2005年02月19日

すべてがFになる THE PERFECT INSIDER(森博嗣)<再読>

あなたはもう、「森博嗣」という才能に出会っているだろうか?僕は、それが存在することに感謝しているし、それに出会えたことにも感謝している。
早速だけど、先に物語の紹介に入ろうと思う。
舞台は孤島のハイテク研究所。ゼミ合宿に訪れた犀川ゼミ一行だが、犀川と萌絵だけは、その研究所で事件に巻き込まれる。
その研究所には、少女時代から完全に隔離された生活を送っている一人の天才、真賀田四季がいた。研究所に犀川と萌絵が訪れたまさにその瞬間、悲劇は目の前で繰り広げられた。
隔離されいるはずの四季の部屋から、ウエディングドレスを着、両手足を切断され、ロボットに乗せられた死体が現れた。
監視カメラの設置された入り口。中から開けることが不可能な入り口。完璧なはずの研究所のシステム。全てをかいくぐり殺人を実行、逃亡した犯人を犀川と萌絵が追う。
と、こう書いてしまうと普通のミステリだな、という感が否めないけど、まったく違う。全然違う。それをどう伝えようか考えてみた。
トリックがあるようなミステリというのは、大体次の三つの組み合わせで構成される。

Who done it.(フーダニット:誰がやったのかということ、犯人)
Why done it.(ホワイダニット:何故やったのかということ、動機)
How done it.(ハウダニット:どうやってやったのかということ、手法)

しかし、森博嗣は新たなダニットを作り出した、というのが僕の考えです。それを、What done it.(ホワッツダニット:何がやったのか、思想)と名付けようかと思います。
森ミステリにおいては、上記の三点はあまり重要視されません。正確に言えば、萌絵は上記の三つにこだわりますが、犀川はそれには興味がない、ということです。僕は、犀川の視点考え方が森博嗣自身のそれだろうと思うので、上のように書きました。
犀川は、犯人が誰であるとかどうして殺したのか、という点は興味がないように見えます。それは、問題を考えるうえで考察しておく必要がある場合のみ意識に登らせるのみで、それ以外は関心外だと思います。
特に、何故殺したのか、という動機には無関心です。それは、動機なんかやった本人だってちゃんとは説明出来ないだろうから、考えたって仕方ないよ、というような考え方を持っているからだと思われます。それにはかなり賛成で、解説で瀬名秀明も書いていますが、殺人の動機として過去のトラウマを持ってくるのは、読者が納得なり落ち着きなりを求めるためにあるだけの話であって、それが書かれているのは寧ろ不自然だ、と思います。だから森ミステリを読んでいると、どうして殺人を犯したのか、という説明はほとんどなされなくて、時折不安になるけれども、そこがいいと思います。
さて、では俺が勝手に命名したホワッツダニットについて説明しましょう。
森ミステリでは、他のミステリでも当然そうですが、とてつもなく不可思議な状況設定がなされます。当然それは犯人が仕組んでやったことなわけだけれども、何故その手法を使ったのか、何故その状況になるようにしたのか、というような、そういう犯人の思想について言及しているように思います。
わかりずらいですね。どうもうまく説明出来ません。
普通のミステリでは、動機は人を殺すために、トリックは捕まらないために設定されていると思います。でも森ミステリでは、動機はわからないものとして、トリックは犯人の思想を表現するために設定されているような気がします。そういうことです。そういう犯人の考え方、思想、そういったものを奥深く追求していくのが森ミステリだと思うわけです。
わかりずらくてすみません。
本当に、この才能に出会えてよかったと思います。是非読んで欲しいと思います。理系ミステリといわれていますが、理系的な知識が必要であるわけではないし、セリフの選択や登場人物の設定などが本当に見事で、ミステリ的な部分以外でもとても楽しめます。
是非どうぞ。
ちなみに、萌絵(もえ)を蒔絵(まきえ)と読みそうになるのは僕だけでしょうか?
では、森博嗣の作品を読む時の癖で、気になったセリフなどを抜き出してみようと思います。

「(前略)数字の中で、7だけが孤独なのよ」
(後略)

「(前略)所長のお知り合いだそうで・・・」
「お知り合いの・・・四乗根ぐらいです」(後略)

(前略)すべてがFになる(後略)

(前略)
「西之園君。デリカシィという言葉を知っている?」犀川は萌絵に言った。
「珍味のことでしょう?」萌絵は答えた。こういった状況における彼女の頭の回転速度は驚異的である。
(後略)

