2010年12月25日

小林正弥『サンデルの政治哲学』(平凡社新書) 7点

 「ハーバード白熱教室」で一躍時の人となったサンデルの入門書。著者の小林正弥はTVで解説を行っていた人で、覚えている人も多いかと思います。
 その小林正弥が、『これから「正義」の話をしよう』、『リベラリズムと正義の限界』、『民主政の不満』、『完全な人間を目指さなくても良い理由』(小林正弥はこの邦訳タイトルには不満らしいですが…)、『公共哲学』と、サンデルの主要な著作のすべてを解説してくれるのがこの本です。

 ただ、「ハーバード白熱教室」や『これから「正義」の話をしよう』を、見たこと、読んだことがないという人には、この本を通してではなく直接、サンデルの本を読むなりTVを見るなりすることをお薦めします。
 もともとわかりやすい内容ですし、要約が意味を持つものでもありません。
 ということで、この本も第一講の「「ハーバード講義」の思想的エッセンス」については、個人的にあまり意味が無いと思いますし、『これから「正義」の話をしよう』を読んだ人は飛ばしてもいいと思います。

 けれども、「ハーバード白熱教室」や『これから「正義」の話をしよう』を、見ただけ、読んだけという人には、この本はおすすめです。
 サンデルは講義の中では、あまり自分の意見を積極的に主張しておらず、学生のナビゲーターのような役割を果たしていますが、ある程度、政治思想の知識がある人が見ると、彼がいわゆる「コミュタリアニズム」の考えに議論を誘導していることがわかります(あるいは、「コミュタリアニズム」という言葉にイメージを持ちにくいならば、「アリストテレス的な倫理」と言ってもいいもので、倫理や道徳において共同体の存在や共同体の中での個人という立場を重視するタイプ)。
 そうした講義の背後にあるサンデルの思想を分かりやすく教えてくれるのがこの本。この本を読めば、サンデルの講義に隠された意図も分かってくると思います。
 またコミュタリアニズムの入門書としても、以前新書で出た
 菊池理夫『日本を甦らせる政治思想』が全く良くなかっただけに、手軽なものとしておすすめできます。

 もっとも入門書と考えると、ここまで全著作を網羅する解説にする必要があったのかとも思います。『公共哲学』のようなエッセイ集の解説は、「ここまでしなくても」、と思いました。

 ただし、ある程度、政治哲学に詳しい人にとっては詳しすぎる解説が逆に興味深いという面もあります。
 特に一般には保守的と考えられることの多いコミュタリアンでありながら民主党を支持するサンデルのロジック、同じユダヤ系のコミュタリアンであるウォルツァーとの違いなどはなかなか興味深く読めました。

 あと蛇足ですが、次の部分は日本の昨今の青少年育成条例なんかにもあてはまる現象だと思いました。
過去の大統領たちは、同朋市民に対して、戦争や福祉のために大きな犠牲を求めた。しかし、当時のアメリカ(クリントン大統領のとき)では、コミュニティや道徳目的は求めても、抑制や犠牲は望まない人が多かった。そこで、クリントンは、大人に道徳的抑制を求めずに、子どもにそれを課したのである。(285p)

 具体的にはVチップの導入や門限や学校の制服の奨励とかなんだけど、これをサンデルが肯定的に捉えているところに、個人的にコミュタリアニズムへの違和感があります。
 つまり、コミュタリアニズム的な共同体の「善」なんて、現実の大人が守れない幻想に過ぎないのではないかとも思うのです。

サンデルの政治哲学 (平凡社新書)
小林 正弥
4582855539


 
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2010年12月17日

山崎元・水瀬ケンイチ『ほったらかし投資術』(朝日新書) 7点

 サブタイトルが「インデックス運用実践ガイド」。いわゆるインデックス型の投資信託やETFによって資産運用を行うための入門書です。

 著者はエコノミストの山崎元と、投資ブログ「梅屋敷商店街のランダムウォーカー」を書いている水瀬ケンイチ。
 水瀬ケンイチの書いている部分では「インデックス投資がどのようなものであるか?」「どうやって買えばいいか?」、運用の心得といった基本的な部分を解説していて、山崎元がインデックス投資の理論的な優位、「どのインデックスに投資すべきか?」、金融機関との付き合い方などの理論的・実践的な部分を解説しています。

 インデックス投資とは、株で言えば個々の銘柄ではなく「日経平均」や「TOPIX」といった株価指数に連動して投資している投資信託や連動して動くETFに投資するものです。
 この指数に連動して投資する投資信託をインデックス・ファンドと言い、個々の株式の値上がり・値下がりを読みながら投資するファンドがアクティブ・ファンドです。
 普通に考えれば、インデックス・ファンドよりもプロが考えて投資するアクティブ・ファンドのほうが良い成績を上げそうですが、実は成績的には大して変わらず、手数料や信託報酬などの面でインデックス・ファンドのほうがだいたいにおいて有利なのです。

 こんなインデックス・ファンドの強みを身も蓋もなく解説してくれる山崎元の執筆部分は刺激的で「インデックス・ファンドに勝っているアクティブ・ファンドは全体の3割前後に過ぎない」(32p)、アクティブ・ファンドについて「信託報酬が1.5%という段階で、運用商品としては「論外」」(63p)、資産運用に関して「金融機関のアドバイスに基づいて行うのは不適切です。はっきり言って、銀行にせよ、生命保険会社や証券会社にせよ、相談の担当者の使命は自社の手数料をなるべく多く上げることであって、顧客にとってベストな運用計画を作ることではありません」(71p)、「運用期間の長短とその投資家が取るべきリスクの大きさは無関係です」(75p)など、大胆かつ鋭い指摘がいくつもあります。

 ただ、かなり専門用語なども交えているので、水瀬ケンイチの執筆部分とはちょっとレベルの差があって、初心者には難しいところがあるかもしれません。
 投資の初心者よりは中級者程度の人が読むべき本になっていると言えるでしょう。

 このようにパフォーマンスも良く、手もかからないインデックス投資なのですが、1つ疑問として残ったのは、現在の日本のようなデフレ状況の中で「日本株式のインデックス投資をする意味はあるのか?」ということ。
 株式投資にはインフレのヘッジとして意味もあると思うのですが、ここまでデフレが続いてその状態を日銀が追認してるとなると、インデックス投資へのためらいが生じます。もちろん、外国株式のインデックスに投資すればいいわけですけど、それだけだと為替のリスクもありますし…。

ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド (朝日新書)
山崎 元 水瀬ケンイチ
4022733691


 
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2010年11月29日

飯田泰之『ゼロから学ぶ経済政策』(角川ONEテーマ21) 8点

 わかりやすく、なおかつスキのない経済政策の入門書。
 この本は経済政策の必要性を示した上で、経済政策の3つの柱、「成長政策」、「安定化政策」、「再分配政策」についてその必要性と働きを丁寧に説いてくれます。

 日本のように経済学者の地位が確立されておらず、「エコノミスト」という経済学者なんだか、たんなるアナリストみたないものかよくわからない人が幅を効かせているような状況では、経済政策といってもやたらに極端な意見が主張されたり、あるいは「さらば、GDP!」的な無責任な夢物語が主張されがちです。
 そんな中でこの本は、「幸福」の分析からGDPという指標の有効性を語り、まずは「さらば、GDP!」的な議論を退けた上で、経済政策の説明に入ります。
 経済学にそれなりに親しんでいる者からすると丁寧すぎる気もしますが、この丁寧さこそこの本の最大の売りでしょう。

 そして、各論のところでも丁寧に俗論を退けています。
 「成長政策」ではまずはじめに旧通産省的な「産業政策」が退けられていますし、「安定政策」の部分では、不況こそが新しい産業を生み出すというネオ・シュンペーテリアン流の解釈(日本だと構造改革万能論にあたるのかな?)が、一国の経済では完全に当てはまるものではないとされています。
 また、「再分配政策」ではハルサーニの「公平観察者」の概念などを持ち出して、その必要性を原理の面から説明しています。

 このように経済学を知らない人、経済学に不信感を持っている人には非常にいい本だと思います。また、経済学をある程度知っている人にとっても、議論の仕方などは非常に参考になると思います。

 ただ、一点だけ気になったのは、政府の価格統制が経済の足を引っ張る例として最低賃金制度を挙げているところ。
 確かに、高すぎる最低賃金は雇用にマイナスなのは確かでしょうが、最低賃金制度が単純に有害であるような書き方は経済学に対する警戒心を強めてしまうだけのような気がします。

ゼロから学ぶ経済政策 日本を幸福にする経済政策のつくり方 (角川oneテーマ21)
飯田 泰之
4047102571


 
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2010年10月10日

富永茂樹『トクヴィル』(岩波新書) 4点

 最初、社会学者の「富永健一」によるトクヴィルの本かと思って手にとったんですが、同じ富永でもこちらは茂樹氏。この富永茂樹氏も先行は知識社会学らしいです。
 トクヴィルと同時代のことに関しては良く調べてあって、トクヴィルの生きた時代の雰囲気は知ることができます。ただ、正直のところ焦点のさだまっていない本だと思いました。

 最初はトクヴィルの家系やトクヴィルが若い頃に襲われた「憂鬱」の分析などから始まるので、トクヴィルを内在的に読み解いていくのかと思いましたが、分析にはトッドなど後世の人物のものも差し挟まれますし、全体的にトクヴィルの思想を読み解くのか、トクヴィルの生きた時代を読み解くのかがはっきりしていないです。
 
 同じ岩波新書の宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』は、トクヴィルの思想をもとに現代の政治的な課題の解決方法を探ろうとしていましたが、この『トクヴィル』にはそういった視点もあまりありません。

 強いて言えば「歴史エッセイ」的なものに仕上がっていて、政治学や社会学の面からトクヴィルに興味を持った人間にとってはやや物足りない出来です。
 せめて、トクヴィル再発見のひとつの契機伴っているアーレントのトクヴィル論くらいは紹介してもいいと思うのですが、それもありません(けれども「人間の条件」と題された1節はあって明らかに著者はアーレントを読んでいる)。
 終章の「トクヴィルと「われわれ」」も個人的には非常に粗雑に思えました。

トクヴィル 現代へのまなざし (岩波新書)
富永 茂樹
400431268X


 
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2010年09月20日

鈴木亘『財政危機と社会保障』(講談社現代新書) 7点

 2ヶ月前にちくま新書から『年金は本当にもらえるのか?』を出した鈴木亘の新書がまたまた登場。
 前作は「年金」に絞った本でしたが、今回は社会保障全般を扱った本です。

 菅直人首相は「強い社会保障」というスローガンを打ち出し、消費税の増税と社会保障の充実を狙いましたが、とりあえずその方向性は参議院選挙で躓きました。
 ただ、「医療」や「介護」などの社会保障分野に税金を投入し、新しい経済成長のエンジンにしようという考えは、多くの政治家や学者の中で共有されています。

 しかし、著者に言わせれば「強い社会保障」による経済成長というのはナンセンスです。
 「強い社会保障」論者は、「増税をしても、その分社会保障を強化すれば、人々は安心して貯蓄を取り崩して消費し、それが経済成長につながる」と述べますが、ふつう貯蓄というのはタンス預金のように死蔵されているのではなく、銀行などに預けられ、それが国債や企業の融資へと廻っています。貯蓄が減れば、その分資金需要が逼迫し金利が上昇、経済成長にブレーキがかかる可能性が高いのです。

 これは経済学の基本的な知識から導きだされることで、その論旨は明快です。

 さらに著者は日本の社会保障の「護送船団方式」を批判します。
 医療、介護、保育、日本の社会保障はいずれの分野でも強い規制と価格統制がかかっており、今の状況で社会保障に公費を投入しても、それはサービスの向上ではなく、福祉事業者や開業医など一部の人を富ませるだけに終わってしまう可能性が高いです。

 特にこの本で指摘されている待機児童の問題はその最たる例で、「保育所内に調理室がないといけない」、「保育所を経営する企業は配当を行ってはならない」などのガチガチの規制に縛られている結果、東京23区内の公立保育所で0歳児一人当たりに掛かっているコストは月に50万円!私立でも30万円ほどかかっているといいます(201ー203p参照)。
 しかし、一方で保育料として徴収しているのは2万円。
 この規制と手厚すぎる公費の投入こそが、社会保書の膨張とそれによって引き起こされる財政危機のひとつの原因だと著者は主張します。

 このようにわかりやすく過激でもあるこの本ですが、少し疑問がないわけでもない。
 例えば、著者の依拠するオーソドックスな経済学はかなり合理的な個人を想定していますが、アカロフとシラーの『アニマルスピリット』にあるように、「安心」というのは人々の行動を左右するもので、社会保障制度の設計いかんでは、社会保障への公費投入が成長を促すこともあるとは思います。
 
 また、財政赤字に対する捉え方もインフレ率と経済成長を軽視していて、「いずれはギリシャ…」という下手に人を脅かすものになってしまっていると思います。

 ミクロ的には正しいけど、マクロ的な面ではやや物足りないと言えるかもしれません。
 ただ、日本の社会保障の大きな問題点を抉り出している本であることは間違いないです。
 
財政危機と社会保障 (講談社現代新書 2068)
鈴木 亘
4062880687


 
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2010年09月09日

武田善憲『ロシアの論理』(中公新書) 6点

 ロシア大使館勤務の経験もある外務官僚によるロシア・ウォッチの書。
 帯の「怪しげなインサイダー情報など不要!指導者たちの思考法を理解すれば、ロシアの行方が見えてくる」との文章には、佐藤優への批判を感じさせますが、その文の通り、表に出ている情報からプーチン・ロシアの行動原理とこれからの行方を読み解こうとした本です。

 著者は独裁的に見えるプーチン、そしてそれに寄り添うように行動するメドヴェージェフともに、いくつかの「ルール」に従って行動していると述べます。
 その「ルール」とは、外交面では「多極主義」であり、経済面では「正しく納税せよ」、「資源は国家のもの」といったものです。

 確かに強烈なパフォーマンスが目立つプーチンですが、著者の指摘する通りに超法規的に行動することは少なく、前任者のエリツィンに比べると法を尊重する姿勢を見せています。
 これはメドベージェフに関しても同じで、この二人が法による「秩序」を志向していることを示しています。
 欧米からの批判を浴びたユコス事件においても、やり方は強引すぎたもののユコスが問題を抱えていたのも事実で、プーチンなりの「ルール」に従った行動であったというのが著者の見方です。

 この著者の見解にはそれなりに説得力があり、ある程度ロシアの未来像というものも見えていきます。
 ただ、プーチンが超法規的措置を乱発し、自らの人気の源泉ともなったチェチェン紛争についてほとんど触れていない点には不満が残ります。
 表は綺麗にしていても、やはり裏では相当なことをしているのではないか?という疑念は、チェチェン紛争やそれを報じるジャーナリストの身の上に起こったことを考えるとぬぐえません。

 立場上、論じにくい面もあったとは思いますが、もう少しプーチンの「闇」の部分についても突っ込んで欲しかったです。
 また、日本との関係について、北方領土問題が全く触れられていないというのも、立場上の限界なのかな、とも思いました。

ロシアの論理―復活した大国は何を目指すか (中公新書)
武田 善憲
4121020685


 
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2010年08月20日

高橋洋一『日本経済のウソ』(ちくま新書) 7点

 3カ月前に光文社新書から『日本の大問題が面白いほど解ける本』を出した高橋洋一ですが、今度はちくま新書から『日本経済のウソ』。タイトルからすると、両方とも同じような内容に思えますが、前著が「民主党の経済政策を斬る」といった本だったのに対して、今回の本は「日本銀行の政策を斬る」といった趣きで、主にマクロ経済と金融政策が話題の中心となっています。

 デフレと日本の不況に関しては「ユニクロがデフレの元凶!」といった失笑ものの議論から、「中国をはじめとする新興国の台頭のものではデフレは仕方がない」、「日本銀行にできることはもうない」、「デフレよりも財政破綻を心配すべき」といった、それなりに根拠のありそうな議論までいろいろありますが、この本を読めばデフレ対策の重要性と」日銀にできることがまだまだ残っていることがわかるのではないでしょうか。

 特に日銀の政策については、テイラー・ルールもちいた理論面から、大恐慌の経験をはじめとする歴史的側面から、そしてリーマン危機後の各国の対策の国際比較の面から批判を行っています。
 「ゼロ金利のもとで中央銀行の行えることは限られている」という意見もそれなりに正しい面はあるとは思いますが(確かに人々のインフレ期待というものは確実に作り出せるものではないですから)、「少なくとも過去に行った量的緩和は復活させるべきだろう」という著者の意見は非常に説得力のあるものです。

 また、著者は過去に政府に内部にいただけあって、制度面についての指摘も鋭いです。
 現在、経済対策を話し合うために首相と日銀総裁が会談すると言うとニュースになったりしますが、これがニュースになるのは民主党が経済財政諮問会議を廃止してしまったせい。
 経済財政諮問会議があれば、2週間に1度は首相と日銀総裁があってマクロ経済の問題を話し合うチャンスがあったはずなのですが、民主党政権は後継となる仕組みを整えないままに経済財政諮問会議を停止してしまったので、政府と日銀の意思疎通がますますできなくなっているのです。

