外国など一度も行ったことのない人間が、どれくらいの時間乗るのかしらないが、果てしなく長い時間だろう飛行機の時間をなんとか耐え、8日間という長きにわたり外国を旅行するというのは、まあ不安がいっぱいというものである。
そもそもまず、どう考えても言葉が通じるわけがない。現地語なんかもちろん喋れるわけがないし、英語にしたところで会話が出来るほど素晴らしく出来るわけもなく、また学生時代ならともかくも、すでに英語から久しく離れてしまった身としては、いささかどころか心許ないものがある。
さらに、文化がまるで違うだろう。チップ一つにしたところで、あげるべきなのか、あげるならどのくらいあげるべきなのかさっぱりだし、料金をふっかけられたり騙されたりしそうになっても、それに気付かないかもしれない。まあ、たぶんツアーか何かで行くのだろうから、そこまで心配するようなことでもないかもしれないが、しかし水が合わないとか、まあ問題は尽きないのである。
さてまあそんなわけで、外国に行くというのはなかなか大変なことなのだけど、まあある意味で面白くもあるだろう。
人々は、写真なんかで知ってはいるけど、実際見たことのない風景や遺跡なんかを見たい、ということで外国とかに行くのかもしれないけど、僕としてはまあ別にそんなのは特にいい。もちろん、見たら見たで「おぉ」という感じになるのだろうけど、特別それを望んでいるわけでもない。
僕としてはむしろ、幻想がどんどんと崩れていくところが面白いだろうな、と思っている。
例えば、僕がエジプトに行くというと、大抵に人が口にすることだけど、スフィンクスの近くにはケンタッキーがあるらしい。これは、幻滅だろう。ガイドブックや歴史の教科書なんかには、まず間違いなく載っていないが、そこには確実に、あの白髭のおっさんとともに、ケンタッキーの店があるのである。こういう、写真を見ただけでは気付かない、写真では綺麗に装っているものの、その裏側を見るというか、幻想を剥ぐというか、そういう方が行って楽しいと思う。
ピラミッドも、なんだ行ってみたら大してでかくないな、とか、
ナイル川も、見てみたらなんだ、ただの河じゃん、とか、
なんかそういう方が楽しいと思えてしまう、天邪鬼である。
だから僕としては、観光客用の綺麗な面だけを見たいなんて思わないし、どんどん幻想は消え去ってくれればいいと思っているのだけど、でもまあやっぱり、綺麗な面しか見せないだろうな、とも思う。
考えてみれば、
ピラミッドはすごいよ、とは写真を見ただけで言えるけど、
ピラミッドは大したことない、とは現地に行かないと言えないわけで、
だったら後者の方が価値があるだろう、という発想である。つくづく変な考え方をする人間だけど、それが僕という人間である。
だから旅行中は、どんどん幻滅するような場面を見られればいいと思うし、いい面だけ見ていきたいなどとも思わない。さすがに、犯罪的な何かに巻き込まれるのは勘弁して欲しいけど、トラブルや幻滅が多いほうが、まあ何かと楽しいだろう。
例えば芸能人にしても、テレビで見るとすごそうだけど、実際会って見ると普通の人だね、という方がいい。どんどん幻滅させてほしい。その方が、会うだけの価値があるというものである。
まあそんなわけで、エジプトでは、いろんな面を見て、いろんな幻滅をしようと思うのである。正しい旅行のあり方ではないかもしれないけど、旅行というものにそもそも大層な理屈をつけたくない僕としては、そのくらいの構えの方が何かといいだろう、と勝手に思っています。
インドや中谷美紀とはまるで関係ない話をしましたが、そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、中谷美紀の「インド旅行記全4部作」の第二弾であり、今回は南インド編となっています。
前回の北インド旅行から1ヶ月と経たないうちにまたインドへと単身乗り込んでいくわけで、そりゃあマネージャーも文句を言うだろうけど、中谷美紀というのはそんなのにめげる人間ではない。前回よりもさらに少ない荷物でインドへと向かい、今回も約1ヶ月という、長期一人旅を敢行したのである。
相変わらず中谷美紀というのは行動的で筋が通っていて、そのきちんとしている様は読んでいて気持ちがいいです。ダメなものはダメとして譲らないし、それでいて望んだことは多少ワガママでも通す。狡猾なインド人たちにも負けることなく、また同じく狡猾な物乞いにも揺らぐことなく、自分が正しいと思ったやり方できちんとしていられるという辺り、やはり惹かれますね。
とにかく全編、女性らしさというものがあまりなく、女性らしくない女性が大好きな僕としては、やっぱ中谷美紀は素晴らしい、と再確認したところです。アーユルヴェーダと呼ばれるエステみたいなものを体験したり、相変わらずヨガをやったり、という辺りが女性らしいと言えば言えるけど、そもそもインドを一人で旅行できる辺り女性らしくないわけで、素晴らしいものだと思います。
インドの文化や歴史についても様々に記述があるのだけど、これを中谷美紀はどうやって書いているのだろう、といつも思います。現地でそこそこ名前なんかを覚えておいて、帰ってきてからきちんと調べるのか、あるいは聞いたことをその場でメモしているのか。そもそも、文章で一度読んでも覚えられないような名前が頻出するインドの伝承なんかをスラスラと書いているわけで、ちゃんと聞き取り、かつ記憶しているのだろうか?と思ってしまいます。すごいものです。自分が同じ事をしようと思ったら、まず出来ないだろうと思います。
カースト制についても面白い話が載っていました。インドでは未だにカースト制というものが残っているのだけど、それは単純に、階級が上だからいい、とも言えないようなのです。
例えば、医療費なんかは階級が高くなればなるほど高いし、また試験の合格基準なんかも、階級が高いほど高いわけです。なら、階級が下ならいいのかというとそうでもなく、階級が下だと不可触民と呼ばれ、それはそれで軽蔑をされるのだそうです。難しいものです。カースト制なんかなくしてしまえばいいと思うんですけど、それは学校の中でいじめをなくそう、みたいに言っているわけで、難しいんでしょうね。でも日本はかつて、武士だの町人だのエタヒニン(漢字が分からない)だのというのをなくした運動(なんて名前だか覚えてないけど)があったわけで、やってやれないことはないのだろうな、とも思いますけど。
インドを一ヶ月も旅行するなんて羨ましいと思うかもしれないけど、でも実際やろうと思ったら、これ結構大変だと思いますよ。言葉だとか料理だとかそういう問題ではなく、僕は三日で飽きるだろうな、と思います。誰か一緒にいれば別だけど、一人でずっと旅行し続けることが出来るというのも、ある種の才能だろうな、と思います。そういえば、昔バイトしてたファミレスにいた女性で、バイトして貯めまくったお金で半年くらいアジアにバックパックするみたいな人がいたけど、それもすごいなぁ、と思ったりしたものでした。僕には、きっと出来ないでしょうね。
まあそんな、女優中谷美紀の、相変わらずの珍道中を記した旅行記です。一巻目を読んだ人はもう惰性で買ってしまうだろうし(笑)、一巻目を読んでない人でも、まあどの巻から読んでも別に問題ないので好きなとこから読んでくれればいいわけで、中谷美紀が好きでなくても、インドに特に興味がなくても、それなりに楽しめる内容だと思います。ガイドブック的な役には立たないだろうけど、旅行の雰囲気というのは大きく味わえると思います。読んでみてください。
中谷美紀「インド旅行記2 南インド編」

インド旅行記2南インド編文庫