2012年01月20日

徒然に社会や人間の闇を描いた『鴨居 玲』

昨年の暮れに、とうとう携帯をスマートフォンに変えました。
長年使っていた携帯には別段不満もなく愛着もあったのですが、買い替えるとなるとやはりスマホに目がいってしまいます。
スマホを使用している人の比率はまだ50%を超えていないようですが、売り場では展示品の7〜8割がスマホで、携帯のシェアは縮小傾向にあるようです。
機種はスマホに興味を持った時から一貫してSony Ericsson のXperiaが良いと思っていましたので、いろんな機能が追加されたXperia Acroが発売になった時点で、これだと決めていました。
スマホにした人は誰もが同じ感想のようですが、メールの打ち込みには最初たいへん苦労しました。
何しろタッチパネルですから、間違って隣にちょっと触れるとすぐ違う文字が出てくるので、次第に苛ついてきて電話にしてしまったり、しばらくは四苦八苦でした。
ただ、ネットがかなり使えるのと、いろんなアプリがあるので、遊ぶのには結構楽しめますし、ブログの記事をみたり、特に画像は携帯と比べると段違いに楽しくなります。
まだ機能のすう%しか使えてませんけど、慣れれば確かに便利だと思われます。

『私の話を聞いてくれ』
私の話を聞いてくれデジタルの恩恵を少々味わった反動で、今回は命とは、人生とは何か、と自己に厳しく問いただしながら、ついには自ら命を絶った『鴨居 玲』を取り上げてみました。
鴨居の作品は、そのほとんどが自画像であると云われていますが、鴨居は「個展の仕事が終わって、その解放感と、たったこれだけの事であったのかとの絶望感が入り交じって、奇妙な気持ちの毎日です。もっとも、この絶望感が、もう一度、ためしてみよう、ためしてみようという、私の生きる手がかりになっているのかもしれません。」と、描くことや生きることの恐れと希望を苦しみのなかに語っています。
鴨居が作品を描くときは漠然とした下描きを何ヶ月もそのままにし、苦悩のなかに狂気とエネルギーを高めていって一気に描き上げたそうで、制作中は無我夢中なので展覧会前にはゲッソリとやつれ、息絶え絶えの様子で人前に現れたそうなのです。
まさに苦悩がそのエネルギーの根源であったと云えるようですが、しばらくスペインに住んでいたときには、プラド美術館のゴヤの黒い絵の部屋に終日座り込んで、絵を鑑賞するのではなく悶々と考え込んでいたと云います。
世間一般の常識から見れば、新聞記者の父親と下着デザイナーとして一世を風靡した鴨居羊子を姉に持ち、外見はたいへん恵まれた容貌でお洒落なイメージがありますが、実際は、酒に弱く経済観念にも乏しく、子供のような甘えで我儘であったそうです。
でもその作品は、一目で鴨居の作品だと分かるような「暗さと虚無感、焦燥や懊悩」をみることができます。
彼の死後、アトリエには未完成の作品が何点も残されていたそうですが、そのほとんどが自画像であったそうで、彼の使っていたパレットの裏側には「苦るしいのです 苦るしいのです」と書かれていたそうです。

ホントに「絵は苦しみそのもの」だった!

