短編ではあるが、舞台は一つだ。F県警捜査一課強行犯係に属する刑事達の物語。一斑班長:朽木、二班班長:楠見、三班班長村瀬という、類稀で超人的な捜査のプロを中心に、一課長田畑や各班の主任や刑事達を交え、県内県外で起こる事件を解決する。
それぞれの班長の特徴を軽く書いておこう。朽木は冷徹で一切笑わない男。「F県警の青鬼」と県内外を問わず恐れられている。検挙率10割を誇る無敗の指揮官。
楠見は公安上がりの捜一刑事。公安時代の些細なミスから管理畑を回されたが、何故か一気に強行犯係の班長になった男。計略家、策略家であり、謀略を巡らせて事件を解決する男。私的なことだけでなく、捜査に関することも秘密主義で、部下からの信頼はない。朽木と同じく検挙率10割。
村瀬は「捜査の天才」と称される。他班も一目置くその「動物的カン」は、捜査の始めに村瀬の「第一声」として現れ、三班の捜査方針を大きく形作る。朽木・楠見と違ってまだ感情が読み取れる方らしい。村瀬も、担当した事件一件を除いて全て解決している。
それぞれまったく違う捜査方法を持ち、一課長の指示など聞かない。各班ともに仲が悪く、他班を出し抜こう、勝とう、そんなことばかり考えている殺伐としたF県警捜査一課。そこを舞台にした短編だ。
どれもこれも見事だ。探偵小説のように、トリックだとかが主ではない。そういったことも出てこなくはないが、むしろ「捜査」という、彼らの日常であり全てであるその行為自体を丁寧に描こうとしている。
これだけ警察が頼りがいがあればいいな、と思わせる。まあ内部でのいざこざはもっとなくなればいいが、士気を相殺するようなものでもないらしいから、あったほうがいいのかもしれない。
短編集と言うのは、読む分にはいいけど、紹介するには、全てを取りあげるのがめんどくさい、という難点がある。俺が気に入った作品は、表題作である「第三の時効」、それと「囚人のジレンマ」と「ペルソナの微笑」だ。
「第三の時効」は、楠見率いる(まあ率いてはいないけど)二班の物語。15年前、親友に強姦され、さらに夫を殺された本間ゆき絵。指名手配されたその親友の時効がまさに成立しようとしている。時効は、海外にいる間はカウントされないという条文がある。事件発生からちょうど15年目を「第一の時効」、海外逃亡の期間を考慮した本当の時効成立の日を「第二の時効」とし、犯人がこの知識を持っていないことに賭け、本間邸で張り込みをしている。指揮官である楠見は現場に顔を見せない。意味深な楠見のセリフ。一体「第三の時効」とは何なのだろうか・・・
「囚人のジレンマ」は、短期間に三つの殺人が起きた話。主婦殺しを一斑、証券マン殺しを三班、調理師殺しを二班が担当している。既に犯人は上がっているが自供しない主婦殺し、ホシは上がっていないが保険金殺人の可能性がある調理師殺し、何もわからず長引きそうな証券マン殺し。各班それぞれがそれぞれの思惑を抱えながら捜査を進めていく。一方、その全ての事件を見てまわる一課長の田畑の元に、記者から様々な情報が入る。囚人のジレンマ―共犯者がいる事件の場合、相手がゲロしたと聞かされた時の被疑者の抱えるジレンマ―を、部下である強行犯係の刑事達に抱いてしまう田畑は・・・
「ペルソナの微笑み」は、13年前に起きたアオ―青酸カリ―を使った残忍な事件に端を発する。子供に、足の臭いをとる魔法の薬と称して与えた青酸カリを父親の酒の中に入れてしまい、父親を殺してしまった少年。青酸カリを渡したおじさんの似顔絵などの証言もしたが、結局未解決のまま今に至る。そして、13年後また青酸カリを使った殺人が発生した。被害者はホームレス。そして、犯行一週間前に目撃されたおとこの似顔絵は、13年前のそれとそっくりだった。同一犯による殺人なのか?朽木の指示により13年前父親を殺してしまった少年に似顔絵を見せに行くのだが・・・
是非、一読あれ。
横山秀夫「第三の時効」
第三の時効