2005年02月07日

FINE DAYS(本多孝好)<再読>

淡々としている。読んでいて感じる印象だ。そしてそれは冷淡さを生み出すものではなく、仄かな温かさを生み出すことに成功している。激情・感動・興奮・悲哀・後悔・憐憫・歓喜。そうした「強い感情」はことごとく排除され、何か別の形に姿を変えて現れてくる。
広い闇の空間の中、ぽつりと置いてある蝋燭。消える寸前のような仄かな明かりしか生み出すことができないその蝋燭が照らし出したもの。それらを慎重に集めて形にしたような小説だ。
短編集である。本多孝好はミステリの短編作家としてデビューしたが、この作品はミステリではない。帯に「ラヴ・ストーリー」とあるように、恋愛小説なのだろう。四編全ての物語が、薄いベールで包んだような、掬い取ろうとしてもするりと逃げ出すかのような、ある意味で曖昧で輪郭がないように思える。それはまさに、原色のイラストを半透明な白いカバーで覆った本書の装丁が与える印象と同じものだ。
本書のもう一つの特長はその会話にある。足りない、と思わせるぐらい最小限の言葉で会話が行われる。必要な言葉すら発していないその会話が、淡々とした文章とあいまって、独特の雰囲気を醸し出している。僕には、出てくる人々、つまり言葉少なに会話をする彼らが、とても好ましく思える。
四編しかないので、全てを紹介しようと思う。

「FINE DAYS」
転校生というのは常に噂とともにやってくる。同じく、ある不名誉な噂とともに現れた転校生。その転校生をモデルにして絵を書く少年。校内の女子派閥を仕切る一人の少女。そして僕。ある一人の教師の死が、彼らに何かを残して、彼らから何かを奪って過ぎ去っていく物語。

「イエスタデイズ」
自らの死の間際、家を飛び出したきりの不肖の息子に頼みごとをする父親。息子はそれを受け入れ、人探しをする最中、一組のカップルに出会う。出会ってしまった三人は、歪められた空間を一時支配し、伝えられる何か、受け取れる何かを探しながら手を探りあう物語。

「眠りのための暖かな場所」
院生である私が、無理矢理行かされた飲み会で初めて言葉を交わした少年。怯えを浮かべたその表情に、同じ想いを共有した気分になる。宣戦布告をした少女が事故にあったところから、少年の抱える闇が私の世界へ染み出していく物語。

「シェード」
彼女へのクリスマスプレゼントにしようと、通り過ぎる度にガラス越しに眺めていたランプシェード。いざ買おうとした時には売れてしまったそのランプシェードは、ある一人の男が、ある一人の女を闇から守るために作られたものだそうだ。骨董店の老婆の口から語られるそのランプシェードにまつわる話しを聞きながら、その物語に自らをはめ込んでいく男の物語。

僕がいいと思ったのは、「眠りのための〜」と「シェード」です。「眠りのための〜」で私に与えられる運命の残酷さと、「シェード」で垣間見える老婆の優しさが巣晴らしいものでした。
読んでみてください。

本多孝好「FINE DAYS」


FINE DAYS

Fine days―恋愛小説
 

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「FINE DAYS」   本多 孝好:著 ??? 祥伝社文庫/2006.7.30/600円 読んだことのない作家さんだったけど、 けっこう好みの作品だった。..
「FINE DAYS」【月灯りの舞】 at 2007年11月19日 12:19
4話の短編集。その中の「イエスタデイズ」が映画になるそうで、文庫が増刷されたようです。 昨年、「side A」「side B」を読んで一気に好きになって、大人買い(またかよ)した作家さん。久しぶりに..
FINE DAYS (祥伝社文庫)【◆小耳書房◆】 at 2008年10月20日 16:51
この記事へのコメント
初めまして
この作品私も気に入っています。
特に「眠りのための暖かな場所」は
この話の続編が読んで見たい気がします。
Posted by littleDoDo at 2005年02月07日 17:25
どうもコメントありがとうございます。

久々に読んでみて、内容は全然覚えてなかったので、再読でも初読と同じ感動を味わいました。「眠りの〜」の続きは、本当に読んでみたいものです。まあ、続きがないのも花、なのかもしれませんが。
Posted by 通りすがり(管理人) at 2005年02月08日 01:48
色々な方のブログで書評を読ませていただいていますが、本多さんの本を読んでいる方が少なく、寂しい思いをしていました。
本多作品の書評を読めて嬉しいです。寡作な作家なので、私も何度も何度も読み返しています。強烈なインパクトはありませんが、この淡い感じが何とも言えず好きです。特に「シェード」がお気に入りです。
「MOMENT」のように、早く文庫本が出て欲しいですね。
Posted by dradonworld at 2006年05月21日 10:00
本多孝好のあの淡い感じは、他の作家で探そうとするとなかなかいないですよね。独特な雰囲気を作り出す作家だと思います。ホント、寡作なのが憎らしいとこですよね…。

