2007年04月26日
穂積陳重『復讐と法律』
これまで、復讐という主題を主に感情や記憶の角度から取り扱ってきたのですが、復讐は刑法という法学的領域とも深い関係があるのはいうまでもありません。
で、その分野の古典中の古典、穂積陳重(ほづみのぶしげ)『復讐と法律』(岩波文庫, 1931/1982)を、ようやく読み始めました(まだ読んでなかったのかと怒られること必至ですな…)。以前、古本屋で300円で投売りされてたのに何故か買いそびれ、結局、800円くらいで古本屋で見つけて買いました。
穂積(1855-1926)の基本的な図式は、かつては認められていた私的復讐を、近代国家が公的刑罰によって置き換えた(ある意味では復讐権を奪った)という図式であり、国内で復讐論についてよく耳にする議論は、彼に一つの源泉があるといえるでしょう。
ところが、そうした私的復讐は、古代おいては「復讐義務期」にあったのが、法律の発生とともに、徐々に「復讐制限期」へと進んでいくことになります。個人的には、この制限の過程の叙述が大変面白い。
まず、(1)復讐義務者(=正当なる復讐者は誰か)の範囲が制限され、(2)復讐義務者の優先順位が定められ、(3)万が一不合理な復讐が起こなわれる場合などに備えて復讐避難所が作られ(*ここが特に面白い)、(4)復讐調停機関が設置され、(5)復讐にも復讐届出が必要になり、(6)届出だけではなく、それを公権に承認してもらうための復讐許可も必要になり、(7)ついには、復讐に代わって賠償の制度が生まれてくる。
ここまでくると、「復讐制限期」から「復讐禁止期」へと、法の進化が差し掛かることになるわけです。穂積のこのテキストは遺稿のため、私力公権化の過程は、この本ではここで途絶えてしまいます。ただ、どうも他の著作において、ある程度は述べられているようです。
要するに、穂積の復讐論は「法律起源論」なわけです。うーむ、19世紀後半の「宗教起源論」と、非常にパラレルな構図が見られて面白いぞ(ちょうど、非常勤先の授業でも、宗教起源論を取り上げたばかりなので、なおのこと)。無論、この起源論をそのまま法の歴史として読む、という意味においてではなく、むしろ、復讐の「感情」「恨み」「怨念」などを限りなくそぎ落として、復讐が法へと向かう過程を描く穂積の手つきが、奇しくも「復讐の形相的還元」のようなものになっているという点。
全体の構図はそんな感じですが、細部細部にも刺激があって、これはこれから、もっとしっかり読んでみたい一冊。…けど、時間作れるかなぁ。
で、その分野の古典中の古典、穂積陳重(ほづみのぶしげ)『復讐と法律』(岩波文庫, 1931/1982)を、ようやく読み始めました(まだ読んでなかったのかと怒られること必至ですな…)。以前、古本屋で300円で投売りされてたのに何故か買いそびれ、結局、800円くらいで古本屋で見つけて買いました。
穂積(1855-1926)の基本的な図式は、かつては認められていた私的復讐を、近代国家が公的刑罰によって置き換えた(ある意味では復讐権を奪った)という図式であり、国内で復讐論についてよく耳にする議論は、彼に一つの源泉があるといえるでしょう。
復讐は私的制裁なり。刑罰は公権制裁なり。復讐は個体力の作用なり。刑罰は社会力の作用なり。この個体力は文化の進展とともに集中転化して社会力を生じ、公権制裁なる刑罰は私力制裁なる復讐に代わるに至りたるものなり。我輩は法律進化の理法を論ずるの初めにおいて、まず法の起源を説くに当たり、私力公権化によりて法を生ずるゆえんを論証するところあらんとす。(p. 82. 強調原文. 一部仮名改め)ここに見られるように、彼は、法現象について進化史観に立ちます。そして、法の進化史の原初を、復讐に求めたのでした(なんか、タイラーとかの宗教起源論を思い出すな、この構図…)。古代の人類に普遍的に見られる私的復讐の本質は、人類の生存本能に根ざした刺激・反応であり、生存競争の不可欠な手段と考えます。また、個人対個人ではなく、団体対団体(「死者の恨みを遺された側が晴らす」復讐)の場合、そこに「霊魂不滅」の概念が介入し、「死者の霊魂を慰める」ために復讐がなされることになります。
