2008年10月27日

イマドキの日本発M&A

私は「朝まで生テレビ!」(*1)が結構好きなのですが、タイトルどおり深夜なもんで、旦那さんに一緒に見ようと誘うと「お肌に悪い。」と言っていつもさっさと寝てしまいます。今回も一人さびしく見た回のテーマは「激論!世界金融危機とニッポン」。経済評論家の森永卓郎さんが面白いのなんのって。記憶によると…「G7の声明で公的資金と民間資金双方投入って言ってますけどね(*2)、民間ってどこ?と言ったら、日本ですよ。ほら、南アフリカのワールドカップのあとは日本にしようだとか、東京オリンピックやらせようとか、もうノーベル賞だって日本に4人あげちゃったんですよ(*3)。金を持っている日本にファイナンスさせるためのシナリオですよ。飴玉しゃぶらせてアメリカの尻拭いさせるつもりなんですよ。」みたいなことを口泡飛ばして言っていました。ぎゃはは。さすが「朝まで生テレビ!」(周囲はホンキで否定していましたが…)

確かにここ最近、日本企業はアメリカの同業他社の買収をガツーンと決めてますよね。例えば、ソニーがデジタル・メディア認識技術のグレースノート、武田薬品工業がバイオ医薬品のミレニアム・ファーマシューティカルズ、ほんとホットなところだと、三菱UFJフィナンシャル・グループがモルガン・スタンレーに出資、野村ホールディングスがリーマン・ブラザーズの決済部門を買収などなど(*4)、まだまだたくさんあります。単純に列記されたのを見れば、飴玉しゃぶらされているの、日本!?と本気で心配してしましたが、なんとタイムリーにも今日のNHKスペシャルで「日本とアメリカ 第1回 “アメリカ”買収 〜グローバル化への苦闘〜」(*5)というのをやっておりまして。決して飴をしゃぶりって喜んでいるわけではなく、リスクをとって戦いに行ってるのだよ、諸君。ということが語られていました。

以下、番組の概要です。

■グローバル展開最後のチャンス!
取り上げられたのが東芝。以前、このBlogの洞爺湖サミットの回で、原子力発電所の建設では、日本の日立製作所、東芝、三菱重工業が世界の半分を占めているということを書きましたが(*6)、実は東芝は日本でしかまだ実績がなかったんですね。国内では全22基、設計、建設、保守のライフサイクル全てを請け負います。その中でも東芝が得意とするのはタービンの技術です。タービンとは、原子炉で熱せられた蒸気パワーを受け取り、タービンが回ることで電気を発生させるという重要な部品であります(*7)。効率よく電気を発生させるために1000分の5ミリの精度でタービンの羽を手仕事で調整していく匠の技なんだそうです。こういうのが得意だなんて聞くと日本らしいなあと思いますネ。

20081027_westinghouse.JPGさて、買収したのはウェスチングハウス社(*8)。世界の原子力発電所の半分、200基以上を作っている原子力メーカーです。旦那さんは会社のマークを見て食いつき。はいはい、IBMと並んでポール・ランドのデザインで有名なロゴですよね[右図]。もともとは1886年誕生の老舗総合電機メーカーなんですが、1999年に長きにわたる歴史に幕引きがなされています。最後まで残っていた商業用原子力部門は1998年に英国原子燃料会社(BNFL)に売却。同部門は2006年にBNFLから東芝に売却されました(*9)。

東芝はあのシヴァ神のごとき西田社長(*10)の下、原子力事業の2050年までのシナリオを立てました。そしてこのまま国内の建替え需要を当てにしていては先細るという危機感が世界に打って出ることを決意させました。外国への建設実績のない東芝が、外国に売るために必要なのは実績です。なんだか言葉のゲームのようですが、それで取られた手段が買収だったというわけです。同じ分野を買収して、優秀な人材やノウハウや知的財産権を手に入れるということは、実績を手にいれると言い換えてもいいでしょう。しかしなぜ2006年だったのか。5年後には中国やインドが企業買収に乗り出すぞ!という判断があったらからこれが最後のチャンスだと思って急いだようです。


■下準備も整いました
ところが、日本企業によるアメリカ企業買収は、歴史を見れば、決して成功してきたとは言えません。1970年代、日本はアメリカに自動車やテレビを輸出しまくり、1980年に入る頃には円高が進み、貿易摩擦を起こします。そのうち日本はアメリカに現地工場を立てるなどして進出をします。1980年代後半、日本はニューヨークの映画会社のコロンビアやロックフェラーセンターといったアメリカのシンボルを金にモノを言わせて買収し(少なくともアメリカ人の心証)、アメリカ人の大きな反感を買います。しかし結局、買収に見合うだけの利益をあげられず撤退するところが多かったということです。