僕もこれ、「シェード」がすごくいいなって思いました。あれは、読んだ誰に聞いてもいい話だっていいますね。ああいう優しい話をもっとたくさん書いて欲しいものです。文庫は…いつになりますやら。
Posted by 通りすがり at 2006年05月21日 14:35
こんばんは。またまたお邪魔します。

今日は通りすがりさんにお願いがあってやって来ました。
やっと本多さんのこの本が文庫本になりました。祥伝社という出版社がどのくらいの規模の会社か分かりませんが、昨日近くの書店に寄りましたら、新潮社や集英社(ナツイチ)フェアが大きな面積を占領していました。本多さんの『FINE DAYS』は平積みにはなっていましたが、ちょっと目立たない場所でした。

そこで、お願いです。通りすがりさんが勤務されている書店では、是非目立つ場所にこの本を並べていただきたいのですが…。
私としては、もっともっと本多ファンが増えて欲しいです。そして肝心の本多さんご本人にも、もっと作品を描いてください!と訴えたい気持ちです。

読み返しましたら、随分我が儘なことを書いてしまいましたが、このまま投稿させてください。ごめんなさい!
Posted by dradonworld at 2006年07月26日 22:04
こんばんわです。

わたくし、基本的に趣味で書店員をやってるようなものなので(いいのかそれで?というツッコミはなしで 笑)、もう自分の置きたい本、売りたい本をとにかく押しまくってます。

というわけで、もちろんのことながら、「FINE DAYS」も目立ってますよ〜。なんと言っても、売り場の三箇所に分けて置いていて、一箇所はレジ前ですからね。そのお陰か、よく売れる売れる。いろいろ手を尽くして大量に入荷したのですが、減り方が早いので補充をなんとか頑張ります!

表紙は、ハードカバーのままでよかったです。あの表紙、僕としてはけっこういいなと思ってたんで。いい感じですね。あと、何故か女優(アイドル?)の堀北真希のコメントの載ったPOPもついてきたので、つけて売ってます。売上が順調なのはそのお陰もあるかもしれません。

「MOMENT」もうちではかなり売ったので、「FINE DAYS」も期待できると思いますよ。いやホント、期待しててくださいね〜。
Posted by 通りすがり at 2006年07月27日 02:16
ありがとうございました! とっても嬉しいです!

『MOMENT』は、発売当時文庫本のランキングに入りましたね。
『FINE DAYS』も是非そうなって欲しいな、と思います。
表紙は、ハードカバーと同じですが、文庫では裏表紙の絵が表紙の次に来ています。
私はこの「淡い」雰囲気が好きです。

どんどん、売りまくってくださいね。期待しています。

Posted by dradonworld at 2006年07月27日 10:17
裏表紙のことまでは知らなかったですね。ちょっと確認してみます。
あの淡い感じは、なかなか他の文庫ではなくていいですね。

売りたい作品が多すぎて困るところではありますが、「FINE DAYS」も年間売り上げのランクのかなり上位にまでもっていきたいところです。まあ頑張りますよ。期待しててくださいな!
Posted by 通りすがり at 2006年07月27日 13:23
はじめまして、こんにちは。
私も読みました。
一番好きなのは「眠りの〜」です。どうせ映画化するなら、こちらをしてほしかったなぁ。

本多さんは、作品を読むごとにどんどん好きになります。
ステキな作家さんですね。
文庫にならないと手が出せないんだけど…、これからもおっかけたいと思っております。
Posted by 片雲さくら at 2008年10月20日 14:30
はじめましてです。

僕は読んだ本の内容をすぐ忘れてしまうので、正直に言うと「眠りの〜」がどんな話だったか忘れてしまいました(泣)。「シェード」の方は漠然と覚えてるんですけどね。ダメダメですね(泣)。

しかし本多孝好はいい作家ですよね。何が一番問題って、書くのが遅すぎるってことです!もうデビューしてから結構経つはずなのに、たぶんまだ5作ぐらいしか本出してないですよね。寡作すぎます!もっとバリバリ書いて欲しいものです。

