August 01, 2008

運慶876/彼の野球

 今年の全国高校野球選手権は90回の記念大会であり、出場校も北海道、東京都に加えて、千葉、埼玉、神奈川、愛知、大阪、兵庫の6府県が二校枠となり、総勢55校が日本一を争う。

 俺はここ10年ほど「高校野球」に関して否定的な立場を取ってきた。しかし、今日は「身内ネタ」で久しぶりに高校野球を応援しようと思う(感情に支配されやすい「運慶」です:苦笑)。

 そもそも俺は甲子園(高校野球)の大ファンだった。小学生の頃は「普通の中学、高校の野球部に入って、ミラクルを起こし甲子園へ行く」が夢だった。毎年テレビの前に長時間座り、高校野球を見つめていた。否定的になったのは、スポーツを真剣に考え出してからだ。理由は5つある。

第一に「過酷さをドラマ化し、怪我や故障で野球を断念してゆく若者が続出することに高野連が抜本的な改革案を示さないこと」。

第ニに「新聞社の興行として、メディア会社の販売促進に組み込まれていること」。

第三に「クラブスポーツの発展を遅らせる学校体育(部活動)の中心のひとつに据えられていること」。

第四に「行き過ぎ感のある、体育会系のタテ社会(先輩後輩の序列)、連帯責任、猛特訓などの美化(多くの学校で改善されつつあると聞くが)」。

第五に「プロ、アマの垣根を打破することのできない片方の巨大勢力となり、金や待遇、進路などに関する様々な暗部を生み出していること」。それらがリンクし、地域に根ざし誰もが生涯スポーツを続けてゆく環境整備を遅らせる「要因」になっていると思う・・・。

でも、今日は高校野球の素晴らしいことについて書く。

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 俺の従兄弟、川村靖は神奈川県立藤沢西高校の教師であり野球部の監督だ。静岡県立富士高校で甲子園に出場し、投手として高知高校との延長戦試合を投げきり敗れた。もう30年近く昔のことである。その後、彼は横浜国大に進み野球を続け、教員免許をとり神奈川県の高校に赴任した。そして、当然野球部の監督になった。「野球をやり甲子園へゆく。卒業し再び監督として甲子園を目指す」小さな頃からぼんやりと考えていた彼の夢だった。彼が歩んでいる道程に、なんの特別もない。いつも普通の学校へ進み、普通の野球部に入り、普通に練習し、普通に戦う。そして、今年南神奈川大会で準決勝まで進み強豪・横浜高校に敗れた。「もう一度、監督として生徒と一緒に甲子園へゆく」。教師になって20数年ずっと野球部の監督を続け、やっと「もう一歩で甲子園」というところまで辿り着いた。


 「普通」ほど難しいものはないと思う。高校生の頃まで、俺と彼は大阪と静岡に離れた従兄弟だったがよく遊んだ。中学でも、高校でも、野球部の彼は一年に数日しかない休みを利用して大阪に遊びにきた。俺が静岡へ行っても、朝練があれば出かけてゆく。彼が大阪に来たらプロ野球や甲子園大会を見に行った。静岡に行っては、一緒にキャッチボールをした。そして彼は来る日も、来る日も練習を重ね、ひとつひとつできることを考えた。特別な才能を持つスーパーマンは誰もいなかった。でも、彼が高校三年生の時、彼らは普通のまま静岡の強豪、古豪の高校を破り、甲子園へやってきた。毎日一歩ずつ進み、甲子園へやってきた。大学生だった俺は、その応援のため原チャリで甲子園に向かう途中、素直に「すごいな」と思った。そして、毎日一歩ずつ進んでいない自分のことを考えて、原チャリを走らせながら泣いてしまった。


 「毎日一歩ずつ」がないことも普通である。それを恥じることもないし、焦ることもない。でも、好きなことや目標と思えるものができたときに、その気持ちを持続して仲間たちと出会い「毎日一歩ずつ」を「普通」にすることができたらいいと思う。やがて明確な目標が芽生え、そこへ向かう勇気が日常となる。その日常を後で振り返ると、「甲子園に出場する」よりも「その勇気を持って、それを目指した」こと自体が貴重な経験となるのではないか。

