2010年08月28日

[書評]ディックのSFマインド:フィリップ・K・ディック 『マイノリティ・リポート』

ディックのSFマインド

マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)フィリップ・K・ディック 『マイノリティ・リポート―ディック作品集』 (ハヤカワ文庫SF):Amazon.co.jpbk1

 ディックの中・短編を収録した作品集。意外だったのは、多くの長編とは異なり、SFらしさがあふれ、またちゃんとまとまって終わる作品が多いこと。個人的には、長編のだんだん物語が破綻していく様子も好きなのですが、この本の収録作のような小説も好きです。
 各作品の感想を少しずつ。

「マイノリティ・リポート」
 予知能力で犯罪を起こす人間を未然に逮捕するようになった時代。犯罪予防局の長官アンダートンは、自分の名前が殺人者として予言されたことを知る。そのまま長編になりそうなネタと展開を、うまくまとめている。たしかに、これは映画の原作にふさわしい。

「ジェイムズ・P・クロウ」
 ロボットが人間を支配する社会。その中で、「テスト」に次々と合格し、ロボットよりも上の地位に上り詰めた人間がいた。彼は人間の救世主となるか?
 ロボットと人間の関係は、あらゆる差別の比喩になっている。そして、権力を持つことの恐ろしさも感じさせる短編。

「世界をわが手に」
 宇宙には生物が存在しないことが分かった時代。人々は、小さな地球「世界球」の中で生物・文明を育てることに熱中していた。しかし、その世界球コンテストの会場で、人々は自分の育てた世界を破壊するという行為に出る。
 後半に待つ視点の転換は、いかにもSFらしい。ディックがこういうテーマをストレートに扱うのは、意外で興味深かった。

「水蜘蛛計画」
 宇宙開発に苦心する時代。移住局の職員は、過去に遡って予知能力者を連れてこようとする。彼らの知恵を使って宇宙への進出を成し遂げようと。予知能力者が多数存在した二十世紀の合衆国へ。そして彼らは、偉大な予知能力者に対面する。A・E・ヴァン・ヴォクト、ハワード・ブラウン、レイ・ブラッドベリ、などなど(なに?)。そしてその中のひとり、ポール・アンダースンを未来へと連れて行く(なんと!)。
 異なる時代に降り立ったそれぞれの様子が面白い。スラップスティックでありながら、きちんと時間SFでもある。

「安定社会」
 長らく未発表だった、事実上の処女作。短編ながら、ディックらしい悪夢的な社会を描きつつ、ひねりの利いた時間SFになっている。

「火星潜入」
 SFらしい舞台を使ってのサスペンス。中心にあるアイデアはそれほど複雑ではないが、後半の嫌な感じのどんでん返しは、ディックらしいと思う。

「追憶売ります」
 映画「トータル・リコール」の原作。ダグラス・クウェールは、火星に行きたいという思いを強く抱いていた。そして彼は、架空の記憶を植え付けることのできるリコール社を訪ねる。しかし処置が終わると、彼は実は火星に行っていた記憶を消されていたことを「思い出す」のだった。
 果たしてどの記憶が本物なのか。現実と架空が入り混じり、混沌としていく様子は、長編作品にも通ずる。



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