2007年08月29日

徒然に最後の肖像画家『ジョン・シンガー・サージェント』

先週に訪れた軽井沢ほどでないにしても、朝夕にやっと猛暑の衰えを感じられるようになってきました。
面白いもので、35、6度の猛暑日が続きますと、当然暑いと感じる30度くらいでも、オッ、今日はしのぎやすいなどと感じてしまうのですから、太古の昔から営々と生き続けてきた人間の適応能力もたいしたものだと思ってしまいます。

人間の肉体も適応能力と云うか変形能力(?)が有るようです。
極端な悪例ですが、中国の旧習の一つに南宋の頃に流行った「纏足」と云われるものがありました。
小さな足が美人の条件であったそうで、その為に小さな頃から足の指を曲げて堅く縛り成長させなくしたもので、当然清朝初期の頃には禁止令が出されたそうです。
以前下着メーカーのワ●ールの方から聞いた話ですが、女性のガードルやブラは適正に着用するしないで明らかに体型が変わるそうです。
確かにルーズフィットはルーズな肉体につながるかも知れません。

カーネーション、リリー、リリー、ローズ
さて、軽井沢のメルシャン美術館へ行ったとき今回取り上げた「ジョン・シンガー・サージェント」の作品【ハロルド・ウィルソン夫人】が展示されていました。
「サージェント」は19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカ人の画家ですが、この時代の画家としてはホイッスラー、メアリー・カサットと共にアメリカ人三大画家の一人などとも云われていました。
時代は印象派をへて様々な絵画活動が始まった時期なのですが、モネとも親交のあった「サージェント」は、印象派的な作品とともに伝統的な手法によって人物の肖像画を描き続け、上流階級の人々を描いた肖像画で富と名声を得たものの、次第に時代遅れとの評判もとり「最後の肖像画家」などと呼ばれたのです。

冒頭の画像は【カーネーション、リリー、リリー、ローズ】と呼ばれる少々変わった名前の作品です。
この作品は「サージェント」がロンドン西郊外ウースターシャーの画家仲間の家に寄宿していた頃描かれたものですが、作品の中に二人の少女が明かりをともしている提灯が描き込まれています。
これは当時のヨーロッパでブームとなったジャポニスムの影響なのでしょうが、提灯は日本から大量に輸入されロンドンのリバティ百貨店で売られていたそうです。
まるで西洋版盆踊りの準備をしているようにも見えますが、現実感が乏しく夢の中のような美しさは、画家本人の心の中の風景なのかもしれません。

ホントに「パリで一番話題の画家」とも云われたのです!
  
  ・ジョン・シンガー・サージェント(1856-1925)  フィレンツェ生れ アメリカ人の画家
アメリカ人医師の子としてイタリアのフィレンツェで生まれます。

サージェント,ジョン・シンガー
両親は子供達にヨーロッパの文化教養を身につけさせたいと考え、ヨーロッパの街を転々と移り住んだそうです。
母親が最初にサージェントの芸術的な才能をみいだし幼児期に水彩用具を与えたのですが、少年の頃には線描や水彩画で周りの人々を驚かせたと云います。
18歳でパリに出て社交界で人気の肖像画家カロリュス=デュランのアトリエに入門し、官立美術学校にも通ってうでを上げ、アメリカ大統領をはじめ多くの肖像画の依頼が舞い込む中「パリで一番話題の画家」と呼ばれるようになっていったのです。

マダムX
【マダムX】(ピエール・ゴートロー夫人) 26歳の時パリで出会った美しい夫人・ゴートロー夫人は、パリ社交界一の美貌の持ち主と云われていたのですが、サージェントはこの夫人に惚れ込み初めて依頼主のいない肖像画を描きたいと熱望し、拝み倒してモデルとなってもらったのです。
しかし、持てる技量のすべてを注ぎ込んで完成させたこの作品は、パリのサロンでは「大胆不敵、悪趣味、官能的」などと酷評されます。
胸元の大きくカットされた黒いベルベットのドレス、端正な横顔には冷たさも感じさせる凛としたその姿は、決して酷評に値するとも思えないのですが、これが一大スキャンダルへと発展し、また逆に作品からこの独特のコスチュームがとても流行ったそうです。
モデルからはこの肖像画の受け取りを拒否され晩年まで自分の手元に置いていたのですが、メトロポリタン美術館に寄贈され現在では「アメリカの至宝」と呼ばれています。

