October 30, 2006

海瀬京子 ピアノサロンコンサート(10/28)

フォーレ:夜想曲第6番 変ニ長調 0p.63
ドビュッシー:ベルガマスク組曲より「月の光」
ラヴェル:夜のガスパール
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 0p.60
ラフマニノフ:楽興の時 0p.16
ラフマニノフ:エチュード「音の絵」変ホ短調Op.33-6(アンコール)
ドビュッシー:映像第2集より「葉ずえを渡る鐘の音」(アンコール)
於:ヤマハ銀座店2階コンサートサロン

海瀬さんが日本音コンで1位を取ってから、ちょうど1年が過ぎた。早いような、まだ1年ともいえるような月日である。

毎回、真摯にひとつのテーマに取り組んでいることが、演奏からよく伝わってくる。フランスの作曲家たちの作品に「響き」の精度を捜し求める前半の演奏は、海瀬さんが歩んできた着実で驕りのない道をあたたかく照らし出している。

一転、後半のショパンやラフマニノフでは、構成をよく捉えながら、深い響きで隅々まで歌に満ちた演奏を繰り広げる。特に、楽興の時第1番での、ロシアの大雪原が眼前に広がるような深い慟哭は、この上なく素晴らしく、胸がいっぱいになった。

こういうピアニストが10年後、20年後の音楽を支えてくれるなら、心から心へ伝わる音楽の世界も安泰だ。
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October 27, 2006

ダン・タイ・ソン ピアノリサイタル(10/26)

この秋2回目のダン・タイ・ソンを聴く。このピアニストが奏でる音楽のあたたかみをどう表現したらよいのだろう。

チャイコフスキーでは、無理のない姿勢と打鍵からフレーズに自由な慣性を持たせ、それをフレーズの終わりでしなやかに回収していく。

ショパンは、バラード4曲の相関関係を確かに捉え、ひとつのドラマのように描き出す。響きの中に響きを作り、構造の中に構造を位置付け、音楽の中に音楽を羽ばたかせる。

このレベルの芸術家だけがたどりつく自己表現には、どこかしら胸が締め付けられるようなせつなさが漂う。それは、作曲家が作品に込めた、生きるということの壮絶な凄みが、超一流の表現だからこそ生々しく表出してしまうから。けれど、せつなさの向こう側にある美しいものへの信頼が、ダン・タイ・ソンのピアノからは強く感じられる。信頼するということ、信頼を諦めないということ。人が音楽に向かうことの根源的な部分について、深く、そして優しい眼差しで導いてくれる、稀有な芸術家の最高のコンサートだった。

チャイコフスキー:四季 Op.37bis
ショパン:バラード第1番ト短調Op.23
ショパン:バラード第2番ヘ長調Op.38
ショパン:バラード第3番変イ長調Op.47
ショパン:バラード第4番ヘ短調Op.52
チャイコフスキー:少しショパン風に Op.72-15(アンコール)
ショパン:前奏曲第24番ニ短調 Op.28-24(アンコール)
於:東京文化会館大ホール
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October 25, 2006

崎谷明弘くんのリサイタル続報

11月6日(月)に神戸新聞松方ホールで行われる、僕の応援する高校生ピアニスト、崎谷明弘君のピアノリサイタルの曲目が決まった。

J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻より第14番嬰へ短調BWV.883
シューマン:森の情景 作品82
リスト:巡礼の年第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」より“タランテラ”
モーツァルト:ピアノソナタ第8番イ短調 K.310
スクリャービン:24の前奏曲Op.11より、第5番ニ長調、第13番変ト短調、第22番ト短調
リスト:巡礼の年第1年「スイス」より“オーベルマンの谷”
デュティーユ:ピアノソナタより第3楽章「コラールと変奏」

僕のおすすめを言わせてもらえば、全部である。

これではおすすめにならないので、あえて絞ると、デュティーユが絶品だ。かのジャック・ルヴィエが、「彼のデュティーユは素晴らしい」と語っていた。このソナタを、このレベルに弾くことができるのは、日本中のプロのピアニストをかき集めても崎谷君だけだろう。

最近の彼の音楽の深化には驚くべきものがある。昔の彼のドラマティックな演奏を知る人には、ともすれば、彼が情熱を失ってしまったように見えるかもしれない。けれど、それは違う。

「以前は個性的であろうとしたけれど、今は、自分自身をちゃんと表現していくことで、自然と個性的になることがわかってきた」彼はそう語ったという。高校生ピアニストの成長を応援する者として、これほど嬉しい言葉がほかにあるだろうか?