(前略)
「大丈夫です。先生こそ・・・お疲れでしょう?」萌絵は脚を組んで行った。
「そうね、マカデミアナッツよりは、ちょっとましかな・・・」犀川は真面目な顔をして言った。
少し考えてから萌絵が言う。「マカデミアナッツ?どういう意味ですか?」
「はは、意味はないよ」犀川は笑う。「意味のないジョークが、最高なんだ」
(後略)

「(前略)四季さんの頭脳は、一人の人格には広すぎるんじゃないかしら・・・」
(後略)

(前略)電動の工具は、スクリュードライバ、ドリル、ジグソー、サンダ、グラインダなどである。(後略)

(前略)
「いいわ・・・」萌絵は一瞬考えた。「333667と2331をかけるといくつ?」
「7が九つ並ぶわね」女はすぐに答えた。
(後略)

(前略)「どこにいるのかは問題ではありません。会いたいか、会いたくないか、それが距離を決めるのよ」
(後略)

(前略)
「思い出と記憶って、どこが違うか知っている?」犀川は煙草を消しながら言った。
「思い出は良いことばかり、記憶は嫌なことばかりだわ」
「そんなことはないよ。嫌な思い出も、楽しい記憶もある」
「じゃあ、何です?」
「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」
(後略)

(前略)
「僕にはできないな・・・」犀川は煙を吐きながら言った。「地球の半径方向の距離には弱いんだ」
(後略)

(前略)
Time is moneyなんて言葉があるが、それは、時間を甘く見た言い方である。金よりも時間の方が何千倍も貴重だし、時間の価値は、つまり生命に限りなく等しいのである。
(後略)

(前略)
「完全になろうとする不完全さだ・・・」犀川は呟いた。もしかしたら、英語でしゃべっていたかもしれない。
(後略)

(前略)
ああ、人が殺されるというのは、こんなに大変なことなのか、と犀川は急に思った。
(後略)

(前略)
「先生・・・、現実って何でしょう?」萌絵は小さな顔を少し傾けて言った。
「現実とは何か、と考える瞬間にだけ、人間の思考に現れる幻想だ」犀川はすぐ答えた。
(後略)

(前略)「犀川先生にお考えがあるのです。先生は事件のことを誰よりもよくご存知ですわ」
「犯人の次に、ですけど・・・」犀川は萌絵の言葉を訂正した。
(後略)

(前略)
「自信家ですこと」四季が笑いながら言った。「想像しアとおりの方ね」
「いえ、真実に気がつけば、誰でも自信家になれます」犀川が本心を言う。「自信なんて、小心者のポケットみたいなものです」
(後略)

(前略)「復讐するためには、その以前に敗北が必要です。私はこれまでに敗北したことがありません。ですから、復讐というものの精神さえ実感出来ないわ。(後略)」

(前略)
「死を恐れている人はいません。死にいたる生を恐れているのよ」四季は言う。「苦しまないで死ねるのなら、誰も死を恐れないでしょう?」
(後略)

森博嗣「すべてがFになる」


すべてがFになるノベルス

すべてがFになる講談社ノベルス


すべてがFになる文庫

すべてがFになる―THE PERFECT...講談社文庫
 

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読み始めるとすぐに文章に引き込まれ、本をめくる手が止まらなくなる。その研究所で起こった事象の全てが、一人の天才の手で、綿密な計算の上に生み出されたものだと気づく。その部分を読み返して、一つ一つ頭の中で..
vol.3「すべてがFになる??THE PERFECT INSIDER」森 博嗣【L4BOOKS - 書評イラストで素敵な小説をご紹介。毎週月曜日更新】 at 2009年07月27日 19:38
この記事へのコメント
こんにちわ。

「ホワッツダニット」、これぴったしな言葉ですね。
うわぁ、ホント鋭い分析だなぁ。

キャラクタたちの非日常的なセリフも魅力の一つ。
どれをとっても心に残るセリフ、思想なんだからもう、脱帽。
そのような、どこか現実から逸脱したキャラクタだからこそ、一般的な探偵では推理できないような「ホワッツダニット」を解決できるのかもしれませんね。
Posted by morifan at 2005年02月20日 14:16
きっとmorifanさんはコメントしてくれるだろう、と思ってお待ちしておりました(笑)