鴨居 玲(1928-1985) 長崎の生まれ
理由はよく分からないのですが、鴨居玲には異なる二通の戸籍謄本が存在し、鴨居玲一通は1928年2月3日、石川県金沢市生まれ、もう一通は1927年10月3日、大阪・豊中生まれとなっているそうですが、本人は終生これを隠して長崎だと言い続けたそうです。
この件に関しては、他にも諸説があるのですが、確かなことは両親ともに長崎の出身で、父親は北国毎日新聞記者をしており、その転勤にともなって金沢、ソウルで小学校時代を過ごし、中学時代は大阪に、18歳の時再度金沢に移転して、金沢美術工芸専門学校に第一期生として入学し、画家を目指すことになります。
卒業後一度は就職して母と姉・羊子の住む兵庫に移り、田中千膝を抱える少女代服装学園の講師を務めたりするのですが、幼少の頃は母親っ子で泣き虫で甘えん坊であった鴨居は、酒に弱く経済観念に乏しく我が儘であったにもかかわらず、なにしろそのたぐいまれな風貌から学園の女生徒や同僚の女性達の関心を一身に集めたそうです。
31歳の時初めてデザイナーであった妻に同行してパリに渡り、その後には南米やスペインなど諸国遍歴を始めます。
静止した刻そして、特に暖かで豊かな南米に長期滞在をしたとき、「このように悩まぬ土地では絵は描けぬ」と悟り、『自己表現への探求』に悩み抜いた結果、41歳の時に描いた『静止した刻』で、具象絵画の登竜門である安井賞を受賞し、一躍全国区の人気を博するようになります。
この作品は、サイコロ賭博の一喜一憂の喧噪の中で、サイコロが振られる瞬間の緊張感と一瞬の静止を捉えたもので、鴨居も実際によくサイコロに興じていたそうです。
しかし脚光を浴びたものの「飽きたらぬ思い」がつのり、またまた新天地を求めてスペインのバルデペーニャスに移り住み、アトリエを構えて制作活動に専念するのですが、相群がる変わらず酒とは縁が切れず、妻とはその関係が破綻しており、その十余年間生活を共にしたのは遍歴中に知り合った富山栄美でした。
ですが画業は、スペインのバルデペーニャスの村人達との交わりの中から、生涯のテーマをつかみとり、世に残る数々の作品を残してゆきます。
酔って候姉の紹介で知り合ったかの文豪「司馬遼太郎」と親交を持ち、鴨居玲に関する紹介文を寄稿されたこともあるそうですが、幕末の土佐の大名・山内容堂を主人公に描かれた司馬の作品『酔って候』と同じタイトルの作品を描いています。
おっかさんスペイン滞在中に父親が亡くなるのですが、その訃報に接した鴨居は「無宗教なので酒を呑むことでお別れをする」と云ったそうで、これに対してスペインの村民達はこぞって酒屋のはしご酒に付き合ってくれたそうです。
こんな逸話を聞くと、どんなに我が儘で酒に溺れていても、人を惹きつける魅力に溢れていた人なのかなと軽いジェラシーを感じてしまいます。
教会さて50歳の時描いた作品に『教会』があります。
姉は若くしてカトリックの洗礼を受けており、鴨居は無神論者であったのですが、この「教会」をテーマに数点描いています。
無機質な、あるいは荒涼とした空間に、圧倒的な重量感をともなって頭上に浮く十字架、まるでシュールレアリスムの作品のようですが、スペインという強力なカトリックの国において鴨居が無神論者であったこと、あるいは何故自分は無神論者なのかといった自問の中から生まれた作品なのでしょうか。
1982年 私鴨居の作品はすべてが自画像だと云われると書きましたが、もちろん文字通りの自画像もあれば、モデルに託して自分の心境、本質を描き出した自画像もあった訳ですが、54歳の時描いた『1982年 私』は少々鬼気迫る怖さを感じさせます。
何も描かれていない白いキャンパスの前に、まるで亡霊のような、呆然とした顔の画家がいます。
「描けない。 駄目だ描けない。」。苦しみと恐怖に打ちのめされそうな画家、その廻りには、画家が過去に描いた人たち、酔っ払い、廃兵、老人、楽士、老婆、裸婦たち、が集まり「早く次の作品を・・・」と呟いています。
鴨居自身がこの作品に「墓石」と名前をつけたと云われています。
肖像そして最晩年に描かれた『肖像』(1985)は、描くことの苦悩を続けてきた鴨居にとって「闘いにももう疲れたよ。 このへんでこの世の仮面はとらせてもらうよ」と云った自嘲気味な言葉が聞こえてきそうな作品です。