エドワード・D・ボイトの娘たち
【エドワード・D・ボイトの娘たち】この作品は集団肖像画なのですが、サージェントの師であったデュランはヴェラスケスの心酔者であったそうで、ヴェラスケスの画法をサージェントに徹底的に仕込んだそうです。
それでこの作品、色使いといい構図といいヴェラスケスの名作ラス・メニーナスを彷彿させてくれるように思えます。
実際サージェントはスペインでこの【ラス・メニーナス】を一生懸命に模写したそうです。

スキャンダルの後、居住をロンドンに構えていたサージェントですが、ロンドンのロイヤル・アカデミーでも1897年には正会員となって成功しているのですが、1905年頃からは毎年アメリカを訪問しボストン美術館の円形大ホールの天井画の作成なども依頼されて手がけています。

どろんこのワニ
そして1907年頃からはすっかり肖像画の注文を受けなくなり、それ以降の晩年はまるで日記を書くように風景画や身近な人たちの日常を中心とした水彩画を描き、大変な数の作品を残しているのですが、現在では肖像画以上に高い評価を得ています。
【どろんこのワニ】は水彩画の中でも少し面白い作品ですが、アメリカではその雄大な自然に生きる野生動物を水彩画で描く伝統があります。
ロンドンに住んでいたとはいえアメリカ人であったサージェントもその例外ではなかったようでアメリカ・アリゲーターを描いたのです。

各地を回りながら水彩画を描き、ボストン美術館の円形大ホールの天井画の制作も続けながら、1925年、ロンドンにて69歳で亡くなっています。

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この記事へのコメント
おはようございます。お茶目な紳士様^^。

冒頭の絵を見て「天真爛漫なハイカラさん」をイメージし、マダムXを見て、「マロ姉さん」をイメージしてしまうのは。。。ブログの世界に迷いこんだせいでしょうか?
オードリーといえば。。。
ほら。。泥んこワニの中にいるじゃないですか〜〜^^。

おふざけなコメントで。。。すみません。
でも、私のイメージも。。。なかなかではないでしょうか^^。
Posted by オードリー at 2007年08月30日 06:41
オードリーさんのご指名に預かりまして・・・
『大胆不敵、悪趣味、官能的』なマロの登場でございます(笑
それにしても、拝み倒して描いた絵がこんなに不評では凹みますね(涙
受け取りもしてもらえなかったなんて、X婦人も罪な方ですねぇ・・(゜-Å) ホロリ
何がいけなかったのでしょうか
私はこの赤い耳たぶなのかなあ・・・と思うのですが・・・(笑
絵というものは、絵を描いているとこの状況のほうを
想像することが楽しいのです・・・(悪趣味・マロニエ考・笑)

Posted by マロニエのこみち・・・。 at 2007年08月30日 07:36
カーネーション、リリー、リリー、ローズ

名前がおまじないのようですね^^
妖精のような可憐な少女とユリとカーネーション、ローズの華やかな絵なのに、持っているのが提灯なんて、面白いですね!
でも、違和感なくて、なんだか嬉しいのは、私だけでしょうか??

ガードルって一度も着用したことありませんけれど・・・ルーズな肉体になるんですか〜??!!
Posted by noobooboo at 2007年08月30日 22:15
◎オードリーさん、こんばんは。
いつも有り難うございます(o´∀`人)
そうそう、マダムXは「マロお嬢さん」かも知れませんね!

「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」の少女はきっとオードリーさんの変身した姿ではないかと私は見てるのですけど^^
どろんこのワニはオードリーさんの眼を見たか歌声に誘われてワニに変えられてしまった哀れな男どもではないですか。
107さんだとは云いませんけど(o^щ^o)


Posted by sekisindho at 2007年08月30日 23:31
◎マロニエのこみちさん、こんばんは。
『大胆不敵、悪趣味』とは思わないのですけど、今ご執筆中の『両手いっぱいの花束』をお読みする限り『官能的』なのかなとは思いますよ^^
決して直線的な表現ではないにしても充分にのめり込まされる女の魅力に溢れておりますよ(~ ~;)
完結するまで途中のコメント差し控えておりますけど、楽しませてもらってます。

