2005年09月18日
森博嗣「τになるまで待って」読了
今回は館モノ.山吹早月と加部谷恵美,海月及介の3人は探偵・赤柳初朗に頼まれ,アルバイトとして伽羅離館を訪れることに.その洋館は自称超能力者の神居静哉の別荘で,アルバイトの内容を知らされず向かう3人組.到着したときには,神居の取材に来ていた記者とカメラマン,案内係の不動産屋が先に来客していた.
不可解な構造を持つ館で事件は起きた….雷鳴,閉ざされた扉,つながらない電話,晩餐のあとに起きる密室殺人.被害者が殺される前に聴いていたラジオドラマは『τ(タウ)になるまで待って』."ミステリー"に森ミステリィが挑む,絶好調Gシリーズ第3弾!
「うーん.でも,警察が部屋を丹念に調べたら,わかっちゃいますよね.そうなると,それを知っていた人間ということで,的が絞られる結果になって,状況証拠ですけど,一気に不利になる感じがします」 「そういった,何故そうしたのか,という理由に立ち入ると,最初から数々の可能性にどんな方法が現実にありうるのか,をまず問うべきだよ.理由というのは人間の気持ちの問題であって,そんな心理まで考慮していたら,結局は論理に曖昧性を持ち込むだけで,目標が霞んじゃうと思う」 「凄いこと言いますね,山吹さん」 加部谷は素直に感心した. 「これに似たことを国枝先生から言われたことがあるんだ,研究でね.つまり,自分が既に持っている常識が,新しい可能性を知らないうちに排除してしまうことがあるって」 (P209) |
「思考というのは,既に知っていることによって限定され,不自由になる」犀川が煙草を消しながら言った.「まっさらで素直に考えることは,けっこう難しい.重要なことは,立ち入らないことだ.海月君が真理を見抜いたのも,その視点によるところが大きい」 (P285) |
印象に深く残った文章を二つ並べてみました.
双方の共通点は『人が抱く常識は,時に自由な思考を妨げる』ということ.
「τになるまで待って」という今回のミステリィもそれと同様.
だから,この本を読む際は「本来,ミステリィ小説はこうであるはずだ!」という常識や先入観を一度捨てて,純粋な気持ちで読んだ方が評価しやすいと思います.
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主な謎は<異界の謎>と<神居静哉が密室の状態で殺された謎>の2つ.
他に<シリーズ全体としての謎>があるが,それは最後に書くことにしましょう.
<異界の謎>について.
まず,「超能力」について私の意見を述べようと思います.
超能力って…,何でしょうか?
辞書で調べると,「今日の科学では合理的に説明できない超自然な能力」と書いてある.
そもそも,現在も進化している科学や物理,数学の世界でも,一般の人間の中にさえ未だに解明できないモノが多く存在するのに,超能力を解明できるはずがありません.結局の所,超能力を目の当たりにした際,その現象をどう解釈するのか?という個々の価値観に帰結するしかないと思います.
…とはいえ,私は超能力を少し信じています.なぜなら,世界の人口は64億人もいるので,一般の人とは違う能力を持っていても不思議ではないからです.ただ,「少し」と書きましたのには理由があります.それは「近年の宗教団体」と「マジシャン」の存在です.前者は弱者を対象とした「インチキ」という超不自然な能力を使ってお金をまきあげる詐欺師であるのに対し,後者は自身が不思議な現象を演出し,観客を魅了する神秘的なエンターテイナーの一種.彼らの存在によって,「彼(もしくは彼女の)超能力はインチキかもしれない,マジックかもしれない」という疑念を少なからず抱いてしまう自分がいる.一番の被害者は本当に超能力を持っている人かもしれませんね.
本編の話に戻ります.
マジックをあまり見たことがないので,あくまで初心者としての意見です.
マジシャンがマジックを行う際,最も重要になることは
『どうやって観客の視覚を惑わすか?』
…ですよね?(一応確認です).初対面の人物もしくは初めての現象を見る際,五感の中で最も「視覚」を重視して,視覚からの情報から「〜であるはずだ」という幾つかの論理を作る.それに対し,マジシャンはその論理を覆す現象をよく起こします.
そう考えると,最近のマジックなんかは本当によく出来ていますよね〜.
この謎もそれと同様です.
神居は「被験者を誰にするか?」に関して加部谷を選んだのも,自分に対しての第一印象が強く,「雨」「雷」という言葉を発し,予言が当てることで「もっと見てみたい」という興味が見て取れたからでしょう.そして,”この洋館へ初めて訪れる者たち”は”加部谷が神居の部屋に入るところを見て”,「あの部屋に仕掛けがあるはずだな」と考える.それに対し,神居はある仕掛け,窓の数の少なさと小ささの影響で(照明を点けても)室内が薄暗いこと,建物の遠近感,被験者の平衡感覚をつかめなくすることなどで,”異界”という現象を作り出したということになります.それと同時に,序盤での建物の中や部屋の中の配置や方向感覚を確認する記述が多いこと,加部谷の異界での体験談などに対し,屋敷の平面図を見ずにイメージしながら読んでいくと,「本当にどうやったのかな?」と森博嗣が仕掛けたマジックに魅了されている私自身がいます.「平面図を見ること」がマジックのタネのようです.