 高橋洋一もいろいろ本を出しているので、新鮮味に欠ける部分もなくはないですが、まだまだ引き出しのある書き手だと思います。

日本経済のウソ (ちくま新書)
高橋 洋一
4480065636


 
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2010年07月14日

鈴木亘『年金は本当にもらえるのか?』(ちくま新書) 8点

 『だまされないための年金・医療・介護入門』で日本の社会保障を経済学的視点からバッサリと斬ってみせた鈴木亘によるQ&A方式による年金の入門書。

 「年金は得なのでしょうか?損なのでしょうか?」といった基本的な問から、「子どもが増えれば年金財政はよくなるのか?」、「基礎年金への税方式の導入で消費税は17%になるのか?」といった少し複雑な問、そして「民主党の年金改革案で安心した年金制度になるか?」などタイムリーな問まで、明快に論じています。
 
 厚生労働省の虚偽の説明への批判や、基礎年金の税方式への移行、賦課方式から積み立て方式への転換などの基本的な内容は『だまされないための年金・医療・介護入門』と被るものがあるので、『だまされないための年金・医療・介護入門』を読んだ人にとってはやや新鮮味が内容に感じられるかもしれませんが、読んでいない人にとっては得るものも大きい本だと思います。
 厚生労働省による粉飾がなされていない年金の現在と将来の姿を知る事ができます。
 
 あと付録として今年の2月の『週刊ダイヤモンド』に載っていた「あなたのもらえる本当の年金額」という表も載っています。
 とりあえず、これを立ち読みしてみて自分の年金をチェックしてみるのもいいかもしれません。実際の金額を出されると複雑な年金制度への興味もわいてくるでしょう。

 ちなみに年金問題の新書というと盛山和夫『年金問題の正しい考え方』がよかったですが、この鈴木亘の本と盛山和夫の本の対立点は、税方式の導入と積み立て方式への評価。
 税方式に関しては、企業の負担している保険料を形を変えた本人負担と考える鈴木亘と、企業の負担は企業の負担と考える盛山和夫の考えがそのまま損得勘定に表れているようです。このあたりは経済学者と社会学者の違いと言えるのかもしれません。
 また、積み立て方式への移行に関しては、「積み立て方式は現役時代の好況不況によって受け取る年金の差が出てきてしまう」という盛山和夫の批判にも一定の重みがありますが、現在のような低成長がつづき、しかも世代間格差が広がっている現状では鈴木亘の主張のほうが耳に入りやすいです。
 ただ、個人的にはこの積み立て方式への移行は政治的な面からほぼ不可能ではないかなとも思いますね。

年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)
鈴木 亘
448006561X


 
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2010年06月22日

神門善久『さよならニッポン農業』(NHK生活人新書) 9点

 今まで日本の農業をめぐる本というと、経済学の立場から自由化を説く本と、「食料自給率」、「環境保全」、「フードマイル」といったイメージ先行の言葉でその保護や振興を訴える本がほとんどでしたが、この本はきわめてまっとうに日本の農業の問題点とその解決策を探った本。
 経済学的な見方を維持しながら、たんなる自由化ではない独自のニッポン農業救済策を打ち出しています。
 
 農業に関する新書というと、山下一仁『農協の大罪』もなかなか面白い本でしたが、この本は少し「農業悪玉論」に傾きすぎている感がありましたし、日本農業の大きな問題である「農地転用」の問題について踏み込みきれていませんでした。
 その「農地転用」の問題に焦点をあて、日本農業の問題点をえぐり出しているのがこの本。

 日本では「農地」は税制などで優遇される一方で、農業以外の目的に使用することを表向き禁止しています。
 しかし、自宅を建てる、作業小屋を建てるなどの名目でなし崩し的に転用が許可され、優良な農地がショッピングセンターや、場合によっては産廃の処理場に転用されてしまっているのが今の日本の現状。
 農地基本台帳は法定台帳ですらなく、農業委員会の委員は片手まで農業をしている人でも務めることが可能で農地転用に歯止めをかけることができていません。
 農地を守ろうという意識は全体的に希薄で、民主党の輿石東参議院議員会長は20年以上農地を違法に転用して自宅や駐車場にしていたそうです。(31p)

 農地転用は優良な農地を減らすだけではなく、無秩序な開発を通じて周囲の農地にもダメージを与えます。
 日本の水田においては、周囲の農地が荒れることは水回りに支障をもたらし、結果的にその近隣の意欲のある農家にも被害を与えます。
 
 このような日本の農業の土地利用のあり方と、土地所有の歴史的な形成過程を分析しながら、著者は問題の解決策を探ります。

 そして、著者の出した答えが「人から土地へ」という農業政策の大転換。
 「平成検地」により農地の状態と所有者を徹底的に明らかにし、その上で、「農業にふさわしい人」ではなく「農業にふさわしい土地」に補助を行うというものです。土地利用の仕方をかなり厳しく規定する代わりに、その規定を守ってきちんと農業が行われている農地に対して補助を行うというものです。

 「新規参入ができないのではないか?」などという意見も出ると思いますが、著者のアイディアはかなり考えられたもので、そのあたりについてもきちんと手当がされています(171p以下を参照)。

 ただ、個人的には土地利用を厳しく縛るという方法に関しては違和感もあります。今まで日本において、地方の開発計画や都市計画が失敗し続けてきたことを考えると、現在の政治の仕組みでこういったことを行うのには無理があると思うのです。
 それでも、この本の提言は真摯でよく考えられたものですし、近年の農政の方向についてもフォローしているので間違いなく議論の出発点にはなります。

 これからの日本の農業を考える上での基本書と言えるのではないでしょうか?

さよならニッポン農業(生活人新書321)
神門 善久
4140883219


 
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2010年05月25日

高橋洋一『日本の大問題が面白いほど解ける本』(光文社新書) 7点

 タイトルとしては、『民主党の経済政策を斬る』みたいなほうが、中身もわかってよかったとは思いますが、似たような本がありそうだし、著者の高橋洋一自身もすでに『 鳩山由紀夫の政治を科学する』なんて本を出しているので、こんな漠然としたタイトルになってしまったんでしょうか?

 ただ、中身は数字に強い著者ならではの具体的な数字が入った読みどころのある本。
 例えば、著者は「高速道路無料化」を天下の愚策としながら、「子ども手当」についてはそれなりに評価しています。
 著者が「高速道路無料化」を評価しない理由は、ETCと細かい料金料金体系によるロード・プライシングの可能性を消してしまうからです。そして、同時に日本のETCが官僚の利権のために無闇に高度化していることも批判しています。
 一方、「子ども手当」に関しては、それが政府が使い方を決める「支出歳出」ではなく、国民が使い道を決める「租税歳出」である点と、控除とは違い貧しい人にも行き渡る点から一定の評価をしています。
 ただし、元財務官僚からすると、その導入の仕方は「稚拙」の一言。
 「児童手当」の予算を組み替えなかったことが、財源不足の原因と指摘しています。 

 このように元財務官僚としての視点があるのが、高橋洋一の本の面白いところ。
 郵政民営化については今までもさんざん書いていて、この本にも理論的に目新しいことはありませんでしたが、日本郵政社長に就任した斎藤次郎についての次の記述なんかはインサイダー的な情報で興味深いです。
財務省で現在それなりの仕事をしている官僚なら、斎藤氏を「過去の人」「亡霊」などとは決していいません。なぜなら、現在次官に近いといわれている稲垣光隆主計局次長は、斎藤次郎氏の女婿なのです。(94p)

 また、「社会保障の財源に消費税を!」という、世の中に広く流通している議論への批判も行っているので、税金や社会保障に興味がある人も軽く目を通しておいたほうがいいかもしれません。

日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)
4334035620
 
 
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2010年04月30日

宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書) 7点

 『トクヴィル 平等と不平等の理論家』で注目を浴びた政治思想史家が現代におけるデモクラシーの問題点とこれからのあり方に迫った本。

 前半の現状診断は非常にまとまっていて的確、現代社会の問題点とデモクラシーの機能不全がわかりやすい形で提示されていると思います。
 また、海外の政治学者や社会学者の著作からの引用も多いのですが、それだけでなく、第3章で実際に日本の00年代の政治について分析していて、それもこの本のいい点だと思います。
 デモクラシーの危機が、「どこか別の世界の危機」という形ではなく「現代日本の危機」として位置づけられています。

 現代の社会では、トクヴィルの指摘した平等化が進んでおり、自分と別世界にいたと思われていた他者は「同類」と見なされるようになります。
 しかし、この「同類」の感覚は、一方で「オンリーワン」を望む〈私〉の自意識を生み出し、もう一方では現実の不平等への異議申し立てを生みます。

 このある種のアイデンティティの意識と平等思考が政治を難しくしているのは事実でしょう。
 そして、このような〈私〉の位置づけを重視する考えが実際の政治に影響を与えた例として著者は「消えた年金問題」をあげ、次のように述べます。
各個人が、その人生の折々で多様なかたちで加入していた年金記録が、同一の人間のものとして正確に把握されていなかったということは、もっとも客観的とされる公的な社会保障制度上においてすら、個人の自己同一性が確保されていなかったことを意味するからです。いわば、この事件は、個人のアイデンティティをめぐる不安が、年金という公的制度の根幹においてもまったく同じように見られることを、世に明らかにしたのです。(108p)

 これはその通りだと思いますし、これ以外にも安倍首相における「私」という言葉の妙な強調など、混迷した00年代の政治を上手く切り取っていると思います。

 ただ、処方箋の部分に関しては具体性がなく不満が残ります。
 「デモクラシーによって社会を再創造していくことが必要だ」というのはその通りかもしれませんが、「では、どうすればいいのか?」、「現状の議会制民主主義で社会の再想像が可能なのか?」というのが切実な問題なのではないでしょうか?
 また、例えば、著者が鍵としてあげる「リスペクト」の概念ですが、これはルソーが否定的に捉えた「自尊心」はどう違うのか?「リスペクトの配分」というけど、多くの人が納得する「配分」が可能のか?など、突き詰めて考えなければならない問題は多いです。

 おそらく「思想」だけではなく、「制度」を考えなければならない問題なのでしょう。

〈私〉時代のデモクラシー (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1240)
400431240X


 
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2010年03月31日

大竹文雄『競争と公平感』(中公新書) 8点

 著者の大竹文雄は過去に中公新書から『経済学的思考のセンス』という本を出していて、この本はその続編的な存在です。
 ただ、前作が面白いながらもアメリカの行動経済学の面白いピックの紹介にとどまっていたのに対して、今作はより日本の現在の問題に焦点をあてたアクチュアルな本になっていると思います。

 この本の最初に紹介されている調査によると、日本人は「格差が生まれたとしても多くの人は自由な市場で人々はよりよくなる」と考える人、「自立できない非常に貧しい人たちの面倒を見るのは国の責任である」と考える人の割合が先進諸国の中で際立って低い。
 ここから、日本人は「競争嫌い」であり、「平等嫌い」だという、一見すると矛盾した結論が導きだされます。
 そんな日本の現状を見ながら「競争」と「公平感」についてさまざまな分析が紹介してあるのがこの本です。

 日本人の競争嫌いに関しては、例えば不況の影響も指摘されています。
 不景気の時期を体験した人ほど、「成功において勤勉さよりも運やコネが重要だ」と考える人が多く、日本人の競争嫌いの理由の一つが、日本経済の長期停滞にあることが示唆されているのです。

 これ以外にも、男女における「競争」への態度、宗教や文化が経済に与える影響、格差を気にする国民と気にしない国民、など経済に関するさまざまなトピックがとり上げられていますし、同時に「小さく産んで大きく育てる」という日本の産婦人科での教えが間違ってて胎児の停滞中がその後の人生に大きなマイナスをもたらすという話、せっかちなのは遺伝なのか?家庭教育の影響なのか?といった一見すると経済とは関係のないようなトピックもとり上げられています。

 この手の経済学の本を読んだことがない人にとっては、そのトピックの豊富さにびっくりするかもしれませんし、拾い読みをするだけでも雑学的な知識を得ることができて楽しいと思います(例えば、アカデミー賞受賞者は、候補にあがったけれど受賞しなかった人に比べて四年も長生きしている(138p))

 ただ、第3部の「働きやすさを考える」に関しては、やや日本の現実にフィットしていないところもあると思います。
 例えば「長時間労働の何が問題か?」で、ワーカホリックの同僚がいると職場の生産性が上がって周囲の人間も助かるが、上司にいると問題が発生するとしていますが、日本の村社会的な職場を考えれば、上司でなくても職場でワーカホリックの人が増えればそれ以外の人も巻き添えを食うと思うんですよね。
 
 また、最低賃金の引上げにもやや否定的な見解を示していますが、社会保障制度との整合性を考えると、今の日本の最低賃金は低すぎると言えるのではないでしょうか?

 ただ、行動経済学的な読み物としても楽しめる上に、さらに現在の日本の問題を考える上でのヒントが詰まったいい本だと思います。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)
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2010年03月17日

明石康『「独裁者」との交渉術』(集英社新書) 8点

 カンボジアPKOやボスニア紛争の調停などで国連の特別代表として和平構築の任務を担い、近年もスリランカの和平において日本の政府代表として活躍している明石康に、ノンフィクション作家の木村元彦がインタビューした本。
 ボスニア紛争では欧米諸国の批判を受けましたが、さすが国連で大きな仕事を成し遂げてきた人物だけあって、得るところの多い本です。

 この本のテーマはタイトルにもある「交渉」。
 国連という自前の武力を持たない組織の代表が、いかに政府勢力と反政府勢力の間に立って交渉を進めていくということはどういうことか?そこで明石康は何に注意を払っていたか?といったことが、インタビューを通じて浮き彫りになっています。

 まず、彼が一番大切に考えているのは対話のチャンネルを閉ざさないことです。
 カンボジアのポル・ポト派、ボスニア紛争におけるセルビア民族主義者のカラジッチやムラジッチなど、彼の交渉相手には殲滅すべき「悪」と断定されそうな人物も含まれています。
 それでも明石康はそういった勢力との関係を切らないように最大限の注意を払っています。彼はその姿勢を「あらかじめ敵を想定しない」(50p)と述べています。
 一方でそれが、カラジッチやムラジッチなどのセルビアの民族主義者に融和的であるとして欧米からバッシングを受けるわけですが、タリバンを「敵」として切ってしまったアフガニスタンでの和平の停滞を見ると、明石康の姿勢は見直されていいものかもしれません。

 また、敗者への配慮というのも彼の交渉術の特徴。
 カンボジアの総選挙では予想を覆し、フン・セン人民党ではなく、ラナリットのフンシンペック党が第一党となります。
 そのとき、明石康は国連本部にあった反対も押し切ってフンシンペック党と人民党の連立を押します。このときの彼の考えは次のようなものです。
民主選挙というと聞こえはいいですが、選挙というのは、一票差でも勝者と敗者に分かれるのですね。勝者が全部取って敗者には何も残らないところに、民主選挙の問題点があります。(98p)

 このあたりも、ある意味で日本人ならではの交渉術と感覚なのかもしれません。

 また、彼の人物評も面白いものがあります。例えば次のカラジッチが三島由紀夫を愛読していると知った時の印象。
私は、カラジッチが三島由紀夫を愛読しているという話を聞いていたので、直接確かめたらその通りだと言っていました。そのとき正直、厄介だなと感じました。三島のように何かに殉じることに対する美学と滅びるものへの陶酔を彼が持っているとしたら、合理的な交渉をするうえで障害になるにちがいない、と考えたのです。(57ー58p)

 このようになかなか読みどころの多い本。
 構成に少しわかりにくい点があるのと、カンボジアやボスニアの当時の政治情勢についてまったく知らないと理解が難しい部分があるのは欠点ですが、インタビュー形式ながら深い部分まで掘り下げてありますし、国際社会で大きな仕事を成し遂げてきた人物の経験と知恵を知ることができる本です。

「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A)
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2010年03月14日

小林正啓『こんな日弁連に誰がした?』(平凡社新書) 7点

 この本に日弁連という組織についての詳しい解説や、あるいは司法改革の全体的な展望についての記述を期待するとそれは期待はずれに終るかもしれません。
 ただ、日弁連という組織が司法改革に対してとった「政治」の記録としてかなり面白い本。
 「政治闘争」における勝敗はどこでつくのか?「政治力」のある人物とは一体どんな人間であるのかということが、日弁連が「敗れた」とされる司法改革の議論を通じて浮かび上がってきます。

 つい先日行われ激戦の末宇都宮健児氏が勝利を収めた日弁連の会長選挙。そこで争点となったのが司法試験の合格者枠でした。
 1980年代に500人であった司法試験の合格者枠は「2010年から3000人程度をめざす」とまでになります。この増員に反対姿勢をとってきた筈の日弁連、日弁連は当初「人権擁護や社会的正義の実現のためには弁護士の経済的な自立が必要で増員は問題だ」という理屈をもとに数百人の増員にも難色を示し、対決姿勢をとります。

 しかし、その既得権保護的な姿勢は世論の反発を呼び、日弁連は孤立。そして司法改革の一環として登場した、裁判官を弁護士の中から指名するという「法曹一元論」という甘い餌につられてなし崩し的に司法試験合格者の大幅増員、そのためのロースクール構想を飲んでいくことになります。

 そうした政治劇が活写されているのがこの本の面白さ。
 宮本康昭判事補再任拒否事件で、再任拒否を貫き司法の保守反動のシンボルとして忌み嫌われる一方で、最高裁の判事として公害事件の被害者救済に尽力した「ミスター最高裁」矢口洪一。
 この本で描かれている彼の政治力というのには舌を巻きます。彼の裁判所の地位向上という目的のために手段を使い分ける姿勢というのは、硬直化した日弁連の姿とは対照的で、「政治」における個人の力というものを感じさせます。

 また、毀誉褒貶のある中坊公平についても、この本を読んで改めて彼の実像がわかった気がしました。
 彼も「政治力」を持った人間ですが、自らの「豪腕」への過信が、さまざまなトラブルや日弁連の「敗北」を生んだのでしょう。