崎谷君は今、真の個性を探している。その過程を一緒に追体験することができるのは、なんと幸せなことだろう。

11月6日がますます楽しみになってきた。



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October 21, 2006

シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル(10/21)


音楽に近すぎる場所にいると、自分がなぜ音楽の傍らに立っていたいのか見失って、足元の覚束ない無重力の状態に陥ることがある。演奏に直接携わるわけではない僕でさえそうなのだから、演奏に取り組んでいる人たちの心持ちは、推して知るべしである。

カツァリスの演奏にも、かつてそんな浮遊感を感じることがあった。生まれ出る音楽に対して、自分がどのようなスタンスでいればよいのか、心がホールの空間を彷徨い、行き場をなくしていた。

けれど、今日、カツァリスの音楽は、この上なく深い慈愛に満ちて、幸福な光に包まれていた。
シューベルトの語りかけるような歌、ハイドンやL.モーツァルトのユーモア、ショパンのロマンティシズム、バッハの精巧な多声処理。
そして、音の創造を聴き手と共に心から楽しむ、宝石箱のようなアンコールの小品たち。

音楽のそばに寄り添うのは、悩むためじゃない。幸福でありたいから。
カツァリスのピアノは、当たり前の、けれど忘れがちなこのことを、微笑みとともに心の中に取り戻させてくれる。


シューベルト:「3つの小品」D.946より第1番変ホ短調、第2番変ホ長調
シューベルト=リスト編:「セレナーデ」「水車屋と小川」「アヴェ・マリア」
ハイドン:ピアノソナタ ハ長調Hob.XVI/35
L.モーツァルト=キャメロン編:おもちゃの交響曲
リスト=カツァリス編:「2つのチャールダーシュ」より第2曲“チャールダーシュ・オプスティネ”
ショパン:ワルツ イ短調Op.34-2
ショパン:前奏曲 変ニ長調Op.28-15「雨だれ」
ショパン:ノクターン 変ホ長調Op.9-2
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調(遺作)
ショパン:子守歌 変ニ長調Op.57
J.S.バッハ=カツァリス編:トッカータとフーガ ニ短調
マルチェッロ=J.S.バッハ編:オーボエ協奏曲より「アダージョ」(アンコール)
ゴットシャルク:バンジョー(アンコール)
チャイコフスキー:「四季」より“秋の歌”(アンコール)
リュリ:ガヴォット(アンコール)
ピアソラ:ワルツ(アンコール)

於:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
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October 15, 2006

ダン・タイ・ソン ピアノリサイタル(10/14)



自分という存在の小ささを感じる瞬間が、ふと訪れることがある。それは僕という人間の弱さかもしれないし、一時の気の迷いなのかもしれない。けれど、そういう俄かに訪れる怖れをまったく感じたことがないような傲慢な人とは、付き合いたくないと思う。ちっぽけな自分を感じる瞬間は、きっとすべての人に存在する。

ちっぽけなひとりの人間が描く芸術の限界。ダン・タイ・ソンは、自分のピアノについて、痛いほどそのことを感じている。自分の弱さを自覚しているし、自分の不器用さを自覚している。

けれど、ピアノの前に座ったとき、彼はその弱さから逃げない。それどころか、ちっぽけな自分でも、私にしか伝えられないことがある、という信念をひとつひとつの音に乗せていく。その、慎ましやかで優しさに満ちた態度が、聴いている僕にまで、途轍もない勇気を与えてくれる。

自分の芸術に何ができるか悩む、すべての若い音楽家たちにこそ、ダン・タイ・ソンのピアノを聴いてほしい。弱い自分を、逃げずに見つめることが生み出す美しさが、確かにある。

人間として、限りなく美しいピアニストの、とびきりあたたかい音楽が、このうえない幸せを与えてくれた。

チャイコフスキー:四季 Op.37bis
ラフマニノフ:ユモレスク ト長調 Op.10-5
ラフマニノフ:ひなぎく(Daisies) Op.38-3
ラフマニノフ:V.R.のポルカ 変イ長調
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16
チャイコフスキー:少しショパン風に Op.72-15(アンコール)
ショパン:マズルカ第14番 ト短調 Op.24-1(アンコール)
ショパン:前奏曲第24番ニ短調 Op.28-24(アンコール)
於:紀尾井ホール

