2005年10月04日

看守眼(横山秀夫)

普段僕等は、様々なドアの前を通り過ぎて生きている。
ドアは、非日常への入口だ。僕等はいつだってその側を通りながら、それでいてその側を通っていることにも、そのドアの存在にすら気付かないことが多い。非日常が、常に口をあけて待っていることに、僕等はあまり慣れた思考をすることができない。
そして、時々そのドアを、無意識のうちにくぐってしまうことがある。入ったことにも気付かないまま、出られないことに気付く。そんな感じだ。
昔こんなコントを見たことがある。美容院の話で、舞台の左右にドアがある設定になっている。客が帰ろうと、左側のドアを開けると、右手のドアからまた戻ってしまう。そんなコントだった。
そのコント自体が面白かったかどうかはよく覚えていないが、知らないうちにそういう変な空間に紛れ込んで、そして出られなくなっていることが、少なくなくあると思う。
そんなドアを、無意識のうちにくぐってしまったが故に巻き込まれる事件。本作にはそういった話が描かれているように、僕には思う。
皆誰もが、普通の生活をしている。安定した場所で、比較的安定した生活を送っている。
それでも、ふとしたきっかけで、その変な空間への入口であるドアに足を踏み入れてしまい、出なければと気付いた頃にはもう既に出られなくなっている。そんな話だ。
本作は短編集であり、しかも著者には珍しく(という表現が正しいかどうかはわからないが)、連作短編集ではなく、登場人物も設定もまるで違う、作品間に関連のない作品となっている。
著者の作品の中で、本作と最も近い作品は「深追い」だろう。共通項は、男女の関係というか、そうしたところだ。男女の擦れ違い立ったり思惑だったり、そうしたことが最終的には描かれているように思う。
残念ながら、「深追い」もそうだったのだけれども、本作はどうもあまりよくなかった。いつものキレがない、というのが正直な感想だ。ものすごく例えが悪くて、初めに謝っておくけど、申し訳ない。尿漏れの症状を持つ人のような感じで、残尿感というのか、なんだかすっきりしなくて、いつもなら刃物でスパッと切り裂いたかのような切れ味を見せてくれるのに、本作はどうにも、定規を当てて紙を切った時のようなざらざら感がどうにもついて回ったように思えた。
なるほど、と思える作品はないではなかったけど、ミステリ的な要素に多少欠けているように思うし、ストーリーが地味だったり、平坦だったりするような、ちょっと横山秀夫らしくないんじゃないかな、という感じでした。まあこういう作品を書きたくなることもあるだろうし、そういうこともあるだろう、という感じに思っていますけど。
それぞれの内容を簡単に紹介しようと思います。

「看守眼」
警察の中で、機関紙の編集をやっている女性。退職者の紹介が目玉になる号で、一人だけ回想手記の原稿をだしてない。看守一筋の人生を送ったその男は、今長期休暇を利用して、一年前に起きた未解決事件の捜査する、刑事の真似事のようなことをしているらしい。とにかく、どうにかして原稿を取りに行かねば…。そうして女は、事件の真相を知る。

「自伝」
テレビでフリーの仕事をしたり、書き物などで生計を立てている男が、仲間と始めた自伝執筆代行の仕事で当たりを引いた。仲間三人の内で順番が最後だった男に、偏屈で気難しそうな電気店チェーンの会長の自伝執筆の候補になったのだ。大変なのは、就職時並の面接をやらされること。それに通らなければ、この300万の仕事はフイになる。チャンスをものにしたはずの男の話。

「口癖」
家裁の調停委員をしている女性。離婚調停に現れた女性に見覚えがある。というか、その母親にだ。自分の娘が不登校になった時。あの時期に会ったことがある。離婚したがっているその女に、多少を優越感と、よからぬ感情を持ったまま立ち会うことへの多少の罪悪感を持ったまま、調停は始まる。やがて知る、娘の不登校の理由。

「午前五時の侵入者」
県警のHPの運営を任されている男。習慣で朝5時に起きた男が見たのは、フランス語らしき文章が書かれた奇妙な画面だった。クラッカー。県警のHPに侵入され、荒らされた。あらゆる方面への対策に追われる中、男は真相に至る。

「静かな家」
新聞社で、整理部員である男。長年記者だったのに、整理部に回された。地元のイベントや投書が載るようなコーナーの紙面づくりが主な仕事になる。久々のいいできの紙面に、無理矢理別の記事をねじ込まなくてはならなくなった男は、そのごたごたもあって、写真展の開催期間が終了しているにも関わらずその紹介記事を載せるというヘマをやってしまった。なんとかバレないようにと、策を講じるが、新聞社に抗議の電話があり万事窮す。しかし、その抗議した男が死体で発見されるという事態になり…

「秘書課の男」
知事の筆頭秘書として長年仕えてきた男。だが数日前からどうも知事の自分に対する態度がおかしい。怒っているというよりも、嫌われているようだ。一体自分が何をしたのか。思い当たるのは、昔あった金の貸し借りの話。あれが知事の耳に入ったのか。だとしてもどうして…。知事の元へ行く情報は、ほぼその全てを自分が管理しているというのに…。

横山秀夫だと期待して読むと、肩透かしを食らわされるのではないか、という感じがします。普通の作家の普通の作品とすればまあ普通かもしれないけど、横山秀夫の作品にしてはレベルが低いような、そんな気がしてしまいます。そこまでお勧めはしません。著者の作品には、もっと素晴らしいものが沢山あるので、是非そちらを読んだほうがいいかと思います。

横山秀夫「看守眼」


看守眼ハード

看守眼ハード
 

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