 全体的に「弁護士の増員をどうとらえるのか?」ということについての深い分析などはないですし、「これからの日本における司法のあり方」という視点にも欠けますが、一つの「失敗」を語った読み物としては面白かったですね。

こんな日弁連に誰がした? (平凡社新書)
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2010年03月08日

依田高典『行動経済学』(中公新書) 7点

 今までの経済学の想定する「完全に合理的な人間」を否定して、人間の行動に潜むさまざまなバイアスに正面から取り組んだ行動経済学。その行動経済学は2002年のカーネマンのノーベル経済学賞受賞以来ちょっとしたブームになっていて、本屋には多くの入門書が並んでいます。
 そんな中で登場した本書は、新書でありながらなかなか固い本。
 行動経済学の面白い知見を紹介するだけでなく、行動経済学を今までの確率論や経済学の歴史の中で位置づけようとした意欲作です。

 ただ正直なところ、新書にしてはけっこう難しい本で、特に数式の部分に関しては、文系の人にはつらいかもしれません。また、著者がわかりやすい例を出すことを怠っている部分もあるので、「行動経済学」の入門書としては、同じ新書なら友野典男の『行動経済学』(光文社新書)のほうがいいかもしれません。
 特に行動経済学について初めて読むなら友野典男の本のほうが明らかにわかりやすく、興味深いトピックを知ることができるでしょう。

 けれども、最初に書いたようにこの本は行動経済学を経済学の歴史の中で論じている所に特徴があります。
 ケインズの経済学、アローの不可能性定理、ゲームの理論といったものと行動経済学の関係がよくわかりますし、また行動経済学を今までの経済理論と関連づけることで、行動経済学の中でもそれなりに説得力のある部分というものが浮き上がってくるようになっています。
 
 また第4章の、著者の行っている喫煙行動を中心とするアディクションの研究も興味深いです。
 細かい部分は本書を読んでいただくとして、これを読めばタバコ、酒、競馬、パチンコといったものを掛け持ちしてやる人が多い理由がわかるでしょう。

 難しい本ではありますが、歯ごたえのある本を読みたい人はどうぞ。

行動経済学―感情に揺れる経済心理 (中公新書)
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2010年02月19日

池尾和人『現代の金融入門 [新版]』(ちくま新書) 7点

 非常にがっちりとした金融に関する入門書。
 「金融について大雑把に理解したい」とか「リーマンショック以後の金融危機について簡単な解説が読みたい」とかいう人には不向きだと思いますが、金融の基本的な考えから、現代の金融の特徴までしっかりと網羅的に書いてある本だと思います。
 新書でありながら、金融関係の新聞を読む時などの辞書代わりにも使える本と言っていいでしょう。

 さらに入門書を超えるような部分までカバーしていて、第5章の「日本の企業統治」では金融という観点から「持ち合い」などの日本の企業統治のあり方を考察していますし、第6章の「金融機能の分解と高度化」では、デリバティブなどの取引について、その背景の理論から説き起こして説明しています。
 けっして読みやすい本ではないですが、全体がロジカルに書かれているため、金融というものを体系的に学ぶ事ができます。

 本の大まかな評価はこんな感じなのですが、最近話題の「インフレターゲット」「リフレ」の問題について少し。
 ご存知の方もいるでしょうが、池尾和人は「インフレターゲット」による景気回復策に否定的なスタンスをとっています。
 それは、「比喩的にいえば、今日のハイパワード・マネー需要は、昨日の銀行貸し出しの結果である。それゆえハイパワード・マネー需要は動かしがたい」(95ー96p)といった、まずマネー需要があってそれに応じて、中央銀行がマネーを供給するという基本的な理解から出発しているからだと思います。そして、個人的にもこれは正しい意見だと思います。

 ただ、中央銀行の行動は次の部分に書かれているように民間銀行の金利予想に大きな影響を与えます。
民間銀行が貸出を決める際の将来金利動向に関する予想は、中央銀行が将来にわたって本当はどういう行動をとるころになるかに関する予想から導かれることになる。
 この意味で金融調節は、中央銀行と民間銀行の間の駆け引き(ゲーム論)の要素を含む。それゆえ、その中央銀行が民間からどう思われているかによって、当面の行動がまったく同じであったとしても金融調節の効果は違ってくると考えられる。(99ー100p)

 このような状況だと高いインフレ目標を導入するアナウンスメント効果というのはあるのではないでしょうか?

 また、この本では「そうした政策(極端なインフレ目標の導入)の有効性については、かつての日本におけるインフレ目標政策論争の火付け役と見られていたポール・クルーグマンも、現在では明示的に撤回している(148p)」と書いていますが、
こちらのエントリーを見てもわかるように、「明示的に撤回」しているわけではないと思います(クルーグマンの発言はやや一貫性に欠けるため本人の意図がどこにあるのか分かりにくい面がありますが)。
 この辺りの部分については非常に冷静に書かれている本ながら、少しバイアスのようなものを感じました。

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)
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2010年01月15日

清谷信一『防衛破綻』(中公新書ラクレ) 7点

 副題は「『ガラパゴス化』する自衛隊装備」。
 国内産業保護などのためにいびつになってしまった日本の自衛隊の装備そのものと兵器調達の問題点を指摘した本です。

 自衛隊の装備が国内産業の保護、自衛官の天下り、「山田洋行事件」に見られるような不透明な商社の仲介などから割高であるのは知っていましたが、冒頭の「今の自衛隊は、セーターやジャージなど業務に必要不可欠な被服すら隊員に身銭を切らせて買わせているありさまだ」(3p)という事実は想像以上。
 正面装備に金をかけながら、支援装備や兵站は驚くほど貧困という今の自衛隊の現状を鋭く告発してます。

 また、装備自体に関しても問題は多く、特に89式小銃の話はひどい。
 この小銃、安全装置がわざと外しにくい位置についているそうです。で、イラクのサマーワに自衛隊が派遣されたときは、これじゃ使いにくいからと改造されたと。そそて、さらに帰国後、またに元に戻した!
 いったい何のための装備なんですかね?

 こんなふうに著者は自衛隊の装備についてかなりマニアックに分析していきます。
 ここの兵器の性能についての著者の見立てが正しいのかどうかはわかりませんが、自衛隊の装備の全体的な問題点に関してはこの本の通りなのでしょう。

 マニアックな本ではありますが、こういった具体的な平気にこだわることで、日本の安全保障の問題点が見えてくる部分があります。

防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備 (中公新書ラクレ 338)
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2009年12月28日

菅原琢『世論の曲解』(光文社新書) 9点

 マスコミは口を開けば「小泉改革の負の遺産」という言葉を使い、自民党の敗北の原因も「小泉改革の負の遺産」という言葉で片付けてしまいがちです。
 しかし、それでは安倍、福田、麻生という三代続けての政権の失速は説明できませんし、2009年の衆院選でのみんなの党の躍進も説明できません。
 まさにこの本のタイトルのように、マスコミも政治評論家も、そして何よりも自民党の政治家が「世論を曲解」していたのです。

 著者の菅原琢は1976年生まれの気鋭の政治学者。
 この本では、著者の世論調査の精緻な分析により、「小泉改革の負の遺産」、「安倍晋三、麻生太郎の国民的な人気」、「若者の右傾化」といった俗説がことごとく退けられます。

 特に著者の指導教員にもあたる蒲島郁夫と今井亮佑の2007年の参院選を分析し、その後の政治報道や政治情勢に大きな影響を与えた論文「なぜ自民党は1人区で惨敗したのか」に対する批判は見事です。
 例えば、今井・蒲島論文では「第1次産業就業者の割合が75%の自治体では自民投票得票率が3.2ポイントのマイナス」となっており、これが選挙の大きなファクターだったように思ってしまいますが、著者の指摘によれば「第1次産業就業者の割合が75%の自治体」は全国で秋田県の大潟村のみ。有権者の75%は第1次産業就業者割合が5%以下の自治体に住んでいます。
 それよりも大きな要因だったのは野党の選挙協力。自民党が大敗したというよりは、民主党が他の野党が選挙協力によって勝利を掴んだ選挙という総括のほうが正しかったのです。
 (このことを考えると、政権交代後の国民新党と社民党に対する過剰とも思える譲歩は合理的な判断。ひょっとしたら小沢一郎はそのことをきちんとわかっているのかもしれません。)

 また、麻生太郎の「国民的人気」も、「次の首相」調査の内実を見ていけば、麻生太郎がつねにアンケートの選択肢に残り続けたことで出来上がった脆弱な支持だったとこの本は分析しています。
 個人的には麻生太郎の毒舌的なしゃべりというのが、ちょうど田中眞紀子が支持されるのと同じように支持されていた面もあったと思ったりするのですが、世論調査の数字を見るだけでなく、その数字の中身を詳細に追うことにより、印象論ではない冷静な分析を提示してます。

 そうした姿勢がよく現われているのが著者の次のような言葉。
「なぜ、そんな(麻生に人気があるという)歪んだ「世の中イメージ」を抱いてしまったのだろうか? ー その原因は、たぶんネットの見過ぎだろう」(195p)

「世論調査は多くの人員と資金を投入して行われる。」「そうやって出てきた数字でさえ、慎重に見なければいけないのに、一人の人間がネット上で見かけた数例の書き込みなどから若者や「世の中」の傾向について論じられると考えるとすれば、それは驕りである。」(208p)

 これは世の評論家や、あるいは理論だけで語る社会学者や政治学者などに向けられた鋭い批判と言えるでしょう。

 とにかく、今回の政権交代について分析した本としては一番だと思いますし、政治学における新たなる才能の誕生を感じさせる本でもあります。

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)
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2009年12月23日

大田英明『IMF(国際通貨基金)』(中公新書) 5点

 サブプライムローン問題を発端とする金融危機以後、再びその存在がクローズアップされているIMFについて包括的に論じた本。
 この本を読めば、IMFの歴史やしくみ、そしてアジア通貨危機などに対するIMFの失敗の様子などが分かります。

 ここ最近、経済危機に対して「緊縮財政」と「資本取引の自由化」といったワンパターンな処方箋で対応し、かえってその国の不況を深刻化させているIMFの失敗パターンがよくわかります。

 ただ、「なぜ失敗をつづけるのか?」、「なぜ同じような処方箋を出しつづけるのか?」という一番知りたい部分についての記述は物足りない。
 一応、IMFの分析モデルが古い、最大の出資国であるアメリカの政策(ワシントン・コンセンサス)などへの言及はありますが、もうちょっと突き詰めた分析が欲しいです。

 例えば、1・為替相場の安定、2・自由な資本取引、3・金融政策の独立性の3つすべては並立せず、どれか一つは放棄せざるを得ないという有名な「国際金融のトレリンマ」というものがあるのに、なぜ、IMFはアルゼンチンやトルコでこのうちの1番と2番を同時に進めようとするような政策をとったのか?
 そのあたりは、この本を読んでもいまいち納得できませんでいた。

 まあ、あまり穿った見方をして、すべてが「アメリカの陰謀論」みたいになっては仕方がないですが、もう少しIMFの内部事情のようなものも知りたかったです。

IMF(国際通貨基金) - 使命と誤算 (中公新書)
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2009年12月09日

服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書) 10点

 今から35年以上、正確には37年前の本の復刊になりますが、これは面白い!
 とにかく、中身が濃い本です。
 この本を読むことで、「中央銀行の業務とは?」、「国家の財政をいかに考えるべきなのか?」、「経済成長戦略とはいかなるものか?」、「途上国への援助はいかにあるべきか?」といった数々の問題についての考え方を学ぶことが出来るでしょうし、また服部正也氏という一人の人間の魅力も知ることが出来るでしょう。

 著者の服部氏は、1918年生まれの日本の銀行家、実業家で、日本人初の世界銀行副総裁になった人物。
 その服部氏が1965年-1971年にかけてアフリカのルワンダで中央銀行総裁を務めたときの記録がこの本。
 
 服部氏が着任したときのルワンダはアフリカの中でも最貧国とも言っていい国で、中央銀行と名前はついていても、中央銀行はペンキの剥げかかった二階建ての家で、過去10カ月の間、一度も金融政策を議論していない状態。
 その中央銀行の立て直しから始めた服部氏は、さらに大統領から経済再建計画の策定を求められ、ルワンダという国全体の経済の舵取りをまかされます。

 ここでの服部氏の分析と行動については本書をじっくりと読んでほしいのですが、その計画の中心は以下の引用部分にあるように、ルワンダ人の視点に立ったルワンダ人を豊かにするための経済発展。
「戦後の途上国発展の議論において、外貨の役割と工業化の必要とが過当に重視され、民族資本の育成と流通機構の整備という地道で手近な問題が忘れられているのではないかとの疑問を持っていた。」(248p)
と述べているように、服部氏は工業化や輸出による外貨獲得ではなく、ルワンダ人の大部分が関わる農業、そしてルワンダ人による商業を発展させることにより、ルワンダ経済を軌道に乗せようとします。

 時に価格統制やルワンダ人への優遇策も取り入れながら進めるその経済再建策は、市場化や自由化といった理念から外れている部分もありますが、何よりも「今のルワンダには何が必要か?」という点から出てきたものです。
 ここ最近、途上国への援助のあり方や世界銀行やIMFのアプローチへの批判が出ていますが、この本はそれを先取りしたものとも言えるでしょう。

 また、次の部分なんかは日本のODAへの批判を先取りしているとも言えます。
「ルワンダ政府はベルギーが植民地時代にブルンディのみに投資し、ルワンダにはなにもしなかったと非難するが、むしろ国力不相応な投資をしてくれなかったおかげで、厖大な維持費の負担を免れていることを感謝すべきではないかと思った。」(57-58p)

 そして、この本のもう一つの魅力は服部氏の人間的な魅力です。
 「ルワンダ人には何もわからない」と決めつけ、既得権の温存を図る外国人に対して憤慨する服部氏の姿には思わず応援したくなりますね。

 ただ、一点だけこの本の評価の難しい部分は、ルワンダという国が1990年代の民族対立と虐殺により無茶苦茶になってしまったという点。
 この事情については服部氏が「増補」の中で触れていますが、服部氏の見方が正しいのか、それとも服部氏の経済改革になんらかの問題を引き起こす芽があったのか、評者にも判断できません。

 けれども、素晴らしい本であることは間違いないですし、名著の復刊を喜びたいです。

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)
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2009年11月27日

宮本太郎『生活保障』(岩波新書) 9点

 岩波新書でスウェーデンをモデルに社会保障と雇用の問題を論じた本というと、ある種の既視感があって「もうその手の本は十分」と思う人もいるかもしれません。
 けれども、この本は読む価値のある本。北欧の福祉社会のモデルと日本の福祉の立て直しを論じながら、その限界と難しさもきちんと認識しています。

 著者は雇用と社会保障を結びつける言葉として「生活保障」という、あまり使われない用語を用います。
 現在の日本では、正規雇用と非正規雇用の格差をはじめとして社会にさまざまな格差が生じ、社会に亀裂が生じています。
 この社会の亀裂を修復するために著者が提唱するのが、雇用と社会保障を組み合わせる「生活保障」の考えで、具体的には社会保障の目的を就労の促進とする「アクティベーション」の考えが打ち出されています。

 ただ、たんにアクティベーションのよさが打ち出されているだけでなく、第4章ではすべての人に一定の所得を無条件に保障しようとするベーシック・インカムとの比較もなされています。
 ベーシック・インカムの方法や実現可能生に関しても検討がなされており、ベーシックインカムに興味がある人にも役立つでしょう。

 そして、そのアクティベーションのモデルとしてスウェーデンがとり上げられているのですが、スウェーデン・モデルのよさだけでなく、その問題点までが射程に入っているのがこの本のいい所。
 例えば、スウェーデンでは生産性の低い職場から生産性の高い職場へと人びとを移動させることで雇用を守り、成長を達成してきましたが、それが限界に来ていると指摘した次の部分。

 レーンーメイナード・モデルが目指したのは、職業訓練によって生産性が低い企業から高い企業へ、人を動かしながら完全雇用を実現することであった。ところが、積極的労働政策を軸とした雇用保障には、大きなジレンマがあった。生産性の高い企業では、技術革新と脱工業化がすすむにしたがい、一部の高度な管理的、専門技術的な労働を除けば、全体として省力化がすすみ、しだいに労働力を吸収しなくなる。労働生産性は上昇しGDP成長率が向上しても「雇用なき成長」になってしまうのである。(107p)

 
 これを読むと、スウェーデンモデルを導入しても、グローバル経済の中では完全な問題解決にはならず、さらに試行錯誤が必要だということがわかります。

 また、公的部門への信頼の低さが、改革の最大の障害だと率直に指摘しているところもいいと思います。
 日本では94%の人が天気予報を信用している一方で、政治家と官僚に対しては80%の人が信用していません(19pのグラフより)。

 この本で紹介されている次の現象には、それが端的に現われていますね。

 職業訓練期間中の所得保障の必要については広い合意がある。ところが民主党政権は、自公政権のもとでの「訓練・生活支援給付」関連予算が、厚生労働省のOBが役員をつとめる中央職業能力開発協会へ支出されていることから、この予算を半減させた(187p)


 このように改めて日本の社会お保障の立て直しの難しさを感じさせる本でもありますが、それでもなお、日本の進むべき道の一つを示している本と言えるでしょう。

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書 新赤版 1216)
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2009年11月14日

中井浩之『グローバル化経済の転換点』(中公新書) 8点

 リーマン・ショック以後の経済危機を扱った本ですが、副題に「「アリとキリギリス」で読み解く世界・アジア・日本 」とあるように、主に経済危機を国際経済の構造面から分析した本です。
 
