2007年10月07日

本を売る現場でなにが起こっているのか!?(編集の学校/文章の学校)

本を売るというのも一つの表現なのだろうな、とふと思うことがある。
ものを売る、という行為は普通は表現にはなりえない。コンビニにしてもデパートにしても、それは商品を置いておくための箱でしかないわけで、もちろんその中で特色を出したりあるいは戦略があったりするのだろうとは思うけど、しかし表現というところまではいかない。洋服屋や雑貨屋のようなところであれば、その店独自の色みたいなものがあって、それはある意味では表現に近くなるのかもしれないけど、しかしそれは、似たような雰囲気を持つものを集めたことによって自然と現れるものであって、表現しようと思って表現しているものとは少し違うような気がする。
本屋というのは基本的に、表現しようと思って表現する小売店なんだろうなという風に思う。本を売るということそのものが表現に直結する場である気がするのだ。
本屋というのは基本的に、どの店でもまったく同じものを扱うことが出来る、というベースがある。東京のどでかい本屋だろうが沖縄の離島の本屋であろうが、基本的には同じ商品を置くことが出来るのだ。
しかし本屋というのは一軒一軒違いがある。最近では、本屋は金太郎飴のようにどこに行っても同じような感じになってしまったというような声もあって、それは割と正しいと思うのだけど、しかしそこから脱し、本屋を表現の場であると捉えることが出来ている店は明らかな特色を持つことが出来る。
本屋の場合、もちろん何を置くかというところから考え始めなくてはいけないのだけど、どう置くかということも重要になる。
例えば薬屋であれば、風邪薬と湿布薬と下剤を一箇所にまとめて置く、というようなことはしないだろう。風邪薬なら風邪薬でまとめるし、湿布薬なら湿布薬でまとめる。あるいは服屋であれば、ジーパンとTシャツとジャンパーが一箇所にごちゃ混ぜに並んでいるということはない。ジーパンはジーパンでまとまっているし、TシャツはTシャツでまとまっている。ものを売るという場合、同じようなものは同じところにまとめて置く、というような制約がどうしても出てきてしまう。
しかし本屋の場合、そんな制約は完全に取り払うことが出来る。雑誌の隣に文庫があってもいいし、写真集と新書を一緒に並べてもいい。あるいは、CDや雑貨と一緒にしてもいいし、ある一つの文庫を100面でどかんと展開してもいい。
小売店であれば、店に何を置くかということを考えるのは当然のことであるのだけど、しかしどう並べるかについてここまで自由度の高いところは他にないのではないか、と思う。他の商品であれば、その商品の個性みたいなものは明確に決まっている。風邪薬なら風邪薬だし、帽子なら帽子である。時々ソファベッドみたいにソファでもありベッドでもあるみたいなやつもあるけど、しかしそういうものだって基本的な個性はいくつかに落とし込むことが出来る。
しかし本は違う。本の場合、売る人間がその個性を見極めることが出来るのだ。ある一冊の本があったとして、その本を『文庫』という個性で見てもいいし、『小説』という個性で見てもいい。あるいは『この作家の本』『野球を題材にしている』『女性にウケそう』などありとあらゆる切り口がある。売る人間がその本の個性をどう見極めたのか、そしてその見極めたことを並べ方でいかに表すか。まさにこの点が、本屋が表現の場である、という点ではないかと思う。
僕はまだまだそのレベルには全然達していない。今は、入ってきた本をただ漫然と売り場に並べるだけで精一杯である。この本をどこに置くのがベストか、あるいはこの本の隣に置くべき本は何か、この売り場全体でどういうまとまりを生み出したいのか、あるいはこの一冊の本を売るためにどういう売り場を構築するべきなのか。考えることは日々たくさんあるはずなのだけど、そこまで自分の仕事が追いついていかない。もっと時間が欲しいのだけど、やるべき雑務が多すぎて、表現というところにまで手が回らないというのが現状だ。
もちろん、時間が充分にあったところで自分にそれが出来るのか、といわれると答えに窮する。僕は、本だけは人一倍読んでいるけれども、しかしそれを並べ方で表現するとなるとまた違った能力が必要とされる。本の内容を知っているだけではダメで、関連する本をぱっと思いつけるか、お客さんの様子を観察して傾向を把握できているか、どういう本を一緒にして買っていくのか。そういう様々なデータや知識の積み重ねが必要になっていく。今の自分には、同じ作家の本を並べるとか、あるいは似たような雰囲気を持つかな(つまり読者層が同じなんじゃないかと予想できるということ)と思える本を一緒に並べたりするぐらいが精一杯で、売り場全体から考えて本の選書が出来ていない。つまり、入ってきた本をどこに置くかを考えることが精一杯で、売り場を作り上げるために本を選定するという部分がまだまだ出来ないと感じているところです。
しかしいつも思うのは、本屋の仕事というのはとにかく楽しいということである。恐らく、上記で書いたような表現する場であるという部分が書店員を刺激するのだろうと思います。表現の仕方によって本の売れゆきがまったく違ってくる。他の店では売ってないけどウチではものすごく売れているみたいな本を発掘出来るとすごく嬉しい。自分の表現がうまくお客さんに合ったのだろうな、と思えるのである。
本屋というのは、まあ働く環境としてはそんなにいいものではないと思う。給料は最低水準だと言うし、まあ仕事もやる気があれば膨大になる。本は重いし、棚を維持したりあるいは平台に日々変化をつけていくというのもなかなか苦労するのだけれども、でもそれでも仕事自体が面白いということは自信を持って言える。僕にとってはまあ天職であるなぁ、といつも感じています。
僕はまあこれからも本屋で働いていくことは間違いないでしょう。自分はまだまだ表現者としては未熟すぎてどうしようもないですけど、しかしそれでも、自分の表現がより多くの人に届いてくれることを祈って、これからもせっせと売り場に出続けるでしょう。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、様々な「本を売る現場」を取材し、そこで今何が起きているのかを綴っている、まあタイトルそのまんまの内容の本です。
