ギャンブルや将棋、麻雀といった
事柄に只事ではないほど打ち込んでいたというのは今回、亡くなってからも
報じられた。
僕は石立鉄男という風が吹き去って、あのフリーなかんじの夢はどこへ行っ
たもんかなぁと思うのだ。僕の考えをいうと78年『少年サンデー』で連載が
開始された『うる星やつら』の諸星あたるとは、石立鉄男の流れをくむキャ
ラクターだ。高橋留美子の才能によって、カオス的なスラップスティック
小宇宙のなかに石立鉄男は再生していたのかも知れないと思っている。
テレビアニメという意味では、押井守も石立鉄男を疾走させるままにした。
石立鉄男のラブコメ性は実は広範囲にDNAを残してるのじゃないか。
と、ここまで猛烈な勢いで書いて、ふと考えると、『パパと呼ばないで』の
右京は石油会社の営業マン、『気まぐれ天使』の忍は下着メーカー勤務であっ
たことに思い至った。別に石立鉄男はドロップアウトばかりしてたわけじゃ
なかった。アフロでスーツを着て、ちゃんと通勤だってしていた。もしかす
るとだが、アフロが重大なアイテムだったのか。それを思うと人生で一度も
アフロに挑戦してこなかった自分を恥じる。劇中の石立鉄男のように明朗な
アフロで突っ走れば、フリーだろうとリーマンだろうと別に気にすることは
なかったのか。
じゃ、それを自由と呼ぶことにしよう。自由の輝き。石立鉄男が10代の僕に
見せてくれたもの、そういうものだ。
一面識も得る機会がなかったけれど、謹んでご冥福を祈ります。僕はあなた
の大ファンでした。
(えのきどいちろう「NAVI」August, 2007)
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この記事へのコメント
いろんな方がいろんな感じ方を受ける、そんな気がしますね。私にとって鉄ちゃんとは「永遠の謎」ですね。作品の中で生きる鉄ちゃんはその作品の中の役でしかなく本当の鉄ちゃんではない(当たり前だけど)だけど役のままの鉄ちゃんでいてほしいと錯覚してしまう。素を感じさせない徹底的な生き方はここから先は立入禁止の様な壁を作っているかのようでちょっと寂しい。しかし今となっては逆にそこに魅了されているのかも知れない。そんな謎多しアクターに探究心は増すばかりだ。
Posted by ジミー大野 at 2010年08月10日 00:33
俺はアフロだったぞー!(笑)
えのきどいちろうさんお名前は存じ上げてましたが著書は拝見した事は無くって…。
私よりちょっと先輩ですが、鉄兄キの影響を受けたんですね。
えのきど氏と同じような想いも有りました。初老の姿を見た時のショックは相当でした(笑)
大映ドラマを観たときも、「チャンネルが変われば大好きな大場十一が消えてしまった…」って思ってました。それが役者のスキルだとは考え無かった。
「石立鉄男」を語るに、諸説有って然るべきですが、自身とキャラクターのギャップや私生活の「謎」の部分は興味を惹かれる所ですね。
ただ、人それぞれの「石立鉄男」は今でもその人の胸に作品と伴に生きています。
私の「石立鉄男」はまだまだ絶好調に走り回ってます(笑)皆さんの鉄ちゃんはどうですか?
えのきどいちろうさんお名前は存じ上げてましたが著書は拝見した事は無くって…。
私よりちょっと先輩ですが、鉄兄キの影響を受けたんですね。
えのきど氏と同じような想いも有りました。初老の姿を見た時のショックは相当でした(笑)
大映ドラマを観たときも、「チャンネルが変われば大好きな大場十一が消えてしまった…」って思ってました。それが役者のスキルだとは考え無かった。
「石立鉄男」を語るに、諸説有って然るべきですが、自身とキャラクターのギャップや私生活の「謎」の部分は興味を惹かれる所ですね。
ただ、人それぞれの「石立鉄男」は今でもその人の胸に作品と伴に生きています。
私の「石立鉄男」はまだまだ絶好調に走り回ってます(笑)皆さんの鉄ちゃんはどうですか?
Posted by 夕凪のひとり at 2010年08月10日 01:43
「山の風景は、見る角度によって全然別に見えるって言うからな」
「あなたが見てるのは、どっちの角度?」
十一と夏代の会話を思い出してしまいました。それぞれの思いの中で、それぞれの
鉄ちゃんが見えているのでしょう。そういう見方を許してしまう謎に、人は惹き付け
られるもしれませんね。
「あなたが見てるのは、どっちの角度?」
十一と夏代の会話を思い出してしまいました。それぞれの思いの中で、それぞれの
鉄ちゃんが見えているのでしょう。そういう見方を許してしまう謎に、人は惹き付け
られるもしれませんね。
Posted by tetsumania at 2010年08月10日 23:56

