January 30, 2011

冷たい熱帯魚/パパ、ずれてるゥ!


冷たい熱帯魚
オフィシャルサイト

“キチガイ!”というセリフが何のためらいもなく口にされて、あ、などと気にとまってしまうくらいワタシも自主規制のラインを知らぬ間に意識してしまっていたのが情けないというかよそよそしいというか、それもこれもこういう人懐こい日本映画が圧倒的に足りてなかったからであって、クスクスアハアハゲラゲラしながらいつの間にかワタシの輪郭は消えていき、もうこのままいつまでも終わらなくていいのにというヒプノティックな多幸感をつづれ織っていたのが愛と涙と血と肉と骨とゲロとセックス、要するにワタシ達を構成しているものに他ならなかったことを考えてみれば、この映画とワタシ(達かどうかは知らない)とのとろけんばかりの親和性は不思議でも何でもなく、要するにこの映画はワタシ(達かどうかは知らない)でできているということだ。そしてワタシに関して言えば知りたくて仕方ないのはあくまで世界の成り立ちを知らせる切断面であって、なぜそうなっているのか?といった理由/意味では一切ない。世界の在り方を始点とすれば理由/意味は終点となるワタシ達それぞれに宛ててしか届かないはずなのに、世界を掴まえられないことの照れ隠しに頼まれもしない理由/意味を開陳するお節介をこそワタシは許し難く思ってきたのではないかと、思いがけない自明の復活をこの映画は爽快なまでにキックしてくれる。そのあたりについては劇中終盤で村田(でんでん)が社本(吹越満)を強制リブートするシーンに象徴的で、言うまでもなく社本は世界の理由/意味に拘泥する存在として描かれて世界の断面を体現する者としての村田に破壊され屈服させられるのだけれど、デタラメにまとったはずの父親役に夢中になった村田が調子づいて社本に施したプライマル・スクリームによって大暴走する即席エディプスコンプレックスの嘲笑い方から、この期に及んでまだそれを言うか(「生きるってことは痛いんだよ」)と徹底的に無様をさらす社本の最後と、では最後に誰を生き残らせたのかという映画の意志が明らかになるにおよんでは、ああこれでまたワタシも少しは生きのびられるという歓喜のような安堵すらおぼえた次第である。一つ引き合いに出してみれば、同じく勝ち抜き殺戮戦であった「アウトレイジ」に最終的なところで乗り切れなかったのは、あの映画が結局は世界の後ろ盾を(「3-4x10月」ではあれほど颯爽と身をかわしていたのに)アテにしてしまっていたからなのだなあとあらためて思ったりもした。そうは見えない俳優をそうあてがうことで緊張と緩和を同時にシェイクするというのはその北野映画が確立した手法だと思うのだけれど、まさにそれによって笑いながら怒る人と化したでんでんが圧倒的に凶悪かつキュートで、そしてまた黒沢あすかにしろ神楽坂恵にしろ、メインの女優がしかるべきシーンで裸を晒すという点でも的確でそれが彼女達の凄みをいっそう増して惚れ惚れとするし、特に黒沢あすかは「蜘蛛女」のレナ・リオンを思わせつつ凌駕する怪物として軽々と自己記録を更新している。ただ実は、真の主役といえるのは絶え間なく吐き出され叩きつけられるセリフの群れで、たとえどれほど秀逸な字幕がつけられようとここに込められた日本語としてのデモニッシュが再現できるわけもないから、先だって「ソーシャル・ネットワーク」で書いた非ネイティブのモヤモヤを今度は海の向こうが味わえばいいわけで、ワタシがエライわけでもないのに何か得意げでザマアミロという気分である。当然一度観ただけではこの滋養に溢れた情報量を処理できるはずもなく、例えばフレーム内で背景と化している時のでんでんをずっと見続けるなどといった愛情の示し方などもしてみないと本当の貌は見せてくれない映画である気もするので、都知事殿のお膝元で逢い引きする僥倖をかみしめつつまた会いに行こうと思うのだ。ちなみにテアトル新宿の予告で流れた「アンチクライスト」くらいは今のところ一蹴してるというか、そっちがそれならこっちにはコレがあるよとえらく強気な気分でいられるのもとても愉しい。

 

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この記事へのコメント
観たんですね!
羨ましい!!

アンチクライストは...
最初以外はそれほどでも...
Posted by がび at January 30, 2011 21:50
エロ、グロ、ナンセンスがエンタメとして見事に成立しておりました
お楽しみに!
Posted by オア at February 01, 2011 08:42
いつか通りがかった者です、こんばんは!

田舎なので今頃観たのですが、映画ももちろんですがオアさんのレビューも素晴らしいですね。。。

自分が感じていたうまく言葉にできないことをいつもさらっと書いてくれるのでいつも楽しみに見てます。(CDのレビューも)
コメントだいぶ遅れたのでもし読んで頂けたらうれしいです!

映画みたあと車で2回ぐらい事故りそうになって家路に着きました(笑)
Posted by yeti at May 19, 2011 23:17
yetiさん、こんにちわ
勢いにまかせて書いた文なので
今あらためて読んでみると結構恥ずかしい気もしますが
映画とあわせて愉しんでいただけたようで何よりです

>映画みたあと車で2回ぐらい事故りそうになって家路に着きました(笑)
なんでしょう、思わず凶暴なお気持ちになってしまわれたのでしょうか
運転気をつけて下さいね
Posted by オア at May 20, 2011 20:05
 
   
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