さて何が言いたいのかといえば、この豊崎と大森は一体いつ本を読んでいるんだ!ということである。
この二人の読書量というのは、想像するだにものすごいものがある。もちろん書評家という仕事をしているのだから、それなりに本を読まなくてはしかたないのは当然だし、まあそれが苦にならないのだろうとは思う。
しかしおよそ尋常ではない冊数だ。
本作は、日本のありとあらゆる文学賞についてあーだこーだ言ってる本なのだけど、そのほとんどの受賞作を彼らは読んでいるのである。もちろん単行本になっていないものは雑誌掲載分を読むなどして、とにかくほとんどを網羅している。直木賞や芥川賞や本屋大賞に至っては候補作はすべて読んでいるだろうし、そもそも彼らはあらゆる媒体で書評を書いているわけで、読まなくてはいけない本の冊数も尋常ではないはずだ。その年に出た主要作家の作品、主要な賞を受賞した作品、話題になった作品、こういったものはもちろん当然の如く読み、かつ自分の趣味の読書だってしているはずなのである。その証拠に、この作品は欄外に注釈みたいなものがつく体裁になっているのだけど、その欄外の注釈に別の雑誌の企画で決めた年間ベストみたいなのが載っていたのだけど、そこに載っていた本の半分は僕の知らない作品でした。僕はこれでも書店員の端くれで、普通の人よりは本に対する情報には深いし、それなりの知識も持っているはずなのだけど、それでも半分は分からない。誰のどの作品?と首をかしげるようなものばかりなのだ。実際には、読んだけどつまらなくて話題にも出せないような本だってあるだろうし、とにかく彼らが一年間でどのくらいの本を読んでいるのかというのは計り知れないのである。
僕だってまあ時間の許す限りあらゆる時間を読書に費やしているし、休みの日なんかは一日中家から出ないで本を読み続けている人間である。ひたすら本を読み続けることに抵抗はないわけでいくらでも読めるのであるが、しかしそれでもまだ200冊足らずである。恐るべしメッタ斬りコンビ。速読法でもマスターしてたりするんだろうか。いやー、でもあの速読という方法で小説は読みたくないものだ。なんか味気ない気がする。
書評家というのはなかなか呑気な仕事であって、世の中のありとあらゆる本を褒めたり貶したりすればいいだけの職業である。なんていうとこの書評家全員が嫌いみたいなイメージかもしれないけど、メッタ斬りコンビは別である。普通の書評家たちは、こんなくだらないこと書いて金もらえるなんてまことに羨ましいでござる、という感じなんだけど、このメッタ斬りコンビというのはとにかく面白いことをやってくれるわけで非常に愉快である。ちゃんと本も読んでいるし(中には読まずに書評を書くようなダメな書評かもいるらしい)、毒が強いけど言っていることは的確であるように思える。ズバズバと言いたいことを言いまくっているので爽快で、もっと言えー、という声が多方面から聞こえてきそうである。
どこもそうだと思うけど、出版業界というのもやはりなかなか狭い世界で、あらゆる人が持ちつ持たれつでやっている。なんか馴れ合いの強い業界である。そこにこもメッタ斬りコンビはかなり大きな風穴を開けてきたような気がする。その功績は大きいだろう。これからも是非言いたいことをバンバン言っていただいて、大いに暴れて頂きたいものである。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は文学賞メッタ斬り!の第三弾で、2007年度版になっています。
この文学賞メッタ斬り!というのは、日本に存在するありとあらゆる文学賞とその受賞作についてあーだこーだ賞賛と非難を送るという作品で、メッタ斬りとタイトルにあるようにとにかく豊崎・大森コンビがばっさばっさと切り倒して行きます。いやはや、なかなか爽快です。
このシリーズの最大の特徴は直木賞・芥川賞の選考についてかなりのページを費やしていることで、これは多くの人が待ち望んでいるのではなかろうか、と僕は勝手に思っています。宮本輝のことを「テルちゃん」、渡辺淳一のことを「ジュンちゃん」、石原慎太郎のことを「シンちゃん」と呼び、その選評なんかをボロくそにけなしています。その毒舌っぷりがもう最高に面白いです。
このシリーズを読むといつも感じるのは、とにかく直木賞と芥川賞の選考というのは適当極まる、ということです。選考委員がもう適当なことをしまくっていて、とても権威ある文学賞であるとは思えません。的外れな選評していたり、世間との大きなズレがあったりと、とにかく不評。もちろん現役の書店員としても大いに不満たらたらであります。形骸化も甚だしい感じであって、そんなダメダメだけど権威だけはばっちりある直木賞・芥川賞をメッタ斬りしているので最高です。
本作では他にも様々に面白い企画があって、まず冒頭の中原昌也との対談です。中原昌也の「名もなき孤独たちの墓」という作品が、豊崎・大森共にものすごく高い評価をつけているのだけど、でも芥川賞の選考委員がこれを完全に無視したと。ありえんと。なんだこれはと。とまあそんなわけでみんなで芥川賞をボロくそに言いましょうね、という対談でした。いやはや面白い。中原昌也の作品を読んで見たくなりました。試しに「名もなき〜」を読んでみましょうかね。どうしましょう。
また、通称「ツモ爺」と呼ばれる、直木賞選考委員だった津本陽氏が選考委員を退任するということでその特別記念企画みたいなものもありました。直木賞・芥川賞の選考委員というのは皆ちょっと(どころかかなり)頭のネジがいかれている人が多いのだけど、でもその中でもツモ爺は別格で独特の雰囲気をかもし出しているのだそうです。そのツモ爺のこれまでの選評を引っ張り出してきて楽しもう、という企画です。
また巻末に文学賞を受賞した作品の両者における点数を載せたコーナーもあれば、メッタ斬り大賞と賞してどれに賞をあげるかを決めたり、あるいは直木賞・芥川賞の予想と受賞後のコメントみたいなものもあって盛りだくさんです。とにかくどこを読んでも面白い。本好きの人には是非とも読んで頂きたい作品である。
面白いのでスラスラと読めてしまう作品だと思います。是非是非読んでみてください。なんだ、直木賞・芥川賞とかって選んでる人間があんななんだから大したことないんだな、とか実感できることと思います。
豊崎由美+大森望「文学賞メッタ斬り! 受賞作はありません編」

文学賞メッタ斬り!受賞作はありません編ハード