2010年05月04日

厠の怪 便所怪談競作集

 京極夏彦、平山夢明、福澤徹三といったメンバーの書下ろしに、『幽』11号掲載の新人作品を加筆訂正の上で収録した、「厠」にまつわる怪談集。
 
 全10編
『便所の神様』 京極夏彦
『きちがい便所』 平山夢明
『盆の厠』 福澤徹三
『糜爛性の楽園』 飴村行
『トイレ文化博物館のさんざめく怪異』 黒史郎
『あーぶくたった──わらべうた考』 長島槇子
『隠処(こもりく)』 水沫流人
『縁切り厠』 岡部えつ
『学校の便所の怪談』 松谷みよ子
『厠の乙女──便所怪談の系譜』 東雅夫

 まず一読して気づくのは、本書の諸作品では主人公の年齢が低めであることだ。
 大半の主人公は小学生から中学生であり、比較的年齢の高いものでも、その幼年期の記憶に直結するストーリーが多く、このあたり、「トイレへの怖れ」という恐怖のコアそのものがノスタルジックな性格を備えているようで興味深い。
 そういった趣向の典型が『便所の神様』と『盆の厠』で、二人の描写する「厠」の様子は、あるいは若い世代にはぴんとこないかも知れないのだが、同世代である私にとっては小道具のひとつひとつまでを鮮明に脳裏に描くことのできる、なんと言うか吸いたくも無い空気を呼吸させられる感覚に満ちたものだった。
 ただし、嫌な湿度に満ちた京極作品と、静かな哀感の漂う福澤作品、という読後感においては全く異なっているものではあるのだが。
 一方、これは完全に現代ものながら、平山かさもなくば岩井志麻子しか使いそうに無い題名をつけた『きちがい便所』は、作者御得意の精神の平衡を失っていく人物描写が徹底してグロテスク。この作者の場合、掌編と実話もの以外で怪異の原因を超自然のものにとった作品は、案外少ないような気もするのだが、なんというか、原因が何であれパワーが落ちないというのもすごいことではある。

 若手の作品の中では黒史郎の『トイレ文化博物館のさんざめく怪異』が、きれいに纏まった気の利いた短編だった。この作者は、多様なスタイルの、しかしきちんと怖い怪談を書いてくれるので、個人的には好感度が高いのである。
 尚、巻末の東雅夫による『厠の乙女──便所怪談の系譜』は、驚くべし、厠怪談のルーツをさかのぼって古事記にまで行き着いてしまうという、博引を楽しむことのできるものだ。

 「怪談」らしいアンソロジー。★3つ。

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「厠の怪 便所怪談競作集」【閑中忙有】 at 2010年05月19日 00:01


 
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