「本の現場」としてどんなところが挙がっていると言うと、
有隣堂・ブックハウス・ジュンク堂・青山ブックセンター・フタバ図書・トムズボックス・ヴィレッジヴァンガード・書原・TSUTAYA
と言ったような本屋から、
トーハン・日販・大阪屋
と言ったような取次、あるいは
オンブックという新たな出版形態を考えているところや、
bk1などのネット書店、
電子タグの実験を行ったところや日書連などの業界団体、
などが取り上げられています。
まあ驚いたのは、この中でNET21が紹介されているところですね。なるほど、NET21もこうやって段々注目されていくのだろうか、と思ったりしました。
読んでいてなるほどと思ったのは、「ジュンク堂」と「ヴィレッジヴァンガード」ですかね。
「ジュンク堂」は超大型書店ではあるけれども、しかしそれは中小の書店があって成り立つと言います。中小の書店でまず本に触れる、そしてそこでもっと違った本を読みたいと思う、それで何でも揃っているだろうジュンク堂に足を運んでもらう、という流れを考えているようで、中小の書店が現状でどんどん潰れていってしまうと、まず本に触れる機会が少なくなってしまって大型書店も厳しくなる、と書いています。
そもそもこれからの書店経営は厳しくなるだろう、と言っていて(まあこれは本作に出てくるあらゆるところがそういうことを言っているのだけど)、努力して前年比90%、さらにもっと努力して95%まで持っていけるか、というような状態になるのではないか、ということでした。あとはお客様の声をきちんと聞いてすぐに対応しているというのもいいなと思いました。
「ヴィレッジヴァンガード」で面白いと思うのは、社員はすべてアルバイトからという話があったのですが、その中で、ヴィレッジヴァンガードでは社員になる前にまず店長になる、というのがありました。つまり、アルバイト→店長→社員、なんだそうです。一度店長になって全体的な知識を身に付けてから社員になるんだそうで、なるほど面白いことをしてるな、という感じでした。また、店のどこかに力を入れるということはせず、あくまでも全体としてプロデュースをするという話もなるほど、と思いました。どこか一箇所だけを強くしてもバランスが悪くなる、とのことです。
で、「ジュンク堂」と「ヴィレッジヴァンガード」が共に言っていたことが、マニュアルはないということです。あくまでも現場の担当者に任せている、ということで、まあ担当者の力量もあると思うけど、やっぱり任せた方が面白い売り場になるんだろうな、と思いました。僕も担当になってからほとんど誰にも何も言われたことがないんですけど、まあだから自分のやりたいようにやってきて、でようやく自分なりのやり方みたいなものが出来てきたかな、という感じはしています。
それとは対照的にマニュアルを作っているというのがTSUTAYAでした。しかしそれも実地での研修がほとんどメインのようではありますが。しかしマニュアルで縛られるとやはり面白くないだろうな、とは思ってしまいます。
TSUTAYAでは会員カードを通してのマーケティングが出来るようで、なるほどそれは強みだなと思いました。NET21でもこれから手を入れていくようですけど、何よりも重要なのはデータをいかに読むかというその力であるなと思います。現状でもPOSデータによって様々なデータを見ることが出来ますが、しかしそれを充分に活用できているかと言われればなかなか出来ていないなと思います。結局は、自分の中の感覚みたいなものによって仕事をしている部分が大きくて、ダメだなぁとは思うのだけど、なかなかデータを分析している時間もないのでまあ仕方ない部分もあると思っています。データだけ増えてもそれを活用できないのではちょっとなぁ、という感じがしました。
あと興味深かったのは、電子タグの実験です。電子タグを本に埋め込むことで、第一の目的としては万引きを防ぐということですが、しかし本作ではそれ以上に様々なことが書かれていました。
一番驚いたのは、立ち読みのデータを得ることが出来る、ということです。書店ではどれだけデータを集めることが出来るといっても、それは売った本のデータでしかありません。買うまでいかなくてもお客さんが興味を持っている本のデータがあればいいと思うんですけど、この電子タグというのはそれを実現できるのだそうです。売り場にの平台にリーダーを設置することで、本の中に組み込まれた電子タグが移動したことを感知し、それを立ち読みと判断してデータを集計するのだそうです。この電子タグ検証実験では、一冊当たり5円以下で電子タグを埋め込むことが出来るというところまで検証できたようで、あとは出版社・取次・書店などの業界でその5円をどこがどう負担するのかを話し合いさえすれば実現できそうな気がしました。もちろんまだまだ遠い先の話になるでしょうけど、この電子タグというのは期待が持てるんじゃないかなと思いました。
あとこれはいいなと思ったのがあって、それをやっているのが書原という本屋です。ここではスタッフに一日一冊気になった本を報告させている、とのことです。気になった、というのはどんな基準でもよくて、帯が気に入ったとか表紙が綺麗とかまあ何でもいいんだけど、一日一冊気になった本がないようなら書店員としてダメではないか、と書いていました。なるほどこれはやってみたら面白いんじゃないかな、と思ったりしました。
まあそんなわけで、本を取り巻く現状を知ることの出来る一冊だと思います。本に関わる仕事をしている人なら読んでみてもいいんじゃないかな、と思います。こういう本を読むといつも、さて自分も頑張るか、という気になってきます。

編集の学校/文章の学校「本を売る現場で何が起こっているのか!?」


本を売る現場でなにが起こっているのかハード

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