 「アリ」とは日本や中国、そしてアジアの通貨危機以後のアジア諸国のように輸出主導で経常収支が黒字の国、「キリギリス」は経常収支は赤字で国内の与信を拡大させていた国のことで、この2つのタイプの国の間での商品と資金の循環が00年代の世界的な経済成長を支え、同時に矛盾を溜め込んだと筆者は分析しています。

 これは例えばグリーンスパンも言っていたことですし、竹森俊平の『資本主義は嫌いですか』などにも書かれていたことです。
 豊富なデータを用いた議論は説得力がありますし、データ集としても使えそうです。
 
 さらに本書の売りとなるのは、アジア経済の分析の部分でしょう。
 今回の経済危機だけではなく、アジア通貨危機のをまたいだ分析になっていて、ここ20年近くのアジア経済の発展と構造転換を追うことが出来ますし、タイや中国についての個別の分析も鋭いです。

 例えば、中国の格差問題に対して
「経済格差の是正を本格化しようにも、そのための財政支出は景気のさらなる加熱を招くリスクがあり、政府として手を付けにくかった。」(217p)<中略>「高度成長に伴う自国経済の歪みの拡大に長年頭を悩ませてきた中国の政策担当者にしてみれば、経済危機は過去数年温めてきた政策を実施に移す機会でもあったわけである」(219p)
と分析していますが、これはまさにその通りで、だからこそ今後の中国の経済運営には注目すべきだと思います。

 また、完成品ではなく、対米輸出を行う中国に先端的な部品を供給する日本の姿というのも見えてきますし、今後のアジア経済について考えるヒントがつまっています。

 最後の提言はやや曖昧ですが、経済危機を振り返り、そして今後を展望する上で有益な本だと思います。

グローバル化経済の転換点 - 「アリとキリギリス」で読み解く世界・アジア・日本 (中公新書)
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2009年11月03日

吉田徹『二大政党制批判論』(光文社新書) 6点

 タイトルの通り、二大政党制とそれを生み出す小選挙区制を批判した本。
 
 2005年の郵政選挙、そして今回2009年の民主の圧勝劇と2回つづけて振り子の針が大きく振れたあとだけに、それを生み出した小選挙区制に対する疑問や批判は当然ながらあるでしょう。
 ただ、この本の二大政党制批判はややこじつけに近い部分があると思います。

 著者は二大政党制になると互いの主張が近づき、似たような政策を掲げるようになる一方で、二大政党が上手く掬いきれない層が極右やポピュリズムに走る可能性があるとしていますが、極右やポピュリズムの台頭は二大政党制の国に特有の現象ではなく、多党制の国でも普通に見られる現象です。

 また、二大政党による対決型を批判して、大連立が必ずしも悪くないというような議論をしていますが(第3章)、そこで安定した大連立の例としてあげられているオーストリアこそ、ハイダーという極右政治家を表舞台に押し上げた国ではないの?

 そして何よりも、アーレントの『全体主義の起源』を引用しながら、「政治生活の不可欠の構成要素としての政党は非常に新しい生まれのものであり、それが生命を維持できたのは明らかにアングロサクソンの二大政党制という形においてだけだった」(ハナ・アーレント『全体主義の起源2 帝国主義』(232p))という、アーレントの指摘にまったく答えていない。
 日本の現在の現象を批判するならともかく、二大政党制を歴史的な面からも批判したいのなら、アーレントが『全体主義の起源2 帝国主義』の第4章で行った、大陸型政党への批判を乗り越えるべきでしょう。

 ただ、前半の小選挙区導入の経緯についての部分や政党制の分析の部分は面白いです。
 著者はまだ若いので、これからもっと本格的な二大政党制批判を期待したいですね。

二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ (光文社新書)
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2009年10月13日

小島寛之『使える!経済学の考え方』(ちくま新書) 9点

 著者が小島寛之で、タイトルがこれだと。以前、同じちくま新書から出た『使える!確率的思考』と同じような本かと思う人も多いかもしれませんが、はるかにスケールがあって面白い本!
 タイトルでスルー仕様としていた人はぜひ手に取って中身を見て下さい。

 小島寛之の本と言うと、数学にも詳しく、経済学における問題を数学のパズル的な手法で紹介するような本が多かったと思います。
 この本も、数学によって経済の問題を読み解こうとする姿勢は同じですが、扱う問題は遥かに大きく、功利主義の検討から始まって、ピグー、ハルサーニ、セン、そしてロールズといわゆる社会哲学の範囲にまで及んでいます。
 
 社会哲学の本を読んで来た者にとっては、功利主義をベースにしたピグーやハルサーニの考えは鮮やかで、「『平等』を導きだす功利主義」という功利主義の新たな側面を感じさせてくれれるでしょう。
 また、これらの考え方を踏まえることでセンの帰結主義への批判もより説得力をもって感じられるようになると思います。

 また、本筋とはちょっとずれる印象もありますが、個人的に特によかったのがケインズについての第6章。
 なぜ、ケインズは人びとの貨幣愛を語るのに「流動性選好」なる一風変わった言葉を使ったのか?
 著者によれば「流動性」=「貨幣」ではなく、「流動性」とはもっと抽象的な観念であり、それは不確実性と強く結びついています。
 
 この不確実性は例えば竹森俊平が『1997年―世界を変えた金融危機』で論じたナイトの不確実性と通じるものであり、また、ロールズの「マックスミン原理」の背景にも想定されているものです。
 
 さらに最後の終章では「何が平等な社会を阻んでいるのか?」ということで、教育に焦点をあて分析を行っています。
 アカロフの「忠誠心フィルター」の考えを使って、教育が必ずしも平等をもたらさないことについて分析したこの章もなかなか考えさせられますし、重要な知見を含んでいます。

 タイトルが中身を矮小化してしまっている気もしますが、最近よく出ている「反経済学」みたいのをうたった本より、圧倒的に中身がありますし、そうした俗流本への素晴らしい反論になっています。

使える!経済学の考え方―みんなをより幸せにするための論理 (ちくま新書 807)
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2009年09月27日

小此木潔『消費税をどうするか』(岩波新書) 4点

 これはややタイトルに偽りがある本。
 「消費税をどうするか」というタイトルですが、「日本の財政をどうするか」というタイトルが正しいと思います。消費税についてのテクニカルな議論を期待すると、肩すかしを食います。

 本書の基本的な流れは、「経済危機で財政の役割が再び重要になってきた」、「財政赤字はなんでこんなに増えたのか」、「消費税導入と税率アップの歴史」、「再分配をどうするか」、「欧米の財政の仕組み」、「これからの日本の税制のあり方を考える」という感じ。
 上記のような事柄の基本的な部分について知りたいというのであれば悪い本ではないでしょう。
 経済学的な裏付けは弱いですが、デフレの問題点などもきちんと指摘してありますし、経済学的に「トンデモ」な部分はそれほどないと思います。

 ただ、日ごろからこうした問題に興味のある人にとってはあまり得るとことのない本かもしれません。
 最近、好調の岩波新書ですが、経済に関しては相変わらすやや弱いですね。

消費税をどうするか―再分配と負担の視点から (岩波新書 新赤版 1204)
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2009年08月28日

岩田規久男『日本銀行は信用できるか』(講談社現代新書) 6点

 日本を代表する経済学者による、まさにタイムリーな日銀批判。
 リーマン・ショック以前に日本は日銀の利上げによってすでに景気減速傾向にあったわけで、現在の不況の隠れた戦犯である日銀の存在に光を当てた本です。

 ただ、全体の主張はともかくとして書き方はそんなによくはないと思う。
 最初に日銀の総裁や理事の資質の問題からとり上げているのですが。「日銀総裁は東大法学部卒が多く、必ずしも経済学の素養のある人がなっていない」という批判は、確かにその通りでしょうが、本の最初に持ってくるような話でしょうか?
 なんだか俗流の官僚批判みたいですし、現在の白方総裁は東大の経済学部卒です。
 日本全体を覆う経済学への軽視を憂うというのはわかりますが、やはりここはバブル以後に、「いかに日銀の金融政策が失敗してきたか」ということをとり上げるべきでしょう。

 あと、日銀のバランスシートについての解説がほとんど出てこないのも不満です。
 日銀が国債の積極的な買い入れや、量的緩和に消極的な理由は日銀のバランスシートが傷むのが嫌だからではないの?
 僕もそんなに詳しくはないので、きちんと説明は出来ませんが、この話を抜きにして、「百年に一度の危機」と言われる中で、日銀が量的緩和への踏み込みをためらう理由を説明出来ないと思うのですが…。

 ただ、本書の後半で主張される「日銀にインフレ目標の錨を」という主張には全面的に賛成。
 国民の生活よりもバランスシートを気にしている(かに見える)日銀はやはり大きな問題で、何かしら日銀に政策目標を持たせるべきでしょう。


日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)
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2009年07月27日

濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書) 9点

 ブログも有名な濱口桂一郎が新書初登場。ブログでは、宿敵の池田信夫氏と同様、口の悪いところがあるので、いい印象がない人もいるかもしれませんが、この本はいいと思います。
 ここ最近、数多くでている労働問題に関する新書の中でも出色の出来。今後、労働問題を語る上で必読の本と言ってもいいのではないでしょうか。

 労働問題に関しては、一方に正社員の既得権を攻撃し規制緩和を主張する池田信夫、城繁幸などがいて。その対極に「小泉改革はすべて悪」みたいな左翼がいて、さらに、若い非正規雇用の人びとの声を代弁するとしている「ロスジェネ」論壇の一陣がいる状況です。
 規制緩和派は正社員の既得権の廃止、特に「整理解雇四要件」を撤廃すれば、雇用が流動化され、非正規雇用の若者にもチャンスが生まれると説きますし、一方、左の人びとは製造業への派遣解禁をはじめとする小泉改革が今の若者の苦境を生んだと主張します。
 そうした対立の中で若者そして多くの労働者は、なかなかこの問題の処方箋を見出し難いというが今の現状でしょう。

 そんな状況に対して、問題を歴史的に分析し、過去からのボタンの掛け違いをきちんと説明してくれているのがこの本。
 この本を読めば、日本独自の労働のスタイル、社会保障と労働条件の齟齬、労使関係の行き詰まり、そういったものが複合的に合わさって今の状況を生み出していることがわかるでしょう。

 序章でも指摘されていますが、日本の労働問題の根っこには「職務のない雇用契約」というものがあります。これは雇用契約を結ぶ時にどのような仕事をするか決まっていないというもので、新卒一括採用のシステムを思い出せば納得がいくと思います。
 新入社員はその会社に「入社」しますが、多くの場合どのような仕事をするのかということは決まっていません。
 この日本独自の雇用契約のあり方が、「同一労働同一賃金」という原則の実現を阻み、年功序列型の賃金や整理解雇の規制を生み出しているのです。
 日本では仕事をするということは、会社のメンバーになることであり、メンバーとして賃金を受け取り、メンバーだから雇用が保護されるという現実があります。

 こういった日本の特殊な雇用契約から、著者は「名ばかり管理職」、「ホワイトカラー・エグゼンプション」、「ワークライフバランス」、「派遣」、「ワーキングプア」などの問題に切り込んでいきます。
 ここで、すべてを説明するわけにはいきませんが、どの問題に置いても歴史や法律を踏まえた上での鋭い分析がなされていると思います。

 例えば、「解雇」の問題を例にとると、確かに日本では整理解雇を行うのは難しいです。しかし、一方で上司の命令した残業を拒否したものに対する懲戒解雇は認められています(日立製作所武蔵工場事件)。また、高齢の母と二歳の子どもを抱える社員が配転を拒否したことから起こった解雇も最高裁で認められています(東亜ペイント事件)。
 このように正社員の既得権というものも絶対的なものでは決してなく、整理解雇に対する規制が厳しいだけなのです。
 そしてこの本では、そうした現状を認識した上で、整理解雇の要件を緩め、懲戒解雇の要件を厳しくするべきだというきわめてまっとうな方向性が示されます。

 こんな形で、専門家の立場から労働問題のボタンの掛け違いが丁寧に指摘されているのがこの本。
 労働省出身の著者がこれだけ問題を理解しているなら、もうちょっと労働法制もなんとかならなかったのか、とは思いますし、最後の第4章の議論に関してはやや意見の違うところもありますが(日本のような同質性の高い社会ではコーポラティズムはうまく機能しないと思う)、この本が非常にためになる本であるのは間違いないと思います。


新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書 新赤版 1194)
4004311942


 
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2009年07月02日

東大作『平和構築』(岩波新書) 6点

 著者は元NHKディレクターで、NHKスペシャル「我々はなぜ戦争をしたのか―ベトナム戦争・敵との対話」、「イラク復興国連の苦闘」などを制作した人物。そうした中で「平和構築」の専門家になりたいと考え、2004年に退職、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学大学院に留学して、国際政治や平和構築について研究しているそうです。

 元NHKのディレクターというだけあって、フットワークは軽くアフガニスタンと東ティモールでさまざまな当事者でインタビューし、「平和構築」には何が必要かということ探っています。
 その中から著者は、和解や国連の「正統性」というものが平和構築には重要であり、欠かせないものであると述べています。

 僕もこの著者の意見はある程度はその通りだと思いますが、やや「後だしじゃんけん」的に見えなくもありません。
 確かにアメリカによるイラク統治は行き詰まり、国連の力が必要とされていますが、では、旧ユーゴはどうだったのか?という問題もありますし、すぐに「これからは国連だ」と言える状況にないと思うのです。

 この本に書かれているのは「正論」ですけど、あくまでも「正論」であって、現実の国際政治や現場の難しさというものを脇に置いた議論のようにも思えます。著者が研究者で、元ジャーナリストという点がそう感じさせるのかもしれません。
 そういった意味で現場で実際に「平和構築」に関わった人物であり、現場の意義を強調した伊勢崎賢治『武装解除』あたりと併読するといいかもしれません。

平和構築―アフガン、東ティモールの現場から (岩波新書)
東 大作
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2009年06月10日

猪木武徳『戦後世界経済史』(中公新書) 8点

 「どう考えても新書で戦後世界経済史はきついんじゃないか?」と思ったのですが、さすが猪木武徳、さすが中公新書。これが、けっこう面白い本に仕上がっています。

 この手の本は、何人かの編著にすると全体の統一性が失われてしまう一方で、一人で書くと明らかに手薄な部分が出来てしまうというケースが多いのですが、この本は統一性がありつつ、全体にも目配せが出来ているめずらしい本。
 もちろん通史ですから、平板な部分もありますし、特に斬新な知見が示されているわけでもありません。
 けれども、ドイツをはじめとするヨーロッパの復興、社会主義経済の行き詰まり、植民地独立が経済にもたらした影響、東アジアの経済成長など幅広い分野にわたって、新しい研究をもとにしながら、バランスのとれた分析がしてあります。

 今回のサブプライム問題に端を発する経済危機に関しても、安易に「新自由主義の終わり」、「経済学の限界」などという言葉に逃げずに、大恐慌との比較から経済学が明らかにしたこと、経済学が出来ることをきちんと示しています。

 この本が中公新書の2000点目のということですが、それにふさわしい価値のある本だと思います。

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)
猪木 武徳
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2009年03月31日

孫崎享『日米同盟の正体』(講談社現代新書) 4点

 日本のこれから先の安全保障を、アメリカの戦略を読み解く事で考えようとしている本。
 個々の材料や着眼点には面白いものがあるのですが、全体としてはあまりまとまっていないのではないかと。

 例えば、イラク戦争を主導したとされるネオコンについても、はっきりと「異質」だと書いている部分もあれば、ソ連消滅後のアメリカは敵としてイラン・イラク・北朝鮮を一貫してその目標としてきた、というような記述もあり、アメリカの戦略の断絶性を見るのか連続性を見るのかはっきりしません。

 また、この手の本にありがちなのですが、この本ではアメリカに比べて日本に戦略は「ない」とする見方が強いです。
 しかし、これはあまり生産的な議論とは言えないでしょう。
 戦略の巧拙は別にしても、小泉政権はイラクでは踏み込んだ対米協調をしながら、北朝鮮では必ずしもアメリカの意に沿ったわけではない外交を展開しました。これも一種の戦略です。
 それをイラクでは対米追従を批判し、対北朝鮮ではアメリカの動向をわかっていなかったと批判するのは、あまりフェアな議論とは言えないでしょう。

 また、「日本はシーレーン構想の目的をわかっていなかった」という話が冒頭になりますが、鈴木善幸首相はともかく、「日本列島浮沈空母論」を唱えた中曽根首相がわかっていなかったということはないのでは?