社会的地位のある人妻であったモデルは、社交界で好奇の的になったことが許せなかったのでしょうね。
耳たぶを赤くしたのは何故なのかなと今でも考えているのですけど、何故なのでしょう。
Posted by sekisindho at 2007年08月30日 23:43
◎nooboobooさん、こんにちは。
この絵のタイトルは、その頃流行った歌の歌詞と重ね合わせて付けたとも云われています。
提灯はこの頃の日本ブームの凄さを物語っていますよね。
雑貨商のリバティーはこれで百貨店に成長したのですから。
ところで詳しくは知りませんが、若い人のガードル着用率は昔に比べとても低いそうです。
で、最近の若い人はスリムになっていると思ってたのですが、ワコールの研究では、ウェストの平均は確実に長くなってるそうです。
「あげてよせて」も決してたんなる宣伝文句でなく、そのようにきちっと着用すればそのような形に近づくそうです。
ただし自分で試したわけではありませんので念のため(o^щ^o)
Posted by sekisindho at 2007年08月30日 23:54
まさかこちらで女性の下着についてのご意見を拝聴するとは思いませんでした(*´∀`)

マダムX、抜群のプロポーションに艶かしいドレス、たまりませんです(前にも言いましたがベルベットのドレス、頬をすりすりしたくなります)・・・物理的な補整とはまた別に、人に見られることで締まるとか美しくなるとかいうこともあるように思いますが、sekisindhoさんのご意見はいかがでしょう?
とてもヨーロッパ的なこのテの絵とは対照的な「どろんこのワニ」も面白くて好きです。こういうのを見ると、アメリカの魂を持った画家なんだなと思ったり。

ところで近頃、ブログペットのpegaくんがようやく人語を話すようになりましたね!
Posted by 107 at 2007年08月31日 03:00
◎107さん、こんばんは。
今日はとんでもない時間まで起きてらっしゃるのですね。
経験からいって寝不足は老化を早めますよ^^

特に女性専科というわけではないのですけど、着物でもウェディングドレスでも下着でも何でもお話しするのはほんらい好きなのですよ(~ ~;)

人に見られて美しくなるというのも有ると思うのですが、見られてることを意識することによって、の方がより効果的なのではと思います。

107さんの「頬をすりすり」はいかなる深層心理に基づいているのでしょうね。
いわば愛に飢えた幼児性なのか、純真な若き頃にマロニエさんに出てくるU君のような経験をしたとかいろいろ考えると面白いものがありますよ^^
あ、悪い癖が出てしまい大変失礼いたしましたm(;∇;)m
Posted by sekisindho at 2007年08月31日 23:09
はじめまして。
活字三昧のみどりと申します。
マロニエのこみちさんのところからお邪魔させて頂きました。
何て幅広く奥深い知識をお持ちなんでしょう。
自分のところのミーハーで浅はかな記事が恥ずかしくなってしまいました。
無知なのでサージェントもまったく知らない画家さんでした。
勉強になりました。
ぜひこれから時々お邪魔させてくださいませ。
宜しくお願いいたしますm(_ _)m

Posted by みどり at 2007年09月01日 08:10
こんにちはせきさん。
わ〜「マダムX」、
この絵だけはいつか必ず拝見したいと願っています。
実は3枚あって、もともと肩紐がずれていたのでしたっけ・・?
今ならそう挑発とも思わないのに・・出る杭ゆえ、時代の罠に捕らわれたのでしょうね。

せきさんのランジエリー解説も加わり、ますます見たくなりましたよぉ。

Posted by futaba at 2007年09月01日 15:36
◎みどりさん、こんばんは。
はじめまして、ようこそお越しくださいました。
といっても、マロニエさんや107さんの所でよくお見かけしてましたので全然初対面の気がしませんが、今後ともよろしくお願いいたします。

