高級な皮肉というのは見た目はなかなか美しいもので、ついうっかりすると飲み込まれてしまったりする。美しい薔薇にはトゲが、みたいな話と同じだろう。
普段生活をしていて、誰かに皮肉を言うなんていうことは、なかなかない。文句を言ったり悪口を言ったりすることはあるかもしれないけど、皮肉はなかなかない。
どうしてだろうな、とちょっとだけ考えると、やっぱ皮肉というのは難しいんだろうな、と思うのだ。
文句は直接的に言えばいいし、悪口は何も考えずに言えばいい。しかし皮肉というのはどうにも、そういう無責任で無根拠な代物ではなく、もっときちんとしたもののような気がするのだ。
というわけで皮肉というのを辞書で調べてみるのだけど、こんな感じだった。
『遠まわしに意地悪く相手を非難すること。また、そのさま。当てこすり。』
辞書というのは大抵曖昧でぼやけた説明しかしてくれないのだけど、まあこんなもんだろうか。
つまり、相手の想像力に依存した悪口だ、と言えるかもしれない。
一対一での皮肉のやり取りであれば、相手のことをそれなりに知ることも出来るし、だからこそそういう部分を突いて皮肉をいうこともできる。というかなるほど、皮肉というのは普通、知っている相手にではなければ言えないものなのだろうな、と思う。相手の想像力に依存しているが故に、相手のことを知っていなくてはならなくて、まあ、可愛さあまって憎さ100倍、と言ったところかもしれない。違うかもしれない。
しかし、小説でそれをやろうとしたら、これはなかなか大変である。
つまり、読者一人一人の想像力に委ねられているのだけど、それを知る術がない、という状態で書かなければならないのである。
まあそこはもちろん、一般的な人間というものを想定して、どう想像するのかというものを考えるのだろうけれども、それにしても難しいだろう。
もちろん、小説を書くという行為そのものがそもそも、読者の想像力に委ねられている。しかし、ストーリーを伝えるのと皮肉を伝えるのでは、やはり難易度に相当差があるのではないかと思うのだ。ストーリーの場合は、間違った解釈をされたところで特別大きな影響はないけど、皮肉の場合は、正しい解釈をされて初めて有効になるので、難しいだろうと思う。
筒井康隆という作家はその、小説を通じて皮肉を読者へ運ぶという難しいことをやってのける。やってのけているはずだ。というのも、僕の想像力が足りないのか、その皮肉が届かない作品も結構あったからなのだが。まあそんなわけで、筒井康隆はすごいのではないか、という話である。
今回はどうにもあまり文章が書けなさそうなので、そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、表題作を含めて11編の短編を収録した短編集になっています。
というわけでそれぞれ、ざっと内容を紹介しようと思います。
「日本以外全部沈没」
小松左京の大ベストセラー「日本沈没」のパロディである。
タイトルの通り、日本以外のすべての大陸が沈没してしまう、という設定である。舞台は、日本のとある酒場。そこには、土地を追われた各国の超有名人達が、日本と日本人に媚を売りながら集っているのである。
フランク・シナトラ、インディラ・ガンジー、毛沢東、蒋介石、リチャード・ニクソン、ビートルズ、オードリイ・ヘプバーンなどなどそうそうたる面々である。
フランク・シナトラが日本語の曲を歌い、オードリイ・ヘプバーンが娼婦として生きる無茶苦茶な日本を舞台にしたドタバタ。
「あるいは酒でいっぱいの海」
ショートショート。酸素からヘリウムを取り出す画期的な薬を発明してしまった主人公のお話。
「ヒノマル酒場」
ある酒場でのお話。いつものように労務者たちが集う中、テレビではなんだか変なことをやっている。どうやら通天閣にUFOが来た、という設定のドラマを生撮りして流しているらしい。なかなかリアルなものだ。まあほんとは実際にUFOが来ているのだけど、酒場の労務者たちは気付かない。UFOから出てきた宇宙人が酒場にやってきても、まだドッキリカメラだと信じて疑ってない。マスコミ達は騒然とし、労務者たちは憮然とするなか、シュールに宇宙人が存在する。
「パチンコ必勝原理」
ショートショート。どっかのお偉い学者さんが、あらゆるデータを取ってパチンコを後略しようとする話。
「日本列島七曲り」
大阪へ戻るのに嫌いな飛行機に乗ったところ、革マル派みたいな連中がハイジャックを宣言する。そこから乗客はうかれモード。北朝鮮へ行けという指示に、機長も嬉しそうに応じる。機内は、飲めや騒げやの大混乱。そのうち機内でコレラが発生してさらに大混乱。
「新宿祭」
年に一度の新宿祭。全学連やそのOBたちがあちこちで暴れ周り、それを見ながら日頃の憂さ晴らしをする、という祭りである。その祭りにおいて、全学連の連中の手配とタイムスケジュールを組む会社にいる男のお話。
「農協月へ行く」
土地成金でもうアホみたいに金を持っている農協たちが、知人が世界一周をしたからと言って、これは負けてられないと、ならば月に行くしかない、と言って月に行く話。
「人類の大不調和」
万博会場で、なんだか恐ろしいことが起きている。ソンミ村館、と名付けられた建物からは銃声が聞こえ、中から銃殺死体が転がってきて、周囲にいた人間も巻き添えを食う。しかし、建物を壊しても中には何もない。そして翌朝にはまた現れる。さて、どうやったらどうにかなるものか。
「アフリカの爆弾」
小国が次々に独立を宣言する中で、軍事力を保持するために各国が核兵器を保有するような時代。あるアフリカの集落でれっきとした小国であるその国でも、核兵器を買うことになった。5ギガトンという、広島に落ちた原爆の25万倍の威力を持つ核兵器で、爆発したら地球が滅亡するというような代物である。
さてこれを集落まで持ち運ぼうというのだけど、しかしこれが大変で…。
「黄金の家」
突然やってきたペンキ屋が、突然うちの中を金ぴかに塗り替えていく。相手が言うには、俺がそれを頼んだ、んだそうだ。んなアホな。そんなことするわけなかろう。しかしこれも突然、庭に廃棄物を処理しようとした人間がやってきて…。
「ワイド仇討」
仇討ちを目的に旅をしているうちに仲間がどんどん膨れ上がっていき、いつしか大所帯になった。いつの間にか仇討ちのことも半分忘れて旅を楽しんでいたのだが…。
というような短編集です。
どうも今回は、僕的にはあまり面白くはなかったですね。
「日本以外全部沈没」は、そのあまりのくだらなさに笑いましたが、他の作品はどうもなぁ、という感じでした。あまり面白いと感じられませんでした。
一番気になったのは、解説で書いていた「農協ツアー」という奴ですね。なんですか、「農協ツアー」って?なんか、当時全世界を席捲した、みたいに書いてあるんだけど、日本だけの話ではないってことですよね?誰か知っている人がいたら教えてください。
まあそんなわけで、そんな感じです。
筒井康隆「日本以外全部沈没」

日本以外全部沈没文庫