2008年05月02日
人権と手紙
■ アメリカ独立宣言もフランス人権宣言も、人は生まれながら譲り渡すことのできない権利、つまり自然権を持つことを「自明の真理」であるとしています。しかし、現在でさえ、自然権という観念に対しては根深い懐疑があります。ましてや、200年以上前のアメリカやフランスに生きた人々のあいだにおいて、自然権の観念が自明視されていたとは、にわかに信じられません。しかし、独立宣言や人権宣言を起草した人々は、それでも自然権の観念は自明であると考えました。それはなぜか。フランス革命史の専門家Lynn Huntは、Inventing Human Rights(2007)において、社会文化史の観点から一つの見方を示しました。Huntは、18世紀、ヨーロッパにおいて、書簡スタイルの小説が次々と大ベストセラーになったことに注目します。当時のイギリス、フランスの人々は、たとえば、サミュエル・リチャードソンの『パメラ』に熱狂し、主人公の女性の悲劇的な人生に涙を流したといいます。どの小説もとても分厚い。オックスフォードから出ているペーパーバックは、なんと592頁!当時のヨーロッパの人々は、主人公の内面が語られる書簡を読むことにより、他人もまた自分と同じように、喜び、哀しみ、悩み、苦しむ存在であることに気がつくのです。言いかえれば、彼らは、他者の「内心」を発見したのです。この発見は、人間を苦しめ、痛めつける拷問や残虐な刑罰の非人間性に人々に気づかせることになります。他者の内心の発見は、人権の観念を自明とする感覚を育む社会的な苗床だったといってよいでしょう。これは、いまの私たちにもいえることです。
■ 人権にとって大切なことは、他人を「心」ある存在として尊重し、他人の「心」の痛みに敏感になることだと私は思っています。明日は憲法記念日。


