October 26, 2008

その土曜日、7時58分/お前の血が邪魔だ


その土曜日、7時58分
オフィシャルサイト
※部分ネタバレにつき注意

子供は観なくてかまわないと言わんばかりのオープニングから2時間弱、最悪のシナリオが災厄のような時間を伴って一向に歩みを止めないまま自死ともいえる※子殺しで血の贖いに倒れ込んでみせる。何より84歳にして再覚醒したとしか思えないシドニー・ルメットの支配力が凄まじく、感情を両極で振り回すための小刻みなカットバックで行きつ戻りつする術など、老練/老獪というよりは挑戦的な昂ぶりすら感じさせて驚愕。神経が暗闘する物語を描く地肩の強さなど「プリンス・オブ・シティ」(DVD化切望!)を観ていれば驚くに値しないにしても、それすら1980年代前半の話であるし、その後の四半世紀の映画的不在を考えるとなおさらこのルメット版「レザボア・ドッグス」とも言える暗黒の家族史が見せる凶悪なメロドラマ(監督自身がこれはメロドラマだと言い切ってる)には唸るように拍手したまま座席に沈殿するしかない。それにしても、この映画に終始漂う“物わかりの悪い感情”を攻撃的かつ知的に捉えた術には本当に驚かされるし、そうした感情を我さきにと呼び寄せてそこへ飛び込んでいく役者陣も脇役に至るまで神経が行き届いて一部の隙もないドラマの緊張感がヒリヒリと心地良い。中でもフィリップ・シーモア・ホフマンが体現するそれはやはり図抜けていて、ジーナが去った後で計りかねた衝動を確かめるようにゆっくりおずおずと部屋を破壊する姿や、ドラッグ部屋で服を緩め酒を注ぎ一人飲み干す時の倦みきった後ろ姿など、内側から壊れて生き腐れていく無様に膨張した肉体からは甘ったるい腐敗臭すら漂ってくるようで、この人が醸すアメリカン・ウェイのデカダンスは代替え不能の身のこなしをする。諦念と憤怒でずたずたになるアルバート・フィニーの血の苦悶、自殺すら叶わず、ならば俺を撃ってくれと兄に懇願するイーサン・ホークがみせる血に媚びる目、そして本来ビッチの役回りながら、これら血の交歓がただ一人“視えて”いたがゆえに踏みとどまろうとしたマリサ・トメイの哀しい健気。この四つ巴のアンサンブルが自重で歩みを止めることを回避したのが冒頭で書いたカットバックによるあしらいになっていて、重厚な流れで押し通せるところをあえて切り刻んだ脚本の妙と、それが刺激的な駆動になることを見抜いて乗りこなしたルメットの慧眼がやはり素晴らしかったと言わざるを得ない私的年間ベストテン入り確実な傑作。原題も示唆にあふれていいのだけれど余計な説明を回避したこの邦題もかなりいいと思うし、ソール・バスがオットー・プレミンジャー作品でなしたようなグラフィック・シンボルも、黄金期ルメットの復活を讃えているかのようで素晴らしい。不謹慎を承知で言うけど、時間はそれほどないのだから早く新作を撮らせないといけないと思うよ。

その土曜日、7時58分 ポスター
 

この記事へのトラックバックURL

http://blogs.dion.ne.jp/orr_dg/tb.cgi/7747247
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
 
   
MUSIC

DEEPERS

MOVIE

イルカの日 [DVD]

BOOK

フラナリー・オコナー全短篇 上 (1) (ちくま文庫 お 28-2)

TOYS
FICTIONS&NONFICTIONS

アウステルリッツ黄金旅風幻日インド夜想曲蜂工場
賢い血ジャングル・クルーズにうってつけの日?ヴェトナム戦争の文化とイメージ
家守綺譚カウガール・ブルース海を失った男どんがらがんバクネヤングハルビン・カフェX51.ORG THE ODYSSEY悪魔くん 貸本版カンタン刑   式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)

SEARCH
LINKS
SINCE 20050508

Ajax
LOVELOG
Syndicate this site (XML)