 国家的な戦略というのは「ある」、「なし」ではなく、あくまでその巧拙で評価されるべきです。その点でこの本の議論はやや乱暴だと思います。
 また、やや「陰謀論」的なものを取り入れすぎている感もあります。

 もう少し客観的な戦略論が読みたかったですね。


日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)
孫崎 享
4062879859


 
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2009年03月17日

岩田規久男『世界同時不況』(ちくま新書) 7点

 今回の世界同時不況についてのコンパクトでなおかつ経済学的に間違いのない入門書だと思います。
 第1章と第2章に関しては、今回の世界同時不況のオースドックスな解説なので、今まで同じテーマを扱った本を読んできた人にとっては必要ないかもしれませんが、第3章以降の、大恐慌、日本の昭和恐慌と「失われた10年」のメカニズムを分析し、今回の不況と比較を行っている部分は、面白いと思います。

 特に昭和恐慌を終らせた高橋是清の「高橋財政」と、「失われた10年」における日銀の行動の比較は興味深いです。
 「ゼロ金利」や「量的緩和」といった思い切った政策を打ち出しているように見えて、実は日銀の政策が中途半端であったことがわかります。

 不満としては今後の対策として財政政策についての検討が少ない点。クルーグマンなどは「もはや金融政策でできることは少なく巨額の財政出動しかない」というような意見を主張していますが、そういった意見に対して少しコメントが欲しかったですね。
 また、これは新書なのでしょうがないと思いますが、「金融商品」の説明や、今後の金融市場のあり方といった部分についてはそれほど深い分析はないです。

 あと、これは全く個人的なことなのですが、昔から岩田規久男の文章には多少「合わない」ところがあって、この本でも前半は少しそれを感じました。
 それでも、今回の世界同時不況の原因と対策の見取り図を知る上で有益な本であることは間違いないと思います。

世界同時不況 (ちくま新書)
岩田 規久男
4480064788

 
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2009年01月26日

山本雅人『天皇陛下の全仕事』(講談社現代新書) 8点

 読んで面白い!という本ではないですが、まさにタイトル通りに「天皇陛下の全仕事」を解説した貴重な本だと思います。
 国事行為から宮中祭祀、そして外国訪問まで天皇がする公的・私的な仕事を網羅していますし、実際に著者が皇室取材を担当した2004年を中心に具体例を挙げながら仕事を解説しているため、たんなる分類や羅列にならず、読みやすいものとなっています。

 内容としては、本当に「天皇陛下全仕事」としか言いようがないのですが、この本を読んで天皇に対する印象が変わる人もいるのではないでしょうか?
 例えば、天皇の忙しさ(土日に行事が入ると休めないし、会う人の数が本当に多い)というものを改めて感じますし、一方で、地方訪問で飛行機を使う時に必ず航空会社の社長が同乗するという話には、予想以上の天皇の「重み」のようなものを感じました。

 また、全仕事を紹介することで、自然今の天皇(今上天皇)の考えや天皇という地位に対する姿勢が浮かび上がってくるところもあり(例えば、異例なものであったサイパン訪問をはじめとする、戦没者追悼へのこだわりなど)、その点でも興味深い本だと思います。

天皇陛下の全仕事 (講談社現代新書)
山本 雅人
4062879778


 
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2009年01月21日

山下一仁『農協の大罪』(宝島新書) 7点

 最近、「7点」ばかりで、われながら優柔不断のような気もしますが、この本も著者の問題に対する熱い姿勢は買うものの、編集の面などでやや詰めの甘さを感じさせる本です。
 著者は元農林水産省の官僚で、現在は農政アナリスト。農政の現場を知る者がその矛盾を日本の農業の問題点を告発した本と言えるでしょう。

 この本で著者が問題とするの以下のようなこと。

 農協は組織維持のために、高い価格による米の販売や高い農薬・肥料・農機具等の農家への販売で、手数料収入を大きくする必要があった。食糧管理制度の下での米価引上げ、減反による米価維持が、農業の振興よりも農協の組織維持のために必要となった。
 この高米価政策により、米作については零細な兼業農家がそのまま留まることになった。しかし兼業農家を維持すれば、農家戸数を多く維持できるので、農協の政治力維持につながった。兼業農家の利益を代弁する農協は、専業農家を育成しようとする農業の構造改革に対して、それは選別政策だとして一貫して反対した。こうして、1961年の農業基本法が描いた農業の構造改革は挫折した。(4ー5p)

 上の引用に見られるように、著者によると農協はすでに「農業」のために働いているのではなく、自らの組織維持、そして自らの政治的な影響力を保つための存在になっており、意欲を持つ専業農家の足を引っ張る存在です。また、最近、サブプライム危機に絡んで農林中金が巨額の損失を出すのではないか?との懸念が示されていますが、この本を読むと、それがおそらく事実だろうと思えます(農林中金の総資産の60%以上が有価証券で運用されているというデータが出てきます)。

 農業保護を除けばGDPへの寄与度は実質ゼロにひとしく、就業人口の46.8%が70歳以上という現在の農業の状況。
 この本を読めば、そうなってしまった原因のいくつ下を知ることができるでしょう。

 ただ、やや繰り返しが多く、記述が体系だっていないのが難点。例えば、日本農業の大きな問題である農地転用についても折りにふれて述べているのですが、きちんと分析した章がないために、断片的な記述に留まっています。

 また、これはあくまで個人的な意見ですが、著者が引き合いに出す補助金をつけて輸出を増やすEUのやり方は、貧しい国の農産物の輸出を疎外するものであり、やはり自由貿易の精神からも問題だと思います。

農協の大罪 [宝島社新書] (宝島社新書)
山下一仁
4796667202


 
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2009年01月04日

福永文夫『大平正芳』(中公新書) 6点

 サブタイトルに「「戦後保守」とは何か」とあって、たんに大平正芳の生涯をたどったものではなく、「戦後保守」政治についての見取り図を与えてくれる本です。
 いわゆる「三角大福」の三木武夫、田中角栄、福田赳夫といったライバルと池田勇人や佐藤栄作といった上の世代の人物像を描くことで、自民党の中での系譜、そしてそれぞれの政治家の個性がわかるようにっており、そこの部分は、「大平総理の死去」が一番最初に覚えているニュースで、「三角大福」をほぼ知らない自分にとってはなかなか面白いものでした。

 ただ、大平正芳の評伝とすると物足りないものがあると思います。
 まず、権力の中枢に入ってからの記述が少なく、大平正芳が上に立つ政治家としてどのような決断を行ったということがわかりません。
 例えば、一般消費税の導入問題ですが、周囲の反対の大合唱にも関わらずなぜあそこまでこだわったのか?そしてそれなのにどうして選挙の直前で断念したのか?
 このあたりはもっと突っ込むべき所でしょう。

 また、派閥の長としていかに資金を集め、首相にまで登り詰めたのかという部分ももっと書いて欲しいです。
 大平正芳は田中派に支援されて首相の座をつかむわけでが、その田中派と大平正芳の関係ももう少し書くべきでしょう。

 全体的に、著者が文献の参照を中心にこの本を書いているため、まだ本になっていない近年の部分、なかなか活字にはならない部分が抜けている感じがします。

 ちなみに大平正芳の本なのですが、個人的にはこの本を読んで福田赳夫の方に魅力を感じました。

大平正芳―「戦後保守」とは何か (中公新書)
福永 文夫
4121019768


 
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2008年12月24日

高橋洋一『この金融政策が日本を救う』(光文社新書) 8点

 「今この時」にかぎって評価するならば9点、いや10点でもいいかもしれません。
 竹中平蔵のブレーンとも呼ばれた元財務官僚で、プリンストン大学で現在のFRB議長バーナンキの元で金融について学んだ高橋洋一が、日本銀行をタコ殴り!

 サブプライムローンの直撃を避けながら、なぜか先進国でもトップクラスの景気後退と株価の下落に見舞われている日本。
 その原因は著者によれば日銀の金融政策の失敗であり、日銀のバランスシートのみを考え、利下げや量的緩和を嫌う日銀のスタンスです。
 著者の言うように現在の不況のもっとも大きな原因が2006年の日銀の量的緩和の解除を含めた金融引き締め政策なのかということについては判断がつきかねる所はありますが、一連の日銀の判断が日本の景気にマイナスの影響を与えたのは確か。
 現在の不況について批判されるべき、そして行動を起こすべきなのが、政府では泣く日銀であるというのはその通りでしょう。

 「緊急出版」と銘打っているだけあって、記述のまとまりとか厳密さには欠ける面もありますが、まさに今現在起こっていること、今現在やるべきことが書かれており、今、広く読まれるば基本ではないでしょうか。

 「金利引き上げ」というトンデモな主張をしている民主党・枝野議員にはぜひ読んでいただきたい!(名前は出てこないですが本の中でも触れられています)

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)
高橋洋一
4334034845


 
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2008年12月07日

中村逸郎『ロシアはどこに行くのか』(講談社現代新書) 6点

 プーチンの指導下にあるロシアと、今年から始まったプーチン・メドベージェフ体制について分析した本。
 目次は以下の通りです。

序章 2008年正月
第1章 ガリーナ・ヴラジーミロヴナの長い1日
第2章 税関ブローカー・イーゴリの憂鬱な日常
第3章 こんにちは、ヴラジーミル・ヴラジーミロヴィチ!
第4章 タンデム型デモクラシー
第5章 皇帝(ツァーリ)を待ちながら
終章 2008年9月


 このうち、第1章ではプーチン政権下での選挙違反の実態、そして第2章では税関に置ける汚職の実態が語られます。
 両者とも当然、犯罪行為なので「驚くべき実態!」というように感じるべきなのかもしれませんが、ロシアに関しては「予想通り」というのが率直な感想。
 メドベージェフの得票が90%を超えてしまい、慌てて区長がメドベージェフの得票率を落としたという話などは「いかにも」と感じます。
 
 後半はプーチン・メドベージェフ体制の今後を占う分析で、プーチンがメドベージェフに不人気な政策をやらせて自らの権威を保っていくのではないか?という予測が述べられます。
 この意見については個人的にもたぶんそうなるのではないかと思います。外交上の西側への譲歩などをメドベージェフにやらせることでプーチンは「強い指導者」像を維持できるでしょう。

 ただ、問題となるのは内政面について。
 今後、原油価格の低迷や外国からの投資の減少によってロシア経済は伸び悩むと考えられますが、そのときプーチン体制が維持できるのか?という分析がないのが残念です。
 大統領であれば、内政に責任のある首相を更迭することで自らの責任を回避することができましたが、首相になったプーチンにはそれができません。
 これは今後のプーチン、そしてロシアの行く末を考える上で大きな問題ではないでしょうか?

ロシアはどこに行くのか─タンデム型デモクラシーの限界 (講談社現代新書)
中村 逸郎
4062879689


 
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2008年11月30日

原田泰・神田慶司『物価迷走』(角川ONEテーマ21) 9点

 なんとなく中身が薄い印象のあった「角川ONEテーマ21」ですが、これは良い本だと思います。単に最近の原油価格や穀物価格の高騰の原因を解説しただけでなく、インフレ・デフレのメカニズムを丁寧に解説してあり、物価や経済に対する思い込みを正してくれる本です。

 今年の夏にピークを迎え、現在は低迷しつつある原油価格。一般的に原油価格の上昇は、ガソリン価格、電気料金、プラスチックの価格などの上昇をもたらすために、それだけでインフレをもたらすと思われています。
 しかし、この本で著者が強調するのは「それをきっかけに賃金の上昇が起こらなければ本格的なインフレにはならない」ということです。
 つまり、いくらガソリン価格が上がっても、賃金に変化がなければ、人びとはガソリン価格が上がった分、何かを買い控えるわけで、それは他の商品に対する値下げの圧力になります。
 ガソリン価格など石油関連の商品の価格が上がっても、それ以外が値下がりをすれば、本格的なインフレにはならないのです。

 著者は、このことを本格的なインフレとなった第1次石油危機と、日本では本格的なインフレに至らなかった第2次石油危機、そして第3次石油危機とも言うべき現在の状況を比較しながら指摘します。

 そして、この賃金の伸びをもたらすかどうかを決めるのはマネーの量であり、現在の日銀は物価上昇率0%あたりを目標に金融政策を行っているために、今の日本では第1次石油危機のようなインフレは起こらないというのが著者達の結論です。
 (ちなみにこの本にはっきりと書かれているわけではありませんが、この本を読むと、日本の名目賃金が上がらないのは日銀がそういう政策をとっているからだという事実にも気づくでしょう)
 

 また、アレクサンダー大王の東征がもたらしたインフレから、第1次大戦後のドイツ、オーストリア、ハンガリー、ポーランドでのハイパーインフレ、そして現在のジンバブエでのハイパーインフレなども分析もあり、いずれもマネーの量にその最大の原因があることを明確に示しています。

 タイムリーな話題をとり上げながら、同時に幅広く深い分析も行っている非常に酔い本だと思います。

物価迷走 ――インフレーションとは何か (角川oneテーマ21)
神田 慶司
4047101656
 
 
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2008年11月13日

増田茂行『100円ショップの会計学』(祥伝社新書) 7点

 タイトルの通り、100円ショップの儲けもからくりと、その会計分析、そして財務諸表の読み方と会計の基本がわかるという内容が盛りだくさんの本。
 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』以降、このような本は多く見かけますが、この本は100円ショップの商売の秘密とともに、会計の基本についてかなりきちんと書いてあり、たんなる読み物だった『さおだけ屋〜』に比べると、会計の入門書にもなっているお得な本と言えるでしょう。

 数量をさばくことによる利益の確保、赤字覚悟の商品で客を引き寄せるロスリーダー戦略、自前出店ではなくてテナントとして出店する軒先出店など、知らない人には「なるほど」と思える100円ショップの戦略の紹介も面白いですし、この手の話題を知っている人にも第5章の九九プラスとキャンドゥの財務諸表の比較は面白いでしょう。
 この第5章を見ると、生鮮食品を扱うか否かが財務に当て得る影響、両社に共通する利益率の低さ、そして意外なキャンドゥの健全経営などがわかって、財務諸表の読み方とともに、両社の類似点と相違点がわかって興味深いです(近くに九九プラスとキャンドゥがない方にはピンと来ないかもしれませんが…)。

 会計に関しては詳しくないので専門的な批評はできませんが、入門書としては悪くない本なのではないでしょうか。

100円ショップの会計学-決算書で読む「儲け」のからくり (祥伝社新書130) (祥伝社新書 (130)) (祥伝社新書 (130))
増田 茂行
4396111304


 
 
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2008年10月25日

吉田悦章『イスラム金融はなぜ強い』(光文社新書) 6点

 近年、急激にその存在感を増しているイスラム金融についての入門書。
 
 知っている人も多いと思いますが、イスラム教の教えでは利子を禁止しています。
 では、利子が禁止されている中でイスラム金融はどのように利益を得ているのか?そのスキームを紹介してくれるのがこの本です。

 例えば、日本のイオン・クレジット・サービスのマレーシアの現地法人が提供する「バイ・アル・イナ」という仕組みは以下の通り。

1、顧客にダイヤモンドの写真を見せ、ダイヤモンドを5000リンギットで販売
2、すぐにそれを4000リンギットで買い戻し、顧客に4000リンギットを渡す
3、最初のダイヤモンドの代金の5000リンギットの代金は後日の払いとする

 これによって、4000リンギットの貸し付けと同じ効果が得られ、差額の1000リンギットが金融機関の利益となります。
 このように実際の商品を仲介させることで、「利子」を回避するのがイスラム金融の特徴です。
 
 ただ、この「バイ・アル・イナ」はあまりに形式的すぎると考えるムスリムもいるようで、より教義に厳しい中東地域では認められないケースもあるようです。
 このあたりの地域差も興味深いものがあります。

 イスラム金融についての知識というのは、普通の人にとってそれほど必要な知識であるとは思いませんが、わかりやすい記述ですし、イスラム金融の実態を通じて、イスラムの教えが厳格である一方で、時代の変化に合わせて融通をはかっていくものであることを教えてくれる本だと思います。

イスラム金融はなぜ強い (光文社新書 372)
吉田悦章
4334034756


 
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2008年10月18日

五十嵐仁『労働再規制』(ちくま新書) 4点

 日雇派遣の規制など一時の規制緩和ムードが完全に後退した労働政策。この労働政策を中心に、規制緩和やいわゆる小泉構造改革がいかに失速したかを辿った本。
 著者の言う2006年に潮目の変化があったというのはその通りだと思いますし、小泉改革以前から10年以上も規制緩和委員などを歴任してきたオリックスの宮内義彦への注目など、興味深い点もありますが、叙述に客観性や学問的な厳密さがなく、学者が書いたはずの本なのにアジテーションの本と化してしまっていると思います。

 例えば、第2章で規制緩和の負の側面を表すものとして近年の企業不祥事を列挙していますが、カネボウの不正経理とかハンナンのBSE対策助成金の不正受給のどこらへんが規制緩和の負の側面なのでしょうか?