映画化で本多孝好を知ってくれる人が増えるといいですね。
Posted by 通りすがり at 2008年10月21日 10:24
こんばんは。

今日新宿で「イエスタデイズ」の映画を観てきました。上映する映画館が都内で2カ所というのが残念ですが、比較的若いカップルが多く本多ファンの年齢層を知ることができました(笑)。
原作に忠実に作られた映画で、なかなか良かったですよ。父子の確執が氷解するというヒューマンドラマに仕上がっていましたが、観る方としてはこの方が好いのでしょうね。
この映画館の4階では「その日のまえに」も上映していました。(新宿の伊勢丹の向かいです。)こちらの映画は来週ということにしたいです。6階(「イエスタデイズ」上映)で泣いて、4階でまた泣くのはちょっとキツイですので…(笑)。
そうそう重松さんといえば、今月26日には『青い鳥』の映画が封切りです。映画ラッシュですね(笑)。

帰りにジュン○堂に寄りましたが、本多さんの新刊『チェーン・ポイズン』は置いてありませんでした(私が見つけられなかっただけかも知れませんが)。この書店は個人詩集のコーナーがあるので楽しみですが、谷川俊太郎さんの本が大きなスペースを占領していました。別にそのことがどうこうという訳ではありませんが、扱いがちょっと…と思いました。詩歌はもともとマイナーなものですので、たくさんの詩人、歌人に まんべんなく もっと光を!と思います。
小説のコーナーも村上春樹だけで2つの棚(什器?)を独占しているのは凄すぎると思いました(笑)。探しやすいと言う利点はありますが…。保坂和志さんの新刊が出たらしく、保坂作品コーナーもできていました。
また私には縁がありませんが、洋書50%offコーナーもありました。かなり購入している人がいて驚きました。自分の語学力に見合った本が並んでいるのもおもしろかったです。例えば「日本昔話」(TOEIC300点〜)、「星の王子様」(同350点〜)「風の歌を聴け」(同450点〜)というようにです。300点ってなに?という感じですが、中学生にも読めるように工夫されているのでしょうね。

以上で本屋ウォッチングのレポートは終わりです。本屋さんはある意味ワンダーランドですが、商品の回転を考えると仕入れが難しそうですね。是非是非売りまくってくださいね。

Posted by ドラ at 2008年11月03日 01:18
こんばんわです。

本多さんの「FINE DAYS」よかったですかぁ。
僕の持論では、小説を原作にして映画にするなら短編がいいと思っているので(やっぱ長編を削って映画にするのはよくないですよね)、割と期待できるんじゃないかなと勝手に思っていました。
これで益々本が売れてくれるといいんですけどね。
「その日のまえに」の感想もまた教えてくださいね。
そういえば重松清の作品って、これまであんまり映画化とかされてなかったような気がします。
「流星ワゴン」が映画化されるって話、あれは一体どうなったんだろうなぁ。
確か重松清の新刊、また何か出てましたよね。

ジュンク堂は、とにかく一点でも多くの本を置くことを目標としてるんで、紀伊国屋とか丸善なんかとは全然違いますよね。
ベストセラーももちろんおくけど、それよりもいかに多種類の品揃えを出来るかっていうところに力を注いでいます。
個人詩集のコーナーもその一つでしょうね。
書店員的な発想からすると、やはり谷川さんがたくさん並べられてしまうのは仕方ないかなと思います。
ドラさんには申し訳ないですけど、やっぱり詩っていうのはマイナーなジャンルなんで、
そこにお客さんを引き込むには名前の知られた人の力を借りないと難しいだろう、という発想にどうしてもなりますね。もちろん、ドラさんのようなお客さんには物足りないかもしれませんが…。
ジュンク堂は何にしても広いですからね。やっぱり広いと何でも出来て羨ましいです。ただ僕は、そこそこの広さの売り場で出来る限り頑張る方が性に合ってるかもと思います。

英語はもうダメですね。簡単な文章さえもちんぷんかんぷんです。
でもそれよりも、昔より数学が出来ないのがヘコみますね。
英語は昔から出来なかったけど、数学は衰えが激しいですからねぇ。

本屋は最近、とにかく売れるものを置いて効率よくしないと成り立たなくなってきていて、そのせいで面白い本屋がどんどん減っていますけど、僕はなんとか踏ん張って、他の店では売ってないような本をバリバリ売ろうといつも思っています。頑張りますよ!

そういえば、amazonで立川談志の落語のDVDを買いましたよ。今ちょっとだけプチ落語ブームなんです。見るのが楽しみです。

ではでは。
Posted by 通りすがり at 2008年11月03日 03:30