ところが、そうした私的復讐は、古代おいては「復讐義務期」にあったのが、法律の発生とともに、徐々に「復讐制限期」へと進んでいくことになります。個人的には、この制限の過程の叙述が大変面白い。
まず、(1)復讐義務者(=正当なる復讐者は誰か)の範囲が制限され、(2)復讐義務者の優先順位が定められ、(3)万が一不合理な復讐が起こなわれる場合などに備えて復讐避難所が作られ(*ここが特に面白い)、(4)復讐調停機関が設置され、(5)復讐にも復讐届出が必要になり、(6)届出だけではなく、それを公権に承認してもらうための復讐許可も必要になり、(7)ついには、復讐に代わって賠償の制度が生まれてくる。
ここまでくると、「復讐制限期」から「復讐禁止期」へと、法の進化が差し掛かることになるわけです。穂積のこのテキストは遺稿のため、私力公権化の過程は、この本ではここで途絶えてしまいます。ただ、どうも他の著作において、ある程度は述べられているようです。
要するに、穂積の復讐論は「法律起源論」なわけです。うーむ、19世紀後半の「宗教起源論」と、非常にパラレルな構図が見られて面白いぞ(ちょうど、非常勤先の授業でも、宗教起源論を取り上げたばかりなので、なおのこと)。無論、この起源論をそのまま法の歴史として読む、という意味においてではなく、むしろ、復讐の「感情」「恨み」「怨念」などを限りなくそぎ落として、復讐が法へと向かう過程を描く穂積の手つきが、奇しくも「復讐の形相的還元」のようなものになっているという点。
全体の構図はそんな感じですが、細部細部にも刺激があって、これはこれから、もっとしっかり読んでみたい一冊。…けど、時間作れるかなぁ。
この記事へのトラックバックURL
http://blogs.dion.ne.jp/pensiero/tb.cgi/5493257
この記事へのコメント
例によって、ちょっと外しますが。
研究をめぐって、これまで何度、周囲にの人間を殺して来たことか! ……残念ながら、実際には一人も殺せてなくて、いまの私がおります。
絶対、復讐してやりたいし、人もそれを許すかもしれないけど、忙しくって、復讐もままならぬ。
一度、バリバリバリ、と機銃掃射したい。
研究をめぐって、これまで何度、周囲にの人間を殺して来たことか! ……残念ながら、実際には一人も殺せてなくて、いまの私がおります。
絶対、復讐してやりたいし、人もそれを許すかもしれないけど、忙しくって、復讐もままならぬ。
一度、バリバリバリ、と機銃掃射したい。
Posted by オケアノス at 2007年04月26日 22:34
ご、豪快な恨みの感情ですね。
是非その恨みを、研究へと昇華させてください。
是非その恨みを、研究へと昇華させてください。
Posted by さとう at 2007年04月27日 04:12
こんな本がありますね。
http://www.amazon.fr/Image-culte-histoire-limage-l%C3%A9poque/dp/220408350X/sr=1-6/qid=1169824327/ref=sr_1_6/171-2051532-1179469?ie=UTF8&s=books
http://www.amazon.co.jp/Law-Image-Authority-Art-Aesthetics/dp/0226569543/sr=1-15/qid=1169824730/ref=sr_1_15/249-9287370-8508345?ie=UTF8&s=english-books
復讐と法律というと、決闘の話がありますね。
http://www.amazon.com/Ehrenm%C3%A4nner-Das-Duell-b%C3%BCrgerlichen-Gesellschaft/dp/3406351174/ref=sr_1_6/102-9702479-8019368?ie=UTF8&s=books&qid=1177754210&sr=1-6
ドイツでは研究書が出てますし(エリアスの『ドイツ人論』もそのひとつ)和仁陽さんが動向をまとめた「決闘の法史と社会史(『罪と罰の法社会史』東大出版会)というのを書いていますね。
