それは、人を使うことが出来る人。
もちろん、他にも尊敬できるタイプの人間はいるけれども、とりあえずここでは、人を使うことが出来る人の話を。
アルバイトではあるけれども僕も仕事をしていて、社会的な身分は低いけど、僕が働いている本屋では結構重要な役回りを僕はしているつもりです。職場というのはどこもそうかもしれないけど、結局有能か無能かに分かれて、その差というのは結局、人をどこまで使うことができるか、という点ではないかと思います。
僕は仕事をするに当たって、周囲に対してこう思っています。
『もし自分よりもうまく仕事をこなしたり、自分にはできないことをしている人には従うけれども、そうでない人は俺の駒であって欲しい』
つまり、有能な人には従い、無能な人は自分の駒として使いたい、と考えているわけです。
僕は、自分が有能かどうかは別として、人を使う人間です。常に、戦略的に自分ひとりではどうにもならない仕事を抱え、それを周囲の人間に振っていくことで効率を上げようと考えている人間です。
今働いている本屋には、どうも僕の思う有能な人は多くなくて、つまりそれは人を動かせていないということなのだけど、結構疲れますね。
上に立つ人間がしなければいけないのは、管理することと責任を取ることだけだ、とはよく言ったもので、それはつまるところ、いかに人を使う・操る・動かすことができるか、ということでしょう。
大学時代入っていたサークルには、かなり有能な人間が集まっていて、そういう場で仕事ができると、なかなかやりがいが出てきますが、そうでないとなかなか楽しんで仕事をすることが難しくなります。今の仕事自体に不満はないけど、もう少し有能な人間の多い場所で働きたかった、という風には思いますね。
いつものことだけど、結局書きたいことがわからなくなってきたのでそろそろ止めます。まあこの話は、本作に関係なくもないけど、すごく関係あるわけでもないし。どうも、結構ミステリしている作品というのは、この前段階で書くことがなかなか無くて困りますね。いや、別にそれもどうでもいいですね。
というわけで早速内容に入ろうと思います。
<古典部>シリーズ第二弾として出された本作は、前作「氷菓」と主要メンバーは同じです。すなわち、知識豊富で自らをデータベースと呼ぶ里志、漫画研究会にも所属する完璧主義者の図書館員伊原、好奇心が旺盛すぎて抑えきることができずに事件を呼び込むお嬢様千反田、そして省エネ主義でやらなくていいことには手を出さない探偵役奉太郎、という<古典部>の面々である。
今は夏休み。彼らは何をしているかというと、文化祭で出す予定の文集「氷菓」作りのために日々集まっているのだ。
そんな折、常に好奇心が先行する千反田が、ビデオ映画の試写会に行きましょう、と話を持ってくる。なんでも、あるクラスが文化祭でビデオ映画を製作することになり、それを見てもらいたい、ということらしい。
それぞれ積極性には違いがあるものの、四人はビデオ映画の試写会に行くことにする。
しかし、そのビデオ映画は、結末がなかった。
筋はミステリであり、近くに実際にある廃墟で撮影が行われた。クラスのメンバーで廃墟を訪れたという設定で、しかしそこで殺人事件が起きる。腕を切断された死体。現場は密室。さて犯人はどうやって殺人を行ったのか…。
というところでビデオは切れている。
どうやら事情があるらしい。何でも、脚本を書いている人間が精神的に追い詰められてダウン、結末が宙ぶらりんのままではどうにも寒いということで、詰まるところこの話の続きを推理してくれ、ということらしい。
四人の中で探偵としての素質を周囲に認められている奉太郎は、しかし断った。自分にはそんな才能はない、と。
ただそれでは相手も引かないので、妥協点として、そのクラスの人が考えた推理を聞き、その完成度の判断をしてほしい、ということで話はまとまった。
翌日から、クラスメイトが考えた推理を拝聴することになるのだが…。
さてここでズバッと言っておきますが、本作はメチャクチャ面白いですね。
まず設定がいい。現実の事件ではなく、架空の物語として作られたビデオ映画の続きを考える、という点。現実の事件を考える際には考慮する必要のない様々な要素(脚本を担当した人間のミステリ習熟度やカメラワークなど)すらも謎を解く要素として入り込み、リアルに起こっている事件を解くよりも面白い設定だと僕は思う。
さらに、著者自らが「毒入りチョコレート事件」へのオマージュだと言っているように(僕はその作品を読んだことはないけど、同じくその作品をモチーフに書かれた、貫井徳郎の「プリズム」は読んだことがある)、確定要素のなかなか少ない事件に対していくつもの仮説が出てきて、中でも奉太郎の考え出した『解答』はまさにお見事!というもので(実際これで物語が終わっても問題ないくらいに)、その『解答』をさらに前振りとしているというこの贅沢さ、なかなか出来ません。
とにかく、ミステリとしての完成度がかなり高い作品だと思います。前作「氷菓」は、悪くはないけど僕的に消化不良の点があったのだけど、本作はそんなことはなく、いい作品だと思います。
米澤穂信という作家は、人間、というかキャラクターを書くのが非常にうまくて、結構短い話なのに、主要登場人物である<古典部>の四人はもちろんのこと、そうではない脇役達までキャラクターとして見事に描いていて、この作家はなかなかやるなという感じです。
語彙もかなり豊富で知識が深く、また文章のテンポがいいのでスラスラと読めます。本筋とは関係ないところで細かい伏線を用意してみたりと、なかなかエンターテイメントとして抜群の作品を書く作家ですね。
本年度このミスで、かなりページを割いて著者の紹介が載るほど注目の作家です。短いし読みやすいし面白いで言うことはありません。是非読んでみてください。
しかし…画像が違うんだな、これが…。何故かこれしかないんだなー。
米澤穂信「愚者のエンドロール」

愚者のエンドロール文庫