2005年09月03日

送り火(重松清)

街って、ほんと生き物みたいだよな、って思う。
なんだか、人の成長に似てなくもない。始めは、本当の本当に初めは何にもなくて、でもそこに人が住み始める。家が建ち、生活に必要なものが周囲に現れ、そしてそこに、人間の背骨のような線路が出来て、関節のように駅が出来、関節の部分に疲労が溜まるように人が集まってくる。背骨をなす線路を起点として、街は成長していく。病気や骨折のように廃墟が現れ、かと思えば脳のように重要な施設が集中した場所が現れたり、ほんと、人間と変わらないんじゃないかな、って気もする。
街を造るのは人間だ、って自負がきっと、意識しないまでも人々の中にはあるだろうと思う。人が建物を建て、道路を敷き、橋を架け、人々の生活を支えている、とみんなきっと思っている。
でもそうじゃない気がするのは僕だけだろうか?街にはきっと意志がある。人が建物を建てたいとか道路を敷きたい、とか思うよりも以前に、街自体がそういう意志を持っていて、そうなるように人間を操作している、だけなのかもしれない。
街には個性がある。というか、そのまま差があると言ってもいいだろう。それは、人間にも個人差があるようなものかもしれない。例えば、渋谷という街は、人間で言えば目立ちたがり屋で功名心が強かったのだろうと思う。だから、自分が注目を浴びるように、街自身頑張ったのではないか?僕の生まれ育った街は、町と書いた方が正しいようなところで、きっとそういうところの街は、消極的で人見知りで、ひっそりと生きていたいな、なんて思ったのかもしれない。
なんかそれぐらい、街というものの持つ力って大きいと思う。
人々は、自分の望む土地を作っているつもりでも、ただ街の意向に従っているだけで、結局人は、自分に合う街を、造るのではなく探さなくてはいけない羽目になる。人が街を拒絶するのではなく街に拒絶される。もはや人の力では、街をどうこうすることは出来ない。
なんか、人間って不器用だよな、ってこういう時に思ったりする。努力すればするほど、望まないものを手に入れていく、というかね。なんか、ちょっと悲しい。
書いていることがよくわからなくなってきたので(ちょっと個人的なことを言えば、仕事から帰ってきて、メチャクチャ疲れていたりするわけで)、あんまり適当にはしたくないんだけど、この辺で内容にはいります。
本作は、<武蔵電鉄富士見線>という路線を持つ街を舞台にした短編集です。重松清には珍しく、というか初のようですが、ホラーチックな作品になっています。
ホラーと言っても、怪物とか迷信とか妖怪とか呪いとか、そんな話ではありません。富士見線と共に生きる人々の、隠し持った気持ちやらよくない想像だとか、なんだかそういったものを集めた、という感じです。確かに怖い話もありますが、どちらかと言えば、切なくなる、というのに近いホラーではないかと思います。
というわけで、それぞれの内容を簡単に紹介します。

「フジミ荘奇譚」
浮気がばれて、離婚して、職も失い、友人や金融機関からの借金から逃れるために、家賃一万円の「富士見荘」に入居することになった男。そこで出会う、浮浪者のようななりをした老婆5人。一人ぼっちで長いこと生きてると猫になれるんだ。あんたも一人ぼっちだろ…

ホラーという意味ではこれが一番怖いのかもしれません。本作中の、ホラーらしいホラーです。

「ハードラック・ウーマン」
フリーの雑誌記者の女。タッグを組んで長い知り合いの副編集長と今やっているのは、街の噂を集めて特集するコーナー。またネタがない…そんな彼女が思いついたのが、「富士見地蔵」。ある駅にいた浮浪者らしき老婆をモチーフに作られた、彼女にとってはささやかな嘘だったのに…

噂と街というのは切っても切り離せないような気がします。しかも、ツールの進化と共に、噂の広まるスピードはどんどん速くなり、たかが噂、といえない感じになってくることもあります。みんな、何かやっぱり救いを求めてるのかな、と思える作品です。

「かげぜん」
息子を失った夫婦。息子の名前で届くダイレクトメールに、初めこそ怒りを覚えていたものの、名簿の中に息子が生きている、というような一種の希望をそこに見出すように。行動と思いのばらばらな妻を案じ、それとなく諭す夫。妻は、何を望むのか…

実際に子供がいないので想像は難しいけど、そうなってもおかしくはないような気はします。冗談。その口調に隠した本心は、隠されたままどんどんと成長していってしまうのでしょう。まるで、死んでしまった息子が名簿の中だけで成長するように…

