この本は、単行本として発売された「沈黙」と「アビシニアン」という小説を文庫化に際して合本したものである。
これほどに重厚で幻想的で豊潤な文章・世界は知らない。
それぞれ、あらすじなど書ける話ではないが、一応書いてみようと思う。
「沈黙」
薫子という女性が、今まで会ったことのなかった祖母に出会う。その地下室。膨大なレコードと「音楽の死」と題されたノートを見つける。それらはその祖母の亡き甥が生前に残したものだった。
「音楽の死」のノートには、「ルコ」と呼ばれる音楽の歴史が記されている。数奇で劇的な運命を辿ることになる「ルコ」。歴史上多くの人を魅了し、そしてまた薫子も「ルコ」にとりつかれる。「ルコ」を蒐集し、歴史を辿ったその甥にも想いを馳せ、薫子は「究極の音楽」の世界に迷い込んでいく。
また一方で音楽を悪意を持って利用する者の存在が・・・
正直言ってこの話しを完全には理解できていない。寧ろ理解するのではなく、捕らえる物語なのかもしれないけど。何か揺さぶられるような表現、酩酊させられるような言葉、そういったもので埋め尽くされた行間に翻弄されて、心地いい。
結局薫子の弟やその甥の父親といった存在が、一体なんであったのか、そういったことは不明のままで、どう物語が収束したのかよくわかっていないが、それでも読んでよかったと思わせる。
「アビシニアン」
親に捨てられた猫を探し出し、そして共に生活する少女。その生活の中で彼女は突然「文字」を失う。
恐怖に駆られて文字を紡ぎだす青年。自分との対話を日々書き付け、それで何かを確かめようとしている。
この二人が出会う。男は文字の読めない女に物語を語り、そしてその物語は女に語ることで変容していく。二人は文字のない言葉をやり取りすることで何かを紡ぎ、紡ぎながらその距離を縮めていく・・・
と書いてはみるけど、やはりどう物語が収束しているのかわからない。物語を理解できていない。ただ言葉によって紡がれた世界が美しく、繊細で、きめ細かい。男と女の世界が悩ましい。
文学的で、言ってしまえばわかりずらい。俺もどういう物語なのかわかっていない。ただ読んでみる価値はある。そんな風に思わせる作品です。
古川日出男「沈黙/アビシニアン」
沈黙/アビシニアン角川文庫