 そして極めつけは、終章におかれた次の文章。

 アメリカによる新自由主義の押し付けによって大きな経済的困難に直面した中南米では、より左翼的な方向での打開策が模索されています。非米・反米的な左派政権が次々と樹立され、「反米大陸」と言われるほどです。新自由主義からの反転と対米自立への転換という二つの意味で、日本の”お手本”となるにちがいありません。(229ー230P)

 ”お手本”にするのがどの国かはわかりませんが(まさかベネズエラじゃないですよね?)、日本の”お手本”となるような政策が行われているかどうかきちんと検証したのか、と。

 テーマとしては面白いので、もうちょっと冷静な分析力のある人に書いて欲しかったです。

労働再規制―反転の構図を読みとく (ちくま新書 748)
五十嵐 仁
4480064508


 
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2008年09月14日

野中尚人『自民党政治の終わり』(ちくま新書) 7点

 まさにタイムリーな本。
 自民党政治のシステムと行き詰まりを描いた本です。

 まず、第1章では自民党の中枢にいたインサイダーとして結果的に自民党を分裂させ、小選挙区制を導入した小沢一郎、第2章では党のアウトサイダーとして総裁に登り詰め、自民党の勢力を盛り返すと同時にその基盤を破壊した小泉純一郎の姿を描くことで、現在の自民党の状況を描き出し、その後、歴史的分析、国際比較へと入っていきます。

 自民党のボトムアップ的な政策決定システム、議会が弱く行政官僚の強い日本の政治の源流を江戸時代の幕府政治や農村自治に求める部分は、面白いものの、明治期や戦前期の分析がないため、やや弱い気がします。
 けれども、国際的に見て、日本は議会運営における政府の権限が弱く、政府が与党を頼らざるを得ないとする分析は説得力があり、日本の政治を単純な官僚支配と見る向きより、一段と深いものになっていると思います。

 官僚が議会対策のために与党を頼らざるを得ず、またそのような中で自民党が与党でありつづけたため、自民党内部に政調会などが重要な存在となり、その結果として逆に国会審議が形骸化していく。この流れに関しては非常に説得力をもって示すことができていると言えるでしょう。

 ただ、最後に著者がこれからの政治の理念として出してくる「リベラル・リーダーシップ」なる概念はわかりにくいし、やや地に足がついていないような気もします。

自民党政治の終わり (ちくま新書 741)
野中 尚人
448006446X


 
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2008年08月29日

池田信夫『ハイエク』(PHP新書) 6点

 20世紀に経済学・政治哲学などの幅広い分野で活躍したハイエクの思想を紹介した入門書。
 著者の池田信夫は、その博識とNHK勤務の経験、そしてラディカルな意見で有名なブロガーですが、この本は入門書としてあまり偏った解釈をせずに素直にハイエクの思想を紹介していると思います。

 ハイエクはフリードマンと一緒くたにされ、「新自由主義」のレッテルを貼られるケースが多いですが(そして批判されるか、マルクスを葬り去った人物として持ち上げられる)、そういった粗雑な解釈に対しては、きちんと両者の違いを説明していますし、後年の思想も紹介することで「楽天的な自由至上主義者」というような誤解もされないようなっています。

 ですから、「ハイエクという名前を知っているけどどんなひとかはわからない」という人にはお薦めできる入門書だと思います。
 ただ、ハイエクの本をある程度読んだことのある人に取っては物足りないでしょう。
 200ページほどの短い新書なので仕方がないですが、著者の新しい解釈や新しい発見というものは特にないので、ハイエクの本を読んだことある人は特に読む必要はないかもしれません。

ハイエク 知識社会の自由主義 (PHP新書 543)
池田 信夫
456969991X


 
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2008年07月28日

廣瀬陽子『コーカサス 国際関係の十字路』(集英社新書) 8点

 以前、同じ著者の『強権と不安の超大国・ロシア』(光文社新書)を紹介し、「面白い」と書きましたが、あまり時期をおかずに再び新書が出されました。
 
 『強権と不安の超大国・ロシア』はコーカサス(カフカス)を専門とする著者が、そのコーカサス諸国やそれ以外の場所に点在するに未承認国家の実態や自身の様々な経験をもとに、旧ソ連諸国の現在の様子とロシアの姿を描いた作品でしたが、この『コーカサス 国際関係の十字路』は著者の専門であるコーカサス3国(グルジア・アゼルバイジャン・アルメニア)とロシア内の北コーカサス(チェチェン・北オセチアなど)の現在の政治情勢を紹介した本。

 記述は教科書的なので、読み物としては『強権と不安の超大国・ロシア』のほうが面白いですが、この本も非常に多面的かつわかりやすくこの地域の情勢が述べられていて非常に面白い。
 
 国内に2つの未承認国家を抱え、ロシアの圧力に対抗するために欧米への接近を目指すグルジア。豊富な天然資源によって安定した支配を確立しようとするアゼルバイジャン。そして、国は貧しいものの各国にいるアルメニア移民のネットワークによって欧米諸国に大きな影響力を持つアルメニア。
 これら複雑な事情を持つ3国の姿、そしてロシアや欧米、さらには国境を接するイランやトルコがどのようなスタンスでこれらの国々と向き合おうとしているかがわかります。
 特にアルメニア人がディアスポラの民として、ユダヤ人的な地位を築きつつある現状には、想像以上のものがありました。

 また、カスピ海を「海」とするか「湖」とするかという天然資源を背景にした問題も、日本のマスコミはあまり報じない問題で面白かったです。

 コーカサスの情勢を知るために有益な本だと思いますし、また、先日紹介した常岡浩介『ロシア 語られない戦争』のバックグラウンド知る上でもいい本ですね。

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A) (集英社新書 452A)
廣瀬 陽子
4087204529


 
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2008年07月14日

常岡浩介『ロシア 語られない戦争』(アスキー新書) 8点

 副題は「チェチェンゲリラ従軍記」。「従軍記」とあるように、単なるルポの域を超えてチェチェン独立派のゲリラ舞台と行動をともにした著者の記録です。
 イスラム教に改宗し、カフカスの山中を飢えや寒さと戦いながら行軍した著者。その著者の書いたこの本には、確かに著者の言うように中立的で客観的な記述を期待することはできないですし、チェチェンの独立運動の概観を知りたい人にお薦めできる本ではありません。
 けれでも、著者の体験した厳しさを通じて、ロシアによって弾圧されているチェチェンの置かれた状況の厳しさ、酷さというものが十分に伝わる本になっていると思います。

 そして、この本のもう一つの読みどころが、プーチン政権下で進んだ、KGBの跡を継いだというロシア連邦保安局(FSB)の恐るべき実態。
 以前紹介した、廣瀬陽子『強権と不安の超大国・ロシア』で、全体的に面白いけど、第3章の「ロシアのKGB的体質」がいまいちだということを書きましたが、この本はまさに「ロシアのKGB的体質」という闇を明らかにしています。

 もちろん、この本に書かれたことをすべて信じるわけにもいかないかもしれませんが、チェチェン独立派のイメージを低下させるための数々の工作、真実を明らかにしようとするジャーナリストの暗殺など、日本ではあまり話題にならなかったFSBの秘密工作の数々が書かれており、プーチン政権の恐ろしさの一端を窺うことができます。

 また、ロシアの諜報機関によってロンドンで暗殺されたと言われているリトビネンコ氏への著者のインタビューが収録されているのもこの本の魅力の一つ。
 リトビネンコという男が一体どのような存在だったのか?そしてリトビネンコがロシアの何を告発しようとしていたのかということがわかります。

 本としてはややまとまりがない部分もありますし、いろいろな理由もあって語りきれていない部分もあるのですが、今まで日本のマスコミではあまりとり上げられることが少なかった、ロシアとチェチェンの闇をとり上げた読み応えのある本だと言えます。

ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記 (アスキー新書 71)
常岡 浩介
4048671863


 
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2008年06月19日

森政稔『変貌する民主主義』(ちくま新書) 6点

 「おわりに」の部分に「本書を執筆するうえでの直接的なコンテクストとしては、何度も言及したように、二〇〇五年の総選挙における小泉政権の大勝利があり、新自由主義が民主主義に落とす大きな影について考えてみたいということがあった」とあるように、「小泉政治」のインパクトをうけて、民主主義をもう一度政治思想史の面から捉えてみた本。
 第1章は「自由主義と民主主義」、第2章は「多数と差異の民主主義」、第3章は「ナショナリズム、ポピュリズムと民主主義」、第4章は「誰による、誰のための民主主義」となっています。

 このうち、自由主義と民主主義の間の緊張関係をえぐり出した第1章は面白いですし、少し「お勉強」という感じになりますが第2章も理解はしやすいと思います。
 逆に第3章と第4章は、論旨がハッキリせずにわかりにくい。

 でも、これは仕方がない面もあって、「小泉政治」を批判的に捉えながら「真の民主主義」を擁護するってのは、もともと無理があるんじゃないでしょうか?
 もちろん、「小泉政治」に対する否定的な評価はあって当然で、2005年の総選挙の結果を「衆愚政治の成れの果て」と批判することも可能でしょう。
 そして、こうした現象を防ぐために民意がストレートに反映しにくい選挙制度の導入などを訴えるのもありでしょう。

 けれども、2005年の総選挙における小泉自民党の勝利というのはいうのはまぎれもない民主主義の結果であって、それを「真の民主主義とはちがう」というような形で批判するのは、やはり筋違いではないでしょうか?

変貌する民主主義 (ちくま新書 722)
森 政稔
4480064249


 
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2008年06月15日

宮城大蔵『「海洋国家」日本の戦後史』(ちくま新書) 9点

 それほど期待をしていなかった本だったのですが、これは面白い。
 タイトルからすると単なる日本の戦後外交史を「海」の視点から切り取った本を予想しましたが、これは戦後初めて国際政治に出現した「アジア」という地域と国々、そしてそうした国々と日本の関係を分析した本。

 分析の中心となるのはインドネシア。
 第2次大戦中、日本の「南進」政策によって占領され日本の資源調達のための拠点となったインドネシアは、スカルノによって独立を勝ち取り、バンドン会議を開くなど、第3世界のをリードする国としてその存在感を示します。
 
 一方、日本は1949年の中華人民共和国の成立により「北進」を封じられ、再び「南進」政策を目指します。
 東南アジア諸国に占領の爪痕を残した日本ですが、欧米諸国の植民地支配が終った後の資本の拠出手として、対中国のバランサーとして、東南アジアでは日本の存在が求められます。

 そんな中でスカルノのインドネシアは、ベトナム戦争を戦うアメリカの「冷戦」、マレーをめぐってインドネシアと争いつつアジアからの影響力を残した上での撤退を進めたいイギリスの「脱植民地」、共産主義を輸出しようとする中国の「革命」、そして経済発展によって地域の安定を図ろうとする日本の「開発」がせめぎ合う場所となります。

 このあたりの記述は非常に面白く、自由主義陣営としてひとくくりにされてしまいがちな、アメリカ・イギリス・日本のそれぞれちがった思惑・利害をもち行動していたという国際政治のダイナミズムがわかります。
 
 そしてスカルノを追い落としたスハルトと日本の関係もまた面白い。
 特に1972年、佐藤栄作の後継をめぐって田中角栄と福田赳夫が自民党の総裁選を争っている最中にスハルトが突如として来日しますが、これは日本の中国への接近にブレーキをかけるためのものでした。
 日本とオーストラリアを引き込んで中国に対抗しようというスハルトの青写真と、中国への接近を図る田中角栄の当選を阻止するためのスハルトの福田派への手みやげ、いずれも興味深い話ですし、中国のますます大国化しつつある現在にも通じる話だと思います。

 戦後の「日本」、そして「アジア」を考える上で非常に有益な本と言えるでしょう。

「海洋国家」日本の戦後史 (ちくま新書 727)
宮城 大蔵
448006432X

 
 
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2008年06月10日

菊池信輝『それはないでしょ!?日本の政治』(アスキー新書) 4点

 2006年5月から2008年1月まで著者が『月刊アスキー』と女性ファッション誌の『MISS』に寄せた政治時評をまとめたもの。
 一つ一つが短く読みやすいと言えば読みやすいですが、個人的には内容に疑問符が…。
 
 安倍政権を新自由主義と保守主義の同床異夢と見たり、財界と正解の関係など鋭い指摘もあるのですが、リーダーの条件を持っている人と言って小沢一郎を挙げて、「政治理念も一応一貫している」と評価するのはどうかと(加筆部分で最近の姿勢に疑問符をつけているとはいえ)。

 もちろん、政治家に対する評価は人それぞれでしょうが、小泉首相を「国民に対する人気だけを考えたポピュリスト」(98p)として、小沢一郎を評価する姿勢は、政治時評としては少しズレてしまっているのではないでしょうか。
 
 橋下知事の手法を見てもわかるように、小泉首相退陣後も政治の世界は「小泉的なるもの」に覆われており、賛否は別としてももうちょっと「小泉政治」のインパクトを受け止めないとこれからの政治は見通せないのではないでしょうか?

4756151388それはないでしょ!?日本の政治 (アスキー新書 52) (アスキー新書 52)
菊池 信輝
アスキー 2008-03-10

by G-Tools



 
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2008年05月20日

高橋洋一『霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」』(文春新書) 7点

 竹中平蔵の懐刀として郵政民営化をはじめとする小泉改革のブレーンとなり、小泉退陣後は中川秀直の「上げ潮」路線の理論を生み出した高橋洋一が、日本の財政と政治制度に関して斬りまくった本。
 
 帯に「高校1年生〜財務官僚・日銀マン向き」という皮肉たっぷりの煽り文句がありますが、確かにわかりやすい。
 編集者が高橋洋一にインタビューした形なので、本自体は薄いですし、あっという間に読めてしまうものなのですが、内容は「埋蔵金」の話から、変動相場制のもとでは公共事業は意味がないというマンデル・フレミング理論、日銀総裁の人事と日銀の役割、公務員制度改革、地方分権と多岐にわたっており、読み応えはあります。

 かなり乱暴に論じている部分もありますが、今までの「リフレ派」にはないわかりやすさで、この高橋洋一の本によって、「デフレが悪であって、デフレのもとでは経済成長も財政再建もままならない」という、常識的なことが世の中に広まることを期待したいです。

 特に「低金利によって家計の所得が失われた」とか言って、日銀の副総裁人事で伊藤隆敏を拒否した民主党の先生方にはぜひ読んで欲しい!

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)
高橋 洋一
4166606352


 
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2008年03月10日

中尾武彦『アメリカの経済政策』(中公新書) 6点

 ここ10年ほどのアメリカ経済の動きと今後の行方を語った本。
 著者は財務省の国際局次長で、IMFに出向したり在米大使館の公使などを務めた人物です。
 アメリカの生産性の伸びと経済成長、アメリカのマクロ経済政策の動き、金融センターの変革などについて手堅くまとめてあると思います。アメリカ経済の強さや現在のサブプライム問題の背景などについて知りたい人にとってはいい本でしょう。
 ただ、ある程度新聞記事や経済関係の本などを読んでいて、アメリカ経済についてフォローしている人にとっては、あまり目新しい内容はないかもしれません。

 それでも、日本人は株などへの投資を好まず貯金雄心の安全志向だという話によく出てくる日米の金融資産の構成比のデータが、実はアメリカは富裕層に金融資産が集中しているからそのようになるのだということを述べたコラムなど、知らなかった部分もあり、いくつかの新しい発見もありました。

アメリカの経済政策―強さは持続できるのか (中公新書 1932)
中尾 武彦
4121019326


 
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2008年02月27日

廣瀬陽子『強権と不安の超大国・ロシア』(光文社新書) 9点

 多少点数を甘めにつけた気もしますが、第2章の「『未承認国家』という火薬庫」が非常に興味深かったのでプラス1点という感じで。

 wikipediaに「事実上独立した地域一覧という項目がありますが、そこに台湾やアチェなどと並んで出てくるのが、旧ソ連地域にある南オセチア共和国、沿ドニエストル共和国といった名前。
 日本の新聞などを読んでいる限りではほとんどわからないこういった地域ですが、この本の著者はその一つの沿ドニエストル共和国に実際に入国(?)し、その内情をつぶさに観察しています。

 沿ドニエストル共和国はもともとモルドヴァの一地域だったのですが、ロシア系住民が多くロシア軍のバックアップのもとに事実上の独立状態を維持しています。
 そんな反独立状態の地域での、国民に広がるソ連へのノスタルジー、政治家とつながる巨大企業、兵器密輸に関する黒い噂。こうした実態を、著者は自らの体験とともに描き出しており非常に面白いです。

 また、著者が重点的に研究しているアゼルバイジャンの様子も興味深いものがあり、ここでも民族紛争の中のロシアの影をうかがい知ることができます。

 ただ、本の構成としては第3章の「ロシアのKGB的体質」の後半がちょっと浮いているような気がします。
 全体として旧ソ連の共和国から見たロシアという視点で描かれているのですが、ここはロシアについての直接的な記述であったり、旧社会主義国の体質を描いた部分であって全体のテーマからは少し外れます。
 編集の方で面白いと思っていれたのかもしれませんが、直接的にロシアを描く部分はエピローグの「強いロシアとプーチンのゆくえ」だけにした方が良かったような気がします。
 (もっともタイトルで「ロシア」をメインに据えてしまっているので、タイトルからすると仕方がないか…。ただ、タイトル自体がちょっとズレていると言えるとも思います。)

 ちなみに著者は1972年生まれの女性なのですが、章の間のコラムで語られる彼女の壮絶な体験(襲われそうになったり、監禁されて結婚を迫られたり、テロリストに間違われそうになったり)も一読の価値ありです。

強権と不安の超大国・ロシア 旧ソ連諸国から見た「光と影」 (光文社新書)
廣瀬 陽子
433403439X


 
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2008年02月21日

清水美和『「中国問題」の内幕』(ちくま新書) 7点

 タイトルからすると、中国の貧富の差や食品安全問題、反日の動きなどの問題をとり上げた本かとも思いますが、実際は中国政治の「内幕」についての本と言っていいでしょう。
 胡錦涛政権における日本に対する「歴史カード」と「台湾問題」の関係、陳良宇上海市書記の解任事件に見られる胡錦涛グループと江沢民グループの権力争い、有力者の子息による太子党の存在、私有財産の保障への大きな一歩となる物権法の制定、言論統制をめぐる争いなどを、中国の政治の内側で行われている権力闘争と絡めて鮮やかに描き出しています。

 特に胡錦涛がその権力基盤とする共産主義青年団が実務の経験が浅い分経済問題に暗いと思われており、逆にコネによって実務経験を積んだ太子党の面々が経済界などから支持されている構図などは、今後の中国の政治を見ておく上で押さえておくべき構図でしょう。

 ただ、この本で語られていることは、あくまでの著者の「仮説」であって真実であるとは限りません。
 「梶ピエールの備忘録。」でも書かれているように、表の情報だけでは推し量ることのできない中国政治の世界では専門家がそれぞれ自分なりの推理によって見通しを立てざる得ない状況でして、この清水美和の考えが正しいとは限りません。

