2012年04月14日
沖田総司 第一章四十三
「見事だった・・・」
土方は芹沢の脱ぎ捨てた羽織を
その息絶えた体に被せよとしている。
総司は、ただ黙ってそれを見つめていた。
ぽとっ
何かが羽織の袂よりこぼれ落ちた。
「なんだ、なんでこんな物が・・・」
原田が怪訝そうに拾い上げ土方に見せた。
それを見た総司の顔が歪んだ。
それは、小振りの独楽だった。
酔狂な芹沢のことである、芸妓との遊びにでも使おうと
していたのであろう。
土方は、そう考えて独楽を放り投げようとした。
「・・・それを・・・私に頂けませんか・・・・」
うつむき唇を噛み締めながら、総司は土方の腕を制した。
土方は、その様子に「この物」が何を意味するのか察した。
そして、それを総司に渡した。
総司は、それを大切そうに懐に納めた。
「原田、屯所まで運ぶぞ。」
土方が原田に指示する。
「私が・・・私が連れて帰ります。
・・・ここまで、連れて来たのも私ですから・・・
私が、芹沢局長を屯所に連れて帰りますよ」
土方は、総司のその申し出にも無言で許可した。
「これを着ろ、そのなりでは・・・な」
そう言って、自分の羽織を総司の血まみれの着物の上から
はおるように促した。
土方と原田が手を貸し、総司は芹沢を背負った。
「原田、先にいけ、一人も逃がすな」
土方の言葉に原田は、踵を返し、屯所に向かって走った。
「土方さんも行ってください・・・すぐに、
私も追いつきます。」
総司は、肩を少し持ち上げるようにして芹沢をおぶり直した。
月を覆い隠した雲は、湿り気を帯びた風を送り込む。
その風は、生を失った芹沢の体から少しずつ熱を奪う・・・・
だが、総司の懐に忍ばせた独楽は・・・温かかった・・・・
あたかも芹沢の体温が独楽に移っていくかの如く・・・・
土方と原田の影が遠のき、総司もまた芹沢を背負いながら
屯所への道を歩き始める。
静かだった。
「・・・ぼんさん ぼんさん
・・・・・・・・・・・・
・・・何処行くの
あの山越えて・・お使いに
わたしもいっしょに
・・・連れてって・・
おまえが来ると・・・・邪魔になる
このかんかんぼ〜ず かんぼ〜ず
後ろの正面
・・・だ〜〜〜あれ・・・」
子供たちから教わったわらべ唄・・・鬼遊びの唄。
この京に来て初めて覚えた唄である。
その唄が、ふっ・・・と口から漏れてくる。
そして、鉛色の雲は
雨を落としはじめた。

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■新撰組活劇いつか何処かで〜沖田総司■
【沖田総司 37〜48話の最新記事】
2010年08月17日
沖田総司 第一章の四十二
血を噴き出しながらも起き上がろうとする芹沢に総司は肩を添えた。芹沢は、何か言おうとしているが、すでに気管は血で詰まっていた。
総司は芹沢を苦しみから解放するため、刀を握る。
そして芹沢の首筋に峰をそっとあてがう・・・
「芹沢先生、先に逝かれて・・・閻魔天に逢われましたら、
どうぞ、お伝えください。
それがし、沖田総司房良が御前にまかりこしましたおりには、 御詮議は無用と・・・
堕ちる先の覚悟は・・できておりますと・・・
どうぞ、そのようにお伝えください・・・」
その総司の言葉に相槌を打つかのように
芹沢は、最期の力を振り絞って総司の肩を「ぽん」と叩いた。
カシャッン
総司が柄の握りを変えた。
芹沢の首筋にあてがわれていた峰が刃先にかわる。
・・・・夜空に真紅の花びらが散った・・・・・・
そして、月は立会人としての役目を終えたかのように
再び鉛色の雲の中に消える。
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2010年08月04日
沖田総司 第一章の四十一
芹沢は、右にかわしたはずの自らの喉仏に異物を感じた。
一瞬仰け反ろうとした時、つぎに鳩尾に痛みが走った。血を噴き出しながら芹沢は崩れ落ちた。
「・・・今の・・突き・・は・・・・・・」原田が呆然としながら土方に声をかける。土方もまた眼を見開いたまま・・・立ちすくんでいた。
「三本で突いたんだ・・・あいつ・・・・・・ 一本目を誘いとし、目に見えぬほどの速さで二本目を繰出し、芹沢の喉を突いた・・・
そして・・・再び突きを繰出し鳩尾を突いた・・・
・・・ 一拍の間で・・・だ」
そう、沖田総司の突きは、三本繰出されていた。
三本目の突きは、刃を水平に寝かせることによって
肋骨に阻まれることなく・・・難なく芹沢鴨の急所をつらぬいたのだ。
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2009年12月12日
沖田総司 第一章の四十
月はその姿を現しはじめる
この剣戟を見とどけるために
そして
対峙するこの男たちが
かつて自分のもとで交わした誓いの立会人として
沖田総司の脳裏に懐かしい試衛館道場が浮かんだ・・・
近藤勇の養父であり、そして自身の師、近藤周斎の老いてなお力強い声が道場に響く。
文久元年八月、皆が稽古を終え、閑散とした道場に天然理心流三代目宗家近藤周助は、沖田宗次郎を残した。
「わしは、明日、この天然理心流試衛館道場を勇に譲る。
そして、隠居の身となり、名も周斎と改める。
もう、わしが持つ技でお前に教えるものはない・・・
よいか、これからは近藤勇を師と仰げよ、宗次郎。」
稽古の時とは違う穏やかな口調で宗次郎に語る。
「周助先生、これまでのご指導ありがとうございました。」
宗次郎は、敬愛の眼差しで周助を仰ぎ、そしてこれまでの感謝の念を伝えるかのように平伏した。
思い起こせば十年の歳月・・・
八歳の賄い 一つできぬ子供を内弟子として引き取り、手取足取り 一から剣術の基本を根気よく教え、
時には厳しく、時には父親の如き情をもって自分を育ててくれた剣の師であり、人生の師であった。
その近藤周助が自らの人生すべてを捧げてきた天然理心流を離れる時がきたのである。
周助は、宗次郎の稀代の剣術の才、天賦の力を見抜いていた。
「宗次郎、おまえは確かに剣の申し子だ。
しかしな、けっしてのぼせ上がるでないぞ。
世には、溢れんばかりの使い手がおる・・・
お前とてその中の 一人に過ぎぬ」
近藤周助の愛弟子の行く末を案じる感情が厳しい表情になってあらわれる。
「はい。」その情に溢れた師の気持ちが宗次郎にはひしひしと伝わってくるのであった。
「宗次郎、理心流においてお前に伝授するべきものはもうない
よいか、これより先は、己の剣を身につけろ。
天然理心流であって天然理心流でない・・・
沖田宗次郎の必殺剣をみにつけるのだ。
それを会得したとて、わしに披露する必要なし、
勇に披露する必要なし。
これから先、あいまみえるであろう強大な敵にのみ
打ちはなつのだ。
よいか、一撃必殺剣を得るのだ。
これが、天然理心流三代目宗家として最期に伝えるべき
奥義である。」
近藤周助の中に自らの愛弟子たちが、この動乱の世にでる日がくる予感があったのか
それとも三流と蔑まれた「天然理心流」の剣が世にでることを望んでいたのか・・・
その言葉を受けてから今日まで沖田総司は師の言葉を心に復唱しながら生きてきた。
そして
・・・周斎先生、今、その剣豪が私の目の前におります・・・
この技は、道場で身につけた技ではない・・・
この京にのぼり、幾たびもの敵との死闘の中で生まれた剣だ。
血しぶきの中で生まれた・・・沖田総司の剣だ。
総司の構えに芹澤は次に来るであろう攻撃を見抜いた
「突きか、沖田。」
芹澤も半身を引き、突きをかわす構えをとった。
閃光の如く点となった総司の突きが芹澤の喉に向かって放たれる。
が、芹澤はそれを見切り、右に開いてかわしながら自身もまた総司の喉元向かって突きを繰り出す。