『自画像(パレット)』は油絵の具が盛り上がったパレットの中に、憔悴し苦の果てに絵画の悪魔に取り憑かれ、死の影が忍び寄ってきたことを予感させるような作品です。
自画像(パレット)常に厭世的、破滅的で、常に悲壮感を抱き、苦しんで苦しんで極限まで行き着いて初めて作品を描くことができたと云われる鴨居は、一説には大腸ガンを抱えており、最後には狭心症で命を落としたと書かれていますが、実際にはしばしば自殺願望を口にし、たびたび
自殺未遂を繰り返した末、57歳の時、自宅車庫で酒に酔い車をアイドリングさせたままクルマの中で死亡していたそうです。

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この記事へのコメント
スマホデビューおめでとうございます

最初はメールとかも打ちにくいですよね
プリュムも太い指のせいかしらと
己が手を睨んだときもありました
ブログとかも見やすい画面ですから
プリュムの店も贔屓にしてくださいまし

さて、最初の作品を観て
直感でゴヤみたいだ!と思いました
ただ、文章を読み進めていくうちに
ゴヤとは絵の対象が真反対な画家なんだと感じました
この人は自分の内に向って描いているんですね
人間は己の闇に囚われると
深く沈みこんでしまいます
自殺願望があったとか
アルコール依存とかを拝見すると
精神的に病んでいたのかもしれませんね
Posted by プリュム at 2012年01月22日 22:08
こんにちは
鴨居玲は神戸あたりの画廊でしばしば回顧展があったりして、そのチラシなどではよく見てました。
近年そごう美術館で大規模な回顧展を見ましたが、やっぱり実物の迫力は違いますね。凄いと思いました。
しかしその一方で、お姉さんの力強さに比べて、風貌が立派なくせにナサケない弟やな〜、だからこういう作品を描くのか、と勝手に納得してました。
晩年のもみあげにもびっくりしましたが、どことなくここの姉弟を見ているとライオンを思います。
雌獅子の強さを持つ姉と、風貌は百獣の王だけど・・・な弟くん。しかしその心の弱さこそがまた魅力なのだと言う矛盾を改めて考えました。

スマホ、わたしは悩んでますよ〜〜
Posted by 遊行七恵 at 2012年01月23日 17:00
こんにちは。
色男でダメ男で人をなぜか惹きつける魅力があって
内面に闇を抱えているって
まったく絵に描いたような芸術家ですね;
でもこの画風、嫌いじゃないかも。

携帯電話が半死状態になったので
NIJOもこの年始にスマホへ機種変更しました。
ヘビーなPCユーザーとしては有り難いことも多いので。。。
アプリがいろいろありすぎて面倒ですが
追い追い精選して使っていこうと思います♪
Posted by NIJO at 2012年01月23日 20:42
☆プリュムさん、こんにちは。
プリュムさんは確かiPhoneをお使いでしたよね。
やはりジョブズは天才で、PCのマックもiPhoneも
彼の卓抜なアイデアのたまものだと思います。
私は決して国粋主義者ではないのですけど
PCは最初に買ったのがNECのPC−9801シリーズで
そのあとにソニーのバイオ「、最近ではカメラにしても
ブルーレイにしてもソニー製が多いのですよ。
スマホはそんな流れで買ったのですけど、最近やっと
文字打ちにも慣れてきましたよ^^
プリュムさんのお店はとても贔屓にさせていただいて
まして、楽しませていただいてます。

鴨居玲のゴヤの黒い絵の部屋の逸話、想像するに
鴨居の心のありようが、よく分かるような気がします。
精神が研ぎすさまれると、やはり一種の狂気を発する
ようになるのだと思うのですが、それこそが観る人の
心をえぐる作品となるのかなと考えさせられます。