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October 11, 2006

アックスのハイドン:ピアノソナタ変イ長調Hob.XVI/46


ハイドンの変イ長調のソナタを聴いている。
この時期、この時代を考えれば、革新的といえるほど意欲的な作品だが、ハイドン特有の上品な造形美も比類ない。

アックスのハイドンは、しっとりと霧雨のように辺りに美しい音色が漂い、さりげないフレーズに潤いを与えていく。何度となくもたらされる擬似的な終止の向こう側に、さらに瑞々しい旋律が広がると、ハイドンがこの時期に模索した音楽の多層的な奥深さが眼前に現れ、一歩一歩、森の中をゆっくりと彷徨い歩く旅人に似た、ある種の憂いと孤独を帯びた湿度のある心持ちに覆われる。

このソナタには、閃きと煌きが凝縮されたポゴレリチ、颯爽と野を渡る風のようなコチシュ、典雅な快活さに溢れたブラウティガムなど、数々の名演が聳え立っているが、アックスの限りない優しさが、人間くさいハイドンの本音を大切に掬い上げて、両の手のひらに溜めた水を注ぐように、僕らの前に降らせてくれる。

重力など存在しないかのように羽ばたくモーツァルトとも、重力のない自由な世界にもがきながらわれわれに纏わりついている重力の凄みを時として壮絶に感じさせるベートーヴェンとも異なり、ハイドンは重力の爽やかな心地よさを感じさせる。その心地よさが、僕らの心に何ともいえない幸せをもたらすのだろう。

[CD]
Haydn Piano Sonatas (No.29,31,34,35,49)
エマニュエル・アックス(ピアノ)
(Sony Classical SK89363)
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浜コンを控えた俊英たちを聴く(10/08)

坂本彩
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第23番ロ長調 BWV.868
ベートーヴェン:ピアノソナタ第16番ト長調op.31-1 第1楽章
メンデルスゾーン:厳格なる変奏曲 ニ短調 op.54
シューベルト:ピアノソナタ第14番イ短調 D.784
ラヴェル:道化師の朝の歌

川村友乃
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻第24番ロ短調 BWV.893
モーツァルト:ピアノソナタ第10番ハ長調 K.330
プロコフィエフ:風刺 op.17
ショパン:バラード第3番変イ長調 op.47

五島史誉
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻第13番嬰ヘ長調 BWV.882
シューベルト:即興曲 変ロ長調 D.935-3
ショパン:ピアノソナタ第2番変ロ短調 op.35
リスト:ハンガリー狂詩曲第12番嬰ハ短調

北村朋幹
ベートーヴェン:ピアノソナタ第24番嬰ヘ長調op.78「テレーゼ」
シューベルト:ピアノソナタ第7番変ホ長調 op.122
シューベルト=リスト:ウィーンの夜会(ワルツ・カプリース第6番)
シューマン:花の曲 変ニ長調 op.19

崎谷明弘
リスト:バラード第2番 ロ短調
リスト:巡礼の年第1年「スイス」より“オーベルマンの谷”
リスト:ハンガリー狂詩曲第12番嬰ハ短調

後藤正孝
リスト:孤独の中の神の祝福
ベートーヴェン:ピアノソナタ第2番イ長調op.2-2

於:ヤマハ銀座店2Fコンサートサロン

浜コンを控えた俊秀たちの熱演を聴く。崎谷明弘君の、一音一音への圧倒的な衷情が、ダントツで素晴らしく、さらに高みを目指す姿が頼もしい。北村朋幹君の細部まで磨かれた音楽は、薫り立つような感性の瑞々しさを浮き立たせる。浜コンが楽しみだ。
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October 05, 2006

酒井有彩ピアノリサイタル(12/25)のご案内

応援している高校生ピアニストの一人、酒井有彩さんのピアノリサイタル開催が決まった。

酒井さんのピアノは、「音」というものに対する鋭敏な感性を、高い集中力をもってステージ上で全開に解き放ち、誠実な音符を空間に満たしていくところに特徴がある。ある響きが生じたときの瞬発力に優れ、本能的な反射で的確に対応して次の響きに反映させる。

音楽による素敵なクリスマスプレゼント。日々成長を続ける俊秀の「今を生きる輝き」を目の当たりにしてみませんか?

