2005年02月18日

暗いところで待ち合わせ(乙一)<再読>

目が見えなくなったら・・・という想像は、僕を恐怖に陥れます。本を読むことしか趣味がない僕としては、視力というのはもっとも必要で大切なものです。視力を失ったら、僕のように本を読む人でなくても、困惑することでしょう。
しかし、この作品の登場人物は、必要以上に、というか普通並にも悲観した様子は見せません。強いのか諦めなのか。生きていかなければならない、という選択肢を選んでしまったら、目が見えないということとも向き合っていかなくてはいけない、ということなのだろう。そうなのだろうけど、自分がもし同じ立場になったら、まともでいられる自信はない。
他の乙一の作品の感想で同じ事を書いてなければいい、と思うけど、僕は乙一の作品の中でこの「暗いところで待ち合わせ」が一番好きです。
相変わらず乙一は天才だと思います。最小限の登場人物で(名前の与えられたのは5人で、物語の大半を占めるのはそのうち2人)、最大限奇妙な設定で、絶妙な文体で、最高に面白い物語に仕上げてくる乙一は、天性のものだと思います。
駅の近くに一人で住む本間ミチル。彼女は両親を失い、さらに視力までも失った。外に出ることを極力拒み、日がな一日丸まってまどろんだりぼーっとしながら、保険金で生活している。
そんなミチルの家の側の駅で殺人事件が起こる。殺された松永トシオと同じ会社に勤め、同じ駅を利用していた大石アキヒロは、まさにその殺害現場から逃げ出し、警察から追われることになる。
そうして彼が逃げ込んだ先がミチルの家だった。視力を失った女性の家に勝手に上がりこんだアキヒロ。存在を悟られないように気をつけながら息を潜めて生活する。
一方でミチルの方も、違和感に気づき始める。誰かがいるのかもしれない。確信の持てないその思いが広がっていく。
こうして二人のあまりに奇妙な同棲生活は、会話も接触もないまま静かに時を刻んでいくのだが・・・氷が溶けていくようにして徐々に変わっていく二人の関係は、悲しくもあり美しくもあり、本当に見事な設定だと思います。
ホラー作家としてデビューした乙一だけど、この作品はどうだろう。最後数十ページでの展開はまさにミステリ的で、何かのスイッチを切り替えたかのように見えていた世界が反転する。乙一の作品は大抵ホラーのようでミステリでもある、というものが多いけど、今回はホラー色が少ないからミステリの要素が最後になって際立っている。
乙一の作品は、落としどころがどこなのかがさっぱりわからないという不安感がある。小説というもはどの作品もそうなのかもしれないしそうあるべきだろうけど、作品がどういう方向でどう落ち着くのかがまったく想像がつかない。命綱なしで岩肌を登っているようなその不安定感が結構好きだったりする。
ミチルとアキヒロという二人は、その境遇は多少違えど、共に人との接触を頑なに拒む性格をしている。アキヒロは学校で友達に溶け込めず、職場でもそうであったがために松永トシオに殺意を抱く結果になった。ミチルの方も、視力を失ってからはさらに急速に世界との距離をとり始め、外の世界を恐怖するようにすらなっている。
本当に自分のことを読んでいるようで、特にアキヒロの性格と同じだなと思いながら読んだ。乙一の作品にはよく、そういう人付き合いが苦手で孤立してしまう人間というのが出てきて、僕は乙一自身がそういう性格なのだろう、と思っている。きっと間違いないだろう。引きこもり、人見知りのことをよくわかっている。
この作品はどうやら映画化されるようです。最近はミステリ系の作品が映画化されることが多くて、結構気になっていたりするわけど、やっぱり原作の方が面白いだろう、という思いも拭えない。やっぱり、物語と文体・雰囲気というものを乖離させてしまえば、それは原作からかけ離れてしまうと思うからだ。
それでも見てみたいな、と思う作品は時折あって、それは「どう映像化するんだろう」という興味がある場合が多い。この作品も、大半の時間の描写を、ミチルとアキヒロの同棲生活を描くと思うけど、でもそのシーンは、会話も接触もないのだ。映像的にどうなるのか、と言う興味はあったりする。
乙一が今までに出した二作の長編の内の一作です。僕はとても素晴らしいと思うし、物悲しく美しい物語だと思います。乙一らしさもばっちりで、長編にしては分量も少ない、という、まさに乙一初心者へうってつけの本です。是非読んでみてください。
でもなんか、今回の感想はちょっと不満が残るな。どこが、ということでもないけど、もう少しいい文章が書けそうな気がするんだけど・・・

乙一「暗いところで待ち合わせ」


暗いところで待ち合わせ

暗いところで待ち合わせ幻冬舎文庫
 

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 自分ではない他人がいるのだということを、なかったことにはできない。お互いがお互いをいないことにすることなどできなかったのだ。二人ともお互いを知っていると気づいた瞬間から、たとえ無視をしよ..
人はやはり一人では生きられない。/乙一『暗いところで待ち合わせ』/感想【かもめは本を読まない。】 at 2007年03月12日 22:51
この記事へのコメント
乙一氏の作品って、まあ、ホラーは別として人間の成長や優しさをとてもうまく書いてあっていいですよね。
中でもこの作品は群を抜いているような気がします。
主人公二人の人格設定。ある事件がきっかけで同居するという奇妙な設定。この二人だから成り立つという世界を見事に描いていらっしゃる。
僕もこの作品大好きですね。
終盤の秀逸な纏め方には、もう、ほんとすごいとしか言いようがなかったですね。
Posted by morifan at 2005年02月18日 12:07
いつもコメントありがとうございます。

この作品は、本当に乙一にしか書けない、という感じですよね。心理描写が繊細で優しくて、素晴らしいと思います。そして終盤の収束のさせ方には脱帽です。

この作品を同じく好きだと言ってくれる人がいるのは嬉しいことです。
Posted by 通りすがり(管理人) at 2005年02月18日 12:31
今日は寒いですね〜。「暗いところで・・・」ってそういうことか。でもバイト先での通りすがりさんは、かなり溶け込んで見えるよ。自分よりも。ということは自分にも共感できる本かも。じゃあ今度読んでみようかな?いいコメントが書けないのでこの辺で。あ、来週飲みに行かない?誰だか分かったら。じゃ!
Posted by choco at 2005年02月19日 18:35
誰だかわかったら、ってそりゃあわかるでしょう。これで違ってたらかなりびっくりです。

俺の方が溶け込んでいる、なんてありえないですよ。chocoさんの方が全然ね。まあ、結局どっちも同類ってのは正しいかもしれないけど。ええ、「暗いところ〜」は是非読んでください。

飲みには行きたいですね。行きましょう。朝番の日ならいつでも。
Posted by 通りすがり at 2005年02月19日 20:36