http://www.amazon.co.jp/%E7%BD%AA%E3%81%A8%E7%BD%B0%E3%81%AE%E6%B3%95%E6%96%87%E5%8C%96%E5%8F%B2-%E8%A5%BF%E5%B7%9D-%E6%B4%8B%E4%B8%80/dp/4130311492/ref=sr_1_1/503-8091389-7247151?ie=UTF8&s=books&qid=1177754318&sr=1-1
http://www.amazon.fr/Image-culte-histoire-limage-l%C3%A9poque/dp/220408350X/sr=1-6/qid=1169824327/ref=sr_1_6/171-2051532-1179469?ie=UTF8&s=books
http://www.amazon.co.jp/Law-Image-Authority-Art-Aesthetics/dp/0226569543/sr=1-15/qid=1169824730/ref=sr_1_15/249-9287370-8508345?ie=UTF8&s=english-books
復讐と法律というと、決闘の話がありますね。
http://www.amazon.com/Ehrenm%C3%A4nner-Das-Duell-b%C3%BCrgerlichen-Gesellschaft/dp/3406351174/ref=sr_1_6/102-9702479-8019368?ie=UTF8&s=books&qid=1177754210&sr=1-6
ドイツでは研究書が出てますし(エリアスの『ドイツ人論』もそのひとつ)和仁陽さんが動向をまとめた「決闘の法史と社会史(『罪と罰の法社会史』東大出版会)というのを書いていますね。
http://www.amazon.co.jp/%E7%BD%AA%E3%81%A8%E7%BD%B0%E3%81%AE%E6%B3%95%E6%96%87%E5%8C%96%E5%8F%B2-%E8%A5%BF%E5%B7%9D-%E6%B4%8B%E4%B8%80/dp/4130311492/ref=sr_1_1/503-8091389-7247151?ie=UTF8&s=books&qid=1177754318&sr=1-1
Posted by yanase at 2007年04月28日 18:59
まさにそうでして、「罪と罰」といったテーマに広げると、法制史の研究は膨大になってしまうのですよ。なので、どうしたもんか、結構困ってます。
ただ、決闘という切り口は、あまり考え付かなかったです。なるほど。やっぱり、私の復讐のイメージは「必殺」シリーズ〜地獄少女のような「うらごろし」なんだと思い知りました。
ベルティングのやつは、これの仏訳っぽいですね。
http://www.amazon.de/Kult-Geschichte-Bildes-Zeitalter-Kunst/dp/3406377688/
うーむ、ベルティング、相変わらず元気だなぁ。読みたいけど、700頁という厚さを見た瞬間、買う気が…
ただ、決闘という切り口は、あまり考え付かなかったです。なるほど。やっぱり、私の復讐のイメージは「必殺」シリーズ〜地獄少女のような「うらごろし」なんだと思い知りました。
ベルティングのやつは、これの仏訳っぽいですね。
http://www.amazon.de/Kult-Geschichte-Bildes-Zeitalter-Kunst/dp/3406377688/
うーむ、ベルティング、相変わらず元気だなぁ。読みたいけど、700頁という厚さを見た瞬間、買う気が…
Posted by さとう at 2007年04月29日 06:13
>>読みたいけど、700頁という厚さを見た瞬間、買う気が…
ろくに読めもせんのに買った私の立場はどうしろと(ry)。
和仁さんの論にはカントの一節がひかれてましたね。
ろくに読めもせんのに買った私の立場はどうしろと(ry)。
和仁さんの論にはカントの一節がひかれてましたね。
Posted by yanase at 2007年04月29日 13:12