「ホワッツダニット」はなかなかうまく説明できてないと思うんだけど、理解してもらえているようなので嬉しいです。

解説に、理系のアプローチで問題に取り組んでいる小説は珍しい、みたいなことを書いてありました。「ホワッツダニット」には、犀川の存在と、理系のアプローチの二つが必要なんでしょう。

色んな探偵・探偵役の中で、犀川が一番好きです。二番目は京極夏彦の<京極堂>だったりします。森博嗣と京極夏彦の共通項については、いろんなところでかかれてますけどね。
Posted by 通りすがり(管理人) at 2005年02月20日 14:40
う〜おもしろいー!!
昨日は「ダウン・ツ・ヘブン」今日は「すべてがFになる」
なんだか森ワールドにハマってしまいそう。てかハマってるかも。
しかし本当に最後まで驚かせてくれる。誰が犯人?とかもう考えないもんね。すべてがくつがえるから、考えても無理。二転三転四転五転ぐらいするし。で、後からうれしい「あ〜、そゆことかー!」ってのが多いんだね。さすが薦めるだけはある本でした。素敵な本を紹介してくれてありがとう。
Posted by クララ at 2005年10月14日 17:12
そうですよ。お勧めしただけのことはあるでしょう。本当に、犀川&萌絵のシリーズは、ミステリ史に残る大事件だし、小説界に轟く偉大な作品なわけですよ。特に「F」は。

なんか全てがどうでもよくなる、という気持ちはわかるでしょう?それでいて気持ちいい爽快なミステリなわけで、特筆すべき才能、ってとこですね。

というわけでシリーズを全部読んでください。
Posted by 通りすがり at 2005年10月15日 02:09
こんにちわ。お久しぶりです!!椅子の調子はどうですか!?
もう雨ばっかりでいやですね・・・それも小雨とかじゃなくてザーザーぶり。まあ6月だからしかたがないですけどね〜。

今週はなかなか忙しかったですよ。ゼミの発表の準備したり、(たいした内容じゃないんですけどね 笑)とか、サークルの集まりがあったりとか・・・さらにカゼをひいてちょっとぐったりです。そんなこんなでなかなか森博嗣のF先生・・・じゃなくて、すべてがFになるもなかなか読めてないですけど・・・なんか理系の頭いい人!(天才!)っていうのが文章の中ににじみ出てるような気がします!森博嗣っていう個人に興味をもちますね!一時期、(つい最近)このブログでも、「森博嗣に質問したいこと」募集してたじゃないですか。なに聞いても、答えてくれそうな気がしちゃうんですよね。「地球の滅亡はいつですか?」とか、「関東大震災はいつくるんですか?」とか・・・まるで預言者みたいな扱いですね(笑)理系にはまったく興味のない私でも、ミステリィを通して森博嗣を知ることができるきっかけができたわけで、それはすごい!と思ってしまうんですね(笑)しかしなぜミステリィなんでしょうねぇ??

いよいよ明日からですね!ちょっと天気が心配ですけど、日ごろの疲れが2人ともとれるといいですね〜!!とれたはいいけど、帰ってきたら文庫がハチャメチャに・・・!!!なんてことになってないように努力します!あ、普段旅行行ったら写真撮りますか??もし撮ったらぜひぜひ見せてくださいね〜!あとは、フライトプランみたいなお騒がせ飛行機に当たらないといいですね。そんな確率は低いと思いますけどね(笑)
Posted by 奈なし at 2006年06月16日 10:48
お〜、久しぶりですなぁ。忙しいのは、まあ充実してるってことでね。サークルも、どんな活動してるんかわからんけど、ちょくちょくやってるんだね。しかし、風邪ってのはよろしくないですなぁ。無理しないようにしなさいね〜。

椅子はね、使ったり使わなかったり…かな。やっぱ、眠いとどうしても横になってしまう(笑)まあでも、あればあれで便利だしね。悪くはない!
雨は…最悪だね。北海道を除いて梅雨入りしたとか言ってたし。雨は濡れるからイヤなんだけど、それ以上に文庫が売れないからムカツク!(って結局そこに辿り着く 笑)

