2005年02月08日

Missing(本多孝好)<再読>

ある一枚の絵画があるとしよう。それはあなたにとってはとても大事な絵画だ。描いてくれた人との間に思い出があるのかもしれないし、書かれた絵自体から素敵な何かを感じ取っているのかもしれない。とにかくあなたにとっては何にも替えがたい絵画がある、とする。
ある日突然誰かが、偶然か必然か、その絵の本当の意味に気づいてしまう。その絵を描いた人の本心、あるいはその絵にこめられた真実。決して美しいとは言えないその意味を、持ち主ではない誰かが気づいてしまう。
五編収められたそれぞれの短編は、大体そういう構成になっている。紛れもないミステリーでありながら、ミステリーでは忘れられがちな機微や悲しみといったものを描き出している作品だと思う。
表紙の装丁からのイメージだけど、夕暮れ、という印象もうける。日が沈むまでは明るく美しかった風景が、日没とともにその色を濃くしていき、次第に闇に飲み込まれていく。その闇に触れてしまった人は、まだ飲み込まれていない少しだけ遠くにいる人をただ見守ることしかできない。
本多孝好のデビュー短編集である。「FINE DAYS」の感想でも書いたように、淡々として会話が足りない、というスタイルはもちろん同じで、それが独特の雰囲気を醸し出していて、とてもいい。
それぞれの短編を紹介しようと思う。

「眠りの海」
自殺に失敗した男が目を覚ました時、目の前にいたのは焚き火にあたる一人の少年。ぽつりぽつりと語る男の物語を聞いた少年は、起こったことを起こったままに語り始める・・・

「祈灯」
妹を交通事故で失った姉は以後、自らを妹だと主張するようになる。幽霊ちゃんと名付けられたその少女と出会った男は、事故当時彼女の目に映った何かを想像してしまう・・・


「蝉の証」
老人ホームにいる祖母を尋ねた男は、祖母から多少面倒な頼みごとをされる。金髪のとさか兄ちゃんと老人という組み合わせに不信を抱いた祖母の頼みで、そのとさかを探しているうちに、老人の奇行を知ることになり・・・

「瑠璃」
夏ごとに切り取られた、「ルコ」という少女と僕の物語。謎々、といって不思議な会話をし、ふらりと旅に出てしまうルコをもてあましながら、会わなくなった期間を挿んでルコと再会した僕は、ルコの変わりように驚き・・・

「彼の棲む場所」
知識人としてテレビに出、有名人となったかつての同級生に再会した男は、理知的に過ぎたその彼から「サトウ」という同級生について尋ねられる。誰も覚えていないその「サトウ」を巡る物語に男は・・・

ミステリーだから、それぞれにネタばれに気を遣って書くから、よくわからない紹介になっていると思うけど、それは俺の文章力の問題であって、作品の問題ではありません。
俺が好きなのは「祈灯」と「瑠璃」と「彼の棲む場所」。正直言って、「蝉の証」はどういう話なのかよくつかめていません。
本多孝好の原点。よくデビュー作をしてこう表現されるけど、まさに原点です。読んでみてください。

本多孝好「Missing」

MISSING双葉文庫

 

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この記事へのコメント
初めまして。
すごくたくさん感想があって、読み応えがあります(笑)。
自分も本、読むの好きなので、今後の参考にさせて頂きます。
このMissingなのですが、タイトル部分の著者名が、
伊坂さんになってますよ・・・^^;
Posted by ヒーラム at 2005年02月10日 21:08
初めまして。コメントありがとうございます。これからも是非お越しください。

著者については・・・確かに今気づきました。教えてくれてありがとうございます。これからも、もし間違いがあればどんどん教えてください。お願いします。
Posted by 通りすがり(管理人) at 2005年02月10日 21:55
この本が文庫本化されて、一気に読者が増えた(?)かも知れませんね。「瑠璃」が人気なのでしょうが、私は「祈灯」の最後の部分が好きです。「祈る人になりたい…」
集英社から「MOMENT最後の願い」があります。(読者からの応募作品を本多さんが短編にしたものです)続編という感じで読めました。

http://www.shueisha.co.jp/bunko-moment/stories/01.html
Posted by dradonworld at 2006年05月21日 10:09
大変なことに気づきました。このコメントの下の2行は「MOMENT」のことです。そちらに書くべきでした。申し訳ございません。
Posted by dradonworld at 2006年05月21日 10:16
僕は書店員なんですが、Missingは一時期爆発的に売れましたからね。最近は下火というか、あんまり売れてないんだけど…。表紙がいいですよね、まず。

「瑠璃」はとにかくイメージが強烈で覚えてるけど、「祈灯」もあの不思議な女性の存在が結構強いですね。でも、実は最後は覚えてなかったり…(笑)

「MOMENT」の奴は、帯で募集してましたね。ここに感想を書くことはないと思うけど、読んでみようと思います。
Posted by 通りすがり at 2006年05月21日 14:41