2012年01月29日

コスト計算についての覚え書き

「原発のコスト」という本を読んでいる。著者は大島堅一という学者さんである。よくまとまっている本であり、問題点が分りやすい。
そんなわけで、その中に記載されている発電コストについて、忘れないようにここにメモを残しておこうと思う。

経産省のエネルギー白書2010年の数値。

円/キロワット時

太陽光:49円
風力:10〜14円
水力:8〜13円
火力:7〜8円
原子力:5〜6円
地熱:8〜22円

発電コスト=総発電コスト÷発電量
総発電コスト=資本費+燃料費+運転維持費
発電量=設備容量*365日*24時間*設備利用率*運転年数

ここで原発に大きくかかわってくるパラメータは何か。設備利用率と運転年数である。
この数値をどうとるか、によって、上の数字は大きく変わってくるだろう。この計算では、利用率8割、運転年数40年としているらしい。また運転年数が大きくなればなるほど、本来であれば維持費が激増するであろうことも想像に難くない。そこをどう見るのか。原発は出力調整が難しい技術なので、常に使い続けることを前提としている。だから8割の利用率はそれほど難しい数字ではないはずだが、現実は、8割を維持した年のほうが少ない。故障が多いため、すぐに止めてしまうからである。また大規模災害があった場合、今回のように発電再開したくても世間が許さない。また運転年数の40年というのも、怪しい。古くなれば事故の可能性が大きくなるのだから、40年も使い続けることを前提とした計算をすると、思わぬ大災害を招くことになる。
逆に言えば、火力発電の利用率を増やすことで、発電量の数字は大きく変動する。もっとも火力の場合、それに伴って燃料費も増えるので、コスト計算上は、それほどブレることはないと思われる。

ともあれ、このモデルをもとにして、実際に有価証券報告書から読み取ったコストの洗い出しをこの本では行っている。
それによると、

原子力:8.53円
火力:9.87円
水力:7.09円(一般水力:3.86円、揚水:52.04円)

となる。エネルギー白書よりも原子力が高くなっている。水力については揚水発電が足を引っ張っているが、そもそもこれは原子力発電が出力調整ができないが故の、夜間電力を処理するために作られたものである。本来であれば原子力側のコストに入れても良いくらいだ。

このモデル計算で、何かが抜け落ちている。社会的コストというやつである。
技術開発コスト、立地対策コスト。
技術開発が必要な理由は明らかであり、原子力発電は完成していないのである。原子力はただウランを使って済ますものではない。高速増殖炉完成をもって初めて核燃料サイクルが成立する。それがなければウラン枯渇を早めるだけで、永続的な運営はできない。しかし、高速増殖炉は未だ完成せず、何十年ものあいだ、大量の税金を食い続けるだけである。立地対策コストは言わずもがな、原発設置のために、税金を投入して地域対策をしているわけである。これらが上の計算モデルには含まれていない。

これを入れて再計算した数字もこの本には載っている。

原子力:10.24円
火力:9.91円
水力:7.19円(一般水力:3.91円、揚水:53.07円)

これでも足りないものがある。事故コストである。
事故リスクコスト=損害想定額*発生頻度÷総発電量

損害想定額と事故の発生頻度をどう見るかで、このコストは大きく変動するであろう。

損害想定額は、原子力委員会によると4兆9936億円としているらしい。ずいぶんと安く見積もったものだが、この数字は今後大幅に増やさざるを得ないだろう。
発生頻度は、IAEAいわく10万炉年(1炉年とはひとつの炉が一年稼働したときの単位らしい)に1回。
しかしこれはあまりにも現実的ではない。福島原発の事故を経験したことで、この本では500炉年に1回と算定しなおしている。コスト計算すると、
IAIA算定:0.006円
本書算定:1.2円
超甘い損害想定額をもとにしても、このようなコストが必要となる。

これでもモデルとしては十分ではない。核燃料使用後に生じるバックエンドコストである。これはどうやら電力コストの中に含まれているようであるが、必要なものすべてが含まれているのか、という疑問である。
数十年先までのコストは入っているかもしれないが、数万年に渡るコストはまったく入っていない。細かいことは本書にあるので、記載しないが、ともかく、極めていい加減に算定したコストだという印象を受ける。ともあれ、これから電気代は安くなることはない。これらのコストをどんどん電気料金に追加で含めていかざるを得ないだろう。いったい、だれが原発は安い、などと言ったのだろうか。

空から、おーいでてこーい、という声が聞こえてきそうである。


追記)
500炉年に一度という想定は、本書のみならず、原子力委員会でもその数値を出したそうである。この数字の意味するところは明確だ。たとえば日本で50炉が稼働していれば、10年に一度は過酷事故が発生する、ということになるのである。
その程度のリスクなら国民は許容できる、とでも推進派は言うつもりなのだろうか。

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