 多くのメディア(俺も含め)はいちいちそんなことにフォーカスを当ててはいられない。特別な選手、特別な学校、特別な試合を多く取り上げる。また、そこに特別な問題も発生する。そこを切り取って批判することもジャーナリズムとしては大切だと思う。しかし、「特別」な実力や才能があり、そこへ一歩でも近づこう、打ち破ろうとする多くの「普通」が貴重な時間を積み上げていることも事実であろう。そして、その姿に触れた時「いいな」と思う。


 何十年もの永きに渡り忘れられない選手や試合を生み出してきた甲子園大会。その歴史は偉大なものである。しかし、そこを目指した多くの選手たちやそのご両親、ご家族、友だち、毎日一歩ずつを普通にしてきた生活に、甲子園大会という突出した高校部活動のイベントの価値が存在していることを忘れてはいけない。

 川村靖が監督を務める藤沢西高校の記事を調べていたらこんな記事もあった。川村靖は、それも「マスコミはなんでもドラマにしたがる」と言う。そうだね、「普通」のことなのだ。

 実は俺は藤沢西高校の活躍を今朝知った。1週間前に「南神奈川大会・準決勝」は終わっていた。俺は申し訳なく思い、朝7時前に川村靖に電話をした。「朝早くからごめん、俺、藤沢西の奮闘を今朝まで知らなかった。がんばったんやな、惜しかったな」というと、彼は「ありがとう。今から練習です来年に向けて。いいチームです」と電話の向こうで明るく答えた。

 明日から全国高校野球「夏の甲子園」がはじまる。

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この記事へのコメント
これが仕事なんかもしらんけど、毎回毎回いい文章かくなぁ。
Posted by やました かずひさ at August 01, 2008 23:30
やました様
コメントとお褒めの言葉ありがとう。
うれしいです。
Posted by SPORTS運慶 at August 02, 2008 11:25
文章読ませてもらいました。
わたしは4年前に藤沢西を卒業、2年生のときは川村先生が担任でした。
野球のことしか頭にないけれど(笑)毎週黒板のはじっこに先生のすきな、そしてわたしたちに読んでもらいたいという気持ちのこもった詩を書いてくれます。今でも印象に残ってるものが、誰の詩かわかりませんが、

『人生最後の晴れ舞台。咲かせてみせよう勝利の花』

です。(合ってるかな。。)
時折、教師のくせに下ネタを言うときもありましたが(笑)生徒からは「やっさん」の愛称で親しまれていたように思います。

今年は4回戦、準々決勝を観に行き、
「今年はバランスのいいチームだ」と語っていました。

卒業して4年たって、湘南の田舎の公立高校が少しでも甲子園に近づくことができた夏でした。高校野球ファンにいい夢を見させてくれた、川村先生・野球部に感謝です。
Posted by 22歳大学生 at August 07, 2008 14:36
22歳大学生さま
コメントありがとうございます。
川村靖先生の元生徒さんから
コメントもらえるなんて、俺は感激です。

彼がいい先生か、どうか俺は知らないが、
彼が小さいときから変わることなく
「いいやつだ」と思えるのは、
自分の立場や肩書きを利用して
威張ったり、押し付けたり、他人の人格を傷つけたり、そういうことの一切ない人間でした。

いま、俺の娘が20才の大学生で、藤沢に下宿しています。たまたま(ほんと偶然)藤沢西高校の近所で、「やっさん」とも一年に何回か会えるようになりました!娘に感謝です。
それから、俺は波乗りをずっとやっていて、湘南は大好きな町です(波ない時多いけど、人も多過ぎだけど:笑)でも環境が素敵です!町を愛して、自分を愛して、元気でね!ありがとう。
Posted by SPORTS運慶 at August 07, 2008 17:18
運慶様、こんばんは

私は藤沢西高校卒業生で、2,3年の時、川村先生が担任の先生でした。
まさか川村先生の従兄弟の方の文章を読めるなんてインターネットって便利なものですね。
今回コメントしようとおもったことにはわけがあります。先生が私の命の恩人ということです。
私はうつ病を患い、大好きだった仕事を辞めて自宅療養しています。先日病状が悪化し、ついには自殺しようとまで考えました。実行しようと思ったとき、先生の「夏休みの宿題」が頭によぎりました。川村先生の夏休みの宿題は毎年同じことでした。 「−死なないことー」
これだけです。葬式で飲む酒ほどまずいものはないというのが理由だとのこと。高校時代は「なんじゃそりゃ」と思っていました。
24歳になった今、その「宿題」を果たさずにいるのは、忘恩としか言いようがない、先生にまずい酒飲ませるわけにはいかないと思い、命を絶つこと止めました。
川村靖という人は、飄々としながらも大きな器を持った人です。先生に出会えたことが私の人生を大きく変えました。
運慶様、先生のお話をありがとうございました。
川村先生、ほんとうにありがとうございました。


