加納朋子と言えば、もはや1ジャンルと言ってもいい「日常の謎」を生み出す短編作家だ。なんらかのテーマで揃えられた珠玉の短編は、これまで読んだ女史の作品でもかなりよかったと思っている。
が、今回のもなかなかのものだ。
今回のテーマは、解説者の言葉を借りれば、「いたはずの誰か。いたかもしれない誰か。いなかったかもしれない誰か。いないはずの誰か。そんな誰かと出会うことで、異界が開かれ、物語が始まる」ということです。
この作品で加納氏は少し飛躍した。今までは現実世界で、現実的に論理的にありえることを解き明かす、というスタイルだったのに、今回は、どちらかと言えば、論理的に説明しようと思えば出来なくもない不思議な話、といった感じ。美しい詩のような文章や、優しい羽ばたくようなリズムを持った文章はそのままに、新たな地平へと踏み出しているような気がする。
非日常、という空間を、独自の筆致で見事に描き出している。あえて結末をどこかに収束させずに、想像の翼を広げさせてくれる。いつもの優しい眼差しはそのままに、違う世界へと僕たちを連れて行ってくれるようだ。
10編ある短編の中でいいなと思ったのが四編。「海を見に行く日」「商店街の夜」「オレンジの半分」そして表題作である「沙羅は和子の名を呼ぶ」。中でも素晴らしいのは「オレンジの半分」と「沙羅は和子の名を呼ぶ」。どちらも是非読んで欲しい作品です。
短編集の感想を書く場合、それぞれの短編の紹介や感想を書くことが出来ない(出来ないというかめんどくさいだけだけど)のが残念です。本当に、最高です。
加納朋子「沙羅は和子の名を呼ぶ」
沙羅は和子の名を呼ぶ集英社文庫