Posted by sekishindho at 2012年01月24日 00:09
☆遊行七恵さん、こんにちは。
鴨居にしても小磯にしても、関西を本拠地に活躍された
芸術家は多いですね。
やはりスペイン時代の村民をモデルにした作品は面白いものが多いと思うのですけど、今回冒頭に掲載した『私の話を聞いてくれ』は何故か真剣で切実な鴨居の言葉が聞こえてきそうな気がして、一番気になりました。

確かに姉の羊子は下着の「スキャンティ」のネーミングを世に出し、著作物でも人気のある人物で、弟とは対照的ですけど、カトリックが生活の至る所に大きな影響力を持っているカトリック王国スペインを活躍の場としたこの弟の自虐的な生き方、制作活動が、その作品を通じて面白く感じられます。

スマホ苦労されてますか。七恵さんの弱みを知るのは
ちょこっと嬉しい気がしますよ(笑
Posted by sekishindho at 2012年01月24日 00:27
☆NIJOさん、こんにちは。
>色男でダメ男で人をなぜか惹きつける魅力
確かにこの真逆の私の場合、芸術家には不向きな
ことがよく自覚できましたよ(笑
ただ、私もこの画風はけっこう好きですよ。

若い人たちにはスマホの操作も、それほど苦に
ならない人が多いのでしょうけど、私の場合は
TVのコマーシャルではないのですけど、電話の方が
手早く安心な世代ですよ(苦笑
アプリはホントに色々ありすぎて、何をどうして
いいのやらの状態ですよ。

Posted by sekishindho at 2012年01月24日 00:35
おはようございます。

祝☆スマートホンデビュ〜、私はNTTのポイントが貯まってアイパッドと交換したばかりです。
追っかけてますから、いろいろ教えてくださいよ!

+優男 酔いどれて 悩んでいても 男前+

憎めませんね、こういう殿方。私など節制していても中年特有の崩れで、フェイスライン保てないのに。
ミーハーで、絵に関係ないことばかりに目がいきます。
Posted by futabakaho at 2012年01月27日 06:52
☆futabaさん、こんにちは。
私もドコモのポイントがかなり貯まってましたし、BICカメラのポイントもありましたから、ほんの少々の差額で手に入れましたよ^^
もう少し使い込めば色々楽しめそうですけど、今のところはまだまだ未熟者です。

ほんと云うと、つかみの部分が本筋で、絵の部分は付け足しなのですよ(笑
Posted by sekishindho at 2012年01月27日 23:53
私も5年近く使い続けた携帯電話が
とうとうボロボロになってきて
そろそろ交換と思っているのですけれど
なかなかスマホに!と踏み切れません・・
なんだか面倒くさそうで^^
sekishindhoさんは使いこなしつつあるようですね。
それはいいですね!

この方の絵はまた独特ですね〜
なんだか深く思い悩んでいる、その重さが
絵に滲んでいるような色彩であり絵ですね・・
見ていてなんとなく胸が押しつぶされるような
そんな気がしてきます。

それにしてもすごいインパクト!
Posted by atsuko at 2012年01月28日 21:56
☆atsukoさん、こんにちは。
5年も使っていると、もうすっかり手に馴染んでいて
離しがたいかも知れませんね。
でも今から買い換えるとなると、やはりスマホに
なるのでしょうね。
私はだいぶ慣れてきて、メールも長い文章が
打てるようになりましたよ。
乗換やナビ、それにデジカメ代わりにけっこう
役立ちますよ。

鴨居玲、悩み抜くことが創作の原動力になるという
凡人から見れば何故にと思ってしまうのですが
その思い、苦悩は作品からホントににじみ出ている
ように感じられますよね。
『おっかさん』という作品、母親っ子であった鴨居が
いつものように酒に酔っているのを、母親が叱って
いる光景でしょうか。
酒に溺れる自分を責める気持ち、母親に叱られたい
甘え、自分ではどうすることもできない自虐的な
気持ちを表現しているのでしょうか。
Posted by sekishindho at 2012年01月30日 22:26


 
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