詳細は、こちら
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September 27, 2006

ラフマニノフのエチュード ト短調Op.33-8


雨上がりのひんやりとした夜の風のうえに、ラフマニノフのスタインウェイの音色を乗せる。楽器自身が歌っているようにも聞こえるこの名器の響きは、遠くに微かに鳴っている秋の虫の音とさえ、きらめく和音をつくり出す。

ト短調のエチュードが、ラフマニノフのピアノ作品の中で、僕は一番好きだ。冒頭の左手に、今夜の空気のように清らかな音型があらわれるだけで、自分の体が透明になって、すべての現象と同化してゆく。あらゆるものには、きっちりと境界線が引かれているようでいて、実はその区切りのすべてが、僕の心が勝手に縁取っただけのものだと、ガラス細工のように繊細なこのエチュードが教えてくれる。

すべてのものごとが、稠密に世界を満たして、孤独などという人の言葉が描き出しただけの幻想を吹き消してゆく。ト短調のエチュードの持つそんな不思議な力を、プレトニョフのピアノが大切に大切に夜の闇に注いでゆく。

[CD]
Hommage a Rachmaninov ラフマニノフへのオマージュ
ミハイル・プレトニョフ(ピアノ)
(Deutsche Grammophon 459 634-2)
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September 25, 2006

カンポーリのアリオーソ


暑い夏が終わって、秋の気配が漂うと、僕は決まって、カンポーリを聴きたくなる。

今年の夏も、いろいろなことがあった。僕よりひとまわりも若いピアニストたちの燃えるような音楽への情熱が、僕に新たな感動を与えてくれ、さまざまな運命が、かえって心から心へダイレクトに伝わる音楽の尊さを教えてくれた。

カンポーリのアリオーソに漂う、特有の甘美な香気が、すべてを包み、許し、慰め、美しいセピア色に染めてゆく。

今年も素晴らしい夏だった。

[CD]
HOMMAGE TO FRITZ KREISLER: VIOLIN MINIATURES
アルフレッド・カンポーリ(ヴァイオリン)
和田則彦(ピアノ)
(DECCA 466 666-2)
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September 23, 2006

ブレンデルのハイドン:ピアノソナタニ長調Hob.XVI:42


薫りはじめた秋風が心地よくて空を見上げたら、その哀しいくらい澄んだ青さが目に染みて、心のなかにハイドンのこのソナタが流れ、なぜだか、亡き最愛の祖父の微笑みが浮かんだ。

僕に、優しさというものを教えてくれ、無償の愛ということを示してくれた人。夕焼けに照らされて冷たくなってゆくなきがらの横で泣き伏した日は、記憶の片隅に静かにおさめた遠い出来事に過ぎ去ったけれど、心に浮かぶ祖父の笑顔は鮮やかな色彩を帯びている。

ハイドンの描くせつなさには、遠い日の思い出を、淡く美しい陰影と強く大きな優しさで蘇らせる魔法がある。ブレンデルのハイドンは、その魔法をとても深い愛情で尊重し、音楽のもつ魔法を信じ抜いている。

僕の中に祖父は今も生きている。その奇跡の確かさを信じさせてくれる演奏。

[CD]
Josef Haydn : 3 Piano Sonatas
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
(Philips 412 228-2)
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September 11, 2006

アンティ・シーララ ピアノリサイタル(09/10)

オール・ベートーヴェン・プログラム
ヴラニツキーのバレエ『森の娘』のロシア舞曲による12の変奏曲 イ長調 WoO71
6つのバガテル op.126
ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 op.10-1
ピアノ・ソナタ第6番 ヘ長調 op.10-2
ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 op.10-3
シューマン=リスト:献呈(アンコール)
於:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール

ベートーヴェン・リーズ・ダブリン、これらすべての大コンクールで立て続けに第1位を獲得しているアンティ・シーララを聴く。

派手さはないが、心を込めてホールの静寂に解き放つベートーヴェンの清澄な構築が、クリスタルの建造物を見るような美しい感動に包まれ、「ベートーヴェンを弾く」ということに関する別格の才能を感じる。「シーララのベートーヴェン」は、「ブレハッチのショパン」と並び称されるべき才能である。
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September 10, 2006

