2007年07月11日
Maple tree storys【七葉目】その5
「ふぅ〜〜。お腹ぽんぽこ〜」
ミリュウがお腹を撫でながら、満足そうな溜め息をつく。
「沢山食べたものねぇ」
そう言う私も、少しお腹が苦しい。
あれだけあったお弁当は、その全てがみんなのお腹に収められていた。
もっとも、八割方食べたのはサリア姉さんなんだけど……。
「美味しかったですわ〜。腹八分目と言ったところですが、あまり食べ過ぎるのも身体に宜しくないと言いますしね」
姉さんの胃袋は底なしかっ。
畏れおののく私達を余所に、サリア姉さんは涼しい顔で食後の紅茶なんかを飲んでいる。
「うふふ、でもみんなが美味しそうに食べてくれて良かったわ」
アーシア姉さんが、容器を片づけながらホッと安心したように言う。
「ホントに美味しかったですしね〜。もうこれでもかって言うくらいに、いくらでも入っちゃいました」
ミリュウがポワポワとした笑みを浮かべながら、ポンポンと軽くお腹を叩く。
「全くですよ。量も質も言うことなしですし。久しぶりにアーシアさんの料理食べましたけど、すごく満足ですよ。騎士団じゃこんな美味しいの食べられませんからね」
シリューズも、紅茶を飲みながら笑って言う。
「あらあら、嬉しいわね〜。今日はお弁当だったから冷めても大丈夫なものばっかりだったけど、それなら今度は熱々の美味しい料理をご馳走しちゃいましょうかしら」
アーシア姉さんは満面の笑みを浮かべながらそう言うと、頬に手を当てながらふわりと微笑んだ。
和やかな雰囲気。
良い天気も相まって、とても穏やかでのんびりとした空気がこの場を満たしていた。
――けど……
その時ふと辺りに伸ばした感覚の隅に、何だか不穏な気配を感じた。
これは……
魔物……と言う感じじゃないわね。
脱力させていた身体に自然と力が入ってくる。
更に意識して気配を探ってみる。
あまり気持ちの良くない殺気のようなチリチリとした感じが伸ばした感覚の先から伝わってくる。
やはり魔物じゃないようね。魔物の場合、殺気がもっと澄んでいるとでも言おうか……。純粋なのだ。
こんな濁ったような殺気は、魔物は発しない。こう言うのは人間が放つものだ。それも、あまり性根の良くない奴らが……。
そう言えば……と思い出す。
フェイヨン周辺の村を、盗賊団が襲っているという報告が来ていたわね。
と言っても、そんな大規模なものではなく、強盗恐喝、それに留守中の空き巣がせいぜいのせせこましいものだったけれど。
そいつらかしら……?
ふぅ……全く! 折角ほのぼのとくつろいで居たって言うのに……。
私は小さく溜め息をつくと、立ち上がって身体の節々を伸ばす。
「ん? どしたの、ミア」
ミリュウがキョトンとした顔で、私を見上げてくる。
「ちょっと腹ごなしに、辺りを散歩してくるわ」
そう言いながら、具足を身に着ける。
「そかそか。いってらっしゃ〜い」
ニコニコと笑って小さく手を振るミリュウ。
「はいはい。アンタはくつろいでなさい」
苦笑しながら、ミリュウに手を振り返す。
そして歩き始めたその時、
「あ、ミア〜。あんまり急激に動くとお腹痛くなるから、最初は様子見した方が良いよ〜」
ミリュウがいきなりそんなことを言いながら、意外と優雅な仕草で紅茶を口に運び、ニッコリと微笑む。
なるほど……ミリュウも気付いていたわけね。
「ご忠告、感謝するわ」
ニヤリと笑ってミリュウに向かって片目をつぶってから、私は森の中へと入っていく。
さて、アーシア姉さんのお弁当が美味しいからって随分と沢山食べちゃったからね。食後の運動にはちょうど良いでしょう。
私はクスリと笑って気を張りつめさせると、手の中にブリューナクを出現させて、その感触を手に馴染ませるのだった。
「ミアちゃん、いきなりお散歩だなんてどうしたのですかしらねぇ?」
サリアさんが、紅茶のおかわりを貰いながら小首を傾げる。
「もしかして……お花摘みかしら?」
あらあら、と言った風にアーシアさんがクスクスと微笑む。
お花摘みね〜。あの『お花』はあんまり観賞して楽しいものでもないと思うけど。
あたしは内心苦笑しながら、紅茶を口に含む。
ん〜、やっぱりおいし〜。葉っぱが違うのかなぁ。あたし達の家にあるのは安物の紅茶だし、淹れ方もあるのかもしれないけど、こうまで美味しくはならないわよねぇ。
あたしはしみじみと頷きながら、ほぅ……と溜め息をつく。贅沢を言えばお砂糖とミルクが欲しいところだけど、そこまで望むのは我が儘というものよね。
ミアに言わせると、そんな極甘ミルクティーよく飲めるわね、だそうだけど。
甘いの美味しいのに……。
まあ、それはおいといて……緑茶は少しこだわってアマツから良いのを買ってきているけど、今度から紅茶の方にもこだわってみようかしら?
あ、でも、紅茶の種類ってよく分からないからな〜。あとでアーシアさんにお薦めとか訊いてみようかな?
そんな事を考えながらティータイムを楽しんでいると、シリューズくんがスッと立ち上がった。
「んじゃ、俺もちょっくら用足しに行ってきますかね」
ポリポリと頭を掻きながら、あはは……と笑うシリューズくん。
「もう〜、シリューズくんってば、『そう言うこと』はいちいち言わなくても良いのよぉ」
む〜っと軽く睨んであげる。苦笑いするシリューズくん。
「紅茶をちょっと飲み過ぎたのかもな。まあ、直ぐに戻って来るんで、それまでよろしくな」
シリューズくんはそう言いながら、森の中へと入っていく。
「……私達も、お花摘みに行っておいた方が良いのかしら?」
優雅に紅茶を飲みながら、コクンと首を傾げるサリアさん。
「お、お姉様……」
何だか、困ったような呆れたような複雑な笑みを浮かべるアーシアさん。
「途中で行きたくなってしまったら困りますし」
「ま、まあ、それはそうかも知れませんが……」
サラリと笑顔でそんな事言うサリアさんに、あたしもアーシアさんもなんと言ったらいいのやらと言う感じだ。
やっぱりサリアさんって、チョッピリ天然入っているよねぇ。……あたしが言うのもなんだと思うけど。
「そう言えば……冒険者の方々って冒険している途中に催した場合、どうしているのかしら?」
そしてふと思い出したよう感じで、再びコクンと小首を傾げながらそんなことを言うサリアさん。
あたしとアーシアさんはふと顔を見合わせ――どちらからともなく視線を反らす。
まあ、それは、永遠の乙女の秘密と言うことで……。
男の人は良いわよね〜。何がとは言わないけど。
あ〜、紅茶が美味しいわぁ。
あたしはまた一口紅茶を含みながら、木漏れ日差す木々を見上げるのだった。
次第に先ほどから感じている気配が強くなってくる。
やっぱりこっちの方向で間違いないようね……。
そろそろ、気付かれないように慎重に……と。
歩調を緩め、木々の陰に隠れるようにして近づいていく。
そして周りに気を配りながら進むこと暫し……ん、見つけた!
木々の間に人影が見える。
私はしゃがんで姿勢を低くすると、目を凝らしてそいつらをよく観察してみる。
人数は……1、2、3……8人か。
全員男。それぞれがシーフらや剣士やら、一次職の格好をしている。
なるほどね……。ただの盗賊団じゃなくて、冒険者崩れだったわけか。
はぁ……全く、頭の痛いことだわ。
冒険者のほとんどは、狩りをしたり依頼をこなしたりと、危険はそれぞれに有るにしても真っ当な生活を送っている。
けれど、何処の世界にも落ちこぼれというかドロップアウトしてしまう奴らはいるわけで……。
そう言う人達は、大概が冒険者の道を諦めて他の職に就くのだけど、中にはあんな風に盗賊まがいに身を落としてしまう奴らも居るには居るのだ。
そう言う奴らの所為で冒険者全体の評判が下がるのは迷惑極まりないことなんだけどね……。
ちなみに、冒険者の犯罪行為って言うのは一般の人達に比べてかなり厳しく取り締まられるし、重い罰も下る。
一般の人を傷つけるのは言うまでもなく厳罰だし、街中や街の外であったとしても冒険者同士の私闘は厳禁だったりする。
まあ、冒険者同士の諍いの解決のためにPvPなんて言うシステムもあるわけだけど。
PvPって言うのは、魔法でそれぞれの頭の中に仮想現実空間を作りだし、そこでお互いが戦うというものだ。諍いの決着だけでなく、仲間内で戦って切磋琢磨したりと言ったような使われ方もしているけど。
私達の力は簡単に暴力になってしまうし、正しく使わないととても危険だ。だから様々な決まり事がある。
見るからにアウトローに見えるローグとかアサシンだって、他の職と同じようにやって良いこと悪いことと言うのはキチンと決まっているのだ。
勿論破れば捕まるし、度が過ぎればローグギルドの方から制裁者が送られてきたりもする。
アサシンギルドの制裁とかは……あまり想像したくはないわね。
そんな訳で、冒険者というものは傍若無人に振る舞えば、必ず手痛いしっぺ返しが来る。悪いことなんてそうそう出来ないのだ。
私は、もう一度盗賊団の姿を確かめてみる。
人数は8人。ほとんどは一次職だけど、中に一人だけ違った装いの者が見える。
あの赤い服は……ローグね。一人だけ二次職な事から見て、アイツがリーダーかしら?
聞こえてくる会話から推測するに……どうやら私達を襲う算段をして居るみたいね。
女ばかりの私達なら襲うのに手頃だとでも思ったのかしら? やれやれ……馬鹿ねぇ。
まあ、それにしても気付いて良かったわ。あんな奴らには例え不意をつかれていたとしてもやられるとは思わないけど、食後のマッタリとくつろいでいるところを襲われるのは、ちょっと気分が悪いしね。
それにしても、聞く限り食事中に見付かったみたいね。まあ、思いっきり騒いでいたし……。
けど、私達以外の誰かが近くにいたのに気付かなかったって言うのは、いくら食事中で気が緩んでいたとは言え、ちょっと弛んでいたかしらね。気を付けないと。
さて、ではそろそろお仕置きの時間……かしらね。
行きましょうかっ。
私は木の陰から飛び出すと、ブリューナクを構え奴らに向かっていく。
食後の腹ごなし、付き合って貰うわよ!
ミリュウがお腹を撫でながら、満足そうな溜め息をつく。
「沢山食べたものねぇ」
そう言う私も、少しお腹が苦しい。
あれだけあったお弁当は、その全てがみんなのお腹に収められていた。
もっとも、八割方食べたのはサリア姉さんなんだけど……。
「美味しかったですわ〜。腹八分目と言ったところですが、あまり食べ過ぎるのも身体に宜しくないと言いますしね」
姉さんの胃袋は底なしかっ。
畏れおののく私達を余所に、サリア姉さんは涼しい顔で食後の紅茶なんかを飲んでいる。
「うふふ、でもみんなが美味しそうに食べてくれて良かったわ」
アーシア姉さんが、容器を片づけながらホッと安心したように言う。
「ホントに美味しかったですしね〜。もうこれでもかって言うくらいに、いくらでも入っちゃいました」
ミリュウがポワポワとした笑みを浮かべながら、ポンポンと軽くお腹を叩く。
「全くですよ。量も質も言うことなしですし。久しぶりにアーシアさんの料理食べましたけど、すごく満足ですよ。騎士団じゃこんな美味しいの食べられませんからね」
シリューズも、紅茶を飲みながら笑って言う。
「あらあら、嬉しいわね〜。今日はお弁当だったから冷めても大丈夫なものばっかりだったけど、それなら今度は熱々の美味しい料理をご馳走しちゃいましょうかしら」
アーシア姉さんは満面の笑みを浮かべながらそう言うと、頬に手を当てながらふわりと微笑んだ。
和やかな雰囲気。
良い天気も相まって、とても穏やかでのんびりとした空気がこの場を満たしていた。
――けど……
その時ふと辺りに伸ばした感覚の隅に、何だか不穏な気配を感じた。
これは……
魔物……と言う感じじゃないわね。
脱力させていた身体に自然と力が入ってくる。
更に意識して気配を探ってみる。
あまり気持ちの良くない殺気のようなチリチリとした感じが伸ばした感覚の先から伝わってくる。
やはり魔物じゃないようね。魔物の場合、殺気がもっと澄んでいるとでも言おうか……。純粋なのだ。
こんな濁ったような殺気は、魔物は発しない。こう言うのは人間が放つものだ。それも、あまり性根の良くない奴らが……。
そう言えば……と思い出す。
フェイヨン周辺の村を、盗賊団が襲っているという報告が来ていたわね。
と言っても、そんな大規模なものではなく、強盗恐喝、それに留守中の空き巣がせいぜいのせせこましいものだったけれど。
そいつらかしら……?