Posted by 2004年度卒業生 at November 22, 2009 22:58
2004年卒業生さま

 コメントありがとうございました。毎日走り書きのように書く「スポーツについての日記」みたいなものに、こうして時間がたっても誰かが読んでくれて、何かを感じたり、思いだしたりしてくれることを、俺はすごく「うれしい」と思います。こちらこそ感謝します(笑)!

 「死なないこと」確かにとても大切なことです。ひょっとすると勇気の基本かもしれません。どんな状況でも、どこかできっと人やコトやモノはつながっています。知らないところで感謝されたり、感謝したり・・・。思いだしてくれたり、思いだしたり。笑ったり、笑われたり・・・。焦ることはありません。ゆっくり、自分のリズムで「死なないこと」ですね(笑)!俺もなんだか勉強になりました。ありがとう!
Posted by SPORTS運慶 at November 23, 2009 12:31
こんばんは

僕は4月から藤沢西高校に入学する男子生徒です。
小1の頃から野球をやっていて入学後も野球部に入部しようと思っています。

ですが、今朝の朝日新聞を読んでとてもショックを受けました..

教員異動特報の一般教員の中に
川村先生の名前が載っていたのです。

噂には聞いていたのですがまさか今年に移動されることになるとは思ってもなく、本当に残念でした。

それというのも、僕は

「川村先生が指揮する藤沢西で
野球を精一杯努力してやろう」

という目標を持って受験勉強をし、なんとか合格できたので本当に悲しい思いでした。

去年の10月に藤沢西の部活動見学がありました。僕は野球部の練習を見ていました。川村先生は僕の前で指導されていました。マンツーマンで指導を受ける先輩方は先生の言葉に聞き入ってるようにも見えました。
しばらくすると先生は緊張している僕の前に来て
声をかけてくれました、

「見てるだけじゃ詰まんねぇよなぁ!?
 ユニフォームでもありゃやらせてやるのになぁ」

とまるで部員に接するように。

そんな言葉に僕は緊張も忘れ、先生とほんの少しでしたがお話ができました。

その後、日が暮れるまで見学していると冷たい雨が降ってきました。
雨も本降りになって僕も帰ろうかと思っていると先生が放送で呼ばれました。

先生は徐に立ち上がると、僕に傘を渡して先輩方に指示を出して校舎に行ってしまいました。
その時の言葉が、このようなものでした。

「藤西行って風邪引いたって言われちゃ困るから
 もっていきな!」
歩いていく先生に僕は、
「いつ返せばいいんですか?」と言いました。
僕の問いに先生は

「入学したときでいいよ」

と答えてくれました。
その時に僕は
「川村先生が指揮する藤沢西で
野球を精一杯努力してやろう」と心から思いました。

本当に短い時間でしたが今までに出会った人からは感じなかった引きつけられるようなオーラを先生から感じました。

春からは先生が野球部で指揮をしていないと
思うと、本当に悲しくなります。

傘を返すことができなかったことも
とても心残りです。

本当に長々すみませんでした。
言いたいことが多すぎて
まったくまとめられませんでした...
Posted by 2010年入学生 at April 01, 2010 00:17
2010年入学生さま

コメントありがとう!
俺は川村先生じゃなくて、従兄弟だけど、
このコメントむちゃくちゃうれしい!!

それは、キミがすごいから!

俺、中坊の時に、そんな感覚なかった(正直言って:笑)。川村先生も幸せだと思うけど、どんな環境で、どんな監督や仲間といっしょに好きな野球をやろうか?って考えていたキミがスゴイよ!

人と出会ったり、別れたり。
会いたい人と会えなかったり。
会えたのに、すぐ別れたり。

それはとても悲しいことだけど、その気持ちがたくさん、たくさん、ある自分を「幸せだな。僕っていいな!」と思ってください。

そして、その気持ちを大切にしながら野球をやってください、高校生活を思いっきりやってください、恥もかいて、涙も流して、失敗もいっぱいしてください。

 俺、キミからコメントもらえてスゲーうれしい!