鋼と鋼が空を斬りながら交差する。
紙 一重でかわす総司の頬をやいばがかすめる。
「ふっ」芹澤の余裕の笑みがこぼれた・・・
・・・が、その時・・・
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2009年03月03日
沖田総司 第一章の三十九
このままでは土方らが加勢にでる・・・
そう、それがこの芹澤鴨を仕留めるのに確実な方法なのだ。
自分は土方、原田が芹沢を斬れるように芹澤の剣をこの体で受ければいいのだ・・・その隙に二人が芹澤の止めをさす。
だが、それはこの男に・・・
この稀代の剣豪にたむけるものではない。
芹澤鴨がなぜ鞘を捨てたのか・・・わかっていた。
この男の武士としての最期の戦いに挑むあらわれなのだ
抜きはなった刀を再び鞘に収めることはないという。
だから、自分ももてる力をすべて、技のすべてを出し切ってこの男に向かわねばならないのだ。
芹澤鴨の振り下ろされる太刀をかわすように沖田総司は後方に飛んだ。

その様子をみていた土方が原田を促した。
「いくぞっ」
だが、踏み込もうとした土方の足が止まった、そして原田の飛び出した体を腕で制した。
「なんだ、あの構えはっ」
芹澤の剣をかわし、片膝を着いた体勢をおこしながら、総司は霞の構えの如く刀を水平に構え、切っ先の高さを芹澤の喉元にあわせている。
「いきますよ、芹澤局長」沖田総司の眼が冷たく光った。

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そう、それがこの芹澤鴨を仕留めるのに確実な方法なのだ。
自分は土方、原田が芹沢を斬れるように芹澤の剣をこの体で受ければいいのだ・・・その隙に二人が芹澤の止めをさす。
だが、それはこの男に・・・
この稀代の剣豪にたむけるものではない。
芹澤鴨がなぜ鞘を捨てたのか・・・わかっていた。
この男の武士としての最期の戦いに挑むあらわれなのだ
抜きはなった刀を再び鞘に収めることはないという。
だから、自分ももてる力をすべて、技のすべてを出し切ってこの男に向かわねばならないのだ。
芹澤鴨の振り下ろされる太刀をかわすように沖田総司は後方に飛んだ。

その様子をみていた土方が原田を促した。
「いくぞっ」
だが、踏み込もうとした土方の足が止まった、そして原田の飛び出した体を腕で制した。
「なんだ、あの構えはっ」
芹澤の剣をかわし、片膝を着いた体勢をおこしながら、総司は霞の構えの如く刀を水平に構え、切っ先の高さを芹澤の喉元にあわせている。
「いきますよ、芹澤局長」沖田総司の眼が冷たく光った。

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