「漂流記」
子育てにいいだろう…敷地の四割が自然で、公園も多いニュータウン。入居を決めた妻は、早速公園デビューを果たす。でも、なんだかおかしくない…敷地内の公園を漂流する妻と子。

この、主婦の世界、というのは、男にしたら本当に創造は難しいんだろうけど、単純に想像するに、なんだか大変そうな気がします。子供が中心であり、同時に母親が中心でもある、歪な空間なきがします。

「よーそろ」
学校でいじめられていて、死んじゃってもいいかなって思っている少年。自殺者をいちはやく察知できてしまう駅員。二人を繋ぐものは、ある人が書いた、旅行記。世界中を旅して回って、様々に諭そうとするそのHPに、多くの人が救われていく。

結構好きな話です。その旅行記を書いている人がなかなかいかしています。僕もこうして文章を書いているのですから、誰かを救えたらいいと思うのですけど…

「シド・ヴィシャスから遠く離れて」
パンクを愛し、なんだかわからないけど怒っていた、その怒りを文章にしてきたケニー佐藤。パンクを愛し、その生き方を愛し、三年後には死ぬと言い切ったもとパンクバンドの男。長い年月を経、どちらも父親として、幼稚園で再会した。パンクとは、死に方だ。彼等が残してきた生き方は、一体…

音楽というものに、造詣どころか特別興味もないので、そこまでわからないけど、人は時とともに意見を変えていくし、変えていかなければ生きていけない、と思える作品でした。

「送り火」
昔、遊園地のすぐ側で生活していた女。今は1児の母として生活している。母を同居させる。そう意気込んで、電話では何度も断られていたから、実家である、まさに遊園地のそばの家に戻ってきた。遊園地は潰れ、廃墟のようになっていたが。

なんか、家族ってなんだろう、って感じます。なんか、ちょっと悲しい。でも、本作は正直、ちょっとよくわからなかったです。

「家路」
些細なことの積み重ねから別居することになった夫婦。夫は、なんだってあんなに混んだ電車で、しかも遠い家まで、しかも毎日帰らなければいけないんだ、と思っている。だけど、帰りを待つ人のいない生活はどこか寂しい。そんな中、駅で地縛霊に会う。私は、帰りたかったのに、帰れなかったと嘆く地縛霊と。

これも、ちょっとよくわからなかったけど、確かに普通に普通に考えて、サラリーマンの父親って、あほみたいなことしてるよな、って思う。例えそれが家族のためだとしても。

「もういくつ寝ると」
ガンで余命幾ばくもない父のために、富士山の見える墓地を探すことになった。夫とはどうも意見が合わない。悪い人ではないんだけど…。お墓にまつわる、それぞれ個人の切ない物語。

僕個人的な意見では、お墓なんてどうでもいいと思うし、というか、人生において一度も墓参りに行ったことがない(どこに誰のお墓があるのかも知らない)ので、どうもピンときません。だからなのか、小野田さんの考え方は結構好きだったりします。

普段の重松清らしくない作品ですが、そつなくまとまっている、という感じです。悪くはないけど、そこまで、っていう感じです。でも、どこにでも恐怖は転がっているんだな、と思いました。それを皆が恐怖と感じるかどうかは別として。
本作と直接関係あるわけでもないんですが、僕個人的な意見としては、短編集のタイトルに、収録された短編のどれかのタイトルをつける、というやり方が、どうもあんまり好きではありません。、収録された作品全体を通して一つの作品であり、それに見合ったタイトルをつけてほしいのにな、と短編集を読むたびにちらりと思います。思い出して、とりあえずそのことを書いてみました。
表紙が綺麗です。緑色の夜の風景、とでもいいましょうか。なんだか、次の日に期待していいのか悪いのか微妙な感じの色ですが、綺麗です。結構好きです。
ちょっと違った重松清を体験してみるのもいいかもしれません。

重松清「送り火」


送り火ハード

送り火ハード
 

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地名にも音霊は宿る・あなたの住む街は大丈夫か?【八田修一・奇跡の占いブログ】 at 2005年09月04日 00:09
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まだまだコレからです!!【☆エンコレ☆】 at 2005年09月20日 18:02
笑えるほどタイムリーな題名の本。 武蔵電鉄富士見線という架空の私鉄沿線を舞台としたこの世とあの世の がモチーフの短編集。 なんとなく自分が住んでいた京王線を思い出す。 「死生観」がそれぞれ..
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