まあ、引きこもりという言葉にはどうも別に意味が付随するような気がするから、まあ言い直すなら出不精と言ったところだろうか。
とにかく、家にいるのが好きである。
類は共を呼ぶという言葉通り、僕の周りにもそういう人間は多い。別に外が嫌いなわけではないけど、でも積極的に出たいとは思わない。家で出来ることをのんびりやっているのが楽しい、そういう人種である。
僕も、とにかく外に出るのがめんどくさくて仕方のない人間である。例えば今日は休日だけれども、夕食を買いにコンビニに行く以外、外には出ていない。ずっと家にいて、本を読んでいるだけである。
僕だってまあ、人に誘われればもちろん外には出る。飲みに誘われれば行くし、遊びの予定があれば行く。ただ、一人ではどうにも外に出る気がしないのだ。ここ最近で、一人で外出した記憶を手繰ってみても、数ヶ月前にどこかのブックオフに一人で行った、くらいではないだろうか。それくらい、外に出るのがめんどくさいのである。
必然部屋にずっといることになるのだが、いやはや快適である。そもそもまず、服を着替えなくていいのだ。起きて、そのままの格好でダラダラと本を読み、ひたすらに本を読み、外の様子などまるで気に掛けもせずに本を読み、時々飯を食べたりネットを見たりしながら、また時々こうしてブログに感想を書きながら、ひたすらに本を読んでいるだけの生活である。
いやはや、快適である。
人と接するのが苦手な人間としては、やはり家に引きこもりがちになってしまう。外に出ても、そこにはめんどくさいことだらけである。大げさではあるが、何をするにも人を介さなくてはいけないし、何をするにも人の目を気にしなくてはいけない。そういうことに気疲れしてしまうのである。
バイト先の女の子で、外に出るのが好きだという子がいる。いやまあ、そういう方が健全で普通であるのかもしれないけど、しかし僕はなかなか共感出来ない。その子は、一人で自転車に乗って鎌倉まで行こうとしたり(途中で断念したらしいけど)、一人でふらっと映画を観に出かけたりするらしい。そういえば前バイト先にいた女の子も、毎日一人でいろんな喫茶店に行き、そこでお茶をするのが楽しい、とかなんとか行っていた。そういうものだろうか。
最近の子どもは外で遊ばなくなったらしい。まあそれはそうだろう。何せゲームが進化しすぎて楽しいのだろうし(僕はゲームとはほぼ無縁の人間なのでよくわからないが)、公園などでボールの使用が禁じられたりしているわけで、そもそも外で遊ぶような環境もないのだ。
とはいうものの、僕は別に「子どもよ、外で遊ぶべし」などと言いたいわけではない。世の中には、「子どもが外で遊ばなくなった、嘆かわしい」というような意見もあるらしいが、しかし別に関係ないだろう。昔は恐らく、家にいては娯楽がなかったのだろう。だからこそ外に出ていたのである。今では、家から一歩も出なくたって、娯楽は山ほどある。熱中できる何かがあるのならば、それがインドアだろうがアウトドアだろうが、別にどうでもいいだろう、と僕は思う。
家というものが持つ機能がどんどんと変わってきているのだろう。それがいいことなのか悪いことなのかは僕にはなんともわからないが、僕は思う。ずっと引きこもっていられるだけの家というのが、本当に快適な家なのではないか、と。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は6編の短編を収録した短編集になっています。それぞれの内容を紹介しようと思います。
「サニーデイ」
ふとしたことがきっかけでネットオークションを始めてみることにした。別に大きく稼げるわけではないけど、でももの凄く充足感があることに気がついた。専業主婦をしていると、なかなか人に褒めてもらえなくなる。だからこそ、落札者からのいい評価が、ただそれだけのことなのにすごく嬉しいのだ。ネットオークションを始めてからというもの、皺も減ったし化粧の乗りもよくなった。性格的にも前向きになっている気がする。ネットオークションって素晴らしいわ!