 まあ、そういったことは頭に入れておかなければなりませんが、中国政治に興味があるものにとって面白い読み物であることは確かです。

「中国問題」の内幕 (ちくま新書 706)
清水 美和
4480064095


 
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2008年02月16日

中野雅至『公務員クビ!論』(朝日新書) 6点

 奈良県の市役所勤めから国家公務員1種に合格し労働省へ、そして県庁などへの出向も経験し、現在は兵庫県立大学の准教授という公務員人生を送っている著者が、現在の公務員のおかれた状況や今後の公務員改革の行方について述べた本。
 さすがに長年、公務員の現場を歩いてきただけあって、紹介される事例は豊富で、一口で公務員と言っても1種のキャリアと2種、そして地方公務員では仕事の内容、置かれた状況が違うという事がよくわかる内容になっています。

 「『できる人間』を背後に隠し、『できない人間』を窓口に出してしまう役所の悪弊」など中の人間だからこそ見えた公務員への悪評の要因の分析、既に始まっている公務員改革の現実、キャリアの直面している厳しい状況などによって、著者は公務員が激しい変化の中に置かれている事を訴え、何事も「民間へ倣え」的な改革を危惧します。
 
 この著者の危惧はそれなりに説得力のあるもので、賛成できない部分もあるものの一読の価値があるものだと思います。
 ただ、「市町村役場などには、日本の経済成長が著しい頃に高卒で公務員になり、市民課の窓口やお茶くみなどを主な仕事にしている女性が結構います。彼女達の給料は驚くべき事に1000万円近辺です」(144p)という現実がある限り、残念ながら公務員へのバッシングというものは止まらないんでしょうね。

公務員クビ!論 (朝日新書 96) (朝日新書 96)
中野 雅至
4022731966


 
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2008年02月10日

坂口孝則『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書) 5点

 タイトルだけから見ると価格の秘密に迫ったような本にも思えますが、サブタイトルに「『利益』と『仕入れ』の仁義なき経済学」とあるように、著者は長年仕入れの仕事を担当してきた人であり、この本も2章以降は仕入れの話が中心になっています。

 コーヒーショップが椅子を固くして回転率を上げるとか、家電量販店の販促協賛金とか、百円ショップの仕入れの秘密とか、知らない人にはいろいろと面白いネタがあると思います。
 ただ、個人的にそうした話は知っていたのでいまいちインパクトがなかったですね(量販店での価格交渉の描いた部分は想像以上で驚きましたけど)。

 価格や仕入れの実情についてあまり知らないけど、手軽に価格の秘密について知りたいという人にはいいかもしれません。

牛丼一杯の儲けは9円―「利益」と「仕入れ」の仁義なき経済学 (幻冬舎新書 さ 5-1)
坂口 孝則
4344980700


 
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2008年01月04日

田村秀『自治体格差が国を滅ぼす』(集英社新書) 4点

 千葉県浦安市、愛知県豊田市、兵庫県芦屋市などの「勝ち組自治体」と北海道夕張市、千葉県木更津市、大阪市西成区などの「負け組自治体」の格差の原因とそこから生まれる問題を論じた本。もちろん、「勝ち組」「負け組」というのは主に財政面で見た勝ち負けであって、それがすべてというわけではないのですが、それでも自治体間の財政面の大きな格差を知ることが出来るようになっています。
 ただ、あくまでもそこで知ることが出来るのは個別の事例であって、その背景にある問題をえぐり出す点については弱いと思います。
 三重県亀山市など企業誘致に成功した例など、自治体活性化の例もあげられていますが、格差を生み出す税制などへの言及は少なく、結局は個別の成功例の提示にとどまってしまっています。
 また、三位一体の改革をはじめとする近年の地方自治改革が何をもたらすかということにももっと触れて欲しいですね。

自治体格差が国を滅ぼす (集英社新書 422B) (集英社新書 422B)
田村 秀
4087204227


 
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2007年11月08日

水谷尚子『中国を追われたウイグル人』(文春新書) 7点

 ウイグル独立運動に関わったとされ中国から弾圧を受け、海外に逃れた亡命者たちに対するインタビュー集。

 インタビューの対象となっているのは、中国政府に対して武装闘争をしたものではなく、いずれもウイグル人に対する差別の中で民族意識に目覚め、ウイグルの現状を変えたいと願い平和的に政治活動を行おうとした者、あるいはウイグルの現状に絶望したまたまアフガニスタンに行った者たちなどです。

 前者の代表は、ノーベル平和賞の候補にもなっているというウイグル人女性のラビア・カーディル。
 文革の中、夫に捨てられ、洗濯屋から「中国十大富豪」の一人と呼ばれるまでになった半生、そして政治犯として中国当局に捕まってからの体験は凄まじいものであり、思わず引き込まれます。

 また、後者の中にはアフガニスタンで捕まったことから、アメリカのテロリスト収容所であるグアンタナモ基地に収容されたものもいるのですが、「グアンタナモは中国の監獄に比べればマシでした。」と発言するものもあり、中国のウイグルでの弾圧の恐ろしさを感じさせます。

 さらには、中国がウイグルで行ったとされる核実験による放射能汚染と、それによって引き起こされた様々な病気と後遺症の問題についても、その調査を行った医師へのインタビューを通じてとり上げています。

 ただ、このような内容は、一方で反中派の人々の溜飲を下げるために読まれてしまう危険性もあります。
 このあたりの事情は、著者もしっかりと認識しているようで、「おわりに」の部分でそのことについて懸念を示し、この問題が朝日新聞や『世界』といった、いわゆる「左翼的」と思われているメディアでとり上げられてきたことをきちんと指摘しています。
 この問題を取り巻く政治的な状況を、著者がしっかりと認識している証拠でしょう。

 もっとも、著者はこの問題の専門家ではないので、ウイグル問題の歴史的経緯、中国のウイグル問題に対するスタンスの変化などについてはあまり触れられていません。
 しかし、全体として非常に貴重な記録であり、読む価値のある本と言えるでしょう。

中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧 (文春新書 599)
水谷 尚子
4166605992

 
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2007年10月25日

竹森俊平『1997年―世界を変えた金融危機』(朝日新書) 8点

 宮崎義一の『複合不況』をはじめとして『失われた10年」の始まりや前半の姿について書かれた本は新書でもいろいろとありましたが、この竹森俊平『1997年―世界を変えた金融危機』は、「失われた10年」の後半を見事に説明してみせた本と言えるでしょう。

 もっともこの本の内容は日本経済の問題にとどまるものではなく、アジア経済危機から現在のサブプライムローン問題にいたるまでの金融危機を、「ナイト不確実性」という考えをもとに解き明かしています。
 この「ナイト不確実性」とは、事前に確率分布の予測できる「リスク」とはちがう事前の確率分布の予測ができない不確実性のことで、そこでは過度の楽観と悲観が起こりやすく、それが経済危機をもたらします。

 著者は、「ナイト不確実性」をめぐるナイトとフリードマンの対立や、「ナイト不確実性」に新たな考え方を持ち込んだエルスバーグのエピソードなども織り交ぜながら、その考えを現在の経済問題ともリンクさせて紹介していきます。
 このあたりの理論に走りすぎず、そして実際の問題をきちんと理論で裏付けていく著者の力量は見事です。

 さらに日本の住専処理やアジア経済危機におけるIMFの政策の問題点、そのアジア経済危機の教訓としてアジア各国が外貨準備を積み増し、それがアメリカの好景気をもたらしている現状など、現代の経済や金融を考えていく上での材料も豊富に紹介されており、政治の問題やあるいは株や債券の売買に興味がある人にもいろいろとためになる本だと思います。

1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)
竹森 俊平
4022731745

 
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2007年10月13日

増田悦佐『高度経済成長は復活できる』(文春新書) 5点

 「高度経済成長をストップさせたのはオイルショックではなく、田中角栄が行った地方振興策だった!」、ということを熱く語った本。
 
 1970年代前半、田中角栄の政権奪取と政権獲得前から彼が押し進めた弱者保護の地方振興策によって、都市への人口流入がストップし、成長力が大きく低下したという著者の説は、ある程度のデータ的な裏付けもありますし、第2次オイルショックで日本があまりダメージを受けず逆に輸出競争力を高めていったことを考えると、間違っていない考えだと思います。
 そして、再び成長を取り戻すために大都市への投資を行うべきだし、大都市への集中は効率だけでなく環境の面からもいいのだというのもその通りでしょう。

 ただ、その主張の仕方が粗いというか、冷静さが足りないというかで,やや問題があるかと。
 これは文春新書によくある特徴のような気もするのですが、どうも主張だけが先に立って、その主張の論証が弱いです。その代わりに、いわゆる左翼批判的な部分が多く、このあたりはちょっと食傷気味な感じです。
 題材としては面白いだけに、もうちょっとじっくりと本を作って欲しかったですね。

高度経済成長は復活できる (文春新書)
増田 悦佐
4166603892


 
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2007年09月26日

大泉啓一郎『老いてゆくアジア』(中公新書) 9点

 「21世紀はアジアの世紀」と言われる中で、これはぜひ読むべき本。
 アジア地域における想像を超える高齢化と、そのアジアの奇跡的な経済成長を支えた「人口ボーナス」という現象について知ることができます。

 韓国の日本を下回るような出生率、中国の一人っ子政策などから、韓国や中語で日本を上回るような高齢化社会が到来するのではないか?という考えはもっていたのですが、この本ではその両国だけでなく、ASEANの中心的な国であるタイやインドネシア、さらには中国に代わる労働集約産業の拠点として期待されるベトナムでさえ、かなりのペースで少子化が進行していることが示されます。
 これらの国では日本を上回るペースで高齢化が進み、この高齢者を誰が養うのか?というのが大きな問題として浮かび上がってくるのです。

 さらに、この本は「人口ボーナス」という考えによって「アジアの奇跡」と呼ばれる経済成長を説明してくれます。
 これはベビーブームとその後の出生率の低下によって、生産人口の増大と年少人口の減少が同時に起こり(働き盛りが増え、子どもは減少)、この動きが労働投入量の増大、そして子どもの減少にともなう貯蓄率の増加につながり、経済成長をもたらすというものです。
 これはクルーグマンの名を一躍知らしめた論文「まぼろしのアジア経済」を裏付ける理論でもあり、アジアの経済成長の要因を説明するとともに、将来のアジア経済が必ずしも楽観できるものではないことを示唆するものです。

 そして、「人口ボーナス」が終わった時にやってくる、生産人口の減少と高齢者の増大という「ポスト人口ボーナス」の衝撃、さらには高齢化を支えるにはあまりに脆弱なアジアの社会保障の状態など、長いスパンで政治や経済を考える上で非常に重要な知見が述べられている本だと思います。
 「21世紀はアジアの世紀」と無批判に言う前にぜひ一読をお勧めします。

老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)
大泉 啓一郎
4121019148

 
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2007年08月10日

飯尾潤『日本の統治構造』(中公新書) 5点

 戦後の日本の統治構造の問題点とその変化を分析した本。「あとがき」に1995年に執筆の誘いを受け、12年以上の歳月が経ってしまったと書いてありますが、正直、この12年で本書の内容は古びてしまったと思います。

 まず、サブタイトルに「官僚内閣制から議院内閣制へ」とありますが、「官僚内閣制」という言葉はちょっと強すぎるのではないでしょうか?
 これだと、あたかも日本は戦前から政党とは独立した官僚が国を動かしてきたように思えてしまいますが、戦前の官僚が政友会や憲政会(のちに民政党)の影響を強く受けてきたことは、ラムザイヤー、ローゼンブルース『日本政治と合理的選択』が指摘していますし、中曽根内閣のもとでの行革や、橋本内閣のもとでの省庁再編が説明できなくなってしまいます。
 もちろん、著者は単純な官僚支配ではなく、与党と政府の二元体制という考え方を出していますが、それならばなおのこと「官僚内閣制」という言葉は誤解を招くものではないでしょうか?

 諸外国との比較についても幅広くは行ってはいるのですが、やや無い物ねだり的な面もあり、アメリカやイギリスといったやや特殊な政治体制をもつ国(国民生活に根を下ろした伝統的な二大政党の存在など)を引き合いに出しすぎているような気もします。

 また、小泉首相登場以来の内閣機能の強化についても取り上げているのですが、この点に関しては同じ中公新書の竹中治堅『首相支配』のほうが詳しいので、そちらを読んだ読者にとってはあまり得るものがありません(竹中治堅『首相支配』のほうが橋本行革の意味をきちんと押さえていると思います)。

 議院内閣制のほうが大統領制よりも権力が集中しているのだという指摘や、二院制についての考察など興味深い点もありますが、全体的に90年代後半以降の政治の変化を捉えきれてない印象です。

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書 (1905))
飯尾 潤
4121019059


 
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2007年07月11日

丸川知雄『現代中国の産業』(中公新書) 8点

 「中国製品はなぜあんなに安いのか?」という疑問に答えてくれる本。
 
 素朴な考えからすると「中国は人件費が安いから」と答えが思い浮かびますが、それだと繊維産業のような労働集約的な産業のことは説明できても、それだけで家電製品や自動車の安さまでを説明するには無理があります。
 そこで著者がキーワードとして取り上げるのが「垂直分裂」という考え。
 
 例えば、日本のテレビメーカーはテレビの基幹部品となるブラウン管を自社で開発することで他社との差別化を図り、競争を勝ち抜こうとしました(一番いい例がこの本でも取り上げているソニーのトリニトロン)。これを「垂直統合」と言います。
 ところが、中国のテレビメーカーの多くはブラウン管を自社生産せずにさまざまなブラウン管メーカーから買い集めることでコストダウンを実現させているのです。
 ブラウン管が違えば、当然画質も違いますし、そもそもカラーテレビのブラウン管にはそれ専用の回路が必要なのですが、中国のメーカーは画質の違いを無視し、複数の回路を用意することで、このような一見すると無茶なシステムを成り立たせているのです。

 テレビ以外でも、エアコン、携帯電話、そして自動車にまでこのような生産方式が波及しており、それが中国メーカーの価格競争力の源泉となっているが、同時にデザインや性能の同質化をもたらし、それが果てしなき価格競争と中国メーカーの利益率低迷につながっていると著者は分析しています。

 こうした「垂直統合」は中国政府の産業政策がもたらした面も大きいのですが、だからといって中国では政府の思惑通りに産業が育っているわけではなく、この本は一種の「産業政策論」としても読むことができます。
 また、日本のメーカーとの比較も豊富で、日本の産業を考えていく上でもヒントになる本だと思います。

現代中国の産業―勃興する中国企業の強さと脆さ
丸川 知雄
4121018974

 
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2007年07月05日

大沼保昭『「慰安婦」問題とは何だったのか』(中公新書) 8点

 右からも左からも批判されたアジア女性基金の理事として、元慰安婦の女性に償い金を渡し、総理のお詫びの手紙を届ける事業を行った著者の「闘いの記録」。

 大沼保昭というと、かなり「左」、つまり政府悪玉論を唱え過去の日本を一方的に断罪するような人というようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、この本を読めばそうではないことがわかりますし、それ以前に著者のアジア女性基金での活動の大部分が、そういった無責任な道徳的主義者との苦闘であったことがわかります。

 著者は、政府が賠償金を出すわけではないアジア女性基金による慰安婦の救済を不完全なものだと認めつつも、高齢になった慰安婦に残された時間が少ないことを考え、この基金の立ち上げに参加し、理事になります。しかし、そこに立ちはだかるのは、事なかれ主義の政府や慰安婦を売春婦呼ばわりする一部の政治家であり、また一方で、望みの薄い国家賠償を求めて慰安婦を裁判に向かわせる支援者やNGO、償い金を受け取ろうとする慰安婦を糾弾する韓国の反日世論、そしてアジア女性基金の成果をほとんど取り上げようとしないメディアの姿でした。

 もちろん、著者はアジア女性基金の内部の人間ですので、アジア女性基金の成果については割引が必要かもしれませんし、恨み言にしか聴こえないような部分もあります。また、著者の女性国際戦犯法廷への評価など、個人的にうなずけない部分もあります。
 けれども、さまざまな妥協をしながら困難を乗り越え現実を変えようとした著者の活動と、政府やNGOそしてメディアへの提言は十分に読む価値のあるものです。

「慰安婦」問題とは何だったのか―メディア・NGO・政府の功罪
大沼 保昭
4121019008

 
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2007年07月01日

盛山和夫『年金問題の正しい考え方』(中公新書) 9点

 盛山和夫の名前を知っている人は、『制度論の構図』や『リベラリズムとは何か』といった包括的で緻密な理論社会学の本を書いた盛山和夫が年金問題?というふうに思うかもしれませんが(もっとも盛山和夫がそんな有名人だとも思いませんけど…)、この本は僕の知りうる限り年金問題について最も包括的かつ緻密に論じてある本です。

 この本で著者は年金に関するさまざまな誤解を正していきますが、その中でも一番大きなものは、そもそも1973年の改正によってできたスキームが根本的に問題のあるものであり、たとえ少子化が進行せず70年代前半の出生率がつづいたとしても年金は破綻していたという事実です。
 またこのことと関連して、2004年の年金制度の改正が、厚生労働省の説明するほど確実でないものの、マクロ経済スライド調整率という支給水準を削減するための仕組みをつくったことで、はじめて年金制度を維持できる可能性をつくった改正であったこともわかります。

 それ以外にも年金の未納は制度の存続に取っては問題ではなく、むしろ未能率が上がった方が年金財政的には余裕ができること、保険料を支払わない厚生年金の厚生年金の三号被保険者である専業主婦が、働いてる女性と比べて必ずしも優遇されているわけではないこと(ただし国民年金の加入者と比べると明らかに優遇されている)などがわかります。

