2012年02月20日

リリエンタールの末裔

 昨年、『華竜の宮』で一気に評価を確立したSF作家、上田早夕里による短編集。中村豪志のカバーイラストにも惹かれて発売日に即購入。
 
彼は空への憧れを決して忘れなかった―長篇『華竜の宮』の世界の片隅で夢を叶えようとした少年の信念と勇気を描く表題作ほか、人の心の動きを装置で可視化する「マグネフィオ」、海洋無人探査機にまつわる逸話を語る「ナイト・ブルーの記録」、18世紀ロンドンにて航海用時計の開発に挑むジョン・ハリソンの周囲に起きた不思議を描く書き下ろし中篇「幻のクロノメーター」など、人間と技術の関係を問い直す傑作SF4篇。
                                 「BOOK」データベースより


 国産SFからは、随分と長く離れていた。
 何しろ、小松左京や山田正紀に親しんでいた高校生時代から後は、神林長平と谷甲州ぐらいしか読んでいなかったのだ。しかし、数年前に久々にこのジャンルに立ち寄って、飛浩隆やら伊藤計劃やらに接することで、おや、国産SFって結構凄くないか、というところを実感した(神林や谷が凄くない、という意味ではない。念のため)
 もっとも、SFマガジンさえ年に一冊も購入していない私が、内外を問わずSFについて語るなどこれは僭越も甚だしいのだが、しかし、素人は素人なりに、感興を覚えるところはあったわけである。
 
 そういった、私的国産SFルネッサンス(笑)の中にあって、科学技術と人類との関係を、自身の視点で捉えた上田の作品群は、「小松左京賞」がいかにもふさわしいと思われる作風だった。そして、このテーマは、私にとってのSFの「本流」でもある。
 本書の4編にも、その特色ははっきりと出ている。以下、その大まかな感想。
 
「リリエンタールの末裔」
「飛ぶこと」への憧れという、人にとって尽きることの無い願望と、それを実現する手段としての科学技術とのありうべき関係を、何も待たず、ただ情熱のみを許された若者が見出す過程を描いた表題作。未来を舞台としながら、ここで描かれるのはこの「関係」の、懐かしく幸福な再生だ。

「マグネフィオ」
 人の世界認識、その想いそのものを左右する記憶と感覚をコントロールするテクノロジーに纏わる哀感に満ちた一編。フェティッシュな色合いもありながらベースは純愛。ところで、飛や小川一水などの作品では、昔のSFには無かったエロティックな描写が随分と増えているのだが、この作者の場合、そこには節度が利いているので、私のような古い人間にも馴染みやすい(苦笑)
 
「ナイト・ブルーの記憶」
 これは、テクノロジーによって人間の感覚が拡張されることで……という、見せ方とディティールの描写に優れた作品と言えるだろうか。その認識される世界の広がりには雰囲気はあるのだが、ドのつく文系の私には、いまひとつと感じられてしまった作品。いや、悪くはないのだけれども。
 
「幻のクロノメーター」
 SFなのに何故か舞台は18世紀のロンドン。すは、これはスチームパンクか、と思えば……というところなのだが、中編だけあって登場人物の描写にも十分なページ数が割かれ、キャラクターには厚みがある。それゆえに、小説としては最も楽しめるものの、SFとしてのアイディアは、やや小粒に感じられた。
 
 4編共に水準はクリアしているとは思うものの、注目している作家によるもの、と思えば、少々物足りなさも覚えた。やはり私には同じ作者の手によるものでも、SFよりもホラー──例えば「眼神」のような──の方が嗜好に合うのかも知れない。★2つ半。

タグ:上田早夕里