しかし次第に売るものもなくなっていって…。まあいいか、夫に内緒で売っちゃおうかしら…。
「ここが青山」
遅れて朝礼に参加すると、14年間勤めた会社が倒産することを知らされた。
それから夫婦の役割は一変した。
妻が働きに出るようになり、自分が家事をするようになった。初めは料理も洗濯もアイロン掛けもおぼつかなかったが、しかしやりがいを感じ始めていることにも気付いた。息子の弁当作りなど、毎日戦いだ。昇太にどうやってブロッコリーを食べさせようか…。気付くといつも、明日の弁当の献立を考えていたりする。
しかし、世間はそんな夫婦を不憫だと感じるようだ。まあそんなものかもな。夫婦はお互い満足しているのに、周囲の目には哀れみが籠っている。まあいいか…。
「家においでよ」
何が理由だったかよくわからないが、妻と別居することになった。インテリアにうるさい妻がいなくなって、部屋はがらんどうになってしまった。
まあ仕方ない。足りない家具を買い足そうか…。そんな軽い気持ちでいたのだが、これがどうして面白い。ソファを買うつもりだったのにテーブルを買ってみたり、本格的なオーディオ一式を揃えてみたりと、妻と一緒だった頃には出来なかったことを次々と実現させていった。しまいには会社の同僚も日参するようになって、かなり充足した毎日を送るようになった…。
「グレープフルーツ・モンスター」
家事の合間にDM用の宛名をパソコンで入力する内職をしている。1枚7円である。まあ大した稼ぎになるわけではないが、子育てもあるので仕方ない。
その内職を斡旋する会社の人間が週一で来るのだが、これまでのおっさんから若い担当に変わったようだ。随分と図々しい男だが、しかしその担当者が来た日の夜に限って夢を見るようになった。
それは、グレープフルーツのモンスターで、それがあの担当者であることが分かった。組みしだかれて襲われて、結局エクスタシーを感じてしまっている自分に気付く。
夫に内緒の密やかな楽しみ。それからは、その担当者が来る日を待ちわびるようになって…。
「夫とカーテン」
カーテン屋を始めるぞ、と夫が言い出した。まただ、と妻の私は思う。これまでも勝手に仕事を辞めては、思いつきの仕事を始めて失敗を重ねてきた夫だ。もう驚きはしないが、しかし勘弁して欲しいとは思う。今回もまた、私に内緒で勝手に仕事を辞めてきてしまったらしい。まあ仕方ない。
私は、イラストレーターの仕事をしている。夫がカーテン屋を始めてからしばらくして、なんだか分からないうちに傑作を描けた。編集者にも褒められた。周期的に描く絵に変化があるんですよね、といわれて振り返ってみると、どうも絵に変化があるのは夫が新しい事業を始めた頃に重なっているのだ。
いや、まさかね…。
「妻と玄米御飯」
妻は、今流行のロハスという生活スタイルにはまっている。地球環境に優しく、みたいなやつだ。作家である私は、まあ静観と言ったところである。
しかし、名のある文学賞を獲ってからは、どうもその妻の交友範囲の人々と接する機会が増えてきた。もちろん、ロハス的な仲間達である。どうにも合わないと感じるが、しかし口に出すことはない。
ある時、どうしても短編のアイデアが浮かばなくて、しかも締め切りが差し迫っていた。理由は簡単。そのロハス的な人々をこけ下ろす短編を書きたいのだが、書いたらまずいという頭もあって迷っているのだ。
どうするか。書いてしまおうか…。
というような感じです。
これまで、<家族>小説というのは腐るほど世の中に出てきたけれども、しかし<在宅>小説というのは斬新で今までなかっただろうな、と思います。
本作もまあ家をテーマにしているだけあって、割と<家族>小説的ではあるのだけど、しかしやはり<在宅>小説だなという感じがします。家族というよりもむしろ、家にいること、というのがテーマになっている作品が多いと思いました。
一番いいなと思ったのは、「ここが青山」です。僕も、別に家事が好きなわけではないけど(というか寧ろ全力で嫌いだけど)、でも主夫でもいいなぁ、と漠然と思っていたりする人間なので、すごく面白いな、と思いました。リストラされて妻が働きに出るという状況を、周囲の人間が哀れんでいるのだけど、当の本人達は至って楽しくやっているというところが面白いです。世の中の視線というのはやはり大事だけど、でも生きたいように生きるのが大切だろうなと思いました。
また「妻と玄米御飯」もかなりいいですね。僕も本作で描かれているように、ロハスみたいな主張に偽善的なものを感じてしまう人間なので、その描き方みたいなものにすごく面白みを感じました。こういうのもまさに宗教だろうな、と感じて恐い気がします。ロハスという生き方自体はいいのだろうし僕もそれ自体は否定する気はないのだけど、でもやはり強制してはいけないし、また大それた考えを持ってもいけないだろうな、と思うわけです。自分のためにロハスという生き方を選択するのは一向に構わないけど、地球のために自分はロハスという生き方選択したのだ、そしてそれは崇高な考えであるからして周囲の人間も是非ともに共感するべきだ、みたいなのはやはりいかんですね。
他にも、「サニーデイ」は最後の終わり方がいいと思うし、「家においでよ」は僕はオーディオには興味がないけど、でもああいう家での過ごし方は一つの男の理想だろうなと思ったし、「夫とカーテン」も夫婦の生き方みたいなものが伝わってきてよかったな、と思いました。
「グレープフルーツ・モンスター」だけは、ちょっとなぁと思いましたが、しかし巻末に載っている雑誌掲載順を見ると、この「グレープ〜」が一番初めみたいなので、これなくして「家日和」という作品がなかっただろうと思うと、まあいいかなという気にもなります。
というわけで、スラスラ読めてしまうし、相変わらず奥田英朗は面白いなと思いました。特に夫婦だの家族だのと言ったものを、重松清とは違ったユーモラスな描き方で作品に仕上げて見せる辺り、未だに健在だなという気がしました。非常に面白い作品だと思います。是非読んでみてください。
奥田英朗「家日和」

家日和ハード