今日は、読んだ本の内容に合わせて、僕の理想の本屋について書こうかなと思います。
と言っても、具体的なイメージがあるわけではないんですね。別に店長でもなんでもないので、そこまで真剣に考えたことはないので、その漠然としたイメージの話をしようと思います。
僕の理想としては、やっぱりスタッフが働いていて楽しい売場というのが一番重要だし理想だなと思っています。もちろん、お客さんのことも大事ですけど、スタッフが良くなることで、お客さんへも良く出来るのではないかなと思うんです。
僕はまあ長いこと今のバイト先で働いていますけど、周囲のスタッフから日々いろんな不満を耳にします。
正直に言えば、不満のない売場作りなんていうのはまず不可能でしょう。どれだけみんなが頑張っても、不満は完全にはなくなることはないと思うんです。だから、不満があること自体は別に問題ではない、と思いうわけなんです。
でも、そのスタッフから耳にする不満は、本当に些細なことで解消されるものばかりなんですね。それをすることで時間が取られるとか、何かマズイことになるとか、そんなことではないんです。ほんのちょっとやり方を変えるだけで大抵の不満は解消されるはずなんですけど、それがなかなか伝わらないんです。
僕自身もいろんな部分にかなり不満を感じる人間で、かつては自身が感じた不満や周囲から耳にした不満なんかを社員に頻繁に言っていたんですけど、今はもうしていません。別にいいや、っていう感じです。言ってもどうにもならないんですね。言っても改善されないことに不満があるというわけではありません。もちろんそれは不満ではありますが、そもそも何を言っても返答が返ってこないんですね。改善できないなら出来ないで、これこれこうだからこれは変えることはできない、みたいなことぐらい言ってくれてもいいのに、それもない。ほったらかし。それじゃあ、言う気力もなくなっていくよなという感じです。
今では、自分でもいろいろ不満を感じるし、人から不満を耳にすることも日々あるけど、こうすれば解消できるのにね、なんてことを自分やその不満を持っているスタッフに言うだけで終わりです。まあ、その不満を持っているスタッフにしたら、僕みたいな人間に話して共感してもらえることで、少しはストレス解消になるんじゃないかななんていう期待はしていますけど。
正直、僕のいる店は、お世辞にも働いていて楽しいとは言えない売場だと思います。僕は、楽しいです。相当いろんな不満を持ってはいるけど、僕の場合文庫と新書の担当をしているので、何を置くか、それがどう売れたか、売上はどうだったかなんていうことを考えながら仕事が出来るので非常に楽しいです。でも、担当を持っていないスタッフからすれば、楽しくないことこの上ないでしょう。僕はいろんなスタッフに文庫や新書の仕事を手伝ってもらったり、POPを書いてもらったり、他にもいろいろと仕事をやってもらうことでやりがいを感じてもらえればなんて思っているんだけど、それでもやっぱりスタッフみんなに僕から仕事を与えるのは無理です。スタッフのやりがいなんていうことを考えている人間はほとんどいないので、ほとんどがほったらかしになっています。
スタッフが働いていて楽しいと思える売場になれば、売場はもっとよくなるはずだと思います。僕がPOPを書いてとお願いするスタッフが3人ぐらいいるんですけど、初めは彼女たちにそんな才能があるとはわからなかったんです。でも、とりあえずやらせてみたら、すごくいいものを書く。そういうのを見ていると、人それぞれいろんな能力を持っているものだよなと思ったりします。だから、フェアを考えるのが得意だったりする人がいるかもしれないし、売れそうな本を探し出すのが得意な人がいるかもしれないし、じゃあそういう人に任せて仕事をやらせることが出来れば売場はもっと面白くなるだろうなと思うわけなんです。そうなれば、スタッフも楽しいそ、売場にも活気が出てくるはずなのに、と思ったりします。
まあ、今のあり方では、夢のまた夢という感じではあります。正直なところ、僕にはウチの売場が変わるなんていう想像がちょっと出来ないんですね。かなり諦め気味です。だから、まあいいや、とりあえず文庫と新書の売上をガンガン上げよう、なんて協調性のないことを考えながら日々仕事をしています。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、小説仕立てにした小売店再生ノウハウ本、という感じの内容です。
