しかし、この作品の登場人物は、必要以上に、というか普通並にも悲観した様子は見せません。強いのか諦めなのか。生きていかなければならない、という選択肢を選んでしまったら、目が見えないということとも向き合っていかなくてはいけない、ということなのだろう。そうなのだろうけど、自分がもし同じ立場になったら、まともでいられる自信はない。
他の乙一の作品の感想で同じ事を書いてなければいい、と思うけど、僕は乙一の作品の中でこの「暗いところで待ち合わせ」が一番好きです。
相変わらず乙一は天才だと思います。最小限の登場人物で(名前の与えられたのは5人で、物語の大半を占めるのはそのうち2人)、最大限奇妙な設定で、絶妙な文体で、最高に面白い物語に仕上げてくる乙一は、天性のものだと思います。
駅の近くに一人で住む本間ミチル。彼女は両親を失い、さらに視力までも失った。外に出ることを極力拒み、日がな一日丸まってまどろんだりぼーっとしながら、保険金で生活している。
そんなミチルの家の側の駅で殺人事件が起こる。殺された松永トシオと同じ会社に勤め、同じ駅を利用していた大石アキヒロは、まさにその殺害現場から逃げ出し、警察から追われることになる。
そうして彼が逃げ込んだ先がミチルの家だった。視力を失った女性の家に勝手に上がりこんだアキヒロ。存在を悟られないように気をつけながら息を潜めて生活する。
一方でミチルの方も、違和感に気づき始める。誰かがいるのかもしれない。確信の持てないその思いが広がっていく。
こうして二人のあまりに奇妙な同棲生活は、会話も接触もないまま静かに時を刻んでいくのだが・・・氷が溶けていくようにして徐々に変わっていく二人の関係は、悲しくもあり美しくもあり、本当に見事な設定だと思います。
ホラー作家としてデビューした乙一だけど、この作品はどうだろう。最後数十ページでの展開はまさにミステリ的で、何かのスイッチを切り替えたかのように見えていた世界が反転する。乙一の作品は大抵ホラーのようでミステリでもある、というものが多いけど、今回はホラー色が少ないからミステリの要素が最後になって際立っている。
乙一の作品は、落としどころがどこなのかがさっぱりわからないという不安感がある。小説というもはどの作品もそうなのかもしれないしそうあるべきだろうけど、作品がどういう方向でどう落ち着くのかがまったく想像がつかない。命綱なしで岩肌を登っているようなその不安定感が結構好きだったりする。
ミチルとアキヒロという二人は、その境遇は多少違えど、共に人との接触を頑なに拒む性格をしている。アキヒロは学校で友達に溶け込めず、職場でもそうであったがために松永トシオに殺意を抱く結果になった。ミチルの方も、視力を失ってからはさらに急速に世界との距離をとり始め、外の世界を恐怖するようにすらなっている。
本当に自分のことを読んでいるようで、特にアキヒロの性格と同じだなと思いながら読んだ。乙一の作品にはよく、そういう人付き合いが苦手で孤立してしまう人間というのが出てきて、僕は乙一自身がそういう性格なのだろう、と思っている。きっと間違いないだろう。引きこもり、人見知りのことをよくわかっている。
この作品はどうやら映画化されるようです。最近はミステリ系の作品が映画化されることが多くて、結構気になっていたりするわけど、やっぱり原作の方が面白いだろう、という思いも拭えない。やっぱり、物語と文体・雰囲気というものを乖離させてしまえば、それは原作からかけ離れてしまうと思うからだ。
それでも見てみたいな、と思う作品は時折あって、それは「どう映像化するんだろう」という興味がある場合が多い。この作品も、大半の時間の描写を、ミチルとアキヒロの同棲生活を描くと思うけど、でもそのシーンは、会話も接触もないのだ。映像的にどうなるのか、と言う興味はあったりする。
乙一が今までに出した二作の長編の内の一作です。僕はとても素晴らしいと思うし、物悲しく美しい物語だと思います。乙一らしさもばっちりで、長編にしては分量も少ない、という、まさに乙一初心者へうってつけの本です。是非読んでみてください。
でもなんか、今回の感想はちょっと不満が残るな。どこが、ということでもないけど、もう少しいい文章が書けそうな気がするんだけど・・・
乙一「暗いところで待ち合わせ」
暗いところで待ち合わせ幻冬舎文庫