一応断っておくのだけど、旅が嫌いだという意味ではないのだ。僕が常に出す例だが、旅は麻雀のようなもので(僕は麻雀はほとんど出来ないんだけど)、面白いけど意味のあることではない、という意味である。
何故そんなことをまず問うかと言えば、それは世の中の多くの人間が、旅をすることになんらかの意味があると感じているように思うからである。
旅をすることで、人生観が変わるだの世界が拓けただの人間として成長しただの、そういうことを言う人間がいると思うのだけど、それは絶対に間違いなく錯覚だ、と僕は言いたいのである。もちろん、錯覚であっても、本人の中で真実ならばそれは真実なのだけど、幻覚を見ている人間を多少奇妙に感じるように、僕にはそういうことを言う人間は多少奇妙に感じられてしまうのです。
さて、もう少し詳しく説明をしましょうか。
旅によって手に入れることが出来るものには、大きくわけて二つのものがあると思います。それは、今まで見たことのないものを見、したことのなかったことをする、ということと、あらゆる人間と出会う、ということの二つである。それぞれについて、旅というものの意味のなさを書いていこうと思います。
まず、前者の方、見たこともないものを見、したことのないことをする、という方ですけど、それがどうした、と僕は思ってしまいます。見る方は、僕は写真や映像で充分だろうと思うんです。今や、世界には未踏の地などほとんどないわけで、望めば、どんな場所の写真や映像も手に入るでしょう。実際のものを見るかどうかは、結局のところ想像力の問題であって、見たから何か変わる、なんていうことはまずないはずだと僕は思います。
する方については、映像や写真ではどうにもならないわけで、一見よさそうな感じはありますけど、でもそれは欺瞞だと思うんですね。というのも、例えば旅行先が外国にしても国内にしても、その場所特有の文化を知るためにしたことのない経験をするのだと思うのだけど、でも考えてみれば僕らは、日本のあるいは自分の生まれ故郷や住んでいるところの文化だってろくに知りもしないだろうと思うんです。そんな状態で他の文化を体験したところで、比較対象が存在しない状態で、一体何が成長するというのか、と僕は思ってしまうんですね。
さて次は後者、あらゆる人間と出会う、ということですね。しかし僕は思うに、これはそもそも旅行でなくてもいいじゃないか、と思うんですね。だって、人間なんて腐るほどいるわけです。確かに、国によって、痴呆によって、人柄や人間性なんていうのも多少違うものなのかもしれない。にしたって、近くにも面白い人間や変わった人間はいるだろうし、遠くに言ったからといって素晴らしい人間に出会えるなんてことはないわけですね。わざわざ旅行という体裁をとらなくたって、いろんな人と出会うことはまあできるだろう、とか思ってしまうんですね。まあ、近くにいる人間はほとんど制覇し尽くしたから、旅にでも出るしかない、みたいな感じならいいけど。
もう一回言うけど、別に僕は旅が嫌いなわけではないんですよ。見たことないものを見るのも、したことないことをするのも、あらゆる人間に出会うのも、それは面白いことだと思います。しかし、そうしたことを含めた旅というものに対して、過剰な期待があるような気がして、それが嫌だ、と言っているんですね。旅行は麻雀と同じようなものだと思えば、正しい理解に繋がると僕は思っています。
世の中が情報によってどんどん狭まってしまった現代となっては、旅は娯楽以上の何ものにもなりえません。そうではなく、旅というものが、未開の地の発見や開拓、あるいは見果てぬロマンを求めて、というような目的で行われていたような時代であれば、もう少し違った意味で旅というものを捉えられるのかもしれませんけど。
そろそろ内容に入ろうと思います。
ラゴスは、北の国から一人で旅に出た。目的は、南の国にあるという宇宙船だ。二千二百年前に宇宙からやってきた先祖が生活を始めたという地を目指しての旅だった。
旅の途中に、いくつもの困難が待ち受けていたり、あらゆる能力を持った人間に出会ったりしながら、おれはどんどんと南を目指して旅を続けた。
とまあこれ以上はうまく説明しようのない物語です。
表紙裏の内容紹介に、『物語を破壊しつづけた筒井康隆が挑んだ堅固な物語世界』とあるように、すごく普通のストーリーですね。ある一人の男がひたすら旅を続ける、みたいな話で、まあ細かなたくさんのエピソードに分かれていて、いろんな人に出会い、いろんな経験をするのだけど、うーん、一つ一つが別段そんなに面白いというわけでもなく、どうなんだろうな、と思いました。筒井康隆には、何かトリッキーなことを期待している故か、普通すぎる物語がどうにも生彩を欠いているように思えるのかもしれません。
まあ、これという欠点も別にないだろうし、大きな不満はないのだけど、でも読んでいて別に面白いというわけでもなく、むしろ退屈でしたね。割と評価の高い作品ではないかと思うのだけど、あんまりオススメは出来ない作品です。
筒井康隆「旅のラゴス」
旅のラゴス文庫