次に<神居静哉が密室の状態で殺された謎>について.
ここら辺が,私が森博嗣を好きな作家として挙げている理由でしょう.
それはずばり,ミステリィの常識に縛られない『発想の自由』でしょう.
一般的に「館モノのミステリィ」と言えば,外部にアクセスが出来ない状態で,犯人は外部犯に見せかけて実は内部犯という件(くだり)が多いし,解決編は長ったらしい文章を並べています.それに対し,森氏は
「館モノといえば内部犯が常識だから,誰を犯人にしようかな」
というように,ミステリィに関してあまり常識的に考えず,
「館モノね.じゃあ,こうしようか!」
と自由に発想することで,Gシリーズ自体とてもシンプルな構想になっています.
このシンプルさは本格的なミステリを好む読者には受け入れにくいと思います.
しかし,考えてみて下さい.
表紙の<惨劇は,人知れず最初の小さな亀裂を生じさせる.>という文を利用すると,
ミステリィ小説を読む際,
「どうやって密室やアリバイを作ったのか?」
「犯人は誰か?」
「どうして被害者を殺害したのか?」
について,今回の山吹と加部谷のように様々な仮説を考えた読者も多いでしょう.
ただ,事件自体がシンプルであるほど,全ての現象を考慮する為,仮説自体が発散することでかえって複雑になる.すなわち小さな亀裂が広がってしまい,最初の亀裂はどこで生じたか見失いがちになり,解明するのに混乱する可能性も出てくる.
「仮説を考える」というミステリィの常識が,今回は自由な思考を妨げる結果になってしまったということになります.実際,犀川創平助教授が電光石火の如く事件を解明したのも,最小限の情報を得ることで考えたものが,偶然とはいえ最初の亀裂を探り当てた….
本格の「館モノ」と対比になっているとはいえ,こういうシンプルさも偶にはあってもいいと思いますね.
また,プロローグと第一章の最後に
「二度とそのドアが開くことはなかったのである」(p40より)
「このとき閉めた玄関のドアから,加部谷たちじゃ二度と出ることがなかったのである」(p 74より)という記述を読むと,まさか洋館自体に閉じ込められるとは思っても見ませんでしたしね.どうやら冷静に事件を解こうとする私とは別に,騙されたいという優しさがある私がいるようです.
最後に<シリーズ全体としての謎>
真賀田四季,彼女の名前が明確に出てきました.
西之園萌絵が伽羅離館を”外界の拒絶”と評したけれど,彼女は『四季』で「もう関わらない」と言っていた記憶がある.しかし,これまでのGシリーズ「Φ」,「θ」,そして今回の「τ」はビデオテープ,インターネット,ラジオというメディアを通じて不特定多数の人に対して「気づいてほしい」という意図が見られるといった矛盾が生じる.
どういうことだろうか?
次に探偵・赤柳初朗.
最初は依頼,終盤は興味で真賀田四季を調べていたのだが,なぜでしょう?
付け髭ということも明らかになり,もしかしたら女性…という可能性も出てくる.
まだ,この人については情報が少なすぎる.
睦子叔母と同じく,彼女にはあまり立ち入らない方が良いと思いますね.
Vシリーズの秋野秀和なんかありえそうだな〜.
次の作品名は「レタス・フライ」.
当て字で「Let us fly」かな?
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今回の森ミステリィの館モノ
館の扉が開かないということで色々と考えてしまいましたが、結局は。
手法が凄いですよね。
今回も森先生の手のひらで踊らされた感じでした。
赤柳さんがホント気になります。
小柄とか・・・保呂草氏とのつながりとか・・・
舟元くんも気になってますケド・・・
こちらからもTBさせて頂きました。
モンキーターンさんの記事はいつ見ても惚れ惚れしますねぇ。
私にはここまで考察する能力がありません(笑)
ウイロウ氏の正体ですか・・・
確かに秋野説も考えられますね。
男装の麗人であると仮定すれば、「夢・出逢い・魔性」に登場した探偵さん(恥ずかしながら名前を忘れてしまいました)なんかもあり得るのではないでしょうか??
>館の扉が開かないということで色々と考えてしまいましたが、結局は。手法が凄いですよね。
確かに!
赤柳さんに関しては,情報が少なすぎますよね?
「四季」の中にいるかもしれないので,もう一回読んでみようかなと思っています.
いや!(×8)
浅はかな考察ですよ〜.
「夢・出逢い・魔性」に出てきた探偵というと…,稲沢さんですか?
なるほどなるほど….
τ読みましたよ!!
あまり内容に触れてませんが、トラバさせていただきました。
実は私も、モンキーターンさんと同じ所が印象に残りました。
あとP188の海月くんと加部谷さんの会話もです。
森さんの文章のそういったところが個人的には好きですね。
こちらこそ,はじめまして!
TBありがとうございました.
P188というと…,西之園萌絵に関する会話ですね?
私は赤柳の正体が知りたいのですが,海月君の秘密も知りたいですね〜.
推理小説のトリックを理論的に考えることができる。
というのが素晴らしいと思います。
森の奇抜でシンプルなトリックも面白いですが
彼の発想や思想そのものがとても好きです。


