January 14, 2009
年末年始のこと(3)パレスチナ
大晦日に出かけた下北沢の古本屋で一冊の本が目にとまった。広河隆一『パレスチナ』(岩波新書、1987年)。隣に漱石の『三四郎』も置いてあったので、あわせて110円で購入。姜尚中氏オススメの『三四郎』についてはまたいつか書くことにして、まずはパレスチナの話。
この『パレスチナ』を読みながらネットを見ていると、UPLINKの正月企画で広河氏の『NAKBA』が上映されると知った。以前ユーロスペースで上映されていたときに見損なったので、正月二日の渋谷に出かけた。ドリンクつきで1000円はとてもお得だけれど、もらったコップを真っ暗な客席でこぼさないようにするのに苦労した(ここの客席はただの椅子だから、ドリンクホルダーがない)。
上述の著書『パレスチナ』と同じく、映画は氏が1967年にキブツを訪れるエピソードから始まる。そしてそこで働くうちに付近に廃墟を見つけ、そこからイスラエルによるパレスチナ人排斥の歴史を紐解いてゆく。廃墟となった村の住民の現在を尋ね、当時の出来事について証言を集めてまわる様子が、彼が足で稼いだ映像(インティファーダの様子など)と共に提示される。2時間を超える長編だけれども、それを感じさせない中身の濃さがある。
パレスチナ問題の映画は、2001年公開の『プロミス』を観て以来になる。『プロミス』に出ていたイスラエルとパレスチナの子どもたちは、いま、どうしているだろうか。テルアビブで暮らしていたヤルコとダニエルの兄弟は、そろそろ兵役に就く年齢だろう。デヘイジャの難民キャンプで暮らしていたファラジももうすっかり大人だろう。彼らは子どもとして、ドキュメンタリー映画を通じて互いに出会った。映画のパンフレットにこんな言葉があった。「純粋であるということは無邪気であるということでもある。それが大人になるにつれて閉鎖的になり、自分を変えることが困難になってくる」。撮影当時でさえ、彼らは単に無邪気なのではなかった。自分のおかれている現実を日々突きつけられていた。現在はこれよりさらにひどい現実が彼らの目の前にあるだろう。彼らの考えはどう変わっただろうか。Webで探してみたが、彼らのその後のことはわからなかった。
昨年末から再びイスラエルのガザ攻撃が始まり、現在も軍事行動を続けている。イスラエルはハマスのロケット弾攻撃の停止を空爆の理由としているが、実際はイスラエルの圧倒的な軍事的優位の下で事が進んでいるのは言うまでもない。地上戦が継続されれば、人口密度の高いガザ地区がいま以上の惨事に見舞われることは必至である。
http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=571
ハマスは武装闘争を是とするいわゆる過激派であるが、パレスチナ評議会で多数の議席を獲得していることからもわかるように、多くのパレスチナ市民の支持によって成り立っているのも事実である。そのような、武装組織と市民の結びつきが状況をさらに悪いものにしている。ユダヤ民族国家をめざすイスラエルにとって、普通の市民が「テロリスト」となって抵抗運動に身を投じる状況は、イスラエルが武装勢力もろともパレスチナ人全体を「消し去る」ことへの口実となりうる。そう考えれば、パレスチナにとってハマス支持は賢明な選択ではない。しかしそうせざるを得ないと感じるほどにパレスチナの人々は追い込まれている。
過去60年のパレスチナでの出来事に鑑みれば、これまでの和平案がイスラエル寄りであることは明白である。パレスチナ問題の「原罪」が第一次中東戦争に至るまでの数十年間にあるのは間違いないし、その後国連分割案を破棄してパレスチナの大部分を武力制圧したのはユダヤ人のほうだった。しかし、この問題の根本を断つために、「時計の針を元に戻し」て、ハマスが望むように、イスラエルという国家を中東の地図から再び消すこともできない。それは平和な過去への回帰ではなく、新たな復讐の開始点となるだろう。相互の抹殺ではなく、和解と譲歩が必要なのは誰の眼にも明らかであるが、がんじがらめになって動けない。土地の記憶と結びついた、現在に続く苛酷な歴史。強い宗教的観念と接合された国家運営。冷戦時代から続く軍事的緊張。そしてユダヤ人とパレスチナ人双方のアイデンティティを規定している、ホロコーストの物語。パレスチナはまさにナショナリズムの貯蔵庫である。何重にも絡まり合った信念の束を解きほぐす作業がいかに困難であるか、想像を絶するものがある。
私が今ここで何ができるわけでもないけれども、少なくとも、知ったり学んだりすることはできる。国際機関を通じて間接的に支援することもできるだろう。そうして自分が得たものを、学生をはじめ周囲の人々と共有する作業は、決して無駄ではないと信じたい。
広河隆一氏ホームページ
http://www.hiropress.net/
土井敏邦氏ホームページ
http://www.doi-toshikuni.net/
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