ふぅ……全く! 折角ほのぼのとくつろいで居たって言うのに……。
私は小さく溜め息をつくと、立ち上がって身体の節々を伸ばす。
「ん? どしたの、ミア」
ミリュウがキョトンとした顔で、私を見上げてくる。
「ちょっと腹ごなしに、辺りを散歩してくるわ」
そう言いながら、具足を身に着ける。
「そかそか。いってらっしゃ〜い」
ニコニコと笑って小さく手を振るミリュウ。
「はいはい。アンタはくつろいでなさい」
苦笑しながら、ミリュウに手を振り返す。
そして歩き始めたその時、
「あ、ミア〜。あんまり急激に動くとお腹痛くなるから、最初は様子見した方が良いよ〜」
ミリュウがいきなりそんなことを言いながら、意外と優雅な仕草で紅茶を口に運び、ニッコリと微笑む。
なるほど……ミリュウも気付いていたわけね。
「ご忠告、感謝するわ」
ニヤリと笑ってミリュウに向かって片目をつぶってから、私は森の中へと入っていく。
さて、アーシア姉さんのお弁当が美味しいからって随分と沢山食べちゃったからね。食後の運動にはちょうど良いでしょう。
私はクスリと笑って気を張りつめさせると、手の中にブリューナクを出現させて、その感触を手に馴染ませるのだった。
◆
「ミアちゃん、いきなりお散歩だなんてどうしたのですかしらねぇ?」
サリアさんが、紅茶のおかわりを貰いながら小首を傾げる。
「もしかして……お花摘みかしら?」
あらあら、と言った風にアーシアさんがクスクスと微笑む。
お花摘みね〜。あの『お花』はあんまり観賞して楽しいものでもないと思うけど。
あたしは内心苦笑しながら、紅茶を口に含む。
ん〜、やっぱりおいし〜。葉っぱが違うのかなぁ。あたし達の家にあるのは安物の紅茶だし、淹れ方もあるのかもしれないけど、こうまで美味しくはならないわよねぇ。
あたしはしみじみと頷きながら、ほぅ……と溜め息をつく。贅沢を言えばお砂糖とミルクが欲しいところだけど、そこまで望むのは我が儘というものよね。
ミアに言わせると、そんな極甘ミルクティーよく飲めるわね、だそうだけど。
甘いの美味しいのに……。
まあ、それはおいといて……緑茶は少しこだわってアマツから良いのを買ってきているけど、今度から紅茶の方にもこだわってみようかしら?
あ、でも、紅茶の種類ってよく分からないからな〜。あとでアーシアさんにお薦めとか訊いてみようかな?
そんな事を考えながらティータイムを楽しんでいると、シリューズくんがスッと立ち上がった。
「んじゃ、俺もちょっくら用足しに行ってきますかね」
ポリポリと頭を掻きながら、あはは……と笑うシリューズくん。
「もう〜、シリューズくんってば、『そう言うこと』はいちいち言わなくても良いのよぉ」
む〜っと軽く睨んであげる。苦笑いするシリューズくん。
「紅茶をちょっと飲み過ぎたのかもな。まあ、直ぐに戻って来るんで、それまでよろしくな」
シリューズくんはそう言いながら、森の中へと入っていく。
「……私達も、お花摘みに行っておいた方が良いのかしら?」
優雅に紅茶を飲みながら、コクンと首を傾げるサリアさん。
「お、お姉様……」
何だか、困ったような呆れたような複雑な笑みを浮かべるアーシアさん。
「途中で行きたくなってしまったら困りますし」
「ま、まあ、それはそうかも知れませんが……」
サラリと笑顔でそんな事言うサリアさんに、あたしもアーシアさんもなんと言ったらいいのやらと言う感じだ。
やっぱりサリアさんって、チョッピリ天然入っているよねぇ。……あたしが言うのもなんだと思うけど。
「そう言えば……冒険者の方々って冒険している途中に催した場合、どうしているのかしら?」
そしてふと思い出したよう感じで、再びコクンと小首を傾げながらそんなことを言うサリアさん。
あたしとアーシアさんはふと顔を見合わせ――どちらからともなく視線を反らす。
まあ、それは、永遠の乙女の秘密と言うことで……。
男の人は良いわよね〜。何がとは言わないけど。
あ〜、紅茶が美味しいわぁ。
あたしはまた一口紅茶を含みながら、木漏れ日差す木々を見上げるのだった。
◆
次第に先ほどから感じている気配が強くなってくる。
やっぱりこっちの方向で間違いないようね……。
そろそろ、気付かれないように慎重に……と。
歩調を緩め、木々の陰に隠れるようにして近づいていく。
そして周りに気を配りながら進むこと暫し……ん、見つけた!
木々の間に人影が見える。
私はしゃがんで姿勢を低くすると、目を凝らしてそいつらをよく観察してみる。
人数は……1、2、3……8人か。
全員男。それぞれがシーフらや剣士やら、一次職の格好をしている。
なるほどね……。ただの盗賊団じゃなくて、冒険者崩れだったわけか。
はぁ……全く、頭の痛いことだわ。
冒険者のほとんどは、狩りをしたり依頼をこなしたりと、危険はそれぞれに有るにしても真っ当な生活を送っている。
けれど、何処の世界にも落ちこぼれというかドロップアウトしてしまう奴らはいるわけで……。
そう言う人達は、大概が冒険者の道を諦めて他の職に就くのだけど、中にはあんな風に盗賊まがいに身を落としてしまう奴らも居るには居るのだ。
そう言う奴らの所為で冒険者全体の評判が下がるのは迷惑極まりないことなんだけどね……。
ちなみに、冒険者の犯罪行為って言うのは一般の人達に比べてかなり厳しく取り締まられるし、重い罰も下る。
一般の人を傷つけるのは言うまでもなく厳罰だし、街中や街の外であったとしても冒険者同士の私闘は厳禁だったりする。
まあ、冒険者同士の諍いの解決のためにPvPなんて言うシステムもあるわけだけど。
PvPって言うのは、魔法でそれぞれの頭の中に仮想現実空間を作りだし、そこでお互いが戦うというものだ。諍いの決着だけでなく、仲間内で戦って切磋琢磨したりと言ったような使われ方もしているけど。
私達の力は簡単に暴力になってしまうし、正しく使わないととても危険だ。だから様々な決まり事がある。
見るからにアウトローに見えるローグとかアサシンだって、他の職と同じようにやって良いこと悪いことと言うのはキチンと決まっているのだ。
勿論破れば捕まるし、度が過ぎればローグギルドの方から制裁者が送られてきたりもする。
アサシンギルドの制裁とかは……あまり想像したくはないわね。
そんな訳で、冒険者というものは傍若無人に振る舞えば、必ず手痛いしっぺ返しが来る。悪いことなんてそうそう出来ないのだ。
私は、もう一度盗賊団の姿を確かめてみる。
人数は8人。ほとんどは一次職だけど、中に一人だけ違った装いの者が見える。
あの赤い服は……ローグね。一人だけ二次職な事から見て、アイツがリーダーかしら?
聞こえてくる会話から推測するに……どうやら私達を襲う算段をして居るみたいね。
女ばかりの私達なら襲うのに手頃だとでも思ったのかしら? やれやれ……馬鹿ねぇ。
まあ、それにしても気付いて良かったわ。あんな奴らには例え不意をつかれていたとしてもやられるとは思わないけど、食後のマッタリとくつろいでいるところを襲われるのは、ちょっと気分が悪いしね。
それにしても、聞く限り食事中に見付かったみたいね。まあ、思いっきり騒いでいたし……。
けど、私達以外の誰かが近くにいたのに気付かなかったって言うのは、いくら食事中で気が緩んでいたとは言え、ちょっと弛んでいたかしらね。気を付けないと。
さて、ではそろそろお仕置きの時間……かしらね。
行きましょうかっ。
私は木の陰から飛び出すと、ブリューナクを構え奴らに向かっていく。
食後の腹ごなし、付き合って貰うわよ!
2007年07月04日
Maple tree storys【七葉目】その4
「ミアちゃん。ミアちゃん」
ミリュウを挟んだ所にいるアーシア姉さんが、手招きしながら私の名前を呼んでいる。
「どうしたの?」
アーシア姉さんに、顔を近づける
「シリューズ君に、『あ〜ん』ってしてあげないのかしら?」
見れば、悪戯っぽく微笑んでいる。
「なっ、なっ……」
ぼわっと顔が赤くなったのが分かる。
「なに言ってるのよっ!!」
「あら〜、良いんじゃないかしら。シリューズくん喜ぶよぉ」
そして間にはミリュウが居るので、当然その話は聞こえるわけで……。
にぱ〜と笑いながら私の頬を突っつくミリュウ。
「そ、そんな恥ずかしいこと、出来る分けないでしょッ」
その指を払いのけながら、ミリュウに言い返す。
「サンドイッチを差し出したら、シリューズくんの一口が大きすぎて指までパクッとされちゃったりとか、食べさせる前にちょっとだけかじっておいて、シリューズくんはそのまま気付かずに食べちゃって、キャー間接キス〜〜とかドキドキするようなイベントが盛りだくさんよ? ミアちゃん」
アーシア姉さんが暴走し始めた……。
「何でそんな、ときめきがメモリアルしそうなことやらなきゃいけないのよっ」
甘ったるすぎるわっ。
「ん〜、でもあれ……」
ミリュウが指を差す方向を見てみると――
「シリューズ様、はいどうぞ」
「い、いや良いって! 自分で食べられるよ!」
アリスがシリューズに果物の刺さったフォークを差しだしていた。
「そう仰られても、ワタクシのお役目はお世話をすることですし、食事もそれほど必要とはしないので……」
手持ちぶさたなのですと言って、フォークをシリューズの口に近づけるアリス。
「な、ならサリアさんの方をお世話するって言うのはどうだ? 沢山食べているし……」
「サリア様は独特のペースで食べていらっしゃいますので……。かえって邪魔をしてしまいそうです」
確かに……今もまた、急いで食べているように見えないのに凄い勢いでサリア姉さんの周りから食べ物が消えていって居るし……。
「そう言うわけで、シリューズ様のお世話をさせていただこうかと。どうぞ召し上がって下さいな」
ニッコリと笑って再びフォークを差し出すアリス。
「あ、ああ……じゃあ、一口だけ……」
シリューズは大きく口を開けると、デザートを一気に口の中に入れる。
「あら、大きなお口です」
「む……あ、ありがとな」
モグモグと口を動かしながら、視線を反らしてお礼を言うシリューズ。心なしか、顔が赤い気がするのは私の気の所為だろうか……。
「いえ、お気になさらないで下さいね。ワタクシにとってはご奉仕するのは当然のことなのですから」
フワリと柔らかな笑みを浮かべ、シリューズの口元をナプキンで拭うアリス。
「甘いわねぇ……」
「甘々だよね〜」
シリューズが食べたのと同じ果物を頬張りながら、口々に言うアーシア姉さんとミリュウ。
「……な、何が言いたいのよっ」
内心の動揺を隠しながら、ジロリと睨み付けてやる。
「べっつに〜。わたしはこの果物の感想を言っただけよ〜?」
「そうそう。この果物すごく甘いな〜って」
しれっと私の視線を受け流す二人。
くっ……何だか気にくわないわね。
「ミアちゃんも負けていられないんじゃないの〜?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、私を見るアーシア姉さん。
ぐ……い、良いわよ。やってやろうじゃない!