あの二の舞だけはなるまい、ということで東芝のとった戦略は…おどろくなかれ、すごく地道な草の根的はものでした。一つは16年前から行われている「世界子供発明コンテスト」です。表彰者に壇上で「私たちは東芝が大好きデ〜ス」(もちろん英語)と言わされているのを見て若干そら寒い気がしましたが…。スゴイなと思ったのがここから。さらに入賞者の子供たちをワシントンに連れて行き、自分の出身地の議員に引き合わせるんですね。議員は多忙の間を縫って、自分の地元の子供たちに挨拶をしに来てくれます。そこに間髪いれず東芝の角谷ワシントン事務長が「私たち東芝がコンテストを主催しました。」と言うのです。議員ははるばる故郷の子供を連れてきてくれて胸がいっぱい、「ありがとうね。」と声をかけます。これで東芝の心証アーップ。子供は最大の旨み成分(出汁)。

もっと直接的な働きかけもあります。さかのぼること21年前、東芝の子会社が共産圏輸出規制違反をしてアメリカ議会に叩かれたという痛い経験(*11)を振り返り、議会に根回しが必要だと考えます。そこで駐日大使も務めた上院議員のハワード・ベーカー氏に議会に働きかけてもらうようにお願いをしました。例えば、原子力潜水艦ノーチラスをの原子炉を作ったのはウェスチングハウス。ここを買収することで軍の機密が漏れ、安全保障上の問題にはならないかなど。結果として「(東芝だったら)問題ないよ。」ということでしたが。

以上のようなことから、最近見る日本企業によるアメリカ企業買収は、周到に準備され、ずいぶん戦略的になっているとテレビでコメントされていました。

■相手の力を最大限に引き出す
東芝はようやくこの8月にフィンランド原子力発電所増設で念願の海外進出です。水先案内人はもちろんウェスチングハウス。フランスや韓国のメーカーも入札に入りそうな感じで決定ではありませんでしたが、ウェスチングハウスによって足がかりをつかんだ東芝はグローバル企業になったよさを噛み締めていました。

ですが、そう簡単にグローバル化できるはずもなく。課題もまだまだあります。

例えば、200人以上が集まるウェスチングハウス世界幹部会議を開いたときのこと。東芝から「2010年、10兆円売上高目標!」と掲げても、「どうやって達成すればいいの?」と幹部の間で動揺が広がりました。親会社の方針を浸透させることを痛感したそうで、そのためにはもっとコミュニケーションが必要であるし、それぞれの違いを理解することという意見が幹部から出ていました。東芝の西田社長も曰く、常に一緒に話し合いをもちながら、決定していくことは半永久的な課題であると。これはコミュニケーションの不断の努力を続けていくことと同義ですね。

もっと現場の話で言えば、施設の中で給水加熱器と呼ばれる機器。アメリカは部分交換ですが、日本は全体交換です。それはアメリカは稼働率91%に対し、日本は63%が物語るように、アメリカは稼働率に重きを置き、長時間、且つ何度も止めないのに対し、日本は安全性に重きを置き、何度も点検に入り、なるべく新しい部品へ交換する運用の違いがあります。日本のやり方でお願いしますと言っても、世界標準という意味では、世界の原子力発電所の半分を作ってきたウェスチングハウスに分があります。

しかし、三人集まれば文殊の知恵と申しましょうか。東芝から出向している技術者の熊谷賢治さんが「給水加熱器丸ごと交換の方法は譲らない。しかし素材を強化することで交換回数を減らして稼働率を上げることができるかもしれない。」と提案をしていました。ウェスチングハウスの技術者も「検討の価値はありますねー。」という反応でした。

買収をしたそもそもの目的は、欠けた部分を補うこと。相手の力を最大限に引き出し、更に自分も成長する。番組を締めくくったこの言葉が私の胸に響いています。

■原子力の先
このように、なかなかかっこよく終わった番組ですが、旦那さんののつぶやきとして、「そもそも原子力発電自体がまだまだ課題があるよねー」ということがあります。確かに大量の二酸化炭素を出さないエネルギーという意味ではクリーンです。京都議定書の目標達成には原子力発電が必要という世論もあります。しかし核融合を起こすためのウランやプルトニウムを精錬過程の危険やその過程での二酸化炭素排出、発電過程そのものの危険、その残りカスに放射能が残るということが問題なのです。それらが地球を汚染すると。

それくらい東芝の人たちだってわかっているはずです。それでも商売としてやっていこうとするのは、底をつく石油資源に変わるエネルギーを世界が必要としているという大義名分なのでしょうが、なによりも根底には楽観主義があるのでしょうね。いつか放射線を処理できる日がくると。例えば埋めていたら天然ウランに戻ったとか。放射線を全て熱パワーに変える方法が解明されたとか。人工プラックホールが放射線を飲みこんでくれるだとか。いつかっていつだ? それで反対の人たちは解決策ももたないまま原子力発電所を作り続られるのが不安なのです。ましてや自分の生活環境でメルトダウンを想像すると私だって不安です。