 ガンバレ!きっと、川村監督も次の高校(湘南だっけ?)でがんばると思うぜ(笑)キミのライバルだ〜!!(笑)

また、よろしく!よかったら、藤沢西の野球部報告また送ってくださいネ。
Posted by SPORTS運慶 at April 01, 2010 00:34
こんばんは。運慶さん。

うちの息子も西高で野球がやりたくて受験しました。
あさって入学式を迎え
いよいよ練習に参加します。

最初は、私立を考えていた様でしたが練習を見て「ここに行く」と決め、このblogを読んで母も感激して…川村先生にお会いできる日心待ちにしていたので本当に残念に思い、実はちょっと…凹みました。
でも「川村野球」は戸塚先生に、しっかりと受け継がれていると思いますし、これから始まる激しい毎日を、先輩方や仲間と一緒に…〜本気で頂点目指して〜乗り越えて行くだろうと思います。

西高の練習量は聞きしに勝る…というか、内容を聞いてちょっと怯んでいる母ですが…公立高校で、こんなにしっかり野球ができる環境なんてないぞ〜と…気持ちを切り替えて見守りたいと思います。

色々悩んで選んだ学校での
新しい出会い
楽しみにしています。

2010新入生クン
よろしくね〜(o^-')b
Posted by 藤西新入生母 at April 04, 2010 23:53
藤西新入生母さま

コメントありがとうございました。

この記事には本当に多くの人々からコメントもらいました。あらためて川村監督すごいな、と感じています(笑)。

 中学生や高校生にとって、クラブや監督など、スポーツをやる環境はとても重要ですよね。スポーツ各競技の技術習得以上に、厳しさや楽しさ、それらを考える力や感じる力、そして仲間の力、そんなものを吸収する場所として「環境」が大切です。

 その中で監督の資質は、特に重要でしょう。しかし、それはまた「クラブの伝統(歴史)」としても育っていくはずです。藤西はきっと、三年で入れ替わってゆく選手たちの成長だけでなく、伝統としてしっかりとした環境が根付いているのではないでしょうか?

 のびのびと、いきいきと、みんなが野球で成長してゆくことを祈っています!
Posted by SPORTS運慶 at April 05, 2010 14:47
家族からききこちらの記事を読みました。胸熱くなり涙出ました。また今日からがんばろうと思います。
Posted by まる at July 15, 2010 08:02
まる様

コメントのお礼が遅くなりました。ごめんなさい。そして、ありがとうございます。まるさんは、野球部かな?違うかな?この記事は、掲載後もう三年目の夏を迎えるけど、多くの人からコメントや連絡をもらっています。俺自身が、みんなに感謝したいと思っています。どうか「毎日一歩ずつ」の歓びや幸せや充実感を大切にしてください(俺はできてないけど:笑)。またよろしく!いい夏を!!
Posted by SPORTS運慶 at July 20, 2010 11:30
読んでくれた皆様へ

 ありがとうございます。

 これは、もう三年前の夏に書いた記事です。

 でもいまだに読んでくれる方がいて、まったく知らない方から

 ご感想をもらう・・・。うれしいことです。

 「スポーツのこと」も、本来

 本当に自分が体感したこと、考えたことを

 表現することが大切だと痛感します。

 でも、毎日毎日、判っていても駄文しか書けない。

 悔しいけど、続けて行こうと思っています。

 もう一度、たくさんの方々に読んでいただいて感謝します。

 2011年4月1日 涌田耕治
Posted by SPORTS運慶 at April 01, 2011 13:09
学生時代は思い切り何かに没頭する(出来る)って
とても大事なことだと思います。
それが野球のようにスポーツなら尚更素敵なことですね!

実は私はやっさんの奥様・広美さんの後輩です。
広美さんはきれいで明るくて会社の皆の憧れでした。
川村家の双子ちゃんが小さい頃までは
よくお宅へ遊びに(泊まりに)行かせてもらってました。

たまたまこちらのブログに当たりましたが
元気が出るような素敵な記事にコメントしたくなり
おじゃましちゃいました!

やっさんがお元気そうで何よりです!




Posted by 玉ちゃん at August 11, 2011 13:37
玉ちゃん様

コメントありがとうございました。

この記事は数年前に更新したものですが、いまだに皆さんのコメントをちょうだいしてうれしいです。やっぱ靖くんの人柄だと思います(笑)。またよろしくお願いします!
Posted by SPORTS運慶 at August 13, 2011 18:02
 
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