2006年03月12日

レヴォリューションNo.3(金城一紀)

闘いに必要なのは、ペンか剣か。
昔のある偉い人は、『ペンは剣よりも強し』という言葉を遺した。誰が言ったかは知らないけど。これはつまり、闘いにおいては権力がものを言う、ということを言いたいのだろう、と思う。いくら剣を振り回して力を誇示しても、権力者の操るペンから生み出される法律や規則やルールやなんかには勝てないのだ、と。
まあ、ある意味では正しいんだろう。
僕らの世界も、強者に搾取される仕組みになっている。どれだけ喧嘩が強かろうが、どれだけお金を持っていようが、どれだけ知識を持っていようが関係ない。権力を持っているものがすべてを搾取して富み、権力を持たざるものは搾取されることに甘んじるしかない。そういう仕組みである。まあ、別にそれに文句を言おうというわけでもないのだけど。
僕はだからこう思う。『ペンは剣よりも強し』というこの言葉は、強者の論理なのだと。
強者として生きている人間同士の争いならば、ペンを持たざるものはペンを持つものに屈するしかない、というそういう論理である。
ならば、弱者の論理とは何か。
弱者にとって、闘いに必要なものはなんだろうか。
ペンでも剣でもない。そのどちらも持つことができないのが弱者なのだから。
弱者が闘いに必要なものが、絆、だと言ったら、人は僕を青臭いと笑うだろうか?
弱者は、力というその一点に関しては、強者と比べてひどく欠陥がある。決して人間として劣っているわけではないが、力は劣っている。
しかし、弱者が欠陥を補う者同士として集まれば、強者と対抗できる。というか、そうするしか術はないと言ってもいいだろう。
僕は、自分を弱者だろうと思う。群れなければ闘うことのできない人間である。しかしだからと言って僕は、強者になりたいとは思わない。
強者は、一人で闘わなくてはならないという点で、ひどく孤独である。
強者は、強者になる過程で敵を増やさざるおえない運命だし、だとすれば、強者になればなるほど、闘いには一人で臨まなければならなくなる。周りから、仲間がどんどんといなくなっていく。
一人で闘い抜くには、人生は余りにも長く辛くはないだろうか?
生きるということと闘うということは同義である。弱者はペンも剣も持てないし、僕は、そのどちらも持ちたいとは思わない。それでも、僕らは闘わなくてはならない。仲間がいると信じて。絆が存在すると祈って。信頼を裏切らないと誓って。
闘いに必要なのは、ペンでも剣でもなく、絆である。
というわけで内容に入ろうと思います。
本作は、『ゾンビーズシリーズ』というシリーズの第一弾の作品だそうで、僕はそのシリーズ第二弾の「フライ、ダディ、フライ」を先に読んでいたわけだけど、『ゾンビーズシリーズ』というシリーズだとはまったく知らなかったです。
さてまずは、『ゾンビーズ』ってのはなんだろう、というところからですね。
主人公は高校生で、優秀な高校のひしめく新宿区にあって、一校だけ唯一偏差値の低い学校として存在する高校に通っている。
そこに通う高校生は、いつしか『ゾンビ』と呼ばれるようになった。理由は二つ。偏差値が脳死と判定されてもおかしくないくらいの血糖値しかないこと、そしてもう一つ。
『殺してもしななそうだから』。
さて、『ゾンビーズ』誕生にはもう少し話がある。それには、ある生物の教師が授業中にした話がきっかけだった。
詳しいことは読んで欲しいので割愛するが、結局その生物教師の結論はこうだった。
『お前等は、優秀な女の遺伝子をゲットしろ』
それに感化された連中が、『ある計画』を中心に集まった。その『ある計画』に乗った人間が48人いて、自分達が『ゾンビ』と呼ばれていることから、『ザ・ゾンビーズ』という名前をつけた、というわけだ。この『ザ・ゾンビーズ』は、リーダーのいないまったく平等な関係であり、偶然にも皆、携帯電話とカラオケと巨人軍が嫌いだった。
その『ザ・ゾンビーズ』の面々があれやこれや活躍する、というのが本作の話で、3話を収録した連作短編集となっている。
『ザ・ゾンビーズ』のメンバーについて少し書いておこう。
まずは、南方。これは視点人物で、ほとんど『僕』という一人称で出てくる。この南方というのが、『ザ・ゾンビーズ』のいろんな問題の計画を練る人間で、リーダーではないけど指示は出す、みたいなそんな人間だ。
舜臣というのが、在日朝鮮人2世みたいな感じなのかな、とにかくそういう感じの出生で、身体を鍛えまくってて喧嘩もメチャクチャ強い上に、勉強もすこぶるできる。難しそうな本をいつも読んでいて、割と無口だが、ものすごくいい奴である。
山下。最強の引きの弱さを誇る男で、とにかく『運が悪い』の一言で済ますにはあまりにも哀れな体質の人間。何故か動物は、山下を見ると興奮して襲い掛かってくる。
他にもいろいろいるが、『ザ・ゾンビーズ』のメンバーではないが重要人物を。アギーと呼ばれている男は、いろんな国の遺伝子が取り混ざり、奇跡的な美しさを持った男で、高校生でありながら金持ちマダムの若いツバメをやることで金を稼ぎ、また一匹狼でそれをやるためにあらゆる知識を詰め込んだ男で、女関係はおろか、法律やあらゆる便利ごとまで、有料だがなんでもやってくれる、という便利屋である。
さてそんなわけで、それぞれの内容を紹介しようと思います。

