2010年05月30日
憑依―異形コレクション
井上雅彦監修によるホラーアンソロジー、最新巻の本書は実に第45集にあたるらしい。
全18編
『一年霊』 春日武彦
『寄木の森』 岡部えつ
『溶ける日』 松村比呂美
『地蔵憑き』 朱雀門出
『ついてくるもの』 三津田信三
『餓え』 真藤順丈
『修羅霊』 入江敦彦
『ゴルゴネイオン』 黒史郎
『首吊り屋敷』 田辺青蛙
『穴』 飛鳥部勝則
『やどりびと』 福澤徹三
『抜粋された学級文集への注解』 井上雅彦
『眼神』 上田早夕里
『箸魔』 平山夢明
『憑依箱と嘘箱』 岩井志麻子
『スキール』 町井登志夫
『陽太の日記〈抜萃〉』 菊地秀行
『生きてゐる風』 朝松健
このアンソロジーも12年目を迎えて、執筆者の顔ぶれも随分と変わってきている。
試みに初期の廣済堂文庫版の目次を確認してみると、かんべむさし、大原まり子、岬兄悟、久美沙織、といったSF畑の人材が目立って、いまだ国産ホラーの書き手が限られていた時代というものが思い出された。
一方、この最新巻においては、その1/3以上がここ数年の内に作家生活をスタートしたメンバーであり、しかもその軸足をホラーに置くものが大半となっている。個人的には良い時代を迎えることができたなあ、という感がある。(もっとも、1/3程度は専業作家ではないと思われるあたり、ペンで経つ者にとっては難しい時代でもあるのだろうが)
以下、全18編のうち、特に印象に残ったものの感想のみ。
まず、本書でトップバッターを務める春日武彦も非専業作家。本職の精神科医の職業的知見を生かしたのがこの『一年霊』。性格を変異させる「憑き物」を憑依させてくれる神社、という、もしかすると信仰としては本当に実在するのでは、と思わせられる設定の面白さで、ストーリー自体はシンプルながら独自の幻妖な味わいを堪能できる。
『寄木の森』の広告業界残酷物語的背景は、福澤徹三の作品にもありそうなところなのだが、そこに異性への記憶が絡んでくるところがこの作者の持ち味。正直、ホラーとしての破壊力には乏しいのだが、それでも少しも退屈させられない、小説として力のある一編。
待望久しい朱雀門出の新作は『地蔵憑き』。
デビュー作『今昔奇怪録』に通じる、日常生活に根を下ろした土俗的風習を扱った作品。町内会の寄り合いという、長閑な地方都市の行事の中に、思いもよらない異界への通路が口を開き、そこから来るものに遭遇する恐怖は、最後の一文に到るまで格別のものがある。
黒史郎の『ゴルゴネイオン』は、「魔の音楽」に憑かれた音楽家のストーリー。
創作の世界ではよく使われるモチーフであるだけに、どのようにして個性を持たせるか、そして説明づけるのか、というところで作者の技量が問われるところだと思うのだが、独りよがりに落ちない美しいラストは、その期待を外されることがなかった。
『眼神』の上田早夕里は、本籍は「SF」ということになるのだろうし、事実、この作品もあまり怖くはない。しかし、主人公の思慕にも似た幼い感情の成長と、その行方を描いたストーリーには、ちょっとやられた。
私はこういう話には弱いのだ。
平山夢明の『箸魔』は、魔の憑いた「箸」という、呪われたアイテムの一話。
この人の作品には、食欲につながる狂気の物語というのは少なくないが、それでいながらそのたびに既視感などまるで感じさせられることも無く、新鮮な嘔吐感を覚えることができるのはどういうことだろうか。何と言うか、底が知れないのである。
6編にのみ言及したが、それ以外の作品も良作。
まるで関心を抱けない作品がいくつか収録されているため、これまであまり購入することが無かった本シリーズなのだが、本巻について言えば、一編を除いては全てそれなりの満足感を得ることができた。こういったアベレージの高いシリーズとして続いて行ってくれるのならば、実に喜ばしいところなのだが。★3つ半。