著者は、ファッション業界の販売員育成なんかをやっている人みたいで、「ファッション販売」という雑誌の主要な寄稿者でもあるようです。「ねぎらいワーク」と呼ばれるやり方を導入した店長研修で有名で、思わず涙がこぼれる研修として話題になっているようです。
本作は、著者が訪れた全国延べ1500店舗の売り場で実際に起きた出来事を元に構成されているようです。小説仕立ての自己啓発本ということで、イメージ的には「夢をかなえるゾウ」みたいなものですが、本書の方がより実践的という感じがします。
舞台はとある地方都市T市の駅ビル内にあるレディスファッションブランド「ビアンキー」。そこは、競合する大型ショッピングセンターが近くに出来たため、駅ビル自体の集客力が落ちている。「ビアンキー」も苦戦しているが、問題はそこだけではない。
店長の佐々木ユーコは、前任者が突然辞めたためにたまたま店長になったというだけの人。店長なんてなるんじゃなかったといつも思っている。雑用ばっかりで接客に時間が取れないし、残業だっていつものことだ。それに、店のチームワークがばらばら。辞めようかと思うこともあるけど、踏ん切りもつかない日々を過ごしている。
本田ナツミは、「ビアンキー」のチーフ。店長に次ぐ二番手ではあるが、店長との意思の疎通はほとんどない。お互いに忙しいのだ。店長がやれていない仕事がどんどん自分に回ってくるため、大いに不満を感じている。辞めたいと思いつつ、どうしていいかわからず、「もういいや、どうだって」と思いながら日々仕事をしている。
成瀬ミホは、「ビアンキー」に通う派遣社員。以前は別のショップで店長をしており、抜群の販売力を持つ天性の販売員。しかし、事務仕事は大の苦手でミスばかり。おまけに残業は一切せず、仕事が中途半端でもさっさと帰ってしまう。
松田カナは「ビアンキー」二ヶ月目の新人。これまでいくつものアルバイトを転々としてきたけど長続きせず。どうも仕事を一通り覚えてしまうと、まあこんなもんかと思ってやる気がなくなってしまう。今は、まったく服も売れず、顧客さんも獲得できないという、大スランプ。
小野田マリは、「ビアンキー」のエリアマネージャー。普段も二か月に一遍ちょっと顔を出せるかどうかという感じだけど、ここ最近エリア内での出店が重なってますます遠のいている。「ごめんね〜、いつも放ったらかしみたいで〜」というのが口癖で、忙しさにまけて管理ばかりを押し付けてしまう日々。
さてそんな「ビアンキー」に、フリーの販売インストラクターである兼子さんが、しばらく店舗改善のためにやってくることになった。店長の佐々木ユーコは、あんたなんかに売上を上げられるわけないでしょ、と内心思っていると、兼子さんは、売上なんか上がらないわよ、と言ってユーコを唖然とさせる。
それからも兼子はいろんな人と話をし、いろんなアイデアを実践させることで、<店長の理想とする店>を実現させようとし、さらには<売上の上がる店>へと変革させようとするのだが…。
というような話です。
なんでこの本を読もうと思ったかというと、僕が普段から見ている書店系のブログがいくつかあるんだけど、その内の二つでこの本が紹介されていました。内容こそファッション専門店を舞台にしていますが、基本的にここに書かれている話はどんな業種の小売店にも当てはまるでしょう。その二つのブログでも、これはなかなかいいと言って書かれていました。
確かに、この本はなかなかいいです。書かれている内容は、割と当たり前のことが多いんだけど、実際に売場にいると、この当たり前のことをやるのがすごく大変だということが実感できます。僕も、本書に書かれているようなことは、きちんと言葉にしたことはないかもしれないけど、普通にわかっていたことだと思います。中には実践出来ていると思うものもあるけど、やっぱりこういう当たり前のことをやるというのがすごく難しいものだなと思いました。
本作では兼子さんが指導して店を変えていこうとするんだけど、冒頭で「売上は上がらない」と宣言します。「売上は、売上が上がる店にならないと上がらない」が兼子さんの口癖です。では兼子さんは何をするためにやってきたのか?