しかしいざ「原子力発電所をもう1基建てなければ今の半分の電気しか使えません。」となって、旦那さんが朝のドライヤーが使えない、通勤電車に乗るのもままならない、夏が苦手なのにクーラーを付けてはいけない…なんて非常事態になった場合、旦那さんは「お願いです。原発を建ててください!」と言うかもしれません。極端な例ですがね。まあ、それくらい私たちは文明の利器に慣らされているのです。

金融の話ですが、シティ銀行の元CEOのチャック・プリンス氏が言った言葉として「ダンス音楽がかかっている最中に、ダンスを止めることができなかった。」と危ないとわかっていても過剰融資の続けた理由を述べたそうですが(*12)、ここで言う音楽って「人の欲」ですよね。便利さも同じで、一度その便利さを知ってしまえば、その便利はあるのが当然で、更にもっとよいものを求めて工夫するのが「人の欲」のいい面であり、暴走するのが「人の欲」の悪い面なのです。ましてや知らなかった前(不便な時代)に世界中の人が足並みそろえて戻ることが現実的だとは思いません。現に、インドや中国といった新興国は「豊かさを求めて発展してなにが悪い!」というイケイケムードですし。

20081027_NewEnergy.jpg「人の欲」が捨てられないものならば、いい面を最大限に活かして、その楽観主義とも言うべき夢を本気で見るしかないと思いました。つまり原子力発電に関わる東芝に、放射線を処理しきる技術や、放射能の低い核融合だったり、核に変わる超パワーを生み出す原理の基礎研究を本気でやってほしい!(*13)

というわけで、以下は眉唾も含めて夢見るラインナップです。

常温核融合 UCLA編(2005/4/28)
常温核融合 大阪大学編(2008/5/23)
X線と光触媒でエネルギー生産(2007/6/29)
ガンマ線対抗ナノテク防護素材
ブラウンガス
放射線利用
   原子炉の側にプラント併設とかできないのか…素人考えですがァ。


<参考>
*1:テレビ朝日「朝まで生テレビ!」
*2:行動計画によると、銀行などの金融機関が
 「十分な量で、必要に応じ、公的資金、そして民間資金の双方により、
  資本を増強することができるよう確保する」
  G7が金融危機解決に「迅速・例外的な行動」、米国は公的資金注入を表明
  (2008/10/11 ロイター)
*3:2008年ノーベル賞
 物理学賞
  アメリカ・シカゴ大学名誉教授の南部陽一郎さん(87)(米国籍)
  日本学術振興会理事の小林誠さん(64)
  京都産業大学教授の益川敏英さん(68)
 化学賞
  アメリカ・ボストン大学名誉教授の下村脩さん(80)
*4:米国バイオ医薬品会社・Millennium Pharmaceuticals, Inc.株式の取得について
  (武田薬品工業 HP)
  武田薬品工業、米抗体医薬を88億ドルで買収へ
  (2008/4/10 産経新聞)
  グレースノート社の買収について(PDF)
  (ソニー HP)
  ソニー、Gracenote買収を正式発表
  (2008/04/24 ITMedia News)
  モルガン・スタンレー出資実行について(PDF)
  (三菱UFJフィナンシャル・グループHP)
  三菱UFJ、モルガンに20%出資 最大9000億円
  (2008/9/22 NIKKEI NET)
  リーマン・ブラザーズの買収について(野村ホールディングス HP)
  野村、リーマンから決済部門を追加買収へ
  (2008/10/3 asahi.com)
*5:NHKスペシャル「日本とアメリカ 第1回 “アメリカ”買収 〜グローバル化への苦闘〜
*6:祭りの後−洞爺湖サミットの注14(当Blog)
*7:原子炉の仕組み(なるほど原子力AtoZ HP)
*8:ウェスチングハウス社株式取得による原子力事業の強化について
  (2006/2/6 東芝 HP)
  原発の業界地図、激変か 三菱重、東芝参加へ 米ウェスチングハウス最終入札
  (2005/12/23 asahi.com)
*9:ウェスチングハウス・エレクトリック(Wiki)
*10:シヴァ神=破壊神
  東芝・西田厚聰|世界を震撼させる「鯨」と「鰯」の二刀流経営
   (プレジデント・ロイター HP プレジデント 2008年10.13号)
*11:東芝機械ココム違反事件(Wiki)
*12:第88回 9月の市場混乱からその2‐金融も食品も混ぜ物危険
  (2008/9/27 英国ニュースダイジェスト)
*13:東芝 研究開発センター


<紹介>