 さらには年金問題を根本的に解決すると一部で思われている税方式への以降や積み立て方式への以降が、必ずしも問題解決に綱柄にことも示されています。
 
 全体として新聞や雑誌の特集を遥かに上回るレベルの分析がなされており、今後、年金問題を語る上で外せない本ではないでしょうか。


年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か  
 
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2007年06月21日

門倉貴史『ホワイトカラーは給料ドロボーか?』(光文社新書) 6点

 門倉貴史の新書は『人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?』(角川oneテーマ21)がいまいちだったので、今回もどうかな?というのはあったのですが、こちらはそれとは違ってなかなか読み応えのある本です。

 著者の主張は大きく次の3点。

1、購買力平価や日本の闇労働参加率を考えると、日本のホワイトカラーの生産性はいわれるほど低くない。

2、ホワイトカラーの生産性のばらつきと、ホワイトカラーに対する評価が定まっていないことがホワイトカラーの残業の増加をもたらしている。

3、こうした状況と日本の労働市場が十分に流動化していないことを考えると、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は日本のホワイトカラーの更なる労働強化を招きかねない。

 以上のことが、さまざまな統計を使って示されています。
 ホワイトカラーの生産性についてはもうちょっと突っ込んだ分析も欲しいですし、職種別、あるいは管理職と非管理職の生産性についての考察も欲しいですが、大まかな点では間違っていない分析でしょう。
 ホワイトカラー・エグゼンプションの可否なども考える上でも有益な本だと思います。

ホワイトカラーは給料ドロボーか?
門倉 貴史
4334034055

 
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2007年06月06日

宮田律『イラン』(光文社新書) 5点

 悪の枢軸の一角にして、国際社会からの非難の中で核兵器開発を続ける国、アメリカの次の攻撃目標、などと言われながら、同時にアメリカのイラク戦争でもっとも恩恵を受けた国・イラン。そのイランの歴史と現状、そして国際情勢の中での今後のイランの行方を読み解いた本です。

 イランの政治や経済に大きな影響力を持つ革命防衛隊の存在や、その革命防衛隊による各地のシーア派武装組織への支援など、イランの国としての特殊性を明らかにしている本ですが、全体的にやや焦点がぼやけている面もあります。

 例えば、イランの歴史について1章を割いて書くならホメイニに関する記述がもっと欲しいですし、現代のイラン情勢に焦点を合わせるなら、例えばハタミ路線の行き詰まりについての分析なども欲しいです。

 もう少し構成がしっかりしているとよいですね。

イラン 世界の火薬庫
宮田 律
4334034039

 
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2007年06月03日

北岡伸一『国連の政治力学』(中公新書) 8点

 日本政治史の専門家としても高い評価を得ている著者が、小泉政権下の国連次席大使として2年半活動した記録。
 新聞などで外交評論家(?)のような人々が繰り広げる理念ばかりの外交批評ではなく、実際に「国連で何が行われているのか?」、「外交とはどのようなプロセスで進んでいるのか?」ということがわかる本です。
 
 特に著者が国連次席大使を務めた時期は、ちょうど安保理改革の時期でもあり、結果的に日本の常任理事国入りに失敗した安保理改革をめぐる動きと日本の立場というものを改めて見直すことができますし、そして安保理の実際の様子についてもいろいろと新しい発見があります。
 例えば、議論をリードする役割としてのイギリスやフランスの役割、そしてPKO要員に対して一人当たり月1000ドルほどの資金が出ることからバングラディシュやパキスタンなど途上国が自国の軍隊を維持するためにPKOに参加したがる現状などは、今後、日本が常任理事国を目指すのかどうかということを考える上で重要でありながら、今まであまり知られていなかった情報だと思います。

 既発表の文章をまとめたものであるため少し内容に重複などがありますが、文章としても読みやすく内容のある本になっています。

国連の政治力学―日本はどこにいるのか
北岡 伸一
4121018990

 
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2007年05月24日

野口旭『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書) 7点

 貿易摩擦の虚妄を暴いた前著『経済対立は誰が起こすのか』(ちくま新書)の続編。前作に引き続き、「国際競争力」なる概念の無意味さ、「貿易黒字=善、貿易赤字=悪」という考えの間違えをばっちり指摘しています。
 ただ問題は、内容的にほぼ前作と変わらない点。
 このような経済はつねに必要だと思うので、こうした本が書かれること自体はいいことだと思うのですが、もう少し何か内容を付け足してほしかった…。
 国際経済の入門書としては非常によい本だと思うので、『経済対立は誰が起こすのか』を読んでいない人にとっては8点、読んでいる人にとっては5、6点。間を取って7点くらいの評価になりますかね。

グローバル経済を学ぶ
野口 旭
4480063633

 
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2007年05月11日

内山融『小泉政権』(中公新書) 6点

 タイトル通り小泉政権を分析した本。小泉政権を分析した本に同じ中公新書に竹中治堅『首相支配』がありますが、あちらが制度面から小泉首相の強さにせまったのに対して、こちらの本はもうちょっと総合的に小泉政権を評価しようとしています。
 
 小泉政権のやったことと、今までの政権の違いといったことが内政・外交にわたりまとめて書いてあって、小泉政権の業績を振り返るのにはいい本です。
 また、小泉首相の強みとして他の自民党の有力者と違い、「時間軸の違い」をあげているのもその通りだとお思います。この「時間軸」とは、他の自民党の有力者が将来の自分の影響力を保持するために、長期的に他の議員や官僚と良好な関係を築こうとする中、小泉首相は退陣時期を明言し、他者と貸し借りの関係をつくろうとしなかったことで、今までにはできなかった思い切った改革ができたというもので、これは確かに小泉首相の「強さ」だったと思います。
 
 ただ、副題にある「パトスの首相」という捉え方は少し平面的な気がしますし、外交面の戦略の欠如という指摘も、基本的に新聞の社説レベルを超えるものではありません。
 歴代自民党政権との比較に関しても、あまりに範囲を広げすぎていまいち鋭さはないです。
 個人的には同じく改革を掲げて、小泉首相と同じく国民的な支持を受けて誕生しながら失速した橋本政権との比較といったものを詳しくやってもらいたかったです。
 
小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか
内山 融
4121018923

 
 
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2007年03月19日

岩田規久男『そもそも株式会社とは』(ちくま新書) 7点

  ライブドア事件などの後、株主主権の会社経営を批判する論考が数多く出ていますが(例えば、ロナルド・ドーア『誰のための会社にするか』)、この本はそういった株主主権否定の立場に対して反論を試みた本です。

 株価は会社の将来性を折り込んでいるのだから株主が短気の利益しか頭に入れないなどということはない、赤字になれば配当がなくなる株主は会社が潰れても債権者として一番に優先される従業員よりもリスクを背負っている、といった指摘はまさしくその通りですし、株主の圧力のない企業が意味のない多角化などの無駄な投資に走りやすいとい分析も納得させられます。
 まさに株主主権を否定する人々への有効な反論になっていると言えるでしょう。

 個人的には株価の歪み(新興企業が過大評価されるなど)を視野に入れての議論も欲しかったですが、非常にオーソドックスに株式会社のしくみと株主の役割といったものを説いた本と言えるでしょう。

そもそも株式会社とは
岩田 規久男
448006351X

 
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2007年02月18日

三品和広『経営戦略を問いなおす』(ちくま新書) 6点

 企業戦略について語った本。
 単なる言葉遊びだけではなく、キヤノンとミノルタ、花王とライオンの営業利益率の伸びの違いのグラフ、ソニーの経営者別の営業利益率の推移など、さまざまんデータを出して論じているため、企業の戦略を分析した本としてはそれなりに説得力があります。
 ただ、じゃあ経営戦略に必要なものは?となると、結局は「人」に行きつき、そして経営力は「観」と「経験」と「度胸」に行き着くらしいです。
 「観」というのは広義の教養により養われるものらしいですが、ここまで漠然としてくると決定的なことを言っているとは言い難いですよね。
 ある意味で、「企業戦略に正解なし」ということなのかもしれませんが…。

三品和広『経営戦略を問いなおす』
 
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2007年02月15日

菊池理夫『日本を甦らせる政治思想』(講談社現代新書) 3点

 副題に「現代コミュタリアニズム入門」とあり、アメリカを中心に影響力のあるコミュタリアニズムの入門書となっていますが、同じ講談社現代新書から出ている森村進の『自由はどこまで可能か―リバタリアニズム入門』と比べると内容的にはずいぶん落ちます。
 
 著者はコミュタリアニズムのキーワードを「共通善」だとし、アリストテレスからトマス・ヒル・グリーン、マッキンタイアといった人も言説を紹介し、さらにはロールズやハーバーマス、デリダも「共通善」に理解を示しているとしていますが、マッキンタイアとロールズとデリダがともに肯定する価値に果たして中身なんてものはあるんでしょうか?
 コミュタリアンなら人間の権利といったものを社会的・文化的背景から切り離して考えるロールズとの対決は避けられないと思うのですが、そういった知的緊張感みたいなものはほぼゼロです。
 また、チャールズ・テイラーの紹介もありますが、マルチ・カルチュアリズムの問題点などもスルー。
 それなりに政治思想のことを知っている身としては非常に物足りないです。

菊池理夫『日本を甦らせる政治思想~現代コミュニタリアニズム入門』
 
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2006年12月17日

友野典男『行動経済学』(光文社新書) 7点

 2002年度にノーベル経済学賞を受賞したカーネマンらが唱えた行動経済学についての解説書。カーネマンの仕事については真壁昭夫『最強のファイナンス理論』(講談社現代新書)でも紹介がありましたが、こちらのほうが内容は圧倒的に濃いです。
 人間の直観的判断の強さやそれにかかってくるバイアス、将来を見通すときの双曲線割引など、合理的な経済人を想定するだけではわからない人間の行動が認知心理学の実験などを通して解説されています。
 こうした知見をどう経済学に組み込んでいくのかという点についてはけっこう問題もある気もしますが、純粋に認知心理学的な知識としても面白いものがあります。
 「神経経済学」という話までいくと、さすがにやりすぎな気もしますし、少し新書にしては中身を詰め込みすぎている気もしますが、面白い本だと思います。

友野典男『行動経済学 経済は「感情」で動いている』
 
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2006年12月02日

吉本佳生『金融広告を読め』(光文社新書) 9点

 新書ながら500ページ以上あり1200円と値段も張る本ですが、是は非常に役に立つ本。新聞などで見かけるさまざまな”おトクな”金融広告のカラクリをバッサバッサと切りまくってくれます。
 金利表示のトリックから始まり、裏に隠された手数料を考えることの重要性、複数のファンドに投資する投資信託のぼったくり、元本保証もののカラクリとそれによりほとんど大きなリターンが狙えない現実など、金融機関側の騙しのテクニックの裏側を知ることができます。
 また、同時にインフレのリスクやリスクとリターンの考え方、円安が即インフレを生むといった俗説への批判など経済学的な考え方も同時に学ぶことができる本でもあります。
 最初に金融広告の例を50ページちょいにもわたってカラーで取り上げているのは無駄な気もしますが、非常にためになる本と言えるでしょう。

吉本佳生『金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか』
 
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2006年11月23日

橘木俊詔『格差社会』(岩波書店) 6点

 格差社会を考える上で、まず最初に読む本としては悪くないと思いますが、基本的にそれほど新しい知見はないです。
 最近、経済学者の中であった格差論争に関しても、「格差が出たのは高齢者の世帯が増えているからだ」という主張に対する決定的な反論はないですし、「効率性と公平性のトレードオフ」に関する反論も弱いです。
 ただ、著者の積極的な増税の主張や最低賃金の引き上げの訴えなどは日本社会の選択肢としては十分考えるべきものだと思いますので、この本をきっかけにそのあたりの議論が広がっていくことを期待したいです。

橘木俊詔『格差社会―何が問題なのか』
 
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2006年10月14日

門倉貴史『人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?』(角川oneテーマ21) 3点

 タイトルはからすると、地下ビジネスの解説書みたいですが、実際に地下ビジネスを分析しているのは本の一部で、「税にまつわるトリビア」みたいな内容です。
 書かれていることについても、どこかで読んだような内容が多いですが、それがまとまって書かれているというところがこの本の価値ですかね。
 あと、支出税の話はちょっと面白いけど、いまさらラッファー曲線を持ち出されて、所得税の最高税率の引き下げを訴えられても…。

門倉貴史『人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?』
 
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2006年10月07日

薬師院仁志『日本とフランス二つの民主主義』(光文社新書) 9点

 フランスの政治制度か最近の政治事情を知ろうとすると肩すかしを食うかもしれませんが、日本の政治を考える上で非常に有益な本。日本の左翼批判の本として問題の本質をかなり捉えていると思います。
 
 日本では、「リベラル」という言葉が自由主義に対抗することとして持ち出されていますが、これはアメリカ流の特殊な用語法であり、結局は同じ「自由」を標榜することに変わりはない。小泉改革のような自由主義的な改革に対抗するためには「平等」という価値観を持ち出して対抗すべきだというのが著者の考え。
 そして、そのためには左派政党は「平等」を実現するために「大きな政府」を目指すべきであり、「減税」や「政府からの自由」を主張するべきではなく、「増税」や「政府の積極的な介入」を主張するべきだとしています。
 
 これはまったくその通りで、帯に書いてある、「日本にはフランスのような<左派>という選択肢がない」という言葉はいまの日本の政治状況を的確に言い表していると言えるでしょう。
 <左派>にしろ<右派>にしろこれからの政治の対立軸を考えて行く上で非常に参考になる本だとおもいます。

薬師院仁志『日本とフランス 二つの民主主義』
 
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2006年10月01日

橘玲『臆病者のための株入門』(文春新書) 9点

 ジェイコム男やホリエモンなどの株にまつわる話から、デイトレードの実態、バフェットの投資術などを紹介し、そしてノーベル経済学賞受賞たちの奨める究極の投資法「インデックスファンドへの投資」という身もふたもないような結論を教えてくれる本。
 さらには一般の人に獲って投資をどう考えるか?という問題や金融リテラシーについても簡単に説明してくれています。
 株について書いてある本は山ほどありますが、手軽かつ核心を書いている本としてもっともお薦めできる本かも知れません。

橘玲『臆病者のための株入門』
 
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2006年09月18日

中島隆信『これも経済学だ!』(ちくま新書) 6点

 タイトルの通り、将棋や大相撲などの伝統芸能、宗教、「弱者」の問題などを経済学の切り口から分析し、経済学の魅力を語った本。
 大相撲の力士の生涯にわたる収入の分析や、仏教の経済的側面などを語った面はおもしろいですが、ここまで経済学をプッシュされると、「すべてを経済の面から分析することは可能だけどそれはあくまでも経済の見方からみた一面にすぎない」というようなルーマン的なことも思ってしまいます。

中島隆信『これも経済学だ!』
 
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2006年09月10日

安倍晋三『美しい国へ』(文春新書) 5点

 次期総理の本。中身はマニフェストというよりは、自分の半生とか拉致問題とかナショナリズムとか教育問題を映画の話題なども絡めながらエッセイ的に語ったもの。
 読みやすいけど、中身はそれほど濃いもんじゃない。彼の「草の根保守」的な立ち位置がわかるという本で、いまなら読んでみてもいいかも。たぶん3年後に読む人はあんまいないと思いますけどね。

安倍晋三『美しい国へ』
 
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2006年08月22日

ロナルド・ドーア『誰のための会社にするか』(岩波新書) 6点

 同じ著者の、中公新書『働くということ』に関してはかつてこのページで(http://blogs.dion.ne.jp/morningrain/archives/2616975.html)、「勇ましい提言や、高らかな正義の主張はないが有益な本」と書きましたが、この本にはややそういう部分があって、『働くということ』に比べると分析に冷静さがないような気がします。

 著者は株主至上主義を批判し、株主だけでなく従業員、地域、顧客、取引先などのステークスホルダーの考えた会社を目指すべきだと言っていて、それは大きな間違いではないと思うのですが、最終的な形はともかく、日本ではまだまだ株主の力が弱すぎるのではないでしょうか?
 今まで日本の共同体的で不透明な経営に比べれば、株式市場というものの公正さというものは、やはり評価されるべきだと思うのです。
 
 この辺りに関しては個人個人によってずいぶんと考えのちがいというものがあるのでしょうが、少なくとも僕はこの本を読んで、「今の日本において株主重視の流れを変えなければ」、とは思いませんでした。

ロナルド・ドーア『誰のための会社にするか』
 
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2006年07月29日

白田秀彰『インターネットの法と慣習』(ソフトバンク新書) 8点

 ised@glocomなどにも参加し、ネットにおける法のあり方やそのルールについて積極的に発言している白田秀彰の本。知的財産権の強化に反対しつつ、保守主義者でもあるという白田秀彰の立ち位置はちょっと奇妙に思えるかもしれませんが、この本を読むとそのあたりもきっちりと理解できると思います。

 副題に「かなり奇妙な法学入門」とあるように前半はほぼ「法」そのものについて考察していて、特に英米法と大陸法の違いについて歴史を追って説明してあります。このあたりは日本とアメリカの裁判制度の違いにもつながるもので、とても興味深いです。

 後半は知的財産権の強化が新たな中世的な支配体制を生み出してしまうという危険性や、インターネットにおける典礼(プロトコル)の可能性などの考察。どちらも興味深いトピックではあるけど、掘り下げは少し浅いかな。典礼の話を削ってももうちょっと知的財産権の未来について書いたほうがあよかったような気もします。

白田秀彰『インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門』 
 
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