2005年02月25日

封印再度 WHO INSIDE(森博嗣)<再読>

この物語には、「高尚」という言葉が相応しい、と僕は思う。
とりあえず、早速内容を紹介しよう。
岐阜県恵那市の旧家、「香雪楼」という名の屋敷に住まう香山家。そこには、代々伝わる家宝、「天地の瓢」と「無我の匣」がある。「瓢」の中には「匣」を開ける為の鍵が入っているが、その鍵は「瓢」の口よりも大きくて外に出ない。そういう不思議な家宝だった。
萌絵は、犀川の妹の儀同からその家宝の話を聞き、その謎を調べてみることにした。するとなんと、50年前、香山家の当時の当主が、密室状態の中死んでいたことがわかる。凶器が発見されなかったことから自殺とされたその事件に萌絵は乗り出す。
とそうして少しずつ香山家と関わりを持つようになったある日、香山家の現当主の死体が発見された。つじつまの合わない幾多の状況に警察は手も足も出ない。犀川がいつもの思考力で事件の謎を掴み取る。
という感じです。
京極夏彦と森博嗣は、ミステリーの世界に「認識」という概念を持ち込んだ、とかいう話を聞いたことがあります。その点が、作風のまったく違う二者の共通点のようです。ということで、今回はその「認識」についての話をしようかと思います。
人はそれぞれ自分の世界というものを持っています。それでも僕たちは、皆同じ世界の中に生きているはずだ、という幻想を抱かないと生きていけない存在でもあります。
僕たちが自分の世界を前にしてすることは、その世界を認識し、それを言葉で表現する、ということです。最終的に僕たちは、それぞれが言葉で表現した世界を掏り合わせながら生きているわけです。
僕のイメージでは、異国人間の会話のような感じです。相手の国の言葉を認識し、その言葉を翻訳して表現する。常にそうしたことをやっているわけです。
そして、その「認識する」「言葉にする」という二つのステップにおいて、僕たちはいつも誤解や想像や補正なんかをしながら生きているわけです。
宗教というものがあって、いくら宗教でも現実世界を変えることは出来ないわけだけど、それでも信者の「世界の認識」を変えることは出来るわけです。それは幻想でしかないけど、本人は救われるわけです。それが宗教の機能だし、存在意義なのでしょう。
そうした宗教、前の僕の言葉を使うなら思想といったものが、個人の世界認識を食い違わせる。それをミステリの持ち込んだ森博嗣は、つまりその「認識」の食い違いの中に謎を生み出し、動機らしきものを見出させるわけです。
心理学のテストなんかで使われる(名前は忘れた。ロハなんたらテスト、だったような)、明確に認識することの出来ない染みのような模様を見せて、何に見えるか問うようなものがあります。森博嗣のミステリは本当にそのテストのようで、与えられているものは同じなのに、読者の認識の違いによっていろいろに見えてくるような気がします。
内容がまとまっていないまま文章を書いているので、何を言いたいのかよくわからなくなってきましたが、そういう感じです。
さて、いくつかつけたしましょう。まず、今回の作品はタイトルが素晴らしい。もちろん、音的な意味で「封印再度」と「WHO INSIDE」という対比は素晴らしいわけだけど、作品を読み終えた後に再度このタイトルを見直すと、作品の内容自体とも素晴らしくリンクし、対比があるな、と驚くと思います。
今回は、犀川と萌絵の関係がなかなか面白いです。同じことをされたら・・・という想像は、読み終えた誰もが思うのではないでしょうか?犀川は素晴らしいと思います。犀川に憧れますね。
さて、これでS&Mシリーズの前半5作を読み終えたわけですが、後半5作を続けて読むことができないわけです。というのも、今現在部屋に、「数奇にして模型」がないのです。あの作品は、確かあまり好きではなくて、どういう方法かで処分した感があります。ということで、後半5作の感想は、「数奇にして模型」が手に入ってから、ということにしたいと思います。morifanさんを始め、きっと森作品の感想を待っていてくれているだろう人には申し訳ありませんが(まあそれほど待ち望んでもないか・・・)。
それではいつものを。

(前略)理屈では可能かもしれないが、締切より一日早く論文を完成させるということは、複雑系宇宙の原理には存在しない。つまり、そんな状況を発想することさえ許されないのだ。(後略)

(前略)国枝が結婚すると聞いた者は、二種類の言葉を発したものだ。「誰と?」、そして、「何のために?」である。電撃結婚、と言ったのは犀川自身で、この場合、「電撃」というのは、国枝桃子が雷にでも撃たれたのだろう、という意味のジョークである。
(後略)

(前略)
「今日が日曜日なのは君のせいじゃない」
(後略)

(前略)
「もうすぐクリスマスだわ」
「順調にいけばね」
(後略)

(前略)
「さきに言っておきますけどね、先生、これ、私が作ったのよ。そのおつもりで召し上がって下さいね。よーく味わって・・・万が一、文句があっても一切受け付けませんから」
(中略)
「PL法みたいだね」(後略)

(前略)吸っていないときは、煙が出ない煙草が発明されないものだろうか、と思った。
(後略)

(前略)
クリスマス、正月、バレンタインデイなども、強制的に送り込まれてくるただの飾りものだ。好きなとき、好きなだけ楽しんだ方が良いのに、人々はどうして、外部から押しつけられたものに、あんなに夢中になるのか・・・。(後略)

(前略)学問をする自分にだけは幻滅したくなかった。たぶん、この道を選んだのは、それだけの動機だろう。
つまり、幻滅からの逃避。
それは結局、定期券にスターのプロマイドを挟んでいるのと同じ動機ではないのか・・・。
(後略)

(前略)
「ぐっとくる?それは日本語?」
(後略)

(前略)にんげんって結局、自分のことで涙を流すのだ、と萌絵は思った。
(後略)

(前略)
「あの・・・、結局、模写の目的は何なんです?」
「何かを生み出したい。自分だけのものを創作したい。つまり、そんな意欲を、すべて滅するためだわ」
(後略)

(前略)ちょうど、アンドロメダまで原付で出かけるようなものだ。ちゃんとヘルメットををして・・・。
(後略)

(前略)
バターの中のレーズンみたいに無秩序に散らばっている。
(後略)

(前略)
「無駄なものは、褒めることも、けなすこともできません。だから、いつまでも残るんですよ」
(後略)

(前略)
アスファルトの道路は彼方まで吸い込まれるように真っ直ぐで、地球に巻きつけられた巨大なガムテープのようだ。(後略)

(前略)
日は沈み、空はパリッシュブルーに染まっていた。ちょっとやそっとでは信じられないほど不自然な色だった。毎日、わざとこんな色になっているのだろうか、と彼女は不思議に思った。誰に見てもらうためなのだろう、と。(後略)

(前略)
「そう、僕はね、そのとき、こう思ったんだ」犀川は可笑しそうに言った。「ああ、この煙突で雲を作っていたんだなぁってね・・・ここが空の雲を作る工場だったんだ、って思った。それで覚えてるのさ」
(後略)

(前略)
「呪われているのは、物質ではない」犀川は表情を変えずに言った。「人間の認識、歪められた認識です」
(後略)

「(前略)美しいと、ビューティフルは、全然違う意味じゃないかな(後略)」

森博嗣「封印再度」


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