内容に入ろうと思います。
本書は、警察小説などでもよく出てくる「公安」について書かれている本です。公安全体についての話もありますが(各県の警察内での公安組織や、公安組織それぞれを管理している組織など)、基本的には、「公安の中の公安」と呼ばれる、警視庁公安部について、どの課がどんな対象を扱っており、過去にどんな事件に携わったことがあるのか、というようなことについて詳しく書かれています。
公安というのは、特高の流れを汲む組織で、戦後GHQによって、警察組織の中央集権的な仕組みは廃止されたのだけど、公安だけは密かにその名残を残しているんだそうです。基本的に公安は、各県の警察署の「警備部」と呼ばれるところの一つの課として、当然それぞれの県警の管轄下にあるのだけど、公安だけは警察庁警備局から直接司令がきて、その指令系統の中に県警の本部長や各警察署の署長は含まれていないのだそうです。所轄の公安担当者は公安部の忠実な手足であり、時には署長さえも無視させる。そういう、一種の中央集権的な組織が継続されているんだそうです。
さて、「公安の中の公安」である警視庁公安部には、公安総務課・公安一課〜四課、外事一課〜三課、公安機動捜査隊という9つの課が存在する。それぞれ与えられた役割が違い、また最近出来た課などもあり、本書ではそれらについて詳しく書いている。ちょっと今日は時間がないので、ここでは、それぞれの課がどんな組織や事件を扱っているのかをざっと書くだけにしようと思います。
公安総務課:共産党、またオウム真理教や統一教会など、日本の政治体制を脅かすようなカルト(反社会的な宗教団体)が対象
公安一課:「革労協」「中核派」「共産同」などの流れを汲む過激派
公安二課:「革マル」の流れを汲む過激派
公安三課:右翼
公安四課:写真の整理などの後方支援
外事一課:アジア以外のスパイ(主にロシア)
外事二課:アジアのスパイ(主に北朝鮮)
外事三課:アルカイーダ
公安機動捜査隊:ゲリラ事件などで初動捜査に乗り出す研究肌の頭脳集団
公安というのは、小説なんかを読んでいても、「何をやってるんだかよくわからない、蔭で陰湿にコソコソ動いてる連中」という印象が強いです。恐らくそれは、刑事から見た公安の印象を強く反映しているんだろう、と僕は想像しています。刑事と公安の相性は非常に悪い(と本書にも書いてある)。オウム真理教の捜査の際、刑事も公安も、担当の範囲も関係なくすべての警察官があらゆる捜査に駆り出されたのだけど、その中でも公安の秘密主義は異常だった、というようなことも書かれています。
まあそういう意味で、どうしても悪いイメージがつきまとってしまう公安だけど、本書を読むと、やっぱり彼らの存在は大事だよなぁ、と思います。本書は特別公安に肩入れした内容というわけではなく、これまでの公安の活動を淡々と綴っているのですけど、やっぱりこういう存在があってこそ、僕達の日常の平和が保たれているのかもしれないなぁ、と思います。
実際、著者が知る公安関係者は、「誰かがやらなければ」という強い使命感を持っている人が多い、んだそうです。もちろんその一方で、汚れ役を自認するあまり、国と国民を守るためには場合によって手段を選ばなくていいという独善に陥る危険性をはらんでいるようにも思う、と著者自身の感想も書かれています。もちろんやりすぎている面もあるでしょうし、彼らの功績のお陰で何かが守られている部分というのもあるのでしょう。なかなかグレーな存在ですが、個人的には、公安の人たちには頑張って欲しいものだなぁ、という気がします。
ちょっと前に、公安出身の作家の小説、というのが売れたんだけど、僕は正直それを読んで、面白くないなぁ、と思ったんですね。小説、と銘打つならば、小説に徹して欲しいんだけど、リアルさを出したいのか、小説というより報告書みたいな印象が僕には強かったです。それを読むなら僕は、完全にノンフィクションである本書を読む方が、公安について詳しく知ることが出来るんじゃないかなぁ、と思います。普段なかなか知る機会のない、というか、公安警察を経験していない刑事でさえも案外知らないんじゃないか、というような世界の話が描かれているので、警察小説とか特別興味のない人でも面白く読めるんじゃないかな、と思います。ホント、久しぶりに目にしましたしね、「パナウェーブ研究所」って名前。懐かしいです。
しかし本書で僕がとにかく一番驚いたのは、この文章(P29)。
『日本のキャリア官僚制度は廃止が決まっているが』
ホントですか?キャリア官僚ってのは、警察組織の話で書くと、普通に公務員試験を受けて警察官になるのと、国家公務員試験をパスして警察に入るのとで立場が全然違うってやつで、「踊る大捜査線」でいうと、青島はノンキャリアで、室井さんがキャリア、ですね。そのキャリア官僚制度の廃止が決まってる、って本書でさらっと書かれてるんですけど、マジで今まで聞いたことないんだよなぁ。ネットでちょっとだけ調べてみたんだけど、どうもそれらしい情報はヒットしないし。ホントだとしたらどうなるんだろう。これまでかかれてきた警察小説とか刑事ドラマなんかが古臭くなる時代が来る、というような、なかなか衝撃的な変化だと思うんですけど、詳しい方いますか?
というわけで、読み物としてなかなか面白いと思います。日本にこんなことしている人たちがいるのか、と実感できるのではないかと思います。読んでみてください。
大島真生「公安は誰をマークしているか」