私のブログはタイトル通りに、あちこちに散らばっている「賢者の石」を拾い集めているだけですのでお恥ずかしいのですが、コメントくださる皆様はそれは素晴らしい方ばかりです。
これを機会にさらに和(輪)が広がるとありがたいです。
みどりさんの所へもお邪魔させていただきますm(_ _)m
Posted by sekisindho at 2007年09月01日 23:57
◎futabaさん、こんばんは。
「マダムX」は「美の巨人たち」で取り上げて3枚の絵を紹介したようですけど、残念ながら見てないのです((>_<。)。。
最近は胸の谷間も当たり前のようになってきましたから、全然挑発的なことないと思うのですけど、やはり人妻であるモデルと画家の濃厚な関係を示唆するような妖艶さが物議を醸し出したのでしょうね。
サージェントもこのお陰でパリにいられなくなりロンドンへ移住するのですから、女性の扱いは慎重にでしょうか^^
Posted by sekisindho at 2007年09月02日 00:19
こんばんは
ついにサージェントが来ましたね♪
わたしにとってアメリカ人で一番好きな画家です。
というよりその「三大画家」しか好きではないくらいです。
パリデビューの気持ちはわかるのですが、絵を見るといつもラファエル前派の仲間のように感じます。
現に「カーネーション・・・」を初めて見たのはそんな展覧会ででした。テート・ギャラリーでしたか。
ですからロンドンに移住したのはいい選択だと思います。
「ボイトの娘たち」はついこないだまで名古屋ボストン美術館で展示されていました。

精神も肉体もルーズな私は反省しきりです。
Posted by 遊行七恵 at 2007年09月02日 00:28
◎遊行七恵さん、こんばんは。
サージェントやはりお好きでしたか。
仰るように特に「カーネーション・・・」はラファエル前派の雰囲気が色濃いですね。
Takさんだと共通するラファエル前派の作品を提示してくれそうですけど、残念ながら私ではできません(^_^;)
この画家、イタリアで生まれヨーロッパで育ち、そしてアメリカ人の両親と面白い経歴の持ち主ですよね。
それだけに画風も多彩であるように思えます。

七恵さんの強靱なほどの探求心、行動力、それに文才はいつも記事は意見してればよく分かります。
決してルーズなんて言葉は似合いませんよ^^
Posted by sekisindho at 2007年09月03日 01:01
水族館のトドよりもルーズな生活をしている人間がここにいます。
全身で「ルーズ」を発信している千露です。

【カーネーション、リリー、リリー、ローズ】は98年の「テイト・ギャラリー展」で見ました。
第一印象は幻想的で可憐な作品だったのですが、
改めて見直すとなんとなく関西の「地蔵盆」を連想してしまいます。
サージェントといえば肖像画のイメージが強いですが、
どこか神秘的な趣の作品も描いていますね。
その中でも私は【龍涎香】という作品が好きです。
Posted by 千露 at 2007年09月05日 23:42
☆千露さん、こんにちは。
素敵なビーズ細工をなさったり、とても凝ったホームページ運営なさってる千露さんがルーズとはとても思えませんよ^^

関西の「地蔵盆」は私も小さい頃経験がありますが、とても楽しみな催しでしたね。
【龍涎香】どんな作品でしょうね。
残念ながら観たことないですよ(^_^;)
何かの記事でアップしてくださると嬉しいですね。


Posted by sekisindho at 2007年09月08日 00:43
サージェントについて調べていたらこんなに細かに彼について書かれているサイトを発見しました。よく書いてくれましたと喜びの念を受けとっていただければ幸いです。ありがとうございます。
Posted by 中村正寿 at 2008年08月07日 01:48
◎中村正寿さん、はじめまして。
ご訪問とコメント有り難うございます。
気がつくのが遅くて、ご挨拶遅れて申し訳ありません。

サージェントの記事でとても喜んでいただけたようで、とても励みになり嬉しいことです。
毎回四苦八苦しながら、ぼつぼつ続けていますので、またお寄りくださりコメントいただければ幸いです。

今後とも宜しくお願いいたします。
Posted by sekisindho at 2008年08月10日 00:19
はじめまして。
JINNNOUCHIと申します。。。
中学校の宿題の参考にさせてもらいました。
とても分かりやすく、いい参考になりました。
私も、サージェント様の作品で一番「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」がお気に入りです。
あと、「エドワード・D・ボイトの娘たち」とか・・・

どうもありがとうございました。
Posted by JINNNOUCHI at 2010年08月22日 17:34
◎JINNNOUCHIさん、こんにちは。
ご訪問とコメント有り難うございます。
サージェントに関する宿題って、どんな宿題だったのでしょうね。
でももし少しでもお役に立てたのなら嬉しいですよ^^

またぜひお遊びにいらしてください。
Posted by sekishindho at 2010年08月24日 22:52


 
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