兼子さんは、それぞれには役割があるといいます。商品開発には商品開発の、本部には本部の役割がある。では店舗の役割は何か、そしてそれをどう実践していくかということを指導しにきたわけです。
兼子さんが挙げる店舗の役割は以下の3点です。
・毎日決まった時間にお店をオープンさせ、笑顔でお客様をお迎えすること
・足を運んでいただいたお客さまを、徹底的に喜ばせること
・喜んでいただいたお客さまをお店のファンにすること
まあ当たり前のことが書いてあります。
でさらに兼子さんは、店長の役割について話をします。でそれは、<店長の理想の店を実現する>ことだと言います。そのために自分は何が出来るのかということを考えなくてはいけない。
というようなことから始まって、至極当たり前のことを中心にしながら話が進んでいくんだけど、でも読んでてなるほどなと思わされる部分がたくさんあります。店長と意思の疎通がないチーフにはどんな話をするのか、売上の上がらない新人にはどんな話をするのか、店長はどう変わっていくのか、それに周囲の人間がどう応えていくのか、そしてその内。自分たちに何が出来るか、周りには巻き込めるどれだけの人がいるのかということを考え始める<自立型>の店舗へと変貌していくことになります。
小説仕立てて読みやすいことと、あと店の状況がまあウチと近いかなと思えることもあって、面白く読めました。難しい話が書いてあることでもないので、ここに書いてあることはやろうと思えばすぐに実践できることばかりだと思います。
興味深かったのは、兼子さんの過去です。本作の登場人物として出てくる兼子さんは、著者の分身でしょう。その兼子さんの過去は、著者の過去と重なるのではないかと思うんですけど、どうでしょうか。
それは、兼子さんがフリーの販売インストラクターとして駆け出しだった頃。ローカルチェーンの基幹店舗に指導に行くことになった。そこは売上が落ちているというわけではないけど、離職率がかなり高いので、そこの店長を立派なマネージャーに育ててほしい、という依頼でした。
そこで兼子さんは大失敗をしてしまうんだけど、それは読んでもらうとして、これがもし著者自身の経験だとすれば、なるほど今では素晴らしい実績を上げている人でも、過去にはこういう失敗を経験しているのだなと思いました。その失敗があったからこそ、今の著者があるのだろうと思います。
また巻末には、著者が本書を書くきっかけになったという、とあるショップの店長・ゆーこさんの話が出てきます。いや、なかなか衝撃的な話でした。著者が彼女に会った時まだ20歳そこそこだったんですけど、ストレスで髪が抜けてカツラを被っていると告白されたわけです。それくらい辛い日々を送っているのに、それでも売場に立つのを止めない。全国にはこういう人がたくさんいるに違いない。そういう人たちのためにも、という思いで本書を書いたようです。
どんな業種でもいいです、小売店で働いているという方は是非読んでみてください。僕のいる店は違いますが、本書の舞台となる「ビアンキー」はインショップの店です。エリアマネージャとかデベロッパーなんかの話も出てくるので、インショップのお店なんかには特にオススメです。また、スタッフのやる気を上げたいとか、コミュニケーションをもっと取りたいと思っている店長さんなんかには是非オススメです。厳しい不況の中、さらに売り上げを求める声が強くなりそうなご時世ですが、敢えてその中にあって、店の内側からきちんと立て直すということが大事になってくるのではないかなと感じました。
兼重日奈子「幸せな売場のつくり方 ファッション専門店再生ストーリー」