その小林正弥が、『これから「正義」の話をしよう』、『リベラリズムと正義の限界』、『民主政の不満』、『完全な人間を目指さなくても良い理由』(小林正弥はこの邦訳タイトルには不満らしいですが…)、『公共哲学』と、サンデルの主要な著作のすべてを解説してくれるのがこの本です。
ただ、「ハーバード白熱教室」や『これから「正義」の話をしよう』を、見たこと、読んだことがないという人には、この本を通してではなく直接、サンデルの本を読むなりTVを見るなりすることをお薦めします。
もともとわかりやすい内容ですし、要約が意味を持つものでもありません。
ということで、この本も第一講の「「ハーバード講義」の思想的エッセンス」については、個人的にあまり意味が無いと思いますし、『これから「正義」の話をしよう』を読んだ人は飛ばしてもいいと思います。
けれども、「ハーバード白熱教室」や『これから「正義」の話をしよう』を、見ただけ、読んだけという人には、この本はおすすめです。
サンデルは講義の中では、あまり自分の意見を積極的に主張しておらず、学生のナビゲーターのような役割を果たしていますが、ある程度、政治思想の知識がある人が見ると、彼がいわゆる「コミュタリアニズム」の考えに議論を誘導していることがわかります(あるいは、「コミュタリアニズム」という言葉にイメージを持ちにくいならば、「アリストテレス的な倫理」と言ってもいいもので、倫理や道徳において共同体の存在や共同体の中での個人という立場を重視するタイプ)。
そうした講義の背後にあるサンデルの思想を分かりやすく教えてくれるのがこの本。この本を読めば、サンデルの講義に隠された意図も分かってくると思います。
またコミュタリアニズムの入門書としても、以前新書で出た
菊池理夫『日本を甦らせる政治思想』が全く良くなかっただけに、手軽なものとしておすすめできます。
もっとも入門書と考えると、ここまで全著作を網羅する解説にする必要があったのかとも思います。『公共哲学』のようなエッセイ集の解説は、「ここまでしなくても」、と思いました。
ただし、ある程度、政治哲学に詳しい人にとっては詳しすぎる解説が逆に興味深いという面もあります。
特に一般には保守的と考えられることの多いコミュタリアンでありながら民主党を支持するサンデルのロジック、同じユダヤ系のコミュタリアンであるウォルツァーとの違いなどはなかなか興味深く読めました。
あと蛇足ですが、次の部分は日本の昨今の青少年育成条例なんかにもあてはまる現象だと思いました。
過去の大統領たちは、同朋市民に対して、戦争や福祉のために大きな犠牲を求めた。しかし、当時のアメリカ(クリントン大統領のとき)では、コミュニティや道徳目的は求めても、抑制や犠牲は望まない人が多かった。そこで、クリントンは、大人に道徳的抑制を求めずに、子どもにそれを課したのである。(285p)
具体的にはVチップの導入や門限や学校の制服の奨励とかなんだけど、これをサンデルが肯定的に捉えているところに、個人的にコミュタリアニズムへの違和感があります。
つまり、コミュタリアニズム的な共同体の「善」なんて、現実の大人が守れない幻想に過ぎないのではないかとも思うのです。
サンデルの政治哲学 (平凡社新書)
小林 正弥
































































