実に陳腐な表現になったが、言っていることに嘘偽りは一切ない。本当に、めちゃくちゃ面白くて、ちょっとどうしようかと思ったくらい。
でもそれはもしかしたら、僕、だからなのかもしれない、とも思う。というのも、僕の今の状況は、本作の状況とかなり似ている、と言えるわけで…
この作品の舞台が、自分の働いている本屋とダブった。だからこそ、普通以上に面白く感じられたのかもしれない。
僕は、本屋でバイトをしている人です。一応文庫・新書担当なんかやってます。入って一年半ぐらいですが、店内の仕事はほとんどわかる、とまあそんな感じでしょうか。
ただ、いろいろな部分が酷すぎる。もう、なんでこんなこともできないのか、なんでこんなことも言えないのか、なんでこんなこともやらないのか…。もはや、あげればきりがないほど、うちの本屋はあちこちがひどいんです。
でも、まあそこそこ売上がいいのと、出来る数人のスタッフがひたこらと頑張っているお陰で、今のところなんとかなっているわけで…。
ってこのサイト、うちの店長も見てたりするんだな。まあ、いっかな。
とにかく、仕事のできないスタッフ、仕事をやらないスタッフが多すぎて、それを社員が改善しようとせず(というか寧ろ、社員の能力が低くて、仕事ができてないから、周囲の管理なんて目がいかない、という状況だけど)という感じ。つい最近、オープン当初からいた、ものすごくできるスタッフ(この人は社員だったけど)が退職して、それ以来店内の状況は益々最悪になってきた。
僕はほんと、本作に出てくる二宮さんみたいに、社員でもないのに、めちゃくちゃ頑張って、売り場を管理しようとしている。ほんと、疲れる。
そろそろなんとかしないとやばい、と本気で思っていて、実際にいろいろ動き出していたりする。僕の考えに賛同してくれる人も結構いたりして、でもそう簡単にうまくはいかないだろう、とも思う。ずっとぬるま湯に浸かっていた人間は、冷水や熱湯になった時、すぐに対応できないのだ。
最近は、ほんと細々としたことにも腹が立って、イライラしっぱなし。もうホント、どうにもならなかったら辞めちゃうしかないよな、ってまあそんな感じ。
以上、今の僕の現状でした。
組織(これは規模に関わらず、ある程度の同一の目的を持つ(はずの)集団により構成されるものを指すものとする)を変革するのは、本当に難しい、と改めて思う。僕は、大学時代に、かなり奇妙なサークル(実際は部活なんだけど)に入っていて、そこである時期かなり中心的な仕事をやっていたりした。その組織は、本当にあらゆることが厳格に論理的にかっちりと決まっているようなところで、僕らの代で変えようと努力したのだけど(まあ僕はあんまり頑張らなかったんだけど)、結局うまくいった、とは言えないような成果に終わったと思う。
組織は、時間と共にどんどんと硬直していく。それは、骨折をギブスで固めているような状況かもしれない。うまいことギブスで固定された状態で硬直するなら別にいい。でも、ギブスの巻き方に不備があって、そのままだと骨が正常に繋がらない、というような状況で硬直していく。それが、組織というものに課せられた宿命なのかもしれない。
硬直しきる前に何らかの処置を施せば、あるいはなんとかしようがあるのかもしれない。しかし、間違ったまま繋がってしまった骨は、そう簡単には元には戻らない。
ただ、不可能ではない。
有効な準備と、完璧な論理、そして認められた実績や隙のない行動などによって、かなり難しいけど不可能ではない。そして今僕は、それに挑もうとしている。かなり道のりは険しいけど、本屋というのが結構好きだから、なんとかしてみたいと思う。
まあそんな、自分に対する決意表明も兼ねながら…。
内容の紹介に移ろうと思います。
本作はまず、県庁である企画が立ち上がるところから始まる。それは、県庁の星(エリート)を民間企業に出向させ、そこで民間の手腕を学び、役人の仕事に役立てよう。そういう企画である。その栄えある第一回目の6人に選ばれた一人が、本作の主人公の一人、野村聡である。
聡は、あるスーパーに行くことになった。さて、やるぞと気合を入れて乗り込んだものの、店長に言われたのは、そのスーパーの長とでも言うべきパートの女性に仕事を教えてもらいなさい、ということ。その女性こそ、本作のもう一人の主人公、二宮泰子である。
二人のかみ合わなさは、月とすっぽんの喩えを軽く吹き飛ばすほどのものがある。やることなすことかみ合わない。聡は、役人的な発想の元に判断・行動をするのだが、それがいちいち二宮の気に障る。やることなすこと見当違いで、すっかり呆れた様子で聡と接する二宮。まあ最悪のコンビネーションと言えるだろう。
しかしこの二人、なんだかんだ言いながら、時と共にお互いを好きあうような関係になって…
というような恋愛ストーリーではまったくないが、でも二人の関係は徐々に変わっていく。聡は、自分に相応しい仕事を求め、あらゆる改善点を指摘し、店をよくしようと努力するが、周囲の協力を得られずにうまくいかない。「ケンチョウさん」と呼ばれ続けるように、役人的な発想から抜け切ることができない。二宮は二宮で、相変わらずぐうたらな社員に呆れ怒りながらも、そして聡の相変わらずのアホな仕事ぶりに呆れ怒りながらも、それでも一生懸命に仕事をしていく。
そんな二人の関係が変わっていく、というのだからすごい。
次第に聡は考えを改めるようになる。役人的な視点ではない、新たな視点を獲得し、その視点で様々な判断・行動をするようになる。元々頭はいいのだから、そのほんの少しの転換で、聡は周囲を動かしていく。そんな姿を見た二宮も、この店を変えるなら今しかない、と二宮なりの作戦で周囲を動かしていく。
そうして迎えるラスト。あなたはきっと感動し、ともすれば涙すら流してしまうかもしれません。
圧倒的なスピード感でストーリーを疾走させ、内容は抱腹絶倒、ラストは大感動、という、本当に素晴らしい作品なのでありました。
予想よりも遥かにいい作品で、びっくりしました。役所と民間ではここまで考え方に差が出るものなのか、という驚きもあるし、現実にスーパーってこんな感じなのかな、という驚きもあるし、こんなにも面白いなんて、という驚きもあった。かなり、読んで満足な作品だった。
僕は本当に今、二宮と同じような状況にいる。聡のような手腕も持っていると思っている。なんとなく読んでて励まされた。頑張ればなんとかなるぞ、って。よっしゃ、俺もいっちょ頑張ってみるか、ってそんな感じになった。
本作は映画化が決定だそうです。いつ誰がということは知りませんが。とても面白い作品になると思います。見るかどうかは別として、期待したいと思います。
是非書店で見かけたら手にとってください。数ページでもいいので読んでみてください。そして是非買ってください。いい一冊に出会えました。
桂望実「県庁の星」

県庁の星ハード