全18編
『一年霊』 春日武彦
『寄木の森』 岡部えつ
『溶ける日』 松村比呂美
『地蔵憑き』 朱雀門出
『ついてくるもの』 三津田信三
『餓え』 真藤順丈
『修羅霊』 入江敦彦
『ゴルゴネイオン』 黒史郎
『首吊り屋敷』 田辺青蛙
『穴』 飛鳥部勝則
『やどりびと』 福澤徹三
『抜粋された学級文集への注解』 井上雅彦
『眼神』 上田早夕里
『箸魔』 平山夢明
『憑依箱と嘘箱』 岩井志麻子
『スキール』 町井登志夫
『陽太の日記〈抜萃〉』 菊地秀行
『生きてゐる風』 朝松健
このアンソロジーも12年目を迎えて、執筆者の顔ぶれも随分と変わってきている。
試みに初期の廣済堂文庫版の目次を確認してみると、かんべむさし、大原まり子、岬兄悟、久美沙織、といったSF畑の人材が目立って、いまだ国産ホラーの書き手が限られていた時代というものが思い出された。
一方、この最新巻においては、その1/3以上がここ数年の内に作家生活をスタートしたメンバーであり、しかもその軸足をホラーに置くものが大半となっている。個人的には良い時代を迎えることができたなあ、という感がある。(もっとも、1/3程度は専業作家ではないと思われるあたり、ペンで経つ者にとっては難しい時代でもあるのだろうが)
以下、全18編のうち、特に印象に残ったものの感想のみ。
まず、本書でトップバッターを務める春日武彦も非専業作家。本職の精神科医の職業的知見を生かしたのがこの『一年霊』。性格を変異させる「憑き物」を憑依させてくれる神社、という、もしかすると信仰としては本当に実在するのでは、と思わせられる設定の面白さで、ストーリー自体はシンプルながら独自の幻妖な味わいを堪能できる。
『寄木の森』の広告業界残酷物語的背景は、福澤徹三の作品にもありそうなところなのだが、そこに異性への記憶が絡んでくるところがこの作者の持ち味。正直、ホラーとしての破壊力には乏しいのだが、それでも少しも退屈させられない、小説として力のある一編。
待望久しい朱雀門出の新作は『地蔵憑き』。
デビュー作『今昔奇怪録』に通じる、日常生活に根を下ろした土俗的風習を扱った作品。町内会の寄り合いという、長閑な地方都市の行事の中に、思いもよらない異界への通路が口を開き、そこから来るものに遭遇する恐怖は、最後の一文に到るまで格別のものがある。
黒史郎の『ゴルゴネイオン』は、「魔の音楽」に憑かれた音楽家のストーリー。
創作の世界ではよく使われるモチーフであるだけに、どのようにして個性を持たせるか、そして説明づけるのか、というところで作者の技量が問われるところだと思うのだが、独りよがりに落ちない美しいラストは、その期待を外されることがなかった。
『眼神』の上田早夕里は、本籍は「SF」ということになるのだろうし、事実、この作品もあまり怖くはない。しかし、主人公の思慕にも似た幼い感情の成長と、その行方を描いたストーリーには、ちょっとやられた。
私はこういう話には弱いのだ。
平山夢明の『箸魔』は、魔の憑いた「箸」という、呪われたアイテムの一話。
この人の作品には、食欲につながる狂気の物語というのは少なくないが、それでいながらそのたびに既視感などまるで感じさせられることも無く、新鮮な嘔吐感を覚えることができるのはどういうことだろうか。何と言うか、底が知れないのである。
6編にのみ言及したが、それ以外の作品も良作。
まるで関心を抱けない作品がいくつか収録されているため、これまであまり購入することが無かった本シリーズなのだが、本巻について言えば、一編を除いては全てそれなりの満足感を得ることができた。こういったアベレージの高いシリーズとして続いて行ってくれるのならば、実に喜ばしいところなのだが。★3つ半。
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