July 20, 2006
鯛中卓也ピアノリサイタル(07/19)

仕事の予定とうまくかみ合ったのがまさしく僥倖。鯛中卓也くんのコンサートを聞いてきた。スカルラッティ、ベートーヴェン、ショパン、スクリャービンと、各時代の繊細で上質な情感の結晶を集めた、素晴らしいプログラムである。
彼の演奏は、1年前から何度か聴いているが、その成長には驚くばかり。同門の崎谷明弘くんが「音の職人」と評した知的で緻密な音楽は以前から評価の高いところだが、そこに、自分だけの音楽を、情熱と感動をもって、聴いている人に伝えたいという、表現者としての「意志」が加わった。
冒頭のスカルラッティから、類まれなる耳の良さを発揮し、和音のバランス、フレーズの長短、響きの拡散を精妙に調節して決定していく。時折、ぞくぞくするような美音を引き出し、聴き手を幸せに導く。ベートーヴェンは、颯爽とした表現のなかに爽やかな叙情が香る。このソナタを選ぶところが彼らしい。
ショパンの舟歌は、はったりのない真っ向勝負。鯛中くんの音楽は、いつも、正攻法のオーソドックスなアプローチで作品の偉大さに真摯に敬意を表していく。これは、簡単なようでいて、プロにもなかなかできることではない。作品の威容を踏みにじるような駄演が世間に溢れるなか、彼の演奏にはまったくそんな心配がない。
スクリャービンのエチュードは、滾る情熱を解放し、高度な技巧を超えて、自らの思いを熱く歌い上げる。その思いの強さに、聴いているこちらの心が激しく揺さぶられる。
続く4番ソナタはコンサート中最高の出来で、圧倒的ともいえる素晴らしさ。この作品を弾かせたら、日本の高校生では今、彼が一番上手いだろう。
アンコールの最後は、プログラムに共通した憧れや夢を締めくくる「トロイメライ」。しっとりと甘い美音で清潔に歌い上げた音楽には、一音一音に、聴衆への感謝が満ちていた。
立錐の余地もない超満員の会場に、鯛中くんの「今」の精一杯の音楽が満たされ、それを応援してきた皆さんがあたたかく見守る、涙が出るほど感動的なリサイタルだった。ご家族、先生方に心からお祝いを申し上げ、彼の輝かしい未来を祈りたい。
D.スカルラッティ:4つのソナタ
(ニ長調K.478、イ長調K.101、ロ短調K.87、ロ短調K.27)
ベートーヴェン:ピアノソナタ第27番ホ短調op.90
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調op.60
スクリャービン:2つのエチュード
(嬰ヘ長調 op.42-4、嬰ハ短調 op.42-5)
スクリャービン:ピアノソナタ第4番嬰ヘ長調op.30
ショパン:エチュードホ短調op.25-5(アンコール)
シューマン:トロイメライ(アンコール)
この記事へのトラックバックURL
http://blogs.dion.ne.jp/katchen/tb.cgi/3801542
※半角英数字のみのトラックバックは受信されません。

