2012年01月17日
時空を駆けて(1)ユーラシア・群青のトライアングル(イスファハーン、サマルカンド、アーグラ)
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>茄子紺(なすこん)色に沈んだ町に、アザーンの声が響き渡る。早朝のホテルの窓から見えるザーヤンデルート川の向こうに、イマーム・モスクが微かに姿を現した。
一条の光がドームの一角を照らす。浮かび上がる一瞬の紅碧(べにみどり)色。やがてそれは夜明けのベールとなって音もなくモスク全体を包み込む。光は、ゆっくりと川面に立ち渡る霧と乱舞し始めた。
夢のようなイスファハーンの夜明けであった。。。云々
これは1990年1月、初めてイスファハーンを訪れた時の私の旅日記
に記された印象である。
歳月を経て今、あの時の情景を思い浮かべる時、そこにはイランという国も、イスファハーンという町も自分の見た物以上の世界を想像もしなかった。。。と、いうより出来なかった当時の無邪気な自分がいる。
あれから20年を経た、2010年4月に私は再びこの町を訪れた。その時、イスファハーンの町の様子のあまりの変わりように自分の目を疑った。
20年前、観光客も車もホテルさえも、思い出したようにしか目にすることのなかったこの町に、それら全てが堰を切ったように押し寄せていた。イスファハーンは、まぎれもなく現代の大都会になっていた。
ただ、そびえ立つ鈴かけの木のおおらかな緑の茂りだけは、すっぽりとこの町を包みながら、確かに経てきた20年の歳月を語っていた。
私が初めてイスラーム建築なるものを見たのは、インドのアーグラにあるタジ・マハールだった。それから数年後ウズベキスタンのサマルカンドで、グル・エミール廟をはじめ幾つかの建物、そしてイランのイスファハーンでイマーム・モスクや金曜モスクなどを見た。
その後もトルコやモロッコ、そしてスペインでもイスラーム建築とされるものを見た。
けれどそれらは、何かが違う。。。
いつしか私はそんな目でイスファハーン、サマルカンド、そしてアーグラの廟やモスクと呼ばれる建物を見ていた。
この違いは何なんだろう?
世界のイスラ-ム建築と呼ばれているなかでこの3つの建築物が私の心を捕えて離さないのは何故だろう?
それから何年もこの謎は、私のこころの隅で小さくなって転がったままだった。
最近になって、何故かふとそのことが気になり始めた。
私の心を捕えてはなさない好奇心をたどっていくと、そこにはイスファハーン、サマルカンド、そしてアーグラの廟やモスクと呼ばれる建物に見る玉葱形の屋根の形、そしてその下に描かれていた文様や色彩がある。
私が「イスラーム建築に興味がある」などと大上段に振りかぶるなど失笑を買うばかりだろう。そんな大げさなものではない。私は建築家でも歴史家でもないのだから。どこまでも素人の好奇心である。そしてその好奇心は単純だ。
あの流れるような、玉葱形の屋根、気の遠くなるような繊細な文様、言葉を失ってしまうような美しい色彩。これらは他の国で見たイスラーム建築とは私の中できっぱりと一線を画していた。
何故?なぜ?ナゼ?。。。
このミステリー、何とかしなければ。。。
それが何故なのか分からないまま、20年以上ものんびりと惰眠をむさぼっていた私の好奇心の虫がむっくりと起き上った。
しかも奴さんは既に、私の時空船レッド・ペッパー号に乗り込んで、したり顔で手を振っている!
そうは言っても、今回私は少々戸惑っている。
そもそも、最初の着陸地点を何処に置いていいか分からない。
いや、分かってはいるのだけれど。。。
イスラーム文化。。。というよりこの場合ペルシャ文化と言った方がいいのかも知れない。いやいやそれを厳密に辿ろうとすると、チグリス、ユーフラテス川に興ったシュメール文化にまで遡ってしまうことが分かったのだ。
しかし今からおよそ5,6千年も、いやもしかしてそれ以上も(!?)遡っていたのでは、何時イスファハーンに辿り着くか分からない。
ここは、やはり私のこころを捉えて離さないイスファハーンに近付くことに的を絞ろう。美しいイスラーム建築に近付くことに的を絞ろう。
レッド・ペッパー号に搭乗、運転室のコンピューターをいじっていると、ナビゲーターは、イスファハーンはイスファハーンでも「イマーム・モスク」ではなく「金曜モスク」を示した。
金曜モスクとは、金曜日の集団礼拝が行われる集会モスクのことだ。つまり金曜モスクはあちこちの町にあるということだ。
しかし、私が今取り上げている金曜モスクは、あくまでも「イスファハーンの金曜モスク」のことだ。だって、「イマーム・モスク」も「金曜モスク」もイスファハーンで実際に見たのだもの。
「え〜!イスファハーンに向かうのはいいけれど、イマーム モスクでなくて、先ず金曜モスク!?どうして?それってどの年代に設定すればいいの?」
何も分からない私に、レッド・ペッパー号は、イスファハーンを語るためには順を追えと言っているのだろうか?それにしてもどの時点に?
ここは逆らわずに、とにかくシュッパ〜ツ、ハッシーン!
(続)

