でも、そうしたいい印象は、海について知らない人間の戯言でしかないだろう。
海は、僕らが思っている以上に危険な場所だろう。大自然という、美しさも兼ね備えた脅威の存在を、きっとまざまざと見せ付けられる格好になるだろう。
それでも、いつかでいいから、スクーバダイビングをしてみたいと思う。たぶん、しないとは思うけど、機会があればやってみたい。
本作は、海を舞台にした青春ミステリー、と銘打たれる。湘南の海を巡るミステリーであり、主人公の成長記でもある。
父親を失った主人公は、湘南のある中華料理屋であるバイトを始めた。水泳のコーチだった父の、生前の悪事を暴き立てるような週刊誌の記事。証拠のない憶測だらけの記事だったが、主人公や家族を打ちのめした。父親は一体何故死んだのか。それは、主人公の中に残る疑問だった。
バイト帰りに襲われた主人公を助けた男。それは、父をコーチとした同じスイミングスクールに通っていた男だった。その男に振り回されるようにしてダイビングへの道を歩み始める。男が口にした、父親の死の本当の理由を知っている、という言葉も気になった。
ダイビングのショップとその近くにあるバーを舞台に、ある悪事の匂いがする。父親の死とも絡んでいそうなその謎に、いつしか主人公は深く絡めとられていく…
といった感じです。
本作を紹介するには、その奇抜な語り口に触れなければいけないでしょう。「きみ」という二人称を主語にした作品で、読み始めはものすごく違和感があったけど、次第に気にならなくなっていった。不思議な感じがした。北村薫の「ターン」を思い出した。「ターン」も同じく二人称の作品で、そのどちらとも、その語り口である理由がちゃんとある。二人称の作品を、僕は他に知らない。
青春的な部分はそれなりに悪くないと思う。主人公や主人公を取り巻く人々は様々に描かれているし、ダイビングを始めとする海の描写もいいと思う。
でも、ミステリ的な部分がどうにも雑で残念だった。そういうつくりなんだろうけど、ほとんどの謎が曖昧なままで、どうにもすっきりしなかった。話がどうにも壮大すぎたし、ちょっとな、という感じがした。
あまりお勧めはしません。特に退屈はしないけど、それ以上でもそれ以下でもない感じです。
式田ティエン「沈むさかな」

沈むさかなハード

沈むさかな文庫