「レヴォリューションNo.3」
先ほど書いた『ある計画』を実行するという話。『ある計画』とは、近くにある超頭のいい女子高の学園祭に乗り込んで、あわよくば彼女をゲットしよう、という作戦である。しかしこの女子高の学園祭は敷居が高い。完全チケット性になっていて、普通の輩では校舎内に入り込むことがまずできないのだ。
1年目2年目と、考えた作戦を実行したがなかなかうまくいかない。今年でラストチャンス。一体どうするか…。
一方で、リーダーのいない『ザ・ゾンビーズ』にあって、リーダー的な信頼を得ていたヒロシが、かなり重症な病気のために入院してしまっている。なんとかならないか、なんとか…。

しょっぱなから爆笑させてもらいました。『ええじゃないか作戦』は、ほんともう大笑いって感じで、僕はその部分を読んでいた時マックにいたのだけど、周囲の人間におかしな人間だと思われないように必死で笑うのを我慢していたんだけど、大変でした。

「ラン、ボーイズ、ラン」
ヒロシが死んでしまった。沖縄に墓参りに行こう、という計画が『ザ・ゾンビーズ』の中で沸き起こって、じゃあみんなバイトな、ってことになる。お金もたんまりたまって、よし予約でもするかなんて話になった時に、事件は起きる。
きっかけは、山下の親戚だかが旅行会社に勤めているだかで、割引に出来るよ、と持ちかけたことだった。条件は一つ。そのお金を全部山下が預かっていくというものだ。金融関係に就職先が決まっていた山下は、ここでお金の管理をばっちりして幸先いいスタートにしたかったのだ。
しかし、もう予想通りというか、山下は不良連中にカツアゲに遭い、100万以上の大金を持っていかれた。ならば『ザ・ゾンビーズ』としては、金を取り戻すまで…。

山下というキャラクターが本当にいいですね。要するに、このキャラクターを『ザ・ゾンビーズ』が許容しているというところが、なんだかものすごく微笑ましいというかなんというか。

「異教徒たちの踊り」
時間としては、「レヴォリューションNo.3」よりも前の話。まだ広しが入院する前の元気だった頃の話。
南方の元へと電話が掛かる。夏休み初日。井上という『ザ・ゾンビーズ』のメンバーの一人が、南方にこう言った。
『美女が命を狙われてる。助けてやってくれ』
話を聞くと、どうやらストーカー的な変態がある女性の元につきまとっている、という感じらしい。なんだそんなことか、と初めこそ高を括っていた南方だが、そんなことを言ってもいられない事態になり…。

この話こそ、上で僕が書いた、『闘いに必要なのはペンでも剣でもなく絆である』というのを体現していますね。まあ、「ラン、ボーイズ、ラン」もそれに近いけど。

僕は結局、名前の見えない人間関係こそが素晴らしいのではないか、と思うのです。
例えば、親子なんだけど全然親子に見えないとか、兄弟なんだけど兄弟に見えないんだけど、仲間なんだけど仲間に見えない、というような、そういう既存の名前を超越している人間関係というのがいいな、と思うのだ。
本作に出てくる『ザ・ゾンビーズ』のメンバーというのは、本当にそんな関係を体現できている関係で、ものすごく羨ましいと思う。ものすごく言葉にしにくいけど、誰もが誰かのことを考えて大切に思っているのに、でも無関心みたいな、そんな感じがする。お互いに相手を信頼しているから、キツイことを言われても、何か理由があるんだろうな、と思って引き下がれる。そういう馴れ合いではない距離感というのが、清々しくて見ていて羨ましくなる。
また、彼らが交わす会話もかなり高級だ。センスがある。
一例を挙げることにしよう。「異教徒の踊り」の中で変態のストーカー野郎が、女性の家に毎晩正確に9時に電話をするんだけど、『ザ・ゾンビーズ』のメンバーがその変態男を見つけた時の、張り込みをしている人間と南方との会話がこうである。

