ある一枚の絵画があるとしよう。それはあなたにとってはとても大事な絵画だ。描いてくれた人との間に思い出があるのかもしれないし、書かれた絵自体から素敵な何かを感じ取っているのかもしれない。とにかくあなたにとっては何にも替えがたい絵画がある、とする。
ある日突然誰かが、偶然か必然か、その絵の本当の意味に気づいてしまう。その絵を描いた人の本心、あるいはその絵にこめられた真実。決して美しいとは言えないその意味を、持ち主ではない誰かが気づいてしまう。
五編収められたそれぞれの短編は、大体そういう構成になっている。紛れもないミステリーでありながら、ミステリーでは忘れられがちな機微や悲しみといったものを描き出している作品だと思う。
表紙の装丁からのイメージだけど、夕暮れ、という印象もうける。日が沈むまでは明るく美しかった風景が、日没とともにその色を濃くしていき、次第に闇に飲み込まれていく。その闇に触れてしまった人は、まだ飲み込まれていない少しだけ遠くにいる人をただ見守ることしかできない。
本多孝好のデビュー短編集である。「FINE DAYS」の感想でも書いたように、淡々として会話が足りない、というスタイルはもちろん同じで、それが独特の雰囲気を醸し出していて、とてもいい。
それぞれの短編を紹介しようと思う。
「眠りの海」
自殺に失敗した男が目を覚ました時、目の前にいたのは焚き火にあたる一人の少年。ぽつりぽつりと語る男の物語を聞いた少年は、起こったことを起こったままに語り始める・・・
「祈灯」
妹を交通事故で失った姉は以後、自らを妹だと主張するようになる。幽霊ちゃんと名付けられたその少女と出会った男は、事故当時彼女の目に映った何かを想像してしまう・・・
「蝉の証」
老人ホームにいる祖母を尋ねた男は、祖母から多少面倒な頼みごとをされる。金髪のとさか兄ちゃんと老人という組み合わせに不信を抱いた祖母の頼みで、そのとさかを探しているうちに、老人の奇行を知ることになり・・・
「瑠璃」
夏ごとに切り取られた、「ルコ」という少女と僕の物語。謎々、といって不思議な会話をし、ふらりと旅に出てしまうルコをもてあましながら、会わなくなった期間を挿んでルコと再会した僕は、ルコの変わりように驚き・・・
「彼の棲む場所」
知識人としてテレビに出、有名人となったかつての同級生に再会した男は、理知的に過ぎたその彼から「サトウ」という同級生について尋ねられる。誰も覚えていないその「サトウ」を巡る物語に男は・・・
ミステリーだから、それぞれにネタばれに気を遣って書くから、よくわからない紹介になっていると思うけど、それは俺の文章力の問題であって、作品の問題ではありません。
俺が好きなのは「祈灯」と「瑠璃」と「彼の棲む場所」。正直言って、「蝉の証」はどういう話なのかよくつかめていません。
本多孝好の原点。よくデビュー作をしてこう表現されるけど、まさに原点です。読んでみてください。
本多孝好「Missing」
MISSING双葉文庫