コンクールの応援3

引き続き、コンクールの応援のために何度かホールを訪れている。

僕の応援しているピアニストたちだけが極めて音楽的で、自分が弾いたわけでも教えたわけでもないくせに、なぜか僕が鼻高々になっているが、反面、もう少しピアノの響きを大切にする参加者が他にいないものかと危機感も感じる。

ベートーヴェンの7番は、清清しさのなかに一音一音に対する丁寧なまなざしがこの上ない温かみを感じさせる。ラフマニノフのエチュードは、この作曲家が内に秘めた思いをコクのある響きで共感をもって描き出す。スクリャービンのエチュードは、夢と希望と喜びと哀しみと、すべての感情が音楽に包まれて、天高く昇ってゆく。

彼らには悪いが、ここまで素晴らしいと、結果などどうでもいい、などと勝手なことを考えてしまった。
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September 05, 2006

ペレーニのハイドン:チェロ協奏曲


前山仁美さんと話していたら、彼女のハイドン好きに話が及んだ。将来は「ハイドン弾き」になるのが夢なのだとか。彼女の演奏に聞かれる独特のあたたかみを知っているから、なんとなく理解できるような気がした。毎朝、ハイドンのチェロ協奏曲を聴いて起きるという。

ペレーニのハイドンを久しぶりに取り出して聴く。ペレーニ独特のオリエンタルな響きが上品に旋律を紡いでゆく。ハイドンの作品は、音楽に含まれるしあわせの量が、他の作曲家より少し多い。だから、しあわせを届けたいという想いを持っている人が弾かないとつまらない。

前山さんのハイドンには、しあわせを届けたいという気持ちが満ちている。天国のハイドンに愛される、しあわせなピアニストになりそうだ。

[CD]
ハイドン:チェロ協奏曲集
ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)
ヤーノシュ・ロッラ指揮フランツ・リスト室内管弦楽団
(HUNGAROTON HCD12121)
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September 03, 2006

コンクールの応援2

僕の応援する若い友人たちが、コンクールに挑戦するので、応援にむかう。

音楽に真剣に対峙する2人の演奏は、彼らよりも年上の経験豊かな学生たちの中に混ざっても、圧倒的な輝きを持って鳴っている。それがこのうえなく嬉しい。競い合うライバルであっても、お互いの音楽を認め合い、尊重しあっているのも、なかなかできないことだ。

自分の思いを気負うことなく、押し付けることなく伝えること。ピアノの響きの美しさを敬うこと。聴き手とともに音楽を作り上げること。気高い音楽を目指して、誠実に勉強を続けていることがよくわかる。

音楽だけを見つめている今の輝きを、これからも持ち続けてほしい。
Posted by katchen at 22:51  |Comments(0)TrackBack(5) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

September 02, 2006

海瀬京子ピアノリサイタル(08/27)

J.S.バッハ:イギリス組曲第2番イ短調BWV.807
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16
フォーレ:夜想曲第6番変ニ長調Op.63
ラヴェル:夜のガスパール
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ドビュッシー:「ベルガマスク組曲」より“月の光”(アンコール)
於:茂原市東部台文化会館

フォーレに聞かれるセンスの良い歌、ガスパールの描写性、ラ・ヴァルスの見事な構築。海瀬さんのひたむきなまなざしが、音楽を高貴なものにする。発展途上だが、瑞々しい才能。これからがますます楽しみだ。
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August 26, 2006

ブルショルリのモーツァルト



モニク・ドゥ・ラ・ブルショルリの録音がここのところ相次いでCD化されていることは、本当に嬉しいニュースだ。中でも、パウムガルトナーが指揮した伝説のニ短調協奏曲の発売は、ここ何年かのCD化のなかでもっとも偉大な復刻のひとつに数えたい。

僕はこの演奏のLPをさる方にお譲りいただき愛聴していたが、数年前にLPプレーヤーが故障してから、ずっと聴くことができずにいた。この偉大なコンチェルトの最高の録音をCDで容易に聴くことができることはなんとも喜ばしい。

ブルショルリのモーツァルトは、この上なくあたたかい。やわらかくて大きな愛情に包まれ、心が直接温められる。モーツァルト特有の空翔る自由な魂が感じられるわけでは決してないのだけれど、誠実に音楽をするということがどんなことなのか、この演奏の一音一音が教えてくれる。