私は自分のフォークを手に取ると、ブスッと果物を力任せに突き刺し、シリューズの目の前にズイッと差し出す。
「ん!」
「んなっ、何だよミアまでっ。恥ずかしいだろ、もういいって!」
シリューズが焦ったような表情で、プルプルと首を振る。
「ん〜〜っ!」
それに構わず、更にズズイッとフォークを突き出す。
「いや、だからだな……」
ジッとシリューズを睨み付けながら、フォークを差しだし続ける。
「頬染め&微妙な上目遣い。あのミアちゃんの攻撃にシリューズ君は耐えられるかしら?」
「無理なんじゃないかなぁ」
「ワタクシもそう思います。シリューズ様はああ言うのに弱そうですし」
「ミアちゃん、可愛いですわ〜」
外野が何か言っているようだけど、今はそれどころじゃない。
「あ〜、う〜……」
シリューズが唸っている。
は、早く食べなさいよねっ。私だって恥ずかしいの我慢して居るんだからっ。
私の目の前で、ソワソワと落ち着かない様子を見せているシリューズ。
そして周りを見てヒクッと引きつったような笑いを浮かべると、今度は溜め息をついてガックリと肩を落とす。
何やら周りから視線を四つほど感じるけど、今はシリューズから目を反らすわけにはいかないのよっ。
「あー、もう! こうなりゃヤケだっ」
真っ赤な顔で、さっとかすめ取るように口で果物をさらっていくシリューズ。
「……甘い」
そして、さっきのアーシア姉さん達と同じ様な感想を漏らすのだった。
「あらあら、恋のPvPはミアちゃんの勝利と言った所かしら」
「青春よねぇ〜」
「ワタクシ達の視線による援護攻撃の効果もあったような気もしますが」
「ミアちゃん、萌え萌えですわ〜」
またしても周りから、何やら聞こえてくる。
「も、もうっ、うるさいわよあなた達っ」
振り向きながら、ガーッと怒鳴ってみる。
私とシリューズ以外の四人が、微笑ましいようなからかうような微妙な視線でこちらを見ながら笑っていた。
「うふふふふ〜、それにしてもミアもやるわねぇ。『あ〜ん』どころか、『間接キス』まで一緒にやっちゃうなんて。あたし達まであてられちゃうわ〜」
にぱ〜っっと明るい笑みを浮かべながら、ミリュウがとんでもないことを言ってくれた。
「えっ……? 間接……キスって……?」
私は手に持ったフォークに視線を落とす。
そう言えばこれって……私がさっきまで使っていたフォーク……。
ボワッと一気に顔が熱くなる。
「ち、ち、ち、違うんだからねっシリューズ! これはそう言うことをしようと思っていたんじゃなくて、不可抗力というかっ、か、か、間接キスなんてっ!!」
ブンブンとフォークを振り周りながら、しどろもどろの言い訳を繰り返す私。
見ればシリューズも顔が真っ赤だった。
か、間接キスっ、かんせつきすっ、シリューズと……あぅあぅあぅあぅ〜〜。
「と、取り敢えず落ち着け、ミア。分かったから!」
シリューズに肩を押さえられ、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「ふぅ……ふぅ……」
「落ち着いたか……?」
「……何とかね」
目を閉じて最後に大きく深呼吸すると、胸に手を当てながらゆっくりと瞼を開く。
その途端、シリューズの顔が目の前にあって、またしても一気に顔が赤くなる。
「はぅ……」
か、間接キス……。
い、いけない。これじゃまたさっきの状態に逆戻りよ。落ち着かないと……。
う、うん、大丈夫。何ともないのよ。あのくらい……。
か、間接キスと言ったって、私がされたわけじゃないんだし、そう、そうよ、私がシリューズにしてあげたくらいの気持ちで居れば……。
うん、平気平気……!
「ふぅ……か、感謝しなさいよねっ、私の間接キス貰えたんだから。た、たっぷりと味わったんでしょうね」
「あ……うん、取り敢えず、ご馳走様と言っておく……」
そんな会話を交わした途端、二人揃ってまたしても顔を真っ赤に染める。
「あ、味わったって言っても、か、間接キスの事じゃないからねっ! 果物のことだからねっ!」
「ご馳走様って言っても、間接キスの事じゃないからなっ! 果物のことだからなっ!」
あぁぁぁ……何でまたこんな状態に……。恥ずかしいのがぶり返して来ちゃったじゃないのよーーっ。
「初々しいわねぇ……」
「あの二人って、昔からあんまり進歩ないよねぇ」
「そうなのですか? でも、何だか微笑ましくって良いと思います」
「シリューズちゃんもミアちゃんも、とっても可愛いですわぁ……」
周りから、そんな呆れたような笑いを堪えたような、微妙な色を持った会話が聞こえてきたけれど、今の私達にはそれに反応するだけの心の余裕はなかったのだった……。
はぅ……一体どうしてこんな事になっているのよーーっ。
ミリュウを挟んだ所にいるアーシア姉さんが、手招きしながら私の名前を呼んでいる。
「どうしたの?」
アーシア姉さんに、顔を近づける
「シリューズ君に、『あ〜ん』ってしてあげないのかしら?」
見れば、悪戯っぽく微笑んでいる。
「なっ、なっ……」
ぼわっと顔が赤くなったのが分かる。
「なに言ってるのよっ!!」
「あら〜、良いんじゃないかしら。シリューズくん喜ぶよぉ」
そして間にはミリュウが居るので、当然その話は聞こえるわけで……。
にぱ〜と笑いながら私の頬を突っつくミリュウ。
「そ、そんな恥ずかしいこと、出来る分けないでしょッ」
その指を払いのけながら、ミリュウに言い返す。
「サンドイッチを差し出したら、シリューズくんの一口が大きすぎて指までパクッとされちゃったりとか、食べさせる前にちょっとだけかじっておいて、シリューズくんはそのまま気付かずに食べちゃって、キャー間接キス〜〜とかドキドキするようなイベントが盛りだくさんよ? ミアちゃん」
アーシア姉さんが暴走し始めた……。
「何でそんな、ときめきがメモリアルしそうなことやらなきゃいけないのよっ」
甘ったるすぎるわっ。
「ん〜、でもあれ……」
ミリュウが指を差す方向を見てみると――
「シリューズ様、はいどうぞ」
「い、いや良いって! 自分で食べられるよ!」
アリスがシリューズに果物の刺さったフォークを差しだしていた。
「そう仰られても、ワタクシのお役目はお世話をすることですし、食事もそれほど必要とはしないので……」
手持ちぶさたなのですと言って、フォークをシリューズの口に近づけるアリス。
「な、ならサリアさんの方をお世話するって言うのはどうだ? 沢山食べているし……」
「サリア様は独特のペースで食べていらっしゃいますので……。かえって邪魔をしてしまいそうです」
確かに……今もまた、急いで食べているように見えないのに凄い勢いでサリア姉さんの周りから食べ物が消えていって居るし……。
「そう言うわけで、シリューズ様のお世話をさせていただこうかと。どうぞ召し上がって下さいな」
ニッコリと笑って再びフォークを差し出すアリス。
「あ、ああ……じゃあ、一口だけ……」
シリューズは大きく口を開けると、デザートを一気に口の中に入れる。
「あら、大きなお口です」
「む……あ、ありがとな」
モグモグと口を動かしながら、視線を反らしてお礼を言うシリューズ。心なしか、顔が赤い気がするのは私の気の所為だろうか……。
「いえ、お気になさらないで下さいね。ワタクシにとってはご奉仕するのは当然のことなのですから」
フワリと柔らかな笑みを浮かべ、シリューズの口元をナプキンで拭うアリス。
「甘いわねぇ……」
「甘々だよね〜」
シリューズが食べたのと同じ果物を頬張りながら、口々に言うアーシア姉さんとミリュウ。
「……な、何が言いたいのよっ」
内心の動揺を隠しながら、ジロリと睨み付けてやる。
「べっつに〜。わたしはこの果物の感想を言っただけよ〜?」
「そうそう。この果物すごく甘いな〜って」
しれっと私の視線を受け流す二人。
くっ……何だか気にくわないわね。
「ミアちゃんも負けていられないんじゃないの〜?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、私を見るアーシア姉さん。
ぐ……い、良いわよ。やってやろうじゃない!
私は自分のフォークを手に取ると、ブスッと果物を力任せに突き刺し、シリューズの目の前にズイッと差し出す。
「ん!」
「んなっ、何だよミアまでっ。恥ずかしいだろ、もういいって!」
シリューズが焦ったような表情で、プルプルと首を振る。
「ん〜〜っ!」
それに構わず、更にズズイッとフォークを突き出す。
「いや、だからだな……」
ジッとシリューズを睨み付けながら、フォークを差しだし続ける。
「頬染め&微妙な上目遣い。あのミアちゃんの攻撃にシリューズ君は耐えられるかしら?」
「無理なんじゃないかなぁ」
「ワタクシもそう思います。シリューズ様はああ言うのに弱そうですし」
「ミアちゃん、可愛いですわ〜」
外野が何か言っているようだけど、今はそれどころじゃない。
「あ〜、う〜……」
シリューズが唸っている。
は、早く食べなさいよねっ。私だって恥ずかしいの我慢して居るんだからっ。
私の目の前で、ソワソワと落ち着かない様子を見せているシリューズ。
そして周りを見てヒクッと引きつったような笑いを浮かべると、今度は溜め息をついてガックリと肩を落とす。
何やら周りから視線を四つほど感じるけど、今はシリューズから目を反らすわけにはいかないのよっ。
「あー、もう! こうなりゃヤケだっ」
真っ赤な顔で、さっとかすめ取るように口で果物をさらっていくシリューズ。
「……甘い」
そして、さっきのアーシア姉さん達と同じ様な感想を漏らすのだった。
「あらあら、恋のPvPはミアちゃんの勝利と言った所かしら」
「青春よねぇ〜」
「ワタクシ達の視線による援護攻撃の効果もあったような気もしますが」
「ミアちゃん、萌え萌えですわ〜」
またしても周りから、何やら聞こえてくる。
「も、もうっ、うるさいわよあなた達っ」
振り向きながら、ガーッと怒鳴ってみる。
私とシリューズ以外の四人が、微笑ましいようなからかうような微妙な視線でこちらを見ながら笑っていた。
「うふふふふ〜、それにしてもミアもやるわねぇ。『あ〜ん』どころか、『間接キス』まで一緒にやっちゃうなんて。あたし達まであてられちゃうわ〜」
にぱ〜っっと明るい笑みを浮かべながら、ミリュウがとんでもないことを言ってくれた。
「えっ……? 間接……キスって……?」
私は手に持ったフォークに視線を落とす。
そう言えばこれって……私がさっきまで使っていたフォーク……。
ボワッと一気に顔が熱くなる。
「ち、ち、ち、違うんだからねっシリューズ! これはそう言うことをしようと思っていたんじゃなくて、不可抗力というかっ、か、か、間接キスなんてっ!!」
ブンブンとフォークを振り周りながら、しどろもどろの言い訳を繰り返す私。
見ればシリューズも顔が真っ赤だった。
か、間接キスっ、かんせつきすっ、シリューズと……あぅあぅあぅあぅ〜〜。
「と、取り敢えず落ち着け、ミア。分かったから!」
シリューズに肩を押さえられ、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「ふぅ……ふぅ……」
「落ち着いたか……?」
「……何とかね」
目を閉じて最後に大きく深呼吸すると、胸に手を当てながらゆっくりと瞼を開く。
その途端、シリューズの顔が目の前にあって、またしても一気に顔が赤くなる。
「はぅ……」
か、間接キス……。
い、いけない。これじゃまたさっきの状態に逆戻りよ。落ち着かないと……。
う、うん、大丈夫。何ともないのよ。あのくらい……。
か、間接キスと言ったって、私がされたわけじゃないんだし、そう、そうよ、私がシリューズにしてあげたくらいの気持ちで居れば……。
うん、平気平気……!