『(前略)ねえ、賭けをしない?』
『どんな?』
『奴が九時少し前にロビーの脇にある公衆電話ボックスに入って、吉村さんのところに電話をかけるかどうか』
『オーケー、俺はかけないほうに四人分の晩飯を賭けるよ。なにが食べたいか、みんなに訊いといてくれ』
『サンキュー』

説明するのは野暮だろうけど、これはつまり、
『俺等頑張ったでしょ。なんか報酬は?』
『わかった。飯でもおごるよ』
っていう意味の会話で、でもこうやって賭けの話にすると、すごく高級というかセンスがいいというか、そんな会話になる気がしませんか?彼らが交わす会話には、本当にこういうものが多くて、いいなって思います。
また、メンバーが抱えているそれぞれの思想ってのも面白いです。48人全員分の思想がわかるわけじゃないけど、主要な登場人物のものは大体分かる。その中で、南方がストーカーに狙われた女性に、なんで私の問題に首を突っ込むことに決めたの?って聞かれた際の返答を抜き出してみようと思います。

『例えば、僕たちの育った時代に、ベトナム戦争とか学生運動みたいに分かりやすいことがあったら、わざわざ理由なんて説明しなくても済むんですけどね。とりあえずニヒルに笑っとけば、相手が勝手に物語を成立させてくれるでしょ。でも、僕たちの時代にはなんにもないですからね。そんなわけで、僕たちは自分たちで物語を作るために、色々なことに首を突っ込まなくちゃならないんです』

言いたいことがちゃんと理解できているかはわからないけど、でもこんなセリフなかなか言えたもんじゃないってことぐらいはわかりますね。なんか、かっこいいじゃないですか。
そんなわけで、ものすごく面白い作品です。ものすごく幸せな気分になれる小説です。読んで楽しくなる小説です。なんとなくですが、宗田治の『ぼくらのシリーズ』に出てくるあの高校生達(でしたよね、確か)を思い出しました。そんな愉快なメンバーが揃っています。
是非とも読んでみてほしいなと思います。

金城一紀「レヴォリューションNo.3」


レヴォリューションNo3ハード

レヴォリューションNo.3ハード
 

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ウサウサは淋しいと!!!【冬月かえで】 at 2006年03月12日 18:47
????ĤĢĢ??Đb????ĢĢīc??īăĆĤĆĢ??ķĤćĹčcĢijĊċ??īăĿ??ãĊĎċĢĦijijĊċΩ??ċĊăĆfff
ijĎ??ãĈĢĪ????ffff【????????????????Ď????Ďśųō】 at 2006年03月12日 19:11
レヴォリューション No.3 金城 一紀 2005年 角川書店 ★★★★★ 遠くに行っちゃった人間はズルいね。残ったほうの人間に自分が悪いみたいに思わせる。でもね、踏みとどまってファイト..
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この記事へのコメント
この本、めちゃめちゃ読みたくなりました。
多分買う。
Posted by uririn at 2006年03月12日 23:41
よかった。まじ面白いよ。ゾンビーズ、最高。
それがよかったら、続きの(僕は最初にこっちを読んだけど)「フライ、ダディ、フライ」も是非。
Posted by 通りすがり at 2006年03月12日 23:55
『レヴォリューション癸魁戮なかったから、先に『フライ、ダディ、フライ』買った。
角川の方の装丁も良かったし。
感動しちゃったよ…。朴君のファンになった。
ゾンビーズシリーズ、『SPEED』も、全部読んでみる。
Posted by uririn at 2006年03月15日 23:38
uririnさんのサイトに感想書いてありましたね。早速読んでくれて嬉しいです。

朴君いいですよね。個人的には山下が爆笑なんだけど、山下はどっちかと言えば「レヴォリューションNo.3」の方で活躍するからな。まああったら即買いで。

ってか「SPEED」もゾンビーズシリーズなのか。買わねば。
Posted by 通りすがり at 2006年03月16日 02:16
この本、本当に読めて良かった。
教えてくれてありがとう(^^)
Posted by uririn at 2006年03月26日 00:20
それはよかった。傑作だよね、ゾンビーズシリーズ。今年読んだ本の、かなり上位にランクインされることは間違いないかと思われます。
Posted by 通りすがり at 2006年03月26日 00:35
ザ・ゾンビーズシリーズは全部読みました!
SPEEDの最後のほうで立ち上がる舜臣の強さにすごく憧れました!
Posted by ファン at 2007年07月07日 22:17
ゾンビーズシリーズ、いいですよね。
早く続編が出たりしないかなぁ、とか思っていますけど、
この人は作品を出すのが遅い上に別の関係ない作品をたくさん書いているので、あんまり期待できないですよね。
Posted by 通りすがり at 2007年07月08日 03:21