余談だが、先日のコンクールで、前山仁美さんが、この作品を、これ以上ないくらい心を込めて、あたたかく奏でてくれた。コンクールのファイナルで、ラフマニノフ、グリーグなど大曲が並ぶなか、きちんと自分の思いをモーツァルトに込められる成長をとても嬉しく聴かせていただいた。今後の活躍を楽しみにしたい。

[CD]
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 他
Monique de la Bruchollerie Vol.1
モニク・ドゥ・ラ・ブルショルリ(ピアノ)
(DOREMI DHR 7842/3)
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August 25, 2006

アンデルジェフスキのフランス組曲


コンクールの会場で、課題曲になっていたフランス組曲第5番のアルマンドを何十回も聴き、何度聴いても失われないバッハの音楽の煌きを改めて知った。

この曲を聴いていると、心の中に抜けるような夏の青空が一気に広がって、日々の細々とした悩みなどなんと小さなものだろうと、心の襞の塵がすべて洗い流される。夢を追うことの輝き、人を想うことの美しさ、音を感じることの幸せ。バッハはいつでも、遠い国の、遠い時代の音楽なのに、どんな作品よりも心の近くに寄り添う。

アンデルジェフスキのバッハは、非常に個性的で天才的な表現に彩られながら、同時に心にまっすぐ染み込んでくる真摯でオーソドックスな親しみやすさも持ち合わせている。それは何より、彼がバッハを心から愛し、フレーズを愛しむように奏でているから。大胆でありながら、傲慢さの欠片もなく、彼にとってバッハは何より近しい存在なのだろうということが容易に理解できる。

現代バッハ演奏の最高峰。

[CD]
J.S.バッハ:フランス組曲第5番、フランス風序曲
ピョートル・アンデルジェフスキ(ピアノ)
(harmonia mundi HMN911679)
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August 20, 2006

DOMUSのブラームス:ピアノ四重奏曲第1番


理由はわからないけれど、突然この曲の終楽章が頭の中に鳴り響いて、DOMUSを取り出す。ギレリス=アマデウスやルービンシュタイン=グァルネリも素晴らしいけれど、一音一音を丁寧に音楽を作っているこの常設のカルテットの演奏が一番好きだ。

ブラームスならではのロマンティックな音の奔流を、その情熱を大切にしながらも、よく整理された響きで清潔に鳴らしてゆく。音楽のテンションが上下するときに、それぞれの声部がどんな役割を果たせばよいかをよく理解した演奏で、これぞ室内楽の醍醐味。

それにしても、この曲は、心に響く、心に届くというレベルではなくて、作曲者の心、演奏者の心、そして聴いている僕の心そのものが、目まぐるしく突き動かされ、振り回されることをはっきりと感じ取ることができるほどに情熱的だ。人間の感情の尊さを、音符一つ一つに乗せて伝えてくれる。ブラームスの音楽には、どこまでも人間くさい親しみが薫っている。

[CD]
ブラームス:ピアノ四重奏曲全集
DOMUS
(Virgin 7243 5 61615 8)
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August 15, 2006

カントロフ&ルヴィエのルクー


久々にフランスのヴァイオリンソナタ集を聴く。ルクーのヴァイオリンソナタは、何度聴いても胸が締め付けられるような傑作だ。甲乙つけがたいグリュミオーの新旧両盤、天才的な煌きを聴かせてくれるフェラスもいいが、今日は、昼間にルヴィエ先生関係の仕事をしていたこともあり、カントロフ&ルヴィエのデュオで聴く。

カントロフのヴァイオリンは、艶やかな中に少しエキゾチックな響きを織り交ぜて、繊細な情緒を濃く歌い込む。少し音程を広めに取って、音楽の即興的な揺らぎを実に洒脱に表現していくのに、いざというところですっと音程を収束させて、鋭く決めてみせると、そこにルヴィエのピアノも知らぬ間にぴったり寄り添ってきて、世界にひとつしかない「カントロフ&ルヴィエ」という最高の楽器が鳴る。

ふたつの知性、ふたつの魂。それが無理矢理合わせるでもなく、自然に溶け合い、最高の尊敬を示しあいながら、ひとつの楽器になる。これ以上のデュオはなかなか見つからない。

[CD]
フランス・ヴァイオリン・ソナタ選
ジャン=ジャック・カントロフ(ヴァイオリン)
ジャック・ルヴィエ(ピアノ)
(DENON COCO-80543)


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