この話は二部構成になっている。一つは作中作という形をとっていて、タイトルは「白骨鬼」。もう一つはその「白骨鬼」の作者とある作家のやりとりである。この二つが交互に折り重なっている。
「白骨鬼」はなかなか面白い趣向で、語り部が探偵作家の江戸川乱歩、探偵役が詩人の荻原朔太郎という布陣。話は江戸川乱歩が自殺しようとするところから始まる。その自殺をすんでのところで止めた青年と、偶然同じ宿だったのだが、その青年が「月恋病」に罹っているのだと女中は言う。夜になると女物の着物を着ておしろいをはたき、月を見ては泣いているのだという。傍らには荻原朔太郎の詩があり、なんと乱歩自殺未遂の直後なんとその青年が自殺してしまう。といっても死んだ姿を目撃したのは一人で、正座し拝むような格好で死んでいたのだという。脈がないことを確認してから慌てて人を呼びにその場を離れると、なんと死体が消えている。そこは断崖であり、自殺の名所であり、死体があがらないことで有名な場所だったので警察は早々自殺と断定するのだが、萩原氏と乱歩氏が調べていくと、どんどんおかしなことがわかってきて、青年の死の真相が次第に明らかになっていく・・・
一方の話は、ある雑誌に「白骨鬼」が掲載されているのを細細見という作家が見つけることから始まる。細見は大分前に文学史、ミステリー史に残る傑作を書き残したのだが、その後は本は売れるが本人としては納得のいかない作品ばかり。ついに筆を折ることを決意した矢先のことだった。「白骨鬼」は特殊な作品で、雑誌掲載の段階で作者名が書かれていない。よもや「乱歩の未発表作品」と受け取れかねない風に書かれている。もちろんそうではなく、作者は西崎というズブの素人。しかし細見はこの西崎という作家、いや「白骨鬼」という作品に執着していくようになり、そしてその果てに予想だにしない結末が待っている・・・
サクサク読むにはなかなかいい作品だと思う。乱歩氏と萩原氏の掛け合いが面白く、かつ二人の記述に関してはちゃんと事実に基づいているわけだけだから、その点も読み応えがある。確かに「白骨鬼」の中のトリックはそこまで大したことはないし、この作品が「白骨鬼」として世に出されていたらそこまで評価はしないけど、二部構成にすることで物語自体に厚みが出ていて、トリックよりもそうした構成を評価している。
そこまでお勧めはしないけど、読んでみても悪くない作品だと思う。
歌野晶午「死体を買う男」
死体を買う男講談社文庫