すべてがFになるは、そうなのよ、天才ばっか出てくるのよ。大抵出てくる登場人物が、秀才か天才なんだよね。そもそも、作家の森博嗣自身が超天才だしね(まじで羨ましい…)。んで、真賀田四季っていうのも天才で、この真賀田四季が結構俺は好きなんだよね。あと、ミステリの探偵の中では、やっぱ犀川が一番好きかな。もちろん、萌絵も好きだけどね。
森博嗣がミステリを書いてるのは、それが一番簡単だから、らしいよ。前に言ってた大学の教授の話じゃないけど、ミステリは型が決まってるから書きやすい、んだってさ。まあ、森博嗣がそういうなら全然いいんだけどね(笑)。まあ俺としてはとにかく、Fから始まるシリーズ10作を読んで欲しいのと、あと「スカイクロラ」っていうのがあって、そのシリーズも読んで欲しいかな。まあ、気が向いたら。
森博嗣に質問するとね、自分がアホだなって思い知らされるね、きっと。ようするに、そんな質問には意味がない、っていう意味の返され方をしそうなんだよなぁ。なんてね。

明日からだよ、ついにね。どこに行くのかよく知らないけど、とりあえず石垣島と西表島らしいから、まあ満喫してきますよ〜。沖縄の寺みたいのがあればちょっと寄ってみたいね。そしたら、お土産は仏像みたいのかお守りってことになりそうだけど。まあどうなるかなぁ。沖縄の寺とか知ってる?
写真はね…フィルムで撮る一眼レフのカメラを持ってるんだけど、人に貸してるし、結構写真撮らないからなぁ…まあインスタントカメラでも買うようなことがあれば、ちょっと撮ってみるかな。フライトプランみたいな飛行機だったら、そのおばさんをぶん殴ることにしよう(笑)

さーて、明日はなんと4:30くらいには起きないといけないという無茶苦茶な感じで大変だけど、まあなんとか起きますよ〜。ホント文庫はよろしくです〜。たぶん今日の夜ちょくっとメールであれこれ言うかもです。
Posted by 通りすがり at 2006年06月16日 11:13
こんばんは。今、この本を読み終えたところです。面白かった!ですが、それだけじゃありませんね。この犀川先生と萌絵さんの発想(天才ぶり)が小気味よい感じでした。通りすがりさんが挙げてくださった引用も、そうだこんな台詞があったなぁ、と思い出しました。

What done it?という通りすがりさんの発想も面白いと思います。理由じゃないのですね。何(思想)ですか。様々な天才が登場しますが、森さんが最高の天才では…と、思いました。
Posted by dradonworld at 2006年07月03日 22:17
よかったぁ。森博嗣の本って、好き嫌いがかなりはっきり分かれるから、気に入ってくれてよかったです。そう、天才ばっかり出てくるんですよね。っていうか、森博嗣は、それを普通だと思って書いているわけで、もちろん森博嗣が天才だってことなんですけどね。

What done it?は、かなり適当に考えたアイデアだったけど、割と的を射ているような気もしないでもありません。自画自賛ですが(笑)

森博嗣の著作はもう読みきれないほどありますが、是非とも一作でも多く読んで欲しいなぁ、と思います。とりあえず、S&Mシリーズは読破して欲しいし、なんとか四季シリーズまで辿り着いてほしいなぁ、と思います。
Posted by 通りすがり at 2006年07月04日 02:30
はじめまして。
このブログを拝見し、森博嗣作品の第一作目として「すべてがFになる」を今読み終えたところです。非常に面白かったです。単純な感想で大変恐縮なんですが、今後とも読みたくなる欲求を抱かさせてくれた作品であることは間違いありませんでした。感謝、感謝です。

それと、トラックバックに茨城太朗の名がありますが、実はトラックバックに失敗してしまいました。申し訳ありませんが、通りすがりさんにより削除していただくことは可能でしょうか?
Posted by 茨城太朗 at 2006年10月06日 15:31
はじめましてです。

嬉しいですね。僕のブログが、ちゃんと森博嗣の啓蒙に少しは役立っていると思うと、悪くないです。
ホント、「F」は最高の小説ですよね。もう、読みたくなっちゃったら次々読んじゃってください。森博嗣の作品はもう腐るほどありますんで。犀川と萌絵のシリーズも全部読んで欲しいし、四季シリーズはさらに読んで欲しいし、「スカイ・クロラ」シリーズも読んで欲しいし、とにかくもう最高です。これからも、森博嗣を一つよろしくお願いします(選挙みたいですかね)

トラックバックは、多分削除されているんじゃないかと思います。トラックバックって、自分では一回もやったことないわけで、よくわからないですね。

というわけでまあ、これからもどうぞよろしくお願いします。
Posted by 通りすがり at 2006年10月07日 02:23