「ふぅ……か、感謝しなさいよねっ、私の間接キス貰えたんだから。た、たっぷりと味わったんでしょうね」
「あ……うん、取り敢えず、ご馳走様と言っておく……」
そんな会話を交わした途端、二人揃ってまたしても顔を真っ赤に染める。
「あ、味わったって言っても、か、間接キスの事じゃないからねっ! 果物のことだからねっ!」
「ご馳走様って言っても、間接キスの事じゃないからなっ! 果物のことだからなっ!」
あぁぁぁ……何でまたこんな状態に……。恥ずかしいのがぶり返して来ちゃったじゃないのよーーっ。
「初々しいわねぇ……」
「あの二人って、昔からあんまり進歩ないよねぇ」
「そうなのですか? でも、何だか微笑ましくって良いと思います」
「シリューズちゃんもミアちゃんも、とっても可愛いですわぁ……」
周りから、そんな呆れたような笑いを堪えたような、微妙な色を持った会話が聞こえてきたけれど、今の私達にはそれに反応するだけの心の余裕はなかったのだった……。
はぅ……一体どうしてこんな事になっているのよーーっ。
2007年07月01日
Maple tree storys【七葉目】その3
出発して数時間。陽は大分高くなってきたけど、日差しは木々に遮られて僅かしか届かないので、意外と涼しい。
「こうやって森の中を歩くのも、偶には良いものよね〜」
ミリュウが組んだ手をグッと上に伸ばしながら、気持ちよさそうに言う。
「そうね。この辺りは向こうから襲ってくるような敵も居ないようだし、森林浴気分で歩いてみれば良いリフレッシュになるわね」
この地域は、すでに普段使っているマップの範囲からは外れているのだけど、魔物の生態系はそう変化しているわけでもないらしい。
普段使っているマップ――頭の中に直接送られてくる辺りの地形を移した地図で、ギルドメンバーやPTメンバーの位置も分かる――が使えないと言うことは、必然的に紙に書かれた一般的な地図に従って目的地に向かうと言うことになるのだけど、今のところ迷ったりはしていないようだ。
……勿論、シリューズに地図を持たせるなんて自殺行為なことはしていない。
アイツに地図を見させようものなら、いつの間にかフェイヨンに戻っていたなんて言うのは良い方で、気がついたらプロンテラやゲフェンに着いていたなんて言う事だって有り得るしね……。まあ、そこまでの間に流石に気付くとは思うけど。
ちなみに地図を持っているのはアーシア姉さんだ。先頭に立って、時折地図で道を確認しながらテクテクと歩いている。
私達の前にいるのは、アーシア姉さんとサリア姉さん、それにシリューズとアリスだ。
シリューズはちょっと目を離すと直ぐに迷子になるからね……。誰かが後ろで見張っていないと。全く世話が焼けるんだから……。
サリア姉さんとアリスはなかなか気が合ったようで、アーシア姉さんを交えながら楽しそうに話している。シリューズの騎士団での失敗談でも聞いているのか、時折笑い声が聞こえてきたりもする。
一応仕事で出かけているハズなんだけど、端から見たらまるっきりピクニック集団よね……。
まあ、気心も知れているし堅くなりようもないって言うのも事実なんだけど。
――とその時、少し前を歩いているアーシア姉さんが、私達を振り返りながら話しかけてくる。
「ねえ、二人とも。大分陽も高くなってきたし、そろそろお昼にしない?」
そう言って、ポンと手を合わせながら小首を傾げるアーシア姉さん。
「お昼……って、もうそんな時間?」
「そうよぉ。朝から歩き詰めだし、この辺で休憩も兼ねて、ね。どうかしら?」
「そうねぇ……」
隣のミリュウを見る。お腹を撫でながら、ポワポワと楽しそうな笑みを浮かべていた。
「あたしもお腹空いたなー? 空いたなー?」
「ハイハイ。分かったわよ」
苦笑しながら、ミリュウの背中をポンッと叩く。
「決まりね〜。それじゃ、適当な場所でお昼にしましょ。お弁当作ってきたのよ」
アーシア姉さんがニッコリと笑って、髪をなびかせながら再び前を向く。
お弁当ね……。何だかますますピクニックじみてきたわね。まあ、良いお天気だし、そんな気分になるのも分かるけどね。
それから少し歩くと、ちょうど良く開けた木陰があったので、そこでお昼をいただくことにする。
小石などを払って平らになった地面に、荷物から取り出した薄い皮で出来たシートを広げるアーシア姉さん。
結構大きいので、私達6人が腰を下ろしても十分に余裕があった。
円を書くようにみんなが座ったところで、アーシア姉さんが取り出した人数分のおしぼりをアリスが配り、全員分を配り終わると、乱れのない動きでスッとシリューズとサリア姉さんの間に腰を下ろす。
流石メイド型オートマータ。何というかお世話をする姿が実に様になると言うか……隙がないわよね。
「じゃーん。腕によりをかけて作って来たから、みんな遠慮せずにいっぱい食べてね」
そう言って、サンドイッチやらサラダやら果物の入った容器を次々に取り出すアーシア姉さん。
家にいる料理人達が作ったという風ではないわね。多分、言う通り姉さんの手作りなんだろう。
こういう所はあんまりお嬢様っぽくないのよね。昔から大聖堂にいたアーシア姉さんの場合、身の回りのことは自分でやるような習慣が付いているみたいなのでその所為かもしれないけど。
家に居たときも、色々と姉さんお手製のおやつを持って冒険に行ったりしたっけ。
ふと気がついてみれば、目の前に大量のお弁当が並べられていた。パッと見30個以上は有るんじゃないかしら……。
「ちょ、ちょっと……多すぎない? これ……」
しかも一つ一つの入れ物がかなり大きい。
「そうかしら? だってサリアお姉さまが居るのよ。これくらいは必要でしょう?」
……納得したわ。
当のサリア姉さんは、これくらいの量は当然と言った風に、ニコニコと微笑みながら並べられていくお弁当を眺めている。
「……なあ、ミア。サリアさんって本当にこんなに食べるのか……? 俺達だけじゃとてもじゃないが食いきれる量じゃないぞ」
シリューズが顔を寄せて、私の耳元で囁く。
「心配要らないわよ。サリア姉さんならこの位の量簡単に平らげるから」
ため息をつきつつ、そう答える。
「う〜む、とても信じられん……。あの身体の何処にこれだけのものが。……胸か?」
シリューズの脇腹をギュッとつねってやる。
「何か馬鹿なことを言ったかしら……?」
「イテテテテテ。ミ、ミアの気の所為じゃないか! うん、タブン」
全くもう……。
「さて、それじゃいただきましょうか。主神オーディンと豊穣の女神フレイアよ。日々の糧を――」
ニヤニヤと笑いながら私達のやりとりを見ていたアーシア姉さんが、ポンと手を叩いて食前の祈りを唱え始める。
私達もそれぞれに感謝の意を示すと、お弁当に手を付けた。
「むぐむぐ……ん〜、おいし〜〜」
ミリュウが口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら、満面の笑みを浮かべる。
「行儀が悪いから、口の中に物を入れたまま喋るのやめなさいよね」
ジロッと睨みながら言ってやる。
「えへへ〜。気にしない気にしない。こういう場所ではねお行儀なんか気にしないで目一杯愉しみながら食べた方が良いのよ」
暖簾に腕押しってこう言うことを言うのよね……。まあ、ミリュウのことは気にせずに、私も手を伸ばしてサンドイッチをいただくことにする。
「あ、シーチキン……」
「ミアちゃん、シーチキンのサンドイッチ好きだったわよね。沢山あるからドンドンと食べてね」
ニッコリと笑ってズイッとサンドイッチの入った容器を私の方に寄せるアーシア姉さん。
モグモグ……確かに美味しいわね。
私もミリュウと一緒に暮らし始めてから人並みに料理をするようになってかなり腕も上がったと思っているけど、やっぱりアーシア姉さんには叶わないと思う。
何が違うのかしらね……。何かひと工夫が足りないのかしら?
続いてトマトサンドに手を伸ばす。トマトジュースが好きな私なので、これも好物だ。
はむはむ……美味しい……幸せ。
思わず無言でひたすら口に運んでしまう。
隣ではミリュウが、はぅ〜とかうみゅ〜とか感嘆の声を上げながら様々なおかずを頬張っていた。
周りを見れば、シリューズは大きな口でサンドイッチをほぼ一口で食べているし、アーシア姉さんも出来映えに満足しているのか、うんうんと頷きながら口を動かしている。
そしてアリスは……白ポーションを飲みながら、ゆったりとした仕草でサラダを口に運んでいた。
そう言えば、ペットになった魔物は普通の食事が食べられないわけではないけど、効率が悪いとか言う話だったっけ。だから、白ポーションやペットフードなどそれぞれが効率の良い物を食べて過ごしているのだとか。
ふと、サリア姉さんの方を見てみる。
……姉さんの周りだけポッカリと容器の中から食べ物がなくなっていた。
……食べ始めてからそう時間が経っていないっていうのに、いつのまにあれだけの物をお腹に入れたんだか……。
我が姉ながら、本当に人間なのか疑わしくなってくるわね……。
「あら、ミアちゃんどうしたんですの?」
ナプキンで口元を拭いながら、サリア姉さんがニッコリと微笑みかけてくる。
「いや、別に……。食べるの早いなと思っただけよ……」
微妙に視線を反らしながら、姉さんにそう答える。
「朝にも言った通り、最小限の動きで最大限の効果を心掛けていますから」
うふふっと可愛らしく笑いながら極意のようなことを述べる姉さんだけど、やっていることはただの早食い&大食いなわけで……。凄いんだけど、いまいち素直にそう思えないのよね……。
何はともあれ、それぞれがお昼を満足に楽しんでいるようだった。
「こうやって森の中を歩くのも、偶には良いものよね〜」
ミリュウが組んだ手をグッと上に伸ばしながら、気持ちよさそうに言う。
「そうね。この辺りは向こうから襲ってくるような敵も居ないようだし、森林浴気分で歩いてみれば良いリフレッシュになるわね」
この地域は、すでに普段使っているマップの範囲からは外れているのだけど、魔物の生態系はそう変化しているわけでもないらしい。
普段使っているマップ――頭の中に直接送られてくる辺りの地形を移した地図で、ギルドメンバーやPTメンバーの位置も分かる――が使えないと言うことは、必然的に紙に書かれた一般的な地図に従って目的地に向かうと言うことになるのだけど、今のところ迷ったりはしていないようだ。
……勿論、シリューズに地図を持たせるなんて自殺行為なことはしていない。
アイツに地図を見させようものなら、いつの間にかフェイヨンに戻っていたなんて言うのは良い方で、気がついたらプロンテラやゲフェンに着いていたなんて言う事だって有り得るしね……。まあ、そこまでの間に流石に気付くとは思うけど。
ちなみに地図を持っているのはアーシア姉さんだ。先頭に立って、時折地図で道を確認しながらテクテクと歩いている。
私達の前にいるのは、アーシア姉さんとサリア姉さん、それにシリューズとアリスだ。
シリューズはちょっと目を離すと直ぐに迷子になるからね……。誰かが後ろで見張っていないと。全く世話が焼けるんだから……。
サリア姉さんとアリスはなかなか気が合ったようで、アーシア姉さんを交えながら楽しそうに話している。シリューズの騎士団での失敗談でも聞いているのか、時折笑い声が聞こえてきたりもする。
一応仕事で出かけているハズなんだけど、端から見たらまるっきりピクニック集団よね……。
まあ、気心も知れているし堅くなりようもないって言うのも事実なんだけど。
――とその時、少し前を歩いているアーシア姉さんが、私達を振り返りながら話しかけてくる。
「ねえ、二人とも。大分陽も高くなってきたし、そろそろお昼にしない?」
そう言って、ポンと手を合わせながら小首を傾げるアーシア姉さん。
「お昼……って、もうそんな時間?」
「そうよぉ。朝から歩き詰めだし、この辺で休憩も兼ねて、ね。どうかしら?」
「そうねぇ……」
隣のミリュウを見る。お腹を撫でながら、ポワポワと楽しそうな笑みを浮かべていた。
「あたしもお腹空いたなー? 空いたなー?」
「ハイハイ。分かったわよ」
苦笑しながら、ミリュウの背中をポンッと叩く。
「決まりね〜。それじゃ、適当な場所でお昼にしましょ。お弁当作ってきたのよ」
アーシア姉さんがニッコリと笑って、髪をなびかせながら再び前を向く。
お弁当ね……。何だかますますピクニックじみてきたわね。まあ、良いお天気だし、そんな気分になるのも分かるけどね。
それから少し歩くと、ちょうど良く開けた木陰があったので、そこでお昼をいただくことにする。
小石などを払って平らになった地面に、荷物から取り出した薄い皮で出来たシートを広げるアーシア姉さん。
結構大きいので、私達6人が腰を下ろしても十分に余裕があった。
円を書くようにみんなが座ったところで、アーシア姉さんが取り出した人数分のおしぼりをアリスが配り、全員分を配り終わると、乱れのない動きでスッとシリューズとサリア姉さんの間に腰を下ろす。
流石メイド型オートマータ。何というかお世話をする姿が実に様になると言うか……隙がないわよね。
「じゃーん。腕によりをかけて作って来たから、みんな遠慮せずにいっぱい食べてね」
そう言って、サンドイッチやらサラダやら果物の入った容器を次々に取り出すアーシア姉さん。
家にいる料理人達が作ったという風ではないわね。多分、言う通り姉さんの手作りなんだろう。
こういう所はあんまりお嬢様っぽくないのよね。昔から大聖堂にいたアーシア姉さんの場合、身の回りのことは自分でやるような習慣が付いているみたいなのでその所為かもしれないけど。
家に居たときも、色々と姉さんお手製のおやつを持って冒険に行ったりしたっけ。
ふと気がついてみれば、目の前に大量のお弁当が並べられていた。パッと見30個以上は有るんじゃないかしら……。
「ちょ、ちょっと……多すぎない? これ……」
しかも一つ一つの入れ物がかなり大きい。
「そうかしら? だってサリアお姉さまが居るのよ。これくらいは必要でしょう?」
……納得したわ。
当のサリア姉さんは、これくらいの量は当然と言った風に、ニコニコと微笑みながら並べられていくお弁当を眺めている。
「……なあ、ミア。サリアさんって本当にこんなに食べるのか……? 俺達だけじゃとてもじゃないが食いきれる量じゃないぞ」
シリューズが顔を寄せて、私の耳元で囁く。
「心配要らないわよ。サリア姉さんならこの位の量簡単に平らげるから」
ため息をつきつつ、そう答える。
「う〜む、とても信じられん……。あの身体の何処にこれだけのものが。……胸か?」
シリューズの脇腹をギュッとつねってやる。
「何か馬鹿なことを言ったかしら……?」
「イテテテテテ。ミ、ミアの気の所為じゃないか! うん、タブン」
全くもう……。
「さて、それじゃいただきましょうか。主神オーディンと豊穣の女神フレイアよ。日々の糧を――」
ニヤニヤと笑いながら私達のやりとりを見ていたアーシア姉さんが、ポンと手を叩いて食前の祈りを唱え始める。
私達もそれぞれに感謝の意を示すと、お弁当に手を付けた。
「むぐむぐ……ん〜、おいし〜〜」
ミリュウが口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら、満面の笑みを浮かべる。
「行儀が悪いから、口の中に物を入れたまま喋るのやめなさいよね」
ジロッと睨みながら言ってやる。
「えへへ〜。気にしない気にしない。こういう場所ではねお行儀なんか気にしないで目一杯愉しみながら食べた方が良いのよ」
暖簾に腕押しってこう言うことを言うのよね……。まあ、ミリュウのことは気にせずに、私も手を伸ばしてサンドイッチをいただくことにする。
「あ、シーチキン……」
「ミアちゃん、シーチキンのサンドイッチ好きだったわよね。沢山あるからドンドンと食べてね」
ニッコリと笑ってズイッとサンドイッチの入った容器を私の方に寄せるアーシア姉さん。
モグモグ……確かに美味しいわね。
私もミリュウと一緒に暮らし始めてから人並みに料理をするようになってかなり腕も上がったと思っているけど、やっぱりアーシア姉さんには叶わないと思う。
何が違うのかしらね……。何かひと工夫が足りないのかしら?
続いてトマトサンドに手を伸ばす。トマトジュースが好きな私なので、これも好物だ。
はむはむ……美味しい……幸せ。
思わず無言でひたすら口に運んでしまう。
隣ではミリュウが、はぅ〜とかうみゅ〜とか感嘆の声を上げながら様々なおかずを頬張っていた。
周りを見れば、シリューズは大きな口でサンドイッチをほぼ一口で食べているし、アーシア姉さんも出来映えに満足しているのか、うんうんと頷きながら口を動かしている。
そしてアリスは……白ポーションを飲みながら、ゆったりとした仕草でサラダを口に運んでいた。
そう言えば、ペットになった魔物は普通の食事が食べられないわけではないけど、効率が悪いとか言う話だったっけ。だから、白ポーションやペットフードなどそれぞれが効率の良い物を食べて過ごしているのだとか。
ふと、サリア姉さんの方を見てみる。
……姉さんの周りだけポッカリと容器の中から食べ物がなくなっていた。
……食べ始めてからそう時間が経っていないっていうのに、いつのまにあれだけの物をお腹に入れたんだか……。
我が姉ながら、本当に人間なのか疑わしくなってくるわね……。
「あら、ミアちゃんどうしたんですの?」
ナプキンで口元を拭いながら、サリア姉さんがニッコリと微笑みかけてくる。
「いや、別に……。食べるの早いなと思っただけよ……」
微妙に視線を反らしながら、姉さんにそう答える。
「朝にも言った通り、最小限の動きで最大限の効果を心掛けていますから」
うふふっと可愛らしく笑いながら極意のようなことを述べる姉さんだけど、やっていることはただの早食い&大食いなわけで……。凄いんだけど、いまいち素直にそう思えないのよね……。
何はともあれ、それぞれがお昼を満足に楽しんでいるようだった。
2007年06月01日
Maple tree storys【七葉目】その2
「あ、そうですわ。そういえば、ミアちゃんに渡すものがあるんでした」
持っていく槍を厳選していると、サリア姉さんがポンと手を合わせながら思いだしたように言う。
「ん、なに?」
「ええと……確かこの辺に……」
荷物――と言っても携帯用亜空間倉庫のことだけど――を開き、その中を探し回るサリア姉さん。あれって考えなしにあれこれ詰め込むと、取り出すときに手間取るのよねぇ……。
まあ、慣れてくると自然と使いやすいように自分なりに整理するようになるんだけど。
サリア姉さんはレベルはそこそこみたいだけど、何しろ今まで冒険に出たことがなかったようだし、そこら辺は駆け出しと同じなのよね。
「あ、ありましたわぁ。よいしょっと……」
ようやく見つけたらしく、パァッと顔を綻ばせるサリア姉さん。そしてその手に、一本の槍が現れる。
「そ、それはっ……!!」
一目見ただけで分かるその独特なフォルム。立ち上る清冽な聖なる魔力を少し離れていてもビリビリと感じることが出来る。
汚れなきその身に癒しの力と古の精霊を宿すその魔槍は――
「ブ、ブリューナク!?」
淡い光を放つその聖なる槍を目にした瞬間、私は我を忘れたようにサリア姉さんに飛びつく。
「わぁ〜わぁ〜、どうしたのこれ? わぁぁ、凄いな〜格好良いな〜」
「あらあら、ミアちゃんったらあんなにはしゃいじゃって。うふふ」
「なんか微妙にキャラが幼くなってないか……?」
「ミア様、可愛いです……」
多分端から見ていたら、私の目はこの上なく輝いていたと思う。
魔槍と言えば、私はゼピュロスやヘルファイアを持っているけど、このブリューナクはそれに負けず劣らず強力な武器なのだ。
何とかして欲しいと常々思っていたのだけど、露店の値札に並ぶ0の数の多さに、いつもため息をついていたのよね。
それを今、こんな間近に見れるなんて……。
昔、実家の宝物部屋に恭しく飾ってあるのを見たことあるけど……って
「姉さん、これってもしかして……」
私が訊ねると、サリア姉さんはニッコリと笑って話し始める。
「お父様が、もうそろそろその槍も使いこなせる頃だろうと仰いまして。先日のテロ鎮圧のことをお話ししたら、私に預けて下さいましたわ。聖騎士団から届く報告書にもミアちゃんの活躍は度々書かれていますし。まあもっとも、これと引き替えに私のことを護れと言うような意味合いも含まれて居るんでしょうけど」
そう言って僅かに苦笑するサリア姉さん。
ああ、お父様ありがとう〜。家の力に頼らず、自分の力で何処までやっていけるか試してみたくて、半ば強引に飛び出した私ですが、この贈り物は素直に受け取らせていただきますっ。もう護っちゃいますよ。サリア姉さんだろうが誰だろうが護り切っちゃいますっ。
プライドだけでは食べていけない。人の好意は素直に受けろ。それが、ミリュウと共に幾多の貧乏生活をくぐり抜けた私の結論だったりする。
「ウフフフフフ……」
「うおっ……ミアの奴、今にも涎垂らしそうなほどにやけた顔で、槍に頬擦りしているぞ……」
「ミアってば槍だけでご飯三杯はいける人だから。はぅ〜、それにしてもミアはいいな〜。あたしなんか最近全然新しい武器手に入れてないし……」
「あら、でもお給料が出たばっかりなんでしょう?」
「それはそうなんですけどねぇ。今月は流石に生活費やギルドの方の運営費に回そうかと……」
「ふふっ……では、冒険でレアが出るのに期待かしら?」
「そのレア運にも、最近は全く縁がなくて……トホホ」
「あー、ミリュウは昔っからレア運なかったしなぁ……」
「む〜、あたしのレア運、シリューズくんとかミアとかギルドのみんなに吸われていると思う……絶対」
「それにしても、ミア様は幸せそうなお顔をしていらっしゃいますね」
「とろけそうな笑顔だよねぇ」
「子供っぽいミアちゃんも見ていて飽きないわね〜」
「それにしても、良くもあそこまで槍に夢中になれるもんだ」
「槍マニアだからねぇ」
「槍マニアですものねぇ」
「槍マニアなんですね」
「槍マニアなんだよなぁ」
あーあー、何も聞こえなーい。
背後から聞こえるアーシア姉さん達の声は気にもせず、ひたすらご満悦な私なのだった。
「あの……ミアちゃん? そろそろ私の手ごと槍に頬擦りするのはやめて欲しいのですけど……。確かにプニプニしたほっぺたが気持ちよくはありますが……」
サリア姉さんが何か言っているようだけど、気にしない。
フフフフフフフフフ〜ブリューナク〜♪ お持ち帰りぃ〜〜☆
カプラ転送でフェイヨンに飛び、そこから歩きで例の場所まで向かう私達。
山岳都市であるフェイヨンの周りは木々に囲まれ、山道に慣れていないと多少歩きづらいものの、風が木の葉を揺らす音や木漏れ日などで、とても気持ちが良い。
森林浴の効果って言うのも、案外馬鹿にしたものではないのよね。
フェイヨンは、魔物などとの戦いで心身共に疲れることが多い冒険者達には、格好の憩いの街でもあるのだ。
「なあ、ミア……さっきからずっと抱きしめているそのブリューナク、そろそろ荷物にしまわないか……? フラフラ穂先が揺れるから危なくってしょうがないんだが……」
シリューズが何か言ってるわね。でも気にしない。
「この鋭さと同時に華麗さを兼ね備えたフォルム、不浄な浄化せしめんとする研ぎ澄まされながらも暖かくまろやかでしつこくないこの魔力の迸り、そしてこの肌に吸い付くような質感。ああ……この槍を見ているだけでご飯三杯は軽くいけるわね」
「本当にご飯三杯いけるのですね……」
「なんか何処ぞの料理評論家みたいな感想まで展開し始めたな」
「ごく一般的且つ常識的な聖職者であるお姉ちゃんとしては、いまいちその感想はよく分からないわね〜……」
「ミアってやっぱり槍のことになると人が変わるよねぇ……」
「でもあんなに喜んで、やっぱり持ってきて上げて良かったですわぁ」
今の私は無敵! 首都プロンテラの魔人ホルグレンだってぶん殴ってみせるわ。でも、武器破壊だけは勘弁だけどねっ。
「ねえ、ミアちゃん。そんなにその槍、気に入ったの?」
アーシア姉さんが私の前に出て、ちょこんと顔を覗き込むようにして、そんな事を訊いてくる。
「何よ、いきなり。まあ、ずっと欲しいと思っていたものだしね。格好良いし、強いし、ヒールも使えるようになるなんて良いことずくめじゃない。更に加えて攻撃と同時に魔力による追加ダメージが与えられるのも良いわね。そう言えば露店の前で三時間ほど指をくわえて眺めていたこともあったわねぇ……。あ、言っておくけど、だからって私は槍マニアとかそう言うのじゃないからね」
何か後ろの方で、「これ以上ないほどの槍マニアだと思うけどな」なんて声が聞こえてくるけど、サラリと聞き流す。
すると私の返事を訊いたアーシア姉さんが、悪戯っぽい笑みを浮かべながらこんな事を訊いてきた。
「だったら、もしシリューズ君とそのブリューナク、どちらかを選ばなきゃ駄目ーとか言われたとしたら、どっちを選ぶ?」
「んなっ、いきなりなんて事訊いているんですかっ、アーシアさん!」
いきなり自分の名前が出された為か、少し動揺した声を上げるシリューズ。
「あらら〜、これは難しい問題ねぇ、ミア?」
ニヤニヤと面白そうに笑うミリュウ。
「ハァ……何を訊くかと思えば……。そんなの言うまでもないでしょ」
何やら、チラチラとこちらを見ているシリューズに、私はそっと笑みを返してあげる。
何だか安堵に緩むシリューズの顔。
「勿論、ブリューナクに決まっているじゃない」
キッパリ。私は言った。
「……お姉さん方、妹さんを一発しばいて良いですか?」
「あらあら、女の子に手をあげちゃ駄目ですわよ?」
プルプルと拳を振るわせているシリューズと、微笑みながらそんな会話を交わすサリア姉さん。
「冗談よ」
「いや、今のお前の目は半分以上本気だった」
「……そんな事ないわよ?」
「微妙に視線を反らしながら言うなっ」
久しぶりにからかうと面白いわね〜。
昔、ミリュウと三人一緒だったときも、こんな感じのやりとりをしていたものだった。
私とシリューズがからかいあって、ミリュウがニコニコとそんな様子を見ている。そんな関係だった。
あのころから変わらないシリューズを見て、なんだか嬉しくなる。
もっとも、久しぶりと言ってもそう何年も離れていたわけではないし、ちょっと会わない間に変わってしまっていたら、それはそれで困るのだけど……。
まあ、あまり続けていてシリューズが拗ねてしまっても何なので、この辺にしておいてっと。
私は、ブリューナクを荷物の中にしまうと、歩調を緩めてシリューズの隣りに並ぶ。
「そういえば、シリューズは今どんな仕事しているの?」
離れてる間のことが知りたくて、世間話のつもりでそんな事を訊いてみる。
「そうだなぁ……。さっき話したようにタナトスタワーとかの調査をしたり、そうでない時は街で見回りしながら喧嘩とかの揉め事を仲裁したり……。後は道案内とかか」
「道案内ねぇ……」
ため息をつきながら、シリューズに生暖かい視線を送ってあげる。
「な、なんだよ。俺だって案内要員のところに連れて行くぐらいは出来るぞ。なんて言ったって、東西南北どっちに行っても案内要員はいるからな。中央の噴水の所にも居るし、そこまで連れていけば、万事解決だ」
「ハァ……」
私は更に大きなため息をつく。
「なんだよ、その呆れたような目は……」
「普通はそのまま直接目的地に連れていってあげるものだと思うんだけど……?」
「べ、別に良いだろう。そうした方が結局早く着くんだから。それに、あれだ。折角案内要員が居るんだし、あいつらの仕事を取っちゃ可哀想だろう?」
シリューズの方向音痴は筋金入りだしね……。きっと、相手をさんざん連れ回したあげく、日が暮れても着かないなんて事があったに違いない。
「ちなみに、騎士団の他の方々と比べまして、シリューズ様が案内した場合、それでも三倍時間がかかるとのもっぱらの噂です」
澄ました顔で、アリスがそんな事を暴露してくれる。
「ちょっ……そ、そんな事はないぞ、うん。せいぜい倍くらいだ。大体人間には向き不向きというのがあってだな……」
あさっての方向を向きながら、ブツブツと言い訳めいたことを言い始めるシリューズ。
フォローになっていないどころか、思いっきり自爆よね……。ま、予想通りというかなんというか……。
「まあ、それは今更だから何も言わないであげるとしても、毎日調査や見回りって言うわけでもないんでしょ? 狩りとかは行っているの?」
「う〜ん、正直ほとんどプロンテラに居て、狩りには行っていないって言うのが実際のところだなぁ」
「鈍るわよ、身体」
「まあ、普段演習やらで散々しごかれてはいるし、調査に行くときは魔物と闘うこともあるから、そこまで鈍ってはいないと思うけどな」
「実戦と演習は違うわよ。まあ、冒険者なんていつも危険と隣り合わせだし、周りの人の心配を考えれば、おとなしくそう言う風に過ごすのも有りだとは思うけど……」
私も冒険者になるって伝えたときは、両親に結構渋い顔されたわね。
とは言っても、反対はされなかったのだけど……。代々冒険者を出してきた家系というのもあるのかしらね。
アーシア姉さんやレイアも冒険者資格を持っているし、サリア姉さんまで冒険者になるのを許された事からして、渋い顔をされたのは私が家を出ると言った所為もあるのかもしれない。
世の中に冒険者と呼ばれる職に就いている人は沢山居るけれど、その中身はピンからキリまで様々だったりする。
命の保証もされない魔境とも言えるところに出かけていって、一攫千金を狙う人。自らの力を高めるためにひたすら強い敵を求めてさすらう人もいるかと思えば、人を癒したり手助けすることに意義を見いだしてあちこちを駆け回る人もいるし、街の周りでポリンやらの弱い魔物だけを相手にして、ハーブやキノコを採取して生活している人だって居る。
千差万別。それが冒険者という人達を表すもっとも相応しい言葉だ。
「いや、そう言うわけにもいかないさ。俺にも守りたいものや大切にしたいものがあるしな。それに密かな誓いってやつもな。その為には俺自身強くならないといけない。だから今のところは安穏と暮らす気はないな」
シリューズは力の篭もった眼で、握りしめた自分の拳を見つめている。
「へぇ……何だか気になるわね、その誓いって言うの」
「言わないぞ? こう言うのは自分の胸の中に秘めておくのが格好良いんだからな」
悪戯小僧のような、そんな子供っぽい表情で、ニヤリと私に向かって笑うシリューズ。
そんな笑顔を見た途端、トクンと少しだけ鼓動が高鳴るのを感じた。
昔から好きだったシリューズの笑顔。全然変わってないのね……。
そんな事を改めて確かめることが出来て、何だか気分が良くなってくる。
「全く、いつまで経ってもそう言うところは子供なんだから……。まあ良いわ。今のところは訊かないでおいてあげるわよ」
あはは、とお互い笑い合う。やっぱり良いわね、こう言うの。今更だけど、シリューズを連れ出してくれたアーシア姉さんに感謝、かしらね。
「それに、最近ようやく騎士団の方の仕事にも余裕が出来始めて、冒険に出かけられるようになるかも知れないって言うところだな。これでも結構頑張っているんだぞ」
得意そうな顔でニコッと笑うシリューズ。私もクスリと微笑んで言葉を返す。
「ふぅん、じゃあ、これからは一緒に狩りに出かけたりすることも出来るかしら?」
トクトクと更に少し胸の鼓動が高まったのを感じながら、そんな事を訊いてみる。
「そうだな。予定が合うようならそうしたいな」
そっか、シリューズとまた一緒に居られるようになるんだ。フフッ……。
そんな事を考えて熱くなった顔を隠すように、私は意識して何でもないように聞こえる声でシリューズに言う。
「なら、今回の仕事でシリューズのお手並みを拝見って言うところね。私やミリュウの足を引っ張るようだったら一緒に行ってあげないわよ?」
そんな憎まれ口を叩いてみる。
「おうっ、任せておけって」
ニヤッと笑って私の肩を叩くシリューズ。私もそれに応えて微笑み返す。
木漏れ日の差す森の道。私の心も空と同じように晴れ渡るのを感じる。そんな一日の始まりだった。
持っていく槍を厳選していると、サリア姉さんがポンと手を合わせながら思いだしたように言う。
「ん、なに?」
「ええと……確かこの辺に……」
荷物――と言っても携帯用亜空間倉庫のことだけど――を開き、その中を探し回るサリア姉さん。あれって考えなしにあれこれ詰め込むと、取り出すときに手間取るのよねぇ……。
まあ、慣れてくると自然と使いやすいように自分なりに整理するようになるんだけど。
サリア姉さんはレベルはそこそこみたいだけど、何しろ今まで冒険に出たことがなかったようだし、そこら辺は駆け出しと同じなのよね。
「あ、ありましたわぁ。よいしょっと……」
ようやく見つけたらしく、パァッと顔を綻ばせるサリア姉さん。そしてその手に、一本の槍が現れる。
「そ、それはっ……!!」
一目見ただけで分かるその独特なフォルム。立ち上る清冽な聖なる魔力を少し離れていてもビリビリと感じることが出来る。
汚れなきその身に癒しの力と古の精霊を宿すその魔槍は――
「ブ、ブリューナク!?」
淡い光を放つその聖なる槍を目にした瞬間、私は我を忘れたようにサリア姉さんに飛びつく。
「わぁ〜わぁ〜、どうしたのこれ? わぁぁ、凄いな〜格好良いな〜」
「あらあら、ミアちゃんったらあんなにはしゃいじゃって。うふふ」
「なんか微妙にキャラが幼くなってないか……?」
「ミア様、可愛いです……」
多分端から見ていたら、私の目はこの上なく輝いていたと思う。
魔槍と言えば、私はゼピュロスやヘルファイアを持っているけど、このブリューナクはそれに負けず劣らず強力な武器なのだ。
何とかして欲しいと常々思っていたのだけど、露店の値札に並ぶ0の数の多さに、いつもため息をついていたのよね。
それを今、こんな間近に見れるなんて……。
昔、実家の宝物部屋に恭しく飾ってあるのを見たことあるけど……って
「姉さん、これってもしかして……」
私が訊ねると、サリア姉さんはニッコリと笑って話し始める。
「お父様が、もうそろそろその槍も使いこなせる頃だろうと仰いまして。先日のテロ鎮圧のことをお話ししたら、私に預けて下さいましたわ。聖騎士団から届く報告書にもミアちゃんの活躍は度々書かれていますし。まあもっとも、これと引き替えに私のことを護れと言うような意味合いも含まれて居るんでしょうけど」
そう言って僅かに苦笑するサリア姉さん。
ああ、お父様ありがとう〜。家の力に頼らず、自分の力で何処までやっていけるか試してみたくて、半ば強引に飛び出した私ですが、この贈り物は素直に受け取らせていただきますっ。もう護っちゃいますよ。サリア姉さんだろうが誰だろうが護り切っちゃいますっ。
プライドだけでは食べていけない。人の好意は素直に受けろ。それが、ミリュウと共に幾多の貧乏生活をくぐり抜けた私の結論だったりする。
「ウフフフフフ……」
「うおっ……ミアの奴、今にも涎垂らしそうなほどにやけた顔で、槍に頬擦りしているぞ……」
「ミアってば槍だけでご飯三杯はいける人だから。はぅ〜、それにしてもミアはいいな〜。あたしなんか最近全然新しい武器手に入れてないし……」
「あら、でもお給料が出たばっかりなんでしょう?」
「それはそうなんですけどねぇ。今月は流石に生活費やギルドの方の運営費に回そうかと……」
「ふふっ……では、冒険でレアが出るのに期待かしら?」
「そのレア運にも、最近は全く縁がなくて……トホホ」
「あー、ミリュウは昔っからレア運なかったしなぁ……」
「む〜、あたしのレア運、シリューズくんとかミアとかギルドのみんなに吸われていると思う……絶対」
「それにしても、ミア様は幸せそうなお顔をしていらっしゃいますね」
「とろけそうな笑顔だよねぇ」
「子供っぽいミアちゃんも見ていて飽きないわね〜」
「それにしても、良くもあそこまで槍に夢中になれるもんだ」
「槍マニアだからねぇ」
「槍マニアですものねぇ」
「槍マニアなんですね」
「槍マニアなんだよなぁ」
あーあー、何も聞こえなーい。
背後から聞こえるアーシア姉さん達の声は気にもせず、ひたすらご満悦な私なのだった。
「あの……ミアちゃん? そろそろ私の手ごと槍に頬擦りするのはやめて欲しいのですけど……。確かにプニプニしたほっぺたが気持ちよくはありますが……」
サリア姉さんが何か言っているようだけど、気にしない。
フフフフフフフフフ〜ブリューナク〜♪ お持ち帰りぃ〜〜☆
カプラ転送でフェイヨンに飛び、そこから歩きで例の場所まで向かう私達。
山岳都市であるフェイヨンの周りは木々に囲まれ、山道に慣れていないと多少歩きづらいものの、風が木の葉を揺らす音や木漏れ日などで、とても気持ちが良い。
森林浴の効果って言うのも、案外馬鹿にしたものではないのよね。
フェイヨンは、魔物などとの戦いで心身共に疲れることが多い冒険者達には、格好の憩いの街でもあるのだ。
「なあ、ミア……さっきからずっと抱きしめているそのブリューナク、そろそろ荷物にしまわないか……? フラフラ穂先が揺れるから危なくってしょうがないんだが……」
シリューズが何か言ってるわね。でも気にしない。
「この鋭さと同時に華麗さを兼ね備えたフォルム、不浄な浄化せしめんとする研ぎ澄まされながらも暖かくまろやかでしつこくないこの魔力の迸り、そしてこの肌に吸い付くような質感。ああ……この槍を見ているだけでご飯三杯は軽くいけるわね」
「本当にご飯三杯いけるのですね……」
「なんか何処ぞの料理評論家みたいな感想まで展開し始めたな」
「ごく一般的且つ常識的な聖職者であるお姉ちゃんとしては、いまいちその感想はよく分からないわね〜……」
「ミアってやっぱり槍のことになると人が変わるよねぇ……」
「でもあんなに喜んで、やっぱり持ってきて上げて良かったですわぁ」
今の私は無敵! 首都プロンテラの魔人ホルグレンだってぶん殴ってみせるわ。でも、武器破壊だけは勘弁だけどねっ。
「ねえ、ミアちゃん。そんなにその槍、気に入ったの?」
アーシア姉さんが私の前に出て、ちょこんと顔を覗き込むようにして、そんな事を訊いてくる。
「何よ、いきなり。まあ、ずっと欲しいと思っていたものだしね。格好良いし、強いし、ヒールも使えるようになるなんて良いことずくめじゃない。更に加えて攻撃と同時に魔力による追加ダメージが与えられるのも良いわね。そう言えば露店の前で三時間ほど指をくわえて眺めていたこともあったわねぇ……。あ、言っておくけど、だからって私は槍マニアとかそう言うのじゃないからね」
何か後ろの方で、「これ以上ないほどの槍マニアだと思うけどな」なんて声が聞こえてくるけど、サラリと聞き流す。
すると私の返事を訊いたアーシア姉さんが、悪戯っぽい笑みを浮かべながらこんな事を訊いてきた。
「だったら、もしシリューズ君とそのブリューナク、どちらかを選ばなきゃ駄目ーとか言われたとしたら、どっちを選ぶ?」
「んなっ、いきなりなんて事訊いているんですかっ、アーシアさん!」
いきなり自分の名前が出された為か、少し動揺した声を上げるシリューズ。
「あらら〜、これは難しい問題ねぇ、ミア?」
ニヤニヤと面白そうに笑うミリュウ。
「ハァ……何を訊くかと思えば……。そんなの言うまでもないでしょ」
何やら、チラチラとこちらを見ているシリューズに、私はそっと笑みを返してあげる。
何だか安堵に緩むシリューズの顔。
「勿論、ブリューナクに決まっているじゃない」
キッパリ。私は言った。
「……お姉さん方、妹さんを一発しばいて良いですか?」
「あらあら、女の子に手をあげちゃ駄目ですわよ?」
プルプルと拳を振るわせているシリューズと、微笑みながらそんな会話を交わすサリア姉さん。
「冗談よ」
「いや、今のお前の目は半分以上本気だった」
「……そんな事ないわよ?」
「微妙に視線を反らしながら言うなっ」
久しぶりにからかうと面白いわね〜。
昔、ミリュウと三人一緒だったときも、こんな感じのやりとりをしていたものだった。
私とシリューズがからかいあって、ミリュウがニコニコとそんな様子を見ている。そんな関係だった。
あのころから変わらないシリューズを見て、なんだか嬉しくなる。
もっとも、久しぶりと言ってもそう何年も離れていたわけではないし、ちょっと会わない間に変わってしまっていたら、それはそれで困るのだけど……。
まあ、あまり続けていてシリューズが拗ねてしまっても何なので、この辺にしておいてっと。
私は、ブリューナクを荷物の中にしまうと、歩調を緩めてシリューズの隣りに並ぶ。
「そういえば、シリューズは今どんな仕事しているの?」
離れてる間のことが知りたくて、世間話のつもりでそんな事を訊いてみる。
「そうだなぁ……。さっき話したようにタナトスタワーとかの調査をしたり、そうでない時は街で見回りしながら喧嘩とかの揉め事を仲裁したり……。後は道案内とかか」
「道案内ねぇ……」
ため息をつきながら、シリューズに生暖かい視線を送ってあげる。
「な、なんだよ。俺だって案内要員のところに連れて行くぐらいは出来るぞ。なんて言ったって、東西南北どっちに行っても案内要員はいるからな。中央の噴水の所にも居るし、そこまで連れていけば、万事解決だ」
「ハァ……」
私は更に大きなため息をつく。
「なんだよ、その呆れたような目は……」
「普通はそのまま直接目的地に連れていってあげるものだと思うんだけど……?」
「べ、別に良いだろう。そうした方が結局早く着くんだから。それに、あれだ。折角案内要員が居るんだし、あいつらの仕事を取っちゃ可哀想だろう?」
シリューズの方向音痴は筋金入りだしね……。きっと、相手をさんざん連れ回したあげく、日が暮れても着かないなんて事があったに違いない。
「ちなみに、騎士団の他の方々と比べまして、シリューズ様が案内した場合、それでも三倍時間がかかるとのもっぱらの噂です」
澄ました顔で、アリスがそんな事を暴露してくれる。
「ちょっ……そ、そんな事はないぞ、うん。せいぜい倍くらいだ。大体人間には向き不向きというのがあってだな……」
あさっての方向を向きながら、ブツブツと言い訳めいたことを言い始めるシリューズ。
フォローになっていないどころか、思いっきり自爆よね……。ま、予想通りというかなんというか……。
「まあ、それは今更だから何も言わないであげるとしても、毎日調査や見回りって言うわけでもないんでしょ? 狩りとかは行っているの?」
「う〜ん、正直ほとんどプロンテラに居て、狩りには行っていないって言うのが実際のところだなぁ」
「鈍るわよ、身体」
「まあ、普段演習やらで散々しごかれてはいるし、調査に行くときは魔物と闘うこともあるから、そこまで鈍ってはいないと思うけどな」
「実戦と演習は違うわよ。まあ、冒険者なんていつも危険と隣り合わせだし、周りの人の心配を考えれば、おとなしくそう言う風に過ごすのも有りだとは思うけど……」
私も冒険者になるって伝えたときは、両親に結構渋い顔されたわね。
とは言っても、反対はされなかったのだけど……。代々冒険者を出してきた家系というのもあるのかしらね。
アーシア姉さんやレイアも冒険者資格を持っているし、サリア姉さんまで冒険者になるのを許された事からして、渋い顔をされたのは私が家を出ると言った所為もあるのかもしれない。
世の中に冒険者と呼ばれる職に就いている人は沢山居るけれど、その中身はピンからキリまで様々だったりする。
命の保証もされない魔境とも言えるところに出かけていって、一攫千金を狙う人。自らの力を高めるためにひたすら強い敵を求めてさすらう人もいるかと思えば、人を癒したり手助けすることに意義を見いだしてあちこちを駆け回る人もいるし、街の周りでポリンやらの弱い魔物だけを相手にして、ハーブやキノコを採取して生活している人だって居る。
千差万別。それが冒険者という人達を表すもっとも相応しい言葉だ。
「いや、そう言うわけにもいかないさ。俺にも守りたいものや大切にしたいものがあるしな。それに密かな誓いってやつもな。その為には俺自身強くならないといけない。だから今のところは安穏と暮らす気はないな」
シリューズは力の篭もった眼で、握りしめた自分の拳を見つめている。
「へぇ……何だか気になるわね、その誓いって言うの」
「言わないぞ? こう言うのは自分の胸の中に秘めておくのが格好良いんだからな」
悪戯小僧のような、そんな子供っぽい表情で、ニヤリと私に向かって笑うシリューズ。
そんな笑顔を見た途端、トクンと少しだけ鼓動が高鳴るのを感じた。
昔から好きだったシリューズの笑顔。全然変わってないのね……。
そんな事を改めて確かめることが出来て、何だか気分が良くなってくる。
「全く、いつまで経ってもそう言うところは子供なんだから……。まあ良いわ。今のところは訊かないでおいてあげるわよ」
あはは、とお互い笑い合う。やっぱり良いわね、こう言うの。今更だけど、シリューズを連れ出してくれたアーシア姉さんに感謝、かしらね。
「それに、最近ようやく騎士団の方の仕事にも余裕が出来始めて、冒険に出かけられるようになるかも知れないって言うところだな。これでも結構頑張っているんだぞ」
得意そうな顔でニコッと笑うシリューズ。私もクスリと微笑んで言葉を返す。
「ふぅん、じゃあ、これからは一緒に狩りに出かけたりすることも出来るかしら?」
トクトクと更に少し胸の鼓動が高まったのを感じながら、そんな事を訊いてみる。
「そうだな。予定が合うようならそうしたいな」
そっか、シリューズとまた一緒に居られるようになるんだ。フフッ……。
そんな事を考えて熱くなった顔を隠すように、私は意識して何でもないように聞こえる声でシリューズに言う。
「なら、今回の仕事でシリューズのお手並みを拝見って言うところね。私やミリュウの足を引っ張るようだったら一緒に行ってあげないわよ?」
そんな憎まれ口を叩いてみる。
「おうっ、任せておけって」
ニヤッと笑って私の肩を叩くシリューズ。私もそれに応えて微笑み返す。
木漏れ日の差す森の道。私の心も空と同じように晴れ渡るのを感じる。そんな一日の始まりだった。
2007年05月01日
Maple tree storys【七葉目】その1
「さあ、全員が揃ったし、そろそろ出発の準備を始めましょうか」
アーシア姉さんが、ポンポンと手を叩きながら私達を促す。手を叩くのは、大聖堂でアコ達を指導するときの癖かしらね?
冒険の準備――これは、修練場や各ギルドでも、徹底して教え込まれることだ。
これを怠ったが為に、大怪我をしたり、命を失った者だって少なくはないのだ。
戦闘不能時の街への緊急転送などによって、昔に比べたら冒険者の死亡率自体は大幅に下がっているとは言え、ゼロになったと言うわけではない。
そして、その原因のほとんどは、自らの準備不足が招いたものだったりする。
回復材を持っていかなかった。ピンチに陥ったときに、脱出用のハエの羽や蝶の羽がなかった――など、事前に準備をしっかりとしていれば防げたものばかり。
慢心や油断は自らの命を縮める。冒険者として生きていくためには、入念な準備というのは欠かせないものなのだ。
さてと……取り敢えずハエと蝶は基本として、緊急回復用の白ポーションに、いざと言うときの為の緑ポーション。SP回復用のレモンはどうしようかしら……。便利だけど使いすぎると出費がかさむのよね……。
お給料を貰ったばかりとは言え、切り詰められる所では切り詰めないとねぇ……。
……念のため言っておくけど、これは油断とか慢心とかではなくて、経験と予測に基づいた取捨選択というものですからね。間違えないように。
……っと、これは忘れちゃいけないわねバーサクポーション。
これは攻撃速度上昇効果を持つポーションの中でも最上級に位置するものだけれども、かなり修練を積んだ冒険者でなければ服用することを許されない、結構危険な代物だったりする。
この類のポーションで、一般的に出回っているのは三種類。スピードポーション、ハイスピードポーション、バーサクポーションの順で効果も上がっていく。
その他にも、職業によって使用を制限されている面もあったりする。
たとえば、アーシア姉さん達プリーストはスピードポーションしか使用を許されていない。
これは癒しを本分とするプリーストが、あまり薬物に頼ったりするのは好ましくないと言う、戒律というかイメージというか、そんな感じの理由によるものだったりするのだけど……。
まあ確かに、プリーストがバーサク飲んでハイテンションで敵を殴り倒している姿なんて、あまり想像したくないわよね……。
以前ギルドメンバーに聞いた話によると、その反動からか、所謂殴りプリーストと呼ばれる人達は、アドレナリンラッシュを持っているブラックスミスの人とパーティーを組むと人が変わるらしい。
アドレナリンラッシュ――鈍器を装備したときの攻撃速度を増加させる効果を持ったスキルのことだけれども、使った途端喜々としてひたすらに敵を殴りに行くのだとか……。
ちょっと前まで楚々としてお淑やかな雰囲気だったプリーストが、高笑いしながら敵を薙ぎ倒していくギャップに、浮かれていた気分も一気に吹き飛んだとか涙していたわね。
私達クルセイダーは、一応聖職者という部類には属しているのだけど、そこはまがりなりにも前衛職、敵を倒すのが仕事と言うだけ有って、バーサクポーションの服用は許されている。
ちなみに、プリーストと対をなす、アコライトからの二次職であるモンクは、ハイスピードポーションまで。
己を厳しく律し、自らの肉体を武器とすることを旨とする彼等からすれば、健全な精神がどうとか、過剰な薬物に頼ることなく自らの拳で切り開けとか、そんな理由でバーサクの使用を許していないらしいけど……。何というか、モンクって汗くさいイメージが抜けないのは、そこら辺にも有るんじゃないかしらね……なんて、私は思っていたりする。
まあ、サリア姉さんなんかは、優雅に舞うように敵を倒しそうなイメージが有るけど。
何度かモンクの戦い方を見せて貰ったことはあるけど、あれって結構出鱈目よね……。深淵の騎士の槍を正面から受け止めたりするし、私達が硬くて倒すのに苦労する敵を一撃で仕留めたりするし、挙げ句の果てには矢やら魔法が降り注ぐ中を平気な顔して歩いてきたりするし……。
何というか、“気”とか“根性”で物事を何とかする姿に、色々な意味で凄いと思ったものだわ。
……何か話がずれたわね。
とにかく、各職によってそれぞれ速度増加ポーションに対する扱いが違ったりするのだ。
他には、アーチャーの時に飲めていたハイスピードポーションがダンサーになった途端何故飲めなくなるのよ〜とか、直接攻撃なんかまずしないウィザードがバーサク飲めるのに、何故自分たちは飲めないんだーとか、攻撃速度増加ポーションに関しては、色々と悲哀交々だったりする。
ちなみに……ここ最近アルケミストによって、バーサクポーションを混ぜ合わせ、従来のモノよりも刺激性の少ないバーサクポーションが生み出すことが出来るようになったと言うのは記憶に新しい。
まあ、不安定さ故に保存は利かないし、効果時間も本来の半分と言うこともあってコストは割高だけど、このバーサクポーションの利点は職に関係なく服用できると言うことだ。
当然……目を輝かせたのは本来はバーサクポーションの飲めない殴りプリーストやアサシン、弓職などの人達。
つまりは、先ほど想像したくないと言ったバーサクハイテンション殴りプリーストが実現してしまったというわけで……。
一度狩り場で見かけた殴りプリーストの姿は忘れられないわね……。
自らに速度増加をかけて髪をなびかせながら颯爽と敵に向かっていき、鈍器で滅多打ち。
『あははははははははははははははははは』とか笑いながらひたすらに殴り倒していく姿は、まさにバーサク(狂気)と言うに相応しかったわね……。思わず物陰に隠れて震えてしまったわよ。
その後、大聖堂でそのプリさんを見かけたのだけど、とても明るくて優しそうで料理も巧いプリーストだったと言うことを付け加えておく。
バーサクポーションは魔物だわ……。うん。
まあ、そんな話はこのくらいにしておくとして、他に必要な物は……と。
相手の正体ががまだよく分かっていないみたいだし、念のため武器は少し多めに持っていった方が良いかしらね。
不死系に効果的なファイヤランスに、各サイズ特化トライデント。現地に着くまでに、魔物と戦うこともあるかも知れないから、各種族に効く特化武器も持っていった方が良いかも……。
――ズラズラスラズラ
カプラ倉庫から、槍をそれぞれ取り出す。
「あの……ミアちゃん。それ全部持って行くつもりですの?」
サリア姉さんがが私を見ながら、なんだか恐る恐ると言った口調で言う。
「当然でしょう。準備は万端に、よ」
「そんな事言っても、槍……全部で十本くらいありますわよ」
「ミア、相変わらずの槍マニアなんだなぁ……」
「これだけ並ぶと、ちょっと壮観ですね」
目を丸くしながら、驚いたように言うアリス。
「槍マニア言うなっ。それに相変わらずって何よ。大体、全部で三十本くらいしか持っていないわよ、私は」
呆れたような口調で言ったシリューズをジロリと睨みながらも、槍を整理する手は止めない。
「それだけ持っていれば、十分に槍マニアだろうが。使っていない槍とかだって沢山あるだろ?」
「でも、どれも丁寧に手入れがされているようですよ」
興味深そうに槍を眺めるアリス。やはりメイドっぽい格好をしているからなのか、そう言うことには目端が利くようだ。
「キチンと全部使っているわよ。属性槍とか、その日の気分によって違うブラスミさんの物に変えたり……」
「そんな事しているのお前くらいだ……。普通は属性武器なんてそれぞれ一本ずつしか持たないだろうが」
「む……良い物は何本有ったって良いのよ。さりげない装飾とかがキラリと光る一品を見つけたら、それがすでに持っている物であろうと欲しくならない?」
「ならないな」
「ならないわねぇ……」
「ならないと思いますわ」
「ミア様は特殊かと……」
「やっぱりミアってば槍マニアよね〜」
私の味方は居ないらしい……。
べ、別に良いじゃない……。冒険者にとって武器は命とも言える物なんだし、自分のお金で買っている物なんだし。そりゃ、この間みたいに食費まで使っちゃってピンチになることもあったりするけど……。
「まあとにかく、今回は俺達も居るんだし、そんなに持っていかないでもいいよ。お前が全部カバーしなくても良いだろ? お互いフォローしあえば、どんな敵が来ようと問題なしだ」
「……ま、それもそうね。少し気合い入りすぎていたかも……」
久しぶりにシリューズと一緒と言うこともあって、少々気負いすぎていたようね。
実は、ちょっとだけシリューズに良いところ見せたかった、なんて本音を言ったら、一体どういう顔をするかしらね。
まあ、勿論そんな事を口に出したりはしないのだけども。
「あらあら、ミアちゃん何をクスクス笑っているのかな〜?」
うぐ、アーシア姉さんに気付かれた。どうやら自分でも意識しないで顔に出ていたらしい。
「な、なんでもないわよ」
「ふふっ、そう?」
流石というか、アーシア姉さんにはお見通しと言ったところらしい。
普段はボケボケとしている癖に、実は結構鋭かったりするからアーシア姉さんは侮れないわね……。
アーシア姉さんが、ポンポンと手を叩きながら私達を促す。手を叩くのは、大聖堂でアコ達を指導するときの癖かしらね?
冒険の準備――これは、修練場や各ギルドでも、徹底して教え込まれることだ。
これを怠ったが為に、大怪我をしたり、命を失った者だって少なくはないのだ。
戦闘不能時の街への緊急転送などによって、昔に比べたら冒険者の死亡率自体は大幅に下がっているとは言え、ゼロになったと言うわけではない。
そして、その原因のほとんどは、自らの準備不足が招いたものだったりする。
回復材を持っていかなかった。ピンチに陥ったときに、脱出用のハエの羽や蝶の羽がなかった――など、事前に準備をしっかりとしていれば防げたものばかり。
慢心や油断は自らの命を縮める。冒険者として生きていくためには、入念な準備というのは欠かせないものなのだ。
さてと……取り敢えずハエと蝶は基本として、緊急回復用の白ポーションに、いざと言うときの為の緑ポーション。SP回復用のレモンはどうしようかしら……。便利だけど使いすぎると出費がかさむのよね……。
お給料を貰ったばかりとは言え、切り詰められる所では切り詰めないとねぇ……。
……念のため言っておくけど、これは油断とか慢心とかではなくて、経験と予測に基づいた取捨選択というものですからね。間違えないように。
……っと、これは忘れちゃいけないわねバーサクポーション。
これは攻撃速度上昇効果を持つポーションの中でも最上級に位置するものだけれども、かなり修練を積んだ冒険者でなければ服用することを許されない、結構危険な代物だったりする。
この類のポーションで、一般的に出回っているのは三種類。スピードポーション、ハイスピードポーション、バーサクポーションの順で効果も上がっていく。
その他にも、職業によって使用を制限されている面もあったりする。
たとえば、アーシア姉さん達プリーストはスピードポーションしか使用を許されていない。
これは癒しを本分とするプリーストが、あまり薬物に頼ったりするのは好ましくないと言う、戒律というかイメージというか、そんな感じの理由によるものだったりするのだけど……。
まあ確かに、プリーストがバーサク飲んでハイテンションで敵を殴り倒している姿なんて、あまり想像したくないわよね……。
以前ギルドメンバーに聞いた話によると、その反動からか、所謂殴りプリーストと呼ばれる人達は、アドレナリンラッシュを持っているブラックスミスの人とパーティーを組むと人が変わるらしい。
アドレナリンラッシュ――鈍器を装備したときの攻撃速度を増加させる効果を持ったスキルのことだけれども、使った途端喜々としてひたすらに敵を殴りに行くのだとか……。
ちょっと前まで楚々としてお淑やかな雰囲気だったプリーストが、高笑いしながら敵を薙ぎ倒していくギャップに、浮かれていた気分も一気に吹き飛んだとか涙していたわね。
私達クルセイダーは、一応聖職者という部類には属しているのだけど、そこはまがりなりにも前衛職、敵を倒すのが仕事と言うだけ有って、バーサクポーションの服用は許されている。
ちなみに、プリーストと対をなす、アコライトからの二次職であるモンクは、ハイスピードポーションまで。
己を厳しく律し、自らの肉体を武器とすることを旨とする彼等からすれば、健全な精神がどうとか、過剰な薬物に頼ることなく自らの拳で切り開けとか、そんな理由でバーサクの使用を許していないらしいけど……。何というか、モンクって汗くさいイメージが抜けないのは、そこら辺にも有るんじゃないかしらね……なんて、私は思っていたりする。
まあ、サリア姉さんなんかは、優雅に舞うように敵を倒しそうなイメージが有るけど。
何度かモンクの戦い方を見せて貰ったことはあるけど、あれって結構出鱈目よね……。深淵の騎士の槍を正面から受け止めたりするし、私達が硬くて倒すのに苦労する敵を一撃で仕留めたりするし、挙げ句の果てには矢やら魔法が降り注ぐ中を平気な顔して歩いてきたりするし……。
何というか、“気”とか“根性”で物事を何とかする姿に、色々な意味で凄いと思ったものだわ。
……何か話がずれたわね。
とにかく、各職によってそれぞれ速度増加ポーションに対する扱いが違ったりするのだ。
他には、アーチャーの時に飲めていたハイスピードポーションがダンサーになった途端何故飲めなくなるのよ〜とか、直接攻撃なんかまずしないウィザードがバーサク飲めるのに、何故自分たちは飲めないんだーとか、攻撃速度増加ポーションに関しては、色々と悲哀交々だったりする。
ちなみに……ここ最近アルケミストによって、バーサクポーションを混ぜ合わせ、従来のモノよりも刺激性の少ないバーサクポーションが生み出すことが出来るようになったと言うのは記憶に新しい。
まあ、不安定さ故に保存は利かないし、効果時間も本来の半分と言うこともあってコストは割高だけど、このバーサクポーションの利点は職に関係なく服用できると言うことだ。
当然……目を輝かせたのは本来はバーサクポーションの飲めない殴りプリーストやアサシン、弓職などの人達。
つまりは、先ほど想像したくないと言ったバーサクハイテンション殴りプリーストが実現してしまったというわけで……。
一度狩り場で見かけた殴りプリーストの姿は忘れられないわね……。
自らに速度増加をかけて髪をなびかせながら颯爽と敵に向かっていき、鈍器で滅多打ち。
『あははははははははははははははははは』とか笑いながらひたすらに殴り倒していく姿は、まさにバーサク(狂気)と言うに相応しかったわね……。思わず物陰に隠れて震えてしまったわよ。
その後、大聖堂でそのプリさんを見かけたのだけど、とても明るくて優しそうで料理も巧いプリーストだったと言うことを付け加えておく。
バーサクポーションは魔物だわ……。うん。
まあ、そんな話はこのくらいにしておくとして、他に必要な物は……と。
相手の正体ががまだよく分かっていないみたいだし、念のため武器は少し多めに持っていった方が良いかしらね。
不死系に効果的なファイヤランスに、各サイズ特化トライデント。現地に着くまでに、魔物と戦うこともあるかも知れないから、各種族に効く特化武器も持っていった方が良いかも……。
――ズラズラスラズラ
カプラ倉庫から、槍をそれぞれ取り出す。
「あの……ミアちゃん。それ全部持って行くつもりですの?」
サリア姉さんがが私を見ながら、なんだか恐る恐ると言った口調で言う。
「当然でしょう。準備は万端に、よ」
「そんな事言っても、槍……全部で十本くらいありますわよ」
「ミア、相変わらずの槍マニアなんだなぁ……」
「これだけ並ぶと、ちょっと壮観ですね」
目を丸くしながら、驚いたように言うアリス。
「槍マニア言うなっ。それに相変わらずって何よ。大体、全部で三十本くらいしか持っていないわよ、私は」
呆れたような口調で言ったシリューズをジロリと睨みながらも、槍を整理する手は止めない。
「それだけ持っていれば、十分に槍マニアだろうが。使っていない槍とかだって沢山あるだろ?」
「でも、どれも丁寧に手入れがされているようですよ」
興味深そうに槍を眺めるアリス。やはりメイドっぽい格好をしているからなのか、そう言うことには目端が利くようだ。
「キチンと全部使っているわよ。属性槍とか、その日の気分によって違うブラスミさんの物に変えたり……」
「そんな事しているのお前くらいだ……。普通は属性武器なんてそれぞれ一本ずつしか持たないだろうが」
「む……良い物は何本有ったって良いのよ。さりげない装飾とかがキラリと光る一品を見つけたら、それがすでに持っている物であろうと欲しくならない?」
「ならないな」
「ならないわねぇ……」
「ならないと思いますわ」
「ミア様は特殊かと……」
「やっぱりミアってば槍マニアよね〜」
私の味方は居ないらしい……。
べ、別に良いじゃない……。冒険者にとって武器は命とも言える物なんだし、自分のお金で買っている物なんだし。そりゃ、この間みたいに食費まで使っちゃってピンチになることもあったりするけど……。
「まあとにかく、今回は俺達も居るんだし、そんなに持っていかないでもいいよ。お前が全部カバーしなくても良いだろ? お互いフォローしあえば、どんな敵が来ようと問題なしだ」
「……ま、それもそうね。少し気合い入りすぎていたかも……」
久しぶりにシリューズと一緒と言うこともあって、少々気負いすぎていたようね。
実は、ちょっとだけシリューズに良いところ見せたかった、なんて本音を言ったら、一体どういう顔をするかしらね。
まあ、勿論そんな事を口に出したりはしないのだけども。
「あらあら、ミアちゃん何をクスクス笑っているのかな〜?」
うぐ、アーシア姉さんに気付かれた。どうやら自分でも意識しないで顔に出ていたらしい。
「な、なんでもないわよ」
「ふふっ、そう?」
流石というか、アーシア姉さんにはお見通しと言ったところらしい。
普段はボケボケとしている癖に、実は結構鋭